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全国民必読 これからの日本を考えるヒント みなさん、このまま沈みますか、それとも立ち上がりますか
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/31721
2012年02月06日(月) 週刊現代 :現代ビジネス
「貿易収支」もついに赤字に転落 このままズルズルと「国際競争」で負け続けるのか
毎日毎日、借金の話ばかり。かと思えば、大企業が次々に1万人規模のリストラ。カネもなければ、仕事もない。これが会社なら、とっくに倒産だろう。ギリシャやイタリアの危機は対岸の火事ではない。残された時間は少ない。なんとかしなければ。
31年ぶりの貿易赤字に転落---1月25日、財務省は昨年1年間の日本の貿易収支が約2兆4900億円の赤字になったことを発表した。資源にも国土にも恵まれない日本はいままで外国に商品やサービスを売りまくることで生き延びてきたが、「貿易立国」の座から滑り落ちたことが明らかになった。
1月18日、韓国・ソウル市内に立つシェラトンウォーカーヒルホテルにトヨタ自動車の豊田章男社長が同社の戦略車「カムリ」で乗りつけると、現場は沸いた。ホテルでは新型カムリの発表会が開催されていた。
韓国紙・中央日報によれば現地では豊田社長の登場が知らされていなかったという。「巨艦」トップのサプライズ訪韓---その背後に「章男社長の焦りを感じる」というのは全国紙経済部記者だ。
「韓国での成否が、今後のトヨタを占う試金石になるからだ。カムリは米国で毎年30万台も売れる超人気車種。実は韓国で販売する新型カムリは日本ではなく、米国工場で生産したものを輸出する。米国産カムリを海外で販売する最初のケースで、円高の直撃を避ける狙いがあるのだが、これが失敗すればトヨタの海外戦略がつまずく可能性も否定できない。それだけに、章男社長は力が入っていたのだろう」
経営者の顔に焦りが滲む。それはトヨタに限った話ではない。
1月初旬、米ラスベガスで開かれた世界最大の家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー」(CES)では、サムスンやLGが液晶の「次」として期待されていた有機ELの55型テレビを年内に発売すると発表し、世界中のメディアのまばゆいフラッシュを浴びた。日本メーカーの技術者も、「画像の美しさに圧倒された」と驚きを隠さなかった。中国勢の台頭も目覚ましく、ハイセンスなど家電大手がインターネットに繋いで楽しめるスマートテレビを展示し、話題をさらった。
パナソニックの大坪文雄社長は同会場で「(有機ELテレビの発売を)2015年よりも早い時期にする」と語ったが、それは「後塵を拝した日本勢の苦しい前倒し策に過ぎない」(電機業界担当の証券アナリスト)と見られた。
「同会場に現れたサムスン会長の李健煕氏に『先に進んだ国だと思っていたが、日本は少し力が落ちたようだ』と揶揄されたが、返す言葉もないのがいまの日本の実情だ」(前出・経済部記者)
■トヨタもソニーも格下げ
元サムスン電子常務で現在は東京大学ものづくり経営研究センター特任研究員の吉川良三氏もこう言う。
「日本の経営者はこの期に及んで、まだ技術力があるからなんとかなると楽観しているから、どうしようもない。経営の失敗を円高のせいにする経営者も多いが、韓国企業もウォン安で電子部品などの輸入品価格が急上昇し、コスト高に悩んでいるのだから、状況は同じと考えるべきです。
それに日本が誇っていた生産性にしても、韓国勢に大きく後れをとっている。特にトヨタが生み出した『カンバン方式』を後生大事にしているが、この手段は今日のグローバル化時代においてはうまく適応できていない。韓国勢は日本のカンバン方式をIT技術を使って生産過程にとりこみ、日本より効率良く、高い生産性でモノを作れるようになっている。お客が欲しいものをすぐに手元に運べるという技術優位性ですでに日本は負けている」
