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『週間ポスト』8/19.28日号
平成23年8月8日(月)発売
小学館 通知
〈総力特集 さらば、テレビ2〉
公共電波を使って副業三昧「電波ビジネス」の結末
この錬金システムを守るために「地デジ化」「ケータイ料金」で国民は今日もムシられている。
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テレビは楽しみであった。夢であった。あこがれであった。すべて過去の話だ。なぜ、いつ、テレビは変わってしまったのか。そこには長くて深い暗黒の歴史≠ェある。「電波利権」で肥え太り、その利権ゆえに滅びの道を歩んだ悲喜劇の、これが終幕である。
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(写真)住宅展示場、不動産、テレビショッピングの収益は大きい
「仕入れ値」の600倍の売り上げ
地デジ完全移行を終え、各局は《テレビ新時代の幕開け》を宣言した。
テレビがいま、歴史的転換点を迎えているのは事実だ。「国民的娯楽」から「国民の敵対者」へと、テレビはその役割を変質させたからである。
かつて、テレビの発展が、日本国民の幸福だった時代が確かにあった。
白人レスラーをなぎ倒す力道山に「明日への希望」を見出し、街頭テレビに人々が群がった戦後混乱期。
映画『ALWAYS三丁目の夕日』に描かれた、わが家にテレビがやって来ることが豊かさの実感へと繋がった復興期。そして、庶民の夢である「3C(カラーテレビ・クーラー・カー)」が大量普及した高度成長期。
美空ひばり、山口百恵、長嶋茂雄、大鵬、植木等、石原裕次郎……テレビ放送からは、次々と新たな国民的スターが生まれた。
日本の国と国民が豊かになるのと歩調を合わせて、テレビも時代を駆け上がっていったのだ。
視聴率64・8%を記録した「てなもんや三度笠」、「花王名人劇場」などお化け番組を手掛けた名プロデューサーの澤田隆治氏が話す。
「草創期のテレビの発展を支えたのは、テレビマンの情熱とアイデアでした。それがいつの間にか視聴率、データ至上主義に陥った。数字が取れるならば他局の番組でも模倣して、いまや同じような横並び番組ばかり。昔は他局のマネは恥とされ、現場が面白いと思ったことにどんどん挑戦し、視聴者に新しいものを届けたいという制作サイドの熱意がありました」
バブル時代にテレビは、あこがれの産業へと変貌した。年収は軽く2000万円超え、経費は使い放題。
裏方であるはずのテレビマンが、「ギョーカイ人」と名乗り、自ら芸能人のように番組に顔を出し始めた。
この「ギョーカイ人」と「パンピー(一般ピープル)」という業界用語が誕生したことが象徴であるように、この頃からテレビ界には、思い上がりと愚民思想がはびこり始めた。それは「テレビ崩壊」の始まりでもあった。
(写真)番組内で取り上げれば集客は簡単(左は「恐竜博」、右は「お台場合衆国」)
バブルの金余りとメディアとしての影響力の肥大化で、「チャンネルを持っているだけで広告料が勝手に入ってきた」(キー局制作部門OB)。テレビマンは、視聴者を忘れ、スポンサーや数字の取れる<^レントばかりに目を向け始めた。
テレビの発展を支えてきた「柱」が、コンテンツではなく、利権に代わった瞬間だ。
そんなポロい商売ができたのは、テレビマンの実力ではない。政府がテレビ事業者に対して独占的に「公共の電波」を使用する権利を認める「放送免許」を与えたからに過ぎない。
日本ではその放送免許は政府からタダ同然で交付される「配給制」だ。しかし、OECD加盟国の大半では「電波オークション」が導入されている。これは、電波の使用権を競売にかけることで公正な競争原理を持ち込み、新規参入を促すものだ。
さらにわが国では、その格安で配給された免許に、テレビ局が支払う年間の電波利用料が破格の安値だ。
全128局が払う電波利用料は、年間で50億円前後。
一方、全社の総売上高は3兆円近くにのぼる。仕入れ値の600倍の売り上げを得るボロい商売なのだ。 地上波はキー局5社による独占体制で、競争相手もいない。地方局は、もともと地元の権力者や有力企業、自治体がカネを出し合って設立した経緯から、地方政界と結託して政治利権の道具になっている。その地方局を系列下に組み入れることで、キー局の全国的なマスコミ支配が完成した。
「こういう構造だから広告料な.ど言い値の世界。放送免許さえ持っていれば、番組の質など関係なく、黙っていてもスポンサー枠が埋まった」(キー局幹部)といった具合に、テレビはわが世の春を謳歌した。
多くの反対論を押し切って強行された地デジ化は、その利権構造を維持するためのものだ。
「アナログ放送の終了でVHF・UHFを合わせて200メガヘルツ以上の周波数帯が空いたが、これはいま携帯電話が使っている全帯域に相当し、時価にして3兆円近い価値がある。ところが、移行日を過ぎてなお大半の帯域はテレビ局が居座り、死蔵された状態で、広大な空き地≠ノなっている」(『新・電波利権』著者で経済学者の池田信夫氏)
特に酷いのが、利用価値が高くホワイトスペースと呼ばれるUHF帯域の「跡地」だ。この貴重な帯域をスマートフォンの登場でニーズが減っているワンセグを使った新番組で埋めるというナンセンスな計画が進められている。
「同帯域は、電波法で用途が放送サービスに限定されているため、今後どれほどスマートフォンやタブレットPCが普及しようと、通信には使えない縛り≠ェかけられている。そこをワンセグで占拠しておけば、地上波テレビ局にとりて脅威となる新規参入業者が出てくる心配もない。とりあえず電波帯域を埋めて競合相手を排除する、テレビの常套手段です」(同前)
その地デジ化に、3600億円もの税金が投じられたのである。
もはや「不動産業」が本業?
