01. 2011年8月07日 09:25:10: 8sabVgpDK6
自動車を論じる時、いずれ出てくると思われていた軽自動車問題。この軽自動車規格というのが、日本の自動車を捻じ曲げてきたと当方は長年、あちこちの掲示板に論客として書き込んできた。この軽自動車規格と言うものは日本独特のもので、1950年代の通商産業省の国民車構想に起源があるといわれてきたが、実際はそうではない。それ以前から軽車両の規格があり、2輪車を含めて総称している。この規格が昔は全長3メートル、全幅1.3メートル、全高2メートル、エンジン排気量360ccであった。この規格では、まともな4輪自動車はつくれないと思われていたのだ。ところが1958年に登場したスバル360は、この規格に収まった上に4人乗りで最高速85km/hと、一人前の自動車であった。政府は軽規格でまさか4人乗りの自動車なんてつくれないだろうと思っていたし、それ以前の軽自動車は2人乗りの3輪トラックばかりであった。(ダイハツ・ミゼットや新三菱重工・レオ号とか)一人前の自動車ではなかったので、運転免許も簡単に取れる軽免許だったし、自動車そのものにも車検がなかった。要は2輪バイクと同列の取り扱いがなされていたのである。 軽規格でも4人乗りの乗用車がつくれることが分かると各社が参入し、1968年のホンダ参戦で市場争いは熾烈を極めた。ところがこの頃、自動車の安全問題と排気ガス問題が深刻になりつつあった。軽自動車は衝突時の致死率が高く、当時の交通事故死は年間2万人に達した。また軽自動車に広く採用されていた2サイクルエンジンは、潤滑油をガソリンと一緒に燃焼させることから排気ガスの成分が著しく有害であり、これらを総合して考慮した結果、軽自動車を廃止する方向に傾きかけた。 ところがここで反対勢力が巻き返し、1976年からエンジン排気量は550ccに拡大し、全長3.3メートル、全幅1.4メートルに拡大することで決着した。軽自動車制度の存続と引き換えに車検制度の導入は1973年に実施された。この時は排気ガス規制導入のためエンジン出力が低下することから、これを補うためにエンジンを拡大したのだが、一転して存続が決まった経緯については分からない。政治家の政府官庁に対する働きかけがあったのは明白だ。現に1972年に軽自動車検査協会が設立されている。 1989年、あれだけもめた消費税が導入された。この際に問題になったのが、軽自動車と登録自動車の物品税の差がなくなり、軽自動車が割高になることによる商品性の低下である。この時のことはよく覚えている。スズキ自動車の鈴木修会長が軽自動車存続のために、商品力を高める政策を政府に要求したからだ。鈴木修会長は、このとき只者ではないと思った。それには狭い室内を1,000cc並みに広くさせろという。車体が大きいからエンジンも大型化する必要があると政府相手に粘り、エンジン排気量は550ccから660ccまで、実に110ccも拡大された。しかし、これが欧州自動車業界の怒りを呼ぶことになる。 欧州で一番小さいエンジンを搭載するシトロエン2CV。1960年代後半に425ccと435ccがあったが、1970年代の欧州排気ガス規制導入で602ccになった。この時、日本の軽自動車が550ccだったため、欧州自動車業界は黙ってた。しかし660ccとなれば話は違った。欧州自動車業界は日本の軽自動車制度の廃止を構造改革協議に含めるよう迫った。日本側は、国民が軽自動車制度を支持していることを理由に切り抜けたが、自動車業界そのものもトヨタがダイハツ、日産が富士重工と軽自動車メーカーを傘下においていたことから、軽自動車制度の存続はやむなしと思っていたようだ。 1998年になり、自動車の衝突安全性の問題が新たな段階に入った。日米欧で統一基準をつくっていくことになり、軽自動車についてもスズキ会長がまたも規格拡大と排気量拡大を公言した。しかし、今回は柳の下にどじょうはひそんでいなかった。側面衝突に対する安全性強化の観点から、全幅は1,500mmを必要だとする鈴木会長に対し、警察庁は「こんな広くては停車していても場所をとりすぎる。