かつて日本の輸出を牽引してきたトヨタ、パナソニック、ソニーといった大手自動車・電機メーカーが、いまや国際競争で苦戦を強いられている。ウォークマン、斜めドラム式洗濯機、プリウスといった世界中で人々が買いに殺到していたヒット商品を、日本企業が作れなくなって久しい。カリフォルニア大学教授のスティーブン・ヴォーゲル氏が言う。
「サムスンやLGといった韓国企業は日本にくらべて国内市場が半分しかないので、世界に打って出るしか生き残る道はないという覚悟を持って、官民一体となって早くから大胆な世界戦略に手をつけてきた。国内市場が小さいフィンランドも同じで、そこから携帯大手ノキアなどの成功が生まれた。
対照的に日本企業は国内市場にばかり目を向けて、せっかくの技術力を活かしてこなかった。特に日本企業は半導体、ソーラーパネル、リチウムイオン電池などの先端分野で有望な商品群を抱えていたが、巨大な国内市場があることに安心し、規制緩和や大規模投資を怠ったことで、他国のメーカーに先を行かれてしまった」
堕ちた日本企業を、マーケットも冷酷に査定し始めた。1月19日、格付投資情報センターがトヨタ自動車を最上級のトリプルAから引き下げる方向で見直すと発表して、市場関係者を驚かせたのもつかの間。その翌日には米系格付け会社ムーディーズ・ジャパンがソニー、そしてパナソニック両社の格下げを発表し、日本企業が格下げラッシュ≠ノあったのだ。
「ムーディーズによるソニーの格下げ理由を見ると、『同社の計画通りに2014年3月期までにテレビ事業を黒字化するのは難しい』『拡大が続くスマートフォン市場におけるソニーの競争力は(中略)依然として弱い状態が続くと考えている』などと書かれている。パナソニックやトヨタについても同じく辛辣な言葉が並ぶが、こうした厳しい意見こそがいま、世界の共通見解となっている」(ビジネス・ブレークスルー大学教授の田代秀敏氏)
■「新興衰退国」とバカにされて
日本企業の「終わりの始まり」に、世界は数年前から気づいていた。知らなかったのは日本人だけで、それがいま、「貿易赤字ショック」に端を発して、やっと日本人の目に見える形で現れてきたのだ。
「一部の欧州メディアでは数年前から、日本を表現するにあたって『新興衰退国』なる言葉が使われている。世界の企業経営者を対象とする弊社の調査でも、直接投資先としての日本の魅力度は世界で21位。世界3位の経済規模を考えると、極めて低い評価だ。さらに前年度との変化でも、日本の魅力度が下がったと見る企業のほうが多い」(米系大手コンサルティング会社A・T・カーニー日本代表の梅澤高明氏)
日本の経営トップたちが「円高だから」「法人税が高い」などと言い訳を並べている間に、世界はどんどん先に行っている。これでは日本企業が浮上できるはずもない。
もちろん挽回のチャンスはあった。それをみすみす逃してきたことに、いまの「敗北」の原因がある。流通科学大学学長の石井淳蔵氏が言う。
「日本企業に必要だったのは大胆な『業態転換』と『経営トップの変革』だが、これができなかった。参考になるのは米IBMで、お家芸≠ナあるコンピューター事業を捨て、システム構築やコンサル業に切り替えて生き残った。これを主導したのがまったく別業界、ビスケットを作るRJRナビスコから来たルイス・ガースナーという人物だった。
日本の電機メーカーも、テレビなどハード単品を売るのをやめて、システム主導の会社に生まれ変わるべきだったし、外から優秀な経営者を呼んできて、『人は組織を超えられず、組織は業界を超えられず』の限界に挑戦すべきだった」
前出・梅澤氏も「欧州の老舗企業の中には、グローバル本社の経営チームが買収先企業出身のブラジル人で占められてしまったケースがある。会社にとってベストな人材はどこにいるのかと考え、たまたま海外の買収先にいたから連れてくる。これがグローバル競争のリアリティーだ」と言う。