しかし、バブル崩壊とインターネットの台頭以降、濡れ手でアワの商売に陰りが見えていることも事実である。ただ座っているだけでは儲からなくなったテレビ局は、良い番紅を作って視聴者を喜ばせよす、とは考えずに、「電波独占の利権を最大限利用し尽くす策略」を新たに練り始めた。
放送以外の「副業」の発明だ。映画や音楽事業に参入したり、DVDやCDを売り始めたりしたのを皮切りに、サーカスから美術展まで、何でもありのイベント事業に進出している。テレビ通販も、フジテレビの『ディノス』や『セシール』の子会社化に代表されるように、自前の通販会社を持つようになった。
さらに、新社屋を建ててテナントを募る不動産賃貸業に乗り出したり、自社敷地内でテーマパークを催したりと、手当たり次第に業態を広げていった。
そればかりではない。朝日放送(大阪・準キー局)を皮切りに、各局は自分たちで住宅展示場をつくって、次々と住宅販売事業に乗り出している。この「放送外収入Lがいまやテレビ各社の収益を支えている。
例えば、テレビ通販だけで、日本テレビ108億円、TBS96億円、テレビ朝日85億円、フジテレビ82億円を売り上げる。キー局各局は連結で2000億円以上の総売り上げを誇るとはいえ、これは小さくない金額である。
不動産事業の稼ぎ頭はTBSで163億円。日テレも、汐留・麹町のテナント料収入が72億円にのぼる。 土地を提供して名前を貸すだけでカネが転がり込む「ドル箱商売」(ローカル局幹部)である住宅展示場などのハウジング事業は主に地方局が展開しているが、キー局で手掛ける日テレの関連子会社の売り上げは26億円である。
他にも、文化事業と銘打って、各局が競って開く美術展も儲かる。ヒット作「犬哺乳類展」「ゴッホ展」などを主宰したTBSに転がり込んだ催事事業収入は32億円だ。
もっとラクに僻けるなら、社屋敷地内で催すテーマパークのイベントが最適だ。
フジテレビの「お台場合聴衆国2010」は、来場者数と入場料から計算すれば、53億円を売り土げたことになる(※数字はすべて平成22年度のもの)。
「民間企業なのだからどんな商売をしても勝手だろう」とはいわせない。どの事業も、公共の電波に「タダ乗り」する形で宣伝され、集客が図られているからである。
出資映画や主催イベントの告知が自局の番組で繰り返し放送される。また自局番姐のDVD発売を知らせる番組内宣伝や、社屋や自前の住宅展示場からの中継など、電波がテレビ局によって私的流用≠ウれている実態は目に余る。繰り返しになるが、その電波はほとんどタダで彼らが使い放題なのだ。
テレビ通販に至っては、朝から深夜まで絶え間なく放送され、最近では情報番組内にわざわざコーナーを新設してまで、視聴者を誘導する。
経済法に詳しい甲南大学法科大学院教授・根岸哲氏が指摘する。
「傘下の通販会社だけは優遇して格安のコストで商品を宣伝させ、他の通販会社が同じ宣伝枠を取るためには相対的紆割高な料金が発生し、ぞれによって他社の事業活動が困難になるようなことがあれば、独占禁止法に抵触する可能性が生じます」
コンサート、サーカス、展覧会と、どんなイベン雄も、テレビで宣伝されるのとされないのでは、集客力がまるで違うことは子供でも分かる。
独立系通販会社の社長が、匿名を条件に語る。
「テレビの枠を1時間買うのに数百万円かかる。でも、テレビ局関連の通販会社は割安な満会で枠を買い、有名タレントが事取り足取り延々と宣伝する。どうあがいても勝ち目がない」
そうして様々な業種の企業が経営を圧迫されている。
「ケータイ10倍増税」もテレビのため
「公共の電波」、「社会の公器」を謳いながら、そんな身勝手で不公正な経営が許されてきたのは、「政治の庇護」があったからに他ならない。
