07. 2011年9月23日 14:37:06: 8H9nIxVLIY
リニア中央新幹線は、実現しない。「NPO法人 市民科学研究室」から転載する。 http://archives.shiminkagaku.org/archives/2010/01/post-119.html(転載開始) 2010年01月07日 リニア中央新幹線計画が検証なしで進行している 懸樋 哲夫(リニア・市民ネット) JR東海が東京−名古屋−大阪を時速500km、67分で結ぶというリニア中央新幹線計画をすすめている。2045年開業9兆円という巨大プロジェクトで、当面2025年に東京―名古屋で開業し、2045年に大阪までの延伸を目指している。事業主体のJR東海のみか、沿線都県の議会などではひたすら推進しようとしていて、誘致活動ばかりが目立っている。 しかし、採算の問題のほかにも、南アルプスにトンネルを掘るという環境破壊、新幹線の3倍〜5倍とも言われるエネルギー消費、電磁波による健康への影響、大深度地下の危険性や技術的な諸課題があり、どれもクリアできるものとは思われない。 1.はじめに 2009年年末押し詰まって、JR東海がリニア中央新幹線の調査報告書を国土交通省に提出した(12月24日)。この中にはルート別の建設費の合計などはあるものの、推進する側に都合の悪い情報はまったく書かれていない。諸課題への客観的な評価がされないまま進められている事態がある。 2.採算性について リニア中央新幹線の建設費(東京―大阪間、中間駅を含む)は約9兆300億円と公表された。JR東海はこの計画を単独事業としてすすめている。これまで多くの巨大公共事業がそうであったように、この額も最終的には数倍にも膨れ上がるであろうことは容易に推測できる。単独事業なら公共事業ではないと言いたげだが、そうはいかない。なぜならJRが国鉄から民間に移行した時、その債務約30兆円は、国家予算に組み込まれており、今の国の巨額の債務はその相当な割合を旧国鉄の赤字が押し上げているからである。 JR東海はまだ3兆円余りの借金を抱えている。それは分割民営化の際の新幹線施設などの買い取りリース代約5兆円を減らしてきたものだということだ。これによって在来型新幹線よりも建設費のかかるリニアを、さらにその3倍(最終的には9倍?)の借金をして造るというのである。これが破綻するとJALのように、また国の税金が投入されるようなことになるだろう。 そもそも採算は採れるのか? リニア中央新幹線は、東海道新幹線のバイパスとして計画されている。だが、建設費だけを取ってみると、リニアはそのガイドウエイがレールではない構造であることや、ほとんどが地下であるということから在来型新幹線の約3割は高いものになると試算されている。採算をとろうとすれば、当然乗車料金は相応に高くしなければならない。東海道新幹線の利用客が横バイなのに、割高な料金を払ってリニアを利用する人が多くいるとは考えられない。在来線とのアクセスも無い。さらに利用客が減り東京湾横断道路のようになりかねない。高くても早く走ることを乗客は求めているだろうか。 しかも日本の人口は減っていく。とすれば、東海道新幹線もリニア中央新幹線も、共倒れになるのではないか。 3.自然環境を破壊する リニア中央新幹線は、長野県と山梨県の県境である南アルプスをトンネルで貫く案が有力になっている。南アルプス一帯は世界自然遺産の指定を目指しているほど、自然環境や生態系が豊かなところだ。そこに長大なトンネルを掘れば、大きな自然破壊はまぬがれない。 JR東海のプランでは、南アルプスの幅50kmにたいして最長のトンネルで20kmであり、これは路線が何度も露出することを意味している。南アルプスには中央構造線や糸魚川−静岡構造線をはじめとする大断層があり、大規模の破砕帯になっている。 JR東海がトンネル掘削のための試掘を行った大鹿村の釜沢地区やその一帯の鳶ヶ巣、大西山などには、大規模な崩落が今も起こっており、その地盤の脆さを実際に目の当りにすることができる。こんな危険な所にトンネルを掘るのは無謀というものである。 また数百万tと推測される廃砂土はどこに捨てられるのだろうか。それが二次的な自然破壊を招く恐れもある。 