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田村耕太郎の「経世済民見聞録」国家資本主義に苦悩し始めた中国 民意に逆らう投資はもはやできない?
2012年2月8日 水曜日
田村 耕太郎
中国が、世界のエネルギー資源を買い漁り、南米やアフリカの農地にまで投資している。莫大な資金力(外貨準備)を背景に、素早く戦略的な投資を行う。その姿に羨望のまなざしを向ける先進国。
前回は国家資本主義について書いた。今回は国家資本主義で苦悩し始めた中国の様子を紹介する。
中国投資公社(CIC)は、アブダビ首長国が運営する国家ファンドと並ぶ世界最大の国家ファンドである。同公社のトップは、私のロースクールの先輩、ガオ・シン氏である。会うたびに、印象的な言葉を聞かされる。今回は「中国国家ファンドといえど、もはや民意に逆らう投資はできない」という話を聞いた。
先週末、ドイルのメルケル首相が中国を訪問。広東省でのビジネスフォームに温家宝首相とそろって登場した。その際、温首相が「中国は、危機と闘う欧州にさらに協力する用意がある」と発言。欧州金融安定化基金と、まもなく設立されるもう1つの安定化基金、欧州安定化メカニズムへの出資をほのめかした。
その際、「“中国は欧州を買おうとしている”と騒ぐ者がいる。しかし中国にそのような意図はないし、能力もない」とも発言。欧州の懸念を払しょくするよう努めた。
「中国は欧州を買わない!」は中国人民向けのシグナル
私が思うに、温家宝首相のこの発言は、欧州向けというより、中国国内向けに発したサインであると思う。国民の反応を見極めるためのジャブではないだろうか。中国国民は、欧州救済のために外貨準備を利用することに大きな不満がある。
以下の声が中国で増え始めているのだ。
「自分たちが安い賃金で懸命に働いたおかげで、政府は外貨準備をため込むことができた。まさに爪に火をともす思いでためてきた。我々はまだその果実を味わうことができていない。世界一の外貨準備と言われても実感がない」
「そろそろ中国国民のために使われると思っていたその外貨準備を、怠け者の欧州人を救済するために使うなんて言語道断だ!」
「欧州人は働かないから借金漬けになっているのだ。そもそも今の欧州人は自分たち中国人よりずっと豊かだ。しかも医療や年金など、自分たちより進んだ社会保障まである。そんな欧州の国民を助けるために、まだ貧しくて外貨準備の恩恵にあずかっていない私たちがなぜ犠牲にならないといけないのだ」
こうした声に対して温家宝首相は「中国が欧州を救いに行ってもいいか」と尋ねているのだ。そして「欧州を買うつもりはないよ」と言って欧州国民を安心させつつ、欧州諸国の政府に「ちゃんと財政再建のために働いて返せよ」とサインを送っているのだ。
余談になるが、メルケル首相は「中国にお金をもらいに来たんじゃない」と虚勢を張った。そう言わないと、メルケル首相もドイツ国民を説得できない。メルケル首相も温家宝首相も敵は内にありなのだ。メルケル首相はこう強調した。「中国に来ているドイツ企業は中国政府に情報公開を求めている。知的財産権の保護も重要だ。中国政府は改革にしっかり取り組んでほしい」。
温家宝首相は「中国の改革の歴史はまだ30年しかない。さらなる改革が必要なことは明白だ。情報公開や透明性向上、知財保護は、ドイツ企業のためばかりではない。中国企業そして中国国民のために必要だ。そのためにやる」と切り返した。外国に屈する形ではなく「中国国民のため」を前面に押し出さないと、国民の支持を得た形で改革を前に進めることができないのだ。
世界で襲われる中国人
国家資本主義の下で行ってきた戦略的投資がもたらす負担が大きくなっている例をもう1つ挙げよう。投資とともに出ていく中国人の警備・保護のコストが高まっているのだ。このところ世界中で中国人が襲撃・誘拐されている。1月31日・火曜日にはエジプトで25人の中国人が誘拐された。1月28〜29日の週末には29人がスーダンで「スーダン人民解放運動」なる組織に誘拐された。
スーダンでの誘拐は国際問題に発展しつつある。南スーダン独立後の南北紛争に中国が巻き込まれた感があるのだ。この「スーダン人民解放運動」は南スーダン政府が資金を援助してできた勢力と言われる。南スーダン政府によって中国人が戦略的に人質に取られた、と理解してよい。この組織にスーダンは頭を抱える。中国との外交問題に発展しかねないからだ。