01年、小泉純一郎氏が内閣総理大臣に就任して以降、日本政治はテレビに尻尾を振るようになった。小泉元首相のようにワンフレーズをどんどん流してもらい、テレビの討論番組に出れば落選はないと、知名度の向上が再選への近道と信じられたからだ。政治家はそれまで以上に、テレビ・新聞の大マスコミを味方につけようと腐心した。菅直人首相は政権をとるとすぐに、「マスコミの言う通りの政策をやる」ことを政権方針に据えた。
目の前で起きている「テレビ利権保護政策」の2大悪のひとつが「地デジ化」であり、もうひとつが「ケータイ増税」だ。
先月26日、政府の東日本大震災復興対策本部は19兆円の復興財源を賄うため5年間を期限とした増税計画を表明した。与謝野馨・経済財政担当相は、その原資に携帯電話の電波利用料の引き上げを候補として挙げた。国民のケータイからさらにむしり取る計略だ。
昨年度の電波利用料の歳入予算712億円のうち、携帯電話会社の負担は543億円(76%)。テレビ局は全局で50億円(7%)にすぎない。利用している電波帯域の多寡を考慮すると、現状でもケータイはテレビの200倍の利用料を払っていることになる。
各社は端末1台ごとに電波利用料として年間250円を課金しているが、政府はこれを1台で1日5〜10円程度上乗せしようと狙っている。一気に10倍以上に増税≠オようという法外な話である。
一方で、電波利用料のわずか7%しか負担していないテレビ局の利権商法にはなぜ手をつけないのか。
政治家と蜜月のテレビ局は市場原理からも守られてきた。一度、タダ同然で放送免許を受け取ってしまえば、審査もなく5年に1度の免許の更新ができる。政策の庇護のもと、地上波が始まって以来的60年間、1局として倒産や合併、買収がないのだ (イトマン事件で詐欺被害に遭って倒産した近畿放送は例外)。
だが、そんなテレビ局に対し、ついに国民の側が反旗を翻し始めた。
すでに、テレビCMの有力スポンサーの中には、「視聴率と広告料の関係が不透明」だとして、社内に独自の調査チームを作り、他の大手企業にも広告料の適正化運動を呼びかけ始めたところもある。 また、出演するタレントからさえ、テレビ局の拝金主義に異論が飛び出している。番組制作を放棄して、カネで買った韓国ドラマを延々と流すフジテレビに対して、俳優の高岡蒼甫が「マジで見ない」とツイートして大騒動となった。
高岡はこの騒ぎで所属事務所をクビになったが、その後もお笑い芸人が「公共の電波を用いて私腹を肥やすことは違反。テレビは完全に終わった」とラジオで批判するなど、身内≠ゥらの批判は止まらない。
何より、視聴者が「テレビなき生活」を選び始めた。
今年2月、NHK放送文化研究所が発表した『2010年国民生活時間調査報告書』によれば、テレビを見る人の割合は年々減少している。95年には92%だったのが、10年では90%を切った。また、まったくテレビを見ない人が95年の8%から11%に増えた。
特にテレビ離れは若年層に顕著で、国民全体の平日の視聴時間は3時間28分だが、10〜20代の男性は2時間を切っている。
それが悪いわけではないが、いまやテレビは「高齢者のメディア」なのだ。国民の中で、最もテレビを見ているのは70代以上で、平均視聴時間は5時間超。しかし、地デジ完全移行によって、彼らもまたテレビに背を向け始めた。
「年金で生活している高齢者の中には、対応テレビの購入やアンテナ設置、ケーブルテレビ加入など、安くない出費を強いられる地デジ化を機にテレビを捨てた人も多い。『おカネを払ってまでテレビを見る必要はない』という声が多く、一番テレビに親しんできた世代のこの選択に正直、驚きました」(デジサボ関係者)
既得権益を守るはずの地デジ化が、国民の「テレビ離れ」にトドメを刺す皮肉な結果を生んだ。そんな現実を尻目に、「テレビ新時代の幕開け」を宣言する滑稽さほ、どんなお笑い番組よりも痛快である。
もう十分に楽しませてもらった。これまでありがとう。テレビよ、さらば!
(写真)ケータイ増税を企む(与謝野撃・経済財政相)
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