地震の発生や集中豪雨といった特別な状況のみならず、平常時においてすら、このような脆弱な地盤に長大なトンネルを掘ることは、高速鉄道の運行上においてもきわめて危険であると言わざるを得ない。 2009年10月、山梨リニア実験線の延伸のためのトンネル工事によって笛吹市御坂町で水源が枯渇し、住民は「水を返して!」と訴えている。 4.エネルギーはどうする JR東海は、リニア中央新幹線に使う電力量も明らかにしていない。「CO2排出量で新幹線『のぞみ』の3倍で航空機の3分の1以下」というアバウトな言い方をしているのみである。現在の実験線での実際、あるいは実用線での計算などはまったく公開していないのである。 やむをえないので、仮にドイツのトランスラピッドを例に試算してみると、東海道新幹線とほぼ同じだけ走らせた場合、その電力使用量は544万kW/日となり、原発5基分が必要という(伊藤洋山梨大学学長による計算)。 電力消費については、もう20年も前に朝日新聞紙上で論争があった。元国鉄技師でリニアの提唱者であった川端俊夫氏は「新幹線の40倍」とし、その浪費構造を批判、これに対して鉄道総合技術研究所理事長の尾関雅則氏は「東京―大阪間のシステム設計では、新幹線の3倍を計画している」と反論している。 リニアは浮上するために出来るだけ車体を軽くし、空気抵抗も減らしたい、ということで幅を小さくして設計している。この通りに構造的に、または技術的にエネルギー消費量を減らせるとすれば、それは、新幹線の技術でもほとんど同様なはずであり、電力消費量が数倍であることに変わりはなく、いずれにしても過剰なエネルギー浪費なのである。 東京電力は柏崎原子力発電所から山梨に超高圧100万ボルト送電線を引き、リニアの電力需要にも対応する、としている。これは大地震でストップする前のことではあるが、原発建設が猛反対に会う中で、リニアが電力需要のひとつとして原発増設の理由とされたのであった。 5.電磁波の影響は リニアは磁気の力により走行するため、乗客のいる車内の空間にも強い磁場が生じる。国立環境研究所が平成17年に出した報告によれば、実験線の場合床上で6,000〜40,000ミリガウスにもなる。 この電磁場の健康影響については、高圧線など電力設備の場合、4ミリガウスの居住環境で小児白血病が2倍とする報告が同研究所から出されており、海外でも繰り返し同様の報告がされている。この結果は偶然とは思われない、というWHOの見解もある。 リニアの磁場は、その10,000倍にもなる強さだということになる。経済産業省で検討されている電力設備による磁場の規制値は、1,000ミリガウスあたりを予定していて、これも非常に甘い数値だが、リニアはこの数値さえも大幅に上回ってしまうことになる。 「超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会」が2009年7月に出した「実用技術評価」によると、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)のガイドラインを規制値として使用し、それを下回っている、と書いている。しかしリニアが実験線でも具体的にどこにどれだけ磁場を発生させているかの数値はまったく記載されておらず、「静磁界について規制値案の3%、変動磁界について規制値案の34%」(図表)という記載のしかたをしている。「規制値案」にもいくつかの計算式があり、それのどれに適用して34%なのかも判然とせず、「磁気シールドについては効果の解析とそれを実現させる設計が可能であることが既に山梨実験線で実証されている」などと、空虚な文言ばかり連ねあいまいな記載でごまかそうとしている。 JR東海はこのように実際の車内などの電磁場強度を具体的に明らかにしないまま、公開の議論を避け、計画を推し進めているのである。リニアはプラス・マイナスを高速で繰り返すことによって推進力をもたせることから変動磁界が発生することになり、その周波数もスピードによって異なり、早くなれば周波数が高くなっていくしくみのはずだ。 本来は電力設備で問題になっている2〜4ミリガウスのリスクについてクリアできないことを問題にすべきところなのだが、この数値レベルは議論のあるところなので、仮に百歩譲って、報告書で引用されているICNIRPのガイドラインを使うにしてもリスクを受け止めた正当な適用をすればリニアも運用不可能になる。