軽自動車制度そのものの存廃を検討せざるを得ない」と表明したため、一転して1,480mmで妥協したと言うのが真相である。 一方、欧州では自動車安全基準の強化に従い、新登場する車種の全幅がますます拡大の一途を辿っている。フランスのプジョー207は、1,400ccで1,745mmだ。この寸法は日本では3ナンバーになる。日本の小型車枠も今や時代遅れになっているが、軽自動車制度そのものも安全性を軽視した業界存続のための制度であり、廃止を含めて厳しく対処していかなければならない。そもそも軽自動車がなぜこれだけ売れるかと言うと、税金や保険料が政策的に安く設定されてきた歴史的経緯があるからで、言い換えれば普通の登録車が国際的に見て維持費が高すぎる結果なのだ。 欧州諸国では、自動車の所有に際し税金は少し取るだけだが、これに対し使用に対してたくさん取る方法を採用している。ガソリンに掛かる税金は日本より高い。このためディーゼル自動車が多く、フランスでは販売される新車の80%に迫る勢いだ。大統領公用車のシトロエンC6ですら、ディーゼルである。これに対し、日本では東京ファッショ勢力知事がディーゼル敵対政策を取り、エンジンそのものの燃費改善よりもハイブリッドに向かう結果を招いてしまった。 軽自動車制度や小型車枠制度で自動車の寸法を制限してきたひずみは、以外なところで現れている。例えばタクシー。トヨタがほぼ市場を独占したが、コンフォートの後継車が登場しないまま生産中止になっている。5ナンバーでは現在の安全基準を満たせないためだ。あと警察。こちらもパトカー市場をほぼ独占したトヨタだが、5ナンバーの車体がなくクラウン・マジェスタになった結果、大きすぎて市街地で使いにくい弊害を生み出している。 かつて中国には「纏足」(てんそく)と言う奇妙な風習があった。辛亥革命で臨時政府を樹立した孫文先生が禁止し、日本統治下の台湾でも台湾総督府が禁止し、ようやく廃れた奇習である。軽自動車は、自動車の纏足である。エンジンはDOHCの24バルブを装備し、これに自動変速機やワイドタイヤやGPSナビなど、てんこ盛り。これ、どう考えても異常だろう。自動車が大きくなると道路拡幅の必要が出るから、これを回避するために自動車を小さくさせたのだろう。そのつけが今日、タクシーやパトカーにまわってきたのだ。因果応報である。 日本の軽自動車で唯一、欧州の安全基準に合格するのは三菱アイだけだ。三菱アイは、電気自動車版のアイ・ミーブが、シトロエンC-Zeroとして欧州で販売されている。写真を掲載する。 http://www.citroenet.org.uk/passenger-cars/psa/c0/c-zero.html http://www.citroenet.org.uk/passenger-cars/psa/c0/c-zero1.html http://www.citroenet.org.uk/passenger-cars/psa/c0/c-zero2.html 動画はこちら。 http://www.youtube.com/watch?v=COQ84nTlOWo&feature=related http://www.youtube.com/watch?v=9iwuNGLD0rw http://www.youtube.com/watch?v=60T6zQtZIW0 クラッシュテストの動画です。 http://www.youtube.com/watch?v=DHEaO1h8D8A 軽自動車制度の廃止を当方は長年、主張してきたが、もはや先送りは許されない。ところで、これは余談だが、三菱アイは当初、1,000ccクラスで計画されていたそうな。ところが軽自動車にしないと税金が安くないから売れないとして、計画が途中で軽自動車に変更された。このため開発に5年もかかってしまったそうな。当方も三菱との縁から乗っているが、他の軽とは明確に運転した感じが違う。日本で唯一、欧州のクラッシュテストに合格した軽自動車だけのことはある。 |