スーダンは政治から経済まで北京の後ろ盾が頼りだ。イラク戦争でフセインを支援したバシール大統領は、アメリカから経済制裁を受け続けている。中国へ石油を輸出することで得られる収入が欠かせない。武器もほとんどが中国製。中国にそっぽを向かれないようにするためスーダン政府は、いまだに内戦に近い関係にある南スーダン政府をうまく説得して人質解放を実現しなければならない。
今後、在外中国人を巻き込んだこのような襲撃・誘拐事件が多発すると思われる。紛争地域をはじめとする厳しい環境で働く中国人が増えているからだ。中国人はすでに世界にあふれている。公式統計では、世界中に90万人。アフリカには23万人いると言われる。
アフリカだけで、実際には既に200万人近い中国人がいると言われる。なぜアフリカなのか? その背景には中国政府の投資方針がある。先進国による投資との差別化を図っているのだ。先進国の民間投資がまだ目をつけていない地域や、紛争のため西側が投資しにくい地域を選んで出資している。
中国が新興国の資源や食糧に投資する時には、中国人の雇用創造もセットで行う。アフリカや南米で資源や食糧関係の投資をしたら、中国国内で職を持てない人たちをアフリカや南米に同伴して、鉱山や農地で就業させる。
これが現地で問題になっている。
「大量の中国人がやってきて職を奪う」
「中国が投資しても地元の雇用は増えない。むしろ、中華街までつくってしまうので雇用が奪われる」
「地元の社会や文化に敬意を払わない」
中国流で街づくりや生活を勝手に始めるから、現地の国民に敵視され、大きな反発を招く。
同胞を守るコストも負担せよ
中国のメディアは、アフリカでの相次ぐこれらの誘拐を一切報道していない。そして多くの中国国民が紛争地域に出稼ぎに出ても、中国政府や軍は保護・警護を提供してこなかった。しかし、インターネットを通じて、紛争地域で同朋が危機にさらされている事実が伝わりつつある。腰が重い政府や軍に対する批判がようやく出始めた。そして中国は、スーダンの人質解放を目指してようやく軍を送り始めた。
これまでは「われわれが血と汗と涙で蓄えてきた外貨準備を新興国に投資する時は、我々の雇用をつくってくれ」というのが中国人の声だった。それが「同胞が現地で誘拐されているのに、なぜ政府や軍は助けないのだ」との声に徐々に変わってきている。ここでも民意を意識せねばならなくなった。世界に向けて投資するに当たって、その国で働く中国人の治安維持などのコストも払わねばならないのだ。戦略的投資のコストが上昇してきている。
中国は、独裁国家とか国家資本主義と、単純に論評される。だが、実は、民意を無視した国家投資などもはやできない。国家としての戦略的投資が曲がり角に来ている。豊富な外貨準備を自在に使ってきたと言われる中国も、国民と相談しながら、国民の生命財産を守りつつ、投資しなければならなくなったのだ。
このコラムについて
田村耕太郎の「経世済民見聞録」
政治でも経済でも、世界における日本の存在感が薄れている。日本は、成長戦略を実現するために、どのような進路を選択すればいいのか。前参議院議員で、現在は米イェール大学マクミラン国際関係研究センターシニアフェローを務める筆者が、海外の財界人や政界人との意見交換を通じて、日本のあり方を考えていく。
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著者プロフィール
田村 耕太郎(たむら・こうたろう)
田村 耕太郎 米エール大学マクミラン国際関係研究センターシニアフェロー。前参議院議員、元内閣府大臣政務官(経済財政政策担当、金融担当)、元参議院国土交通委員長。早稲田大学卒業、慶応大学大学院修了(MBA取得)、米デューク大学ロースクール修了(証券規制・会社法専攻)(法学修士号取得)、エール大学大学院修了(国際経済学科及び開発経済学科)経済学修士号、米オックスフォード大学上級管理者養成プログラム修了。
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