だから検証もなし、基準作りもせず、基準値のない現状をいいことにリニアの推進をしているかのように見受けられる。 またリニアが実用されると、乗客はホームでもガイドウエイから強い磁場をあびることになる。乗車中や乗降時の電磁波を浴びないようにすることは不可能であり、この事実を明らかにした上で安全性の論証をしなければ、公共交通機関の計画として失格と言わざるを得ない。 「超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会」(委員長:森地茂)による 「超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価」報告書(09年7月)から
6.技術に不安はないか 1991年10月3日に、宮崎実験線で車両が全焼する事故が起こった。そのため車両を強化プラスチックから金属に変えたが、ガイドウエイの中に車両を納めるという構造は変わっていない。つまりもし何かトラブルが発生した場合、ガイドウエイが障害となって敏速な対応が難しいと考えられる。 ほとんどがトンネルの中を走行するリニアは、もし何らかの故障や事故が起こった場合、指令所では位置確認できない可能性すらあり、脱出口もなく乗客の救出もままならないということになる。 また地震の時など、ガイドウエイに破損、故障があった場合、簡単に修理ができず、復旧に長期間を要する。複数の列車が止まった場合は、車両の牽引さえできないことになる。大深度地下利用が計画されているが、地質は深いほど岩質が硬くてもろく危険性が増す、との指摘もある。また修復工事などの場合、かなりの手間や費用がかかることになるだろう。 7.地域が振興せず、衰退する リニアで地域が活性化すると言われている。しかしこれまでにこうした大規模なプロジェクトで、例えば、本四架橋や東京湾アクアライン、全国津々浦々の道路や空港、また新幹線を全国に走らせた結果、地域や地方が活性化したことがあっただろうか。いまその赤字の解消も出来ず、破綻状態のものが大半ではないか。むしろいわゆるストロー効果により東京や大阪などの大都市に人口が集中し人をとられた地方はますます衰退の一途だ。地方や地域は、かえって不便であるからこそ魅力が生まれるということさえある。高速道路、高速鉄道は、地域振興ではなく、むしろ地域衰退を招いていると言える。 8.JR東海の情報公開について JR東海は以上のようなリニアの問題について、重要な情報をほとんど出していない。財源、エネルギー、電磁波など詳細がいっさい分らない。 2009年2月に結成された「リニア・市民ネット」も、2009年7月15日にJR東海に対し、11項目に及ぶ質問書を提出した。しかし回答は、それらに何ら答えることなく、「必要な情報はホームページなどで提供している」というものだった。しかしホームページに、私たちが期待しているような情報など全く見られない。これは市民との議論を拒否し、情報をひたすら秘密にしようという態度である、と言わざるをえない。 以上、私たちは今、詳細については推論をベースにした批判をせざるを得ない部分もあるが、本質的にリニア計画が無謀で現実性のない計画であることは明白である。 以上の内容は、橋山禮治郎(明星大学教授)、伊藤洋(山梨県立大学長)、川村晃生(慶応大学教授)河本和朗(中央構造線博物館)、らの講演、または資料等の内容をもとにまとめた。 (転載終了) JR各社の見解だが、JR東日本はリニアの将来性を設立当初から疑っており、在来線の改軌によるミニ新幹線乗り入れ構想を山形、秋田新幹線で実現した。熱心なのはJR東海しかない。JR総研に供出している巨額のリニアの研究開発費は相当額に上り、もはや後に引けない状態になっていることから、JR東海は中止できないところに来ていると見られる。JRに取ってリニアは、電力会社に取っての原発と同じだと思われる。電力会社が原子力発電に資金を投入して次々と原発を建設した挙句、今回の福島第一原発の大事故で、日本は取り返しの付かないところまで来ている。 転載した文章では、リニアは「本質的にリニア計画が無謀で現実性のない計画」だと結論付けている。着工時期が近づくにつれ、隠しようのない事態に追い込まれるだろう。 |