そして今年1月にパナソニック株は31年ぶりの安値水準に転落。トヨタは自動車販売台数で4年ぶりに首位の座を米ゼネラルモーターズに奪われたうえ、独フォルクスワーゲンにも負けて3位に引き摺り下ろされた。これが現実だ。
このまま日本はズルズルと「国際競争」で負け続けるのか。元ソニー上席常務の天外伺朗氏はこう語った。
「ソニーの設立趣意書には『自由闊達にして愉快なる理想工場』という一節があり、創業期には、従業員がハッピーで夢中になって仕事に取り組む『フロー状態』が大切にされた。経営者も数字を見るだけの合理主義者とは違い、人間性を深める自己研鑽を続け、従業員のお手本になっていた。その中から、多くの画期的な商品も生み出された。
日本は、いまさら高い成長を望んでも無理。企業は原点に立ち返り、経営の質を見つめ、内面的充実を目指すべきです」
韓国、中国と競り合って、「量」を追っても勝ち目はない。日本にしか作れない画期的な「質」を伴う製品を生み出すか、劇的な業態転換を果たせなければ、その企業の先行きは暗い。それは、かつて世界に名を馳せた一流メーカーとて例外ではない。
■この「借金地獄」から抜け出せる日は本当に来るのか
あのときの風景と、いまはよく似ている。永田町で自民党の派閥抗争が激化して政局が混迷、'80年に党内融和を掲げた鈴木善幸総理が誕生した。
鈴木政権がはじめに取り組んだのが財政悪化の改善。赤字国債漬けの体制からの脱却を図るべく、無駄な支出の徹底削減を謳って「第二次臨時行政調査会(第二臨調)」を発足させた。
同じように昨年、親小沢・反小沢という民主党内の抗争から野田政権が生まれた。そしてまた同じように、財政改革をその一番の課題としている。
「要するに、日本は30年間もずっと同じ課題に取り組みながら、問題を解決できずにきたということだ。当時の第二臨調は、3公社民営化につながる土台を作る成果をあげた。ただ鈴木総理が謳った『増税なき財政再建』という理念については、徹底した改革までに切り込めなかった。そうしていま『増税ありきの財政再建』をしなければならないところまできてしまった。この間に、もっと抜本的にやっていれば……」(全国紙政治部OB)
いま、膨れ上がった国の借金は約1000兆円。100%デフォルト(債務不履行)するといわれるギリシャより、ひどい財政赤字を抱える「借金大国」に成り下がった。
野田政権は消費税を2015年10月に10%まで引き上げることで財政再建の道筋をつけようとしているが、本当にこれで莫大に膨れ上がった借金を返すことができるのか。
消費税を5%上げても財政再建はできない---実はこれは、経済の専門家の間では「常識」とされている事実だ。一橋大学経済研究所准教授の小黒一正氏がこう指摘する。
「米国の専門家の試算によれば、2012年に消費税を10%にすると仮定しても、財政を持続可能なものにするためには、2017年に33%まで消費税を増税する必要がある。2022年に増税するケースでは、37・5%という税率まで上げなければいけないとされています」
■返せる当てはない
クレディ・スイス証券チーフエコノミストの白川浩道氏もこう言う。
「消費税には低所得者ほど負担が重くなる『逆進性』がある。ただ日本で20代と50代で年200万円以下の世帯が増えていることが象徴するように、貧困が深刻化している。こんなときに消費税を増税すると、ますますモノが売れなくなって、デフレ・ショックが発生しかねない。そうなれば経済はますます収縮し、税収も下がっていく負のスパイラルに陥る」
野田政権が唱える消費税増税案を国民が呑んだとしても、それでは借金返済にはまったく足りない。だから今後も追加の増税や年金や医療などの社会保障カットが必要になる。その間、増税ショックによって経済が悪化、さらに税収が少なくなって、再び雪だるま式に借金が膨れ上がっていく恐れもある。日本の姿は、多重債務者の成れの果てそのものだ。
さらに改革を先延ばしにしているうちに「国債暴落」の危機が近づいてくるのだから、なおのこと辛い。慶應大学教授の深尾光洋氏が言う。
「仮に市場金利が2%上昇すると、やがて実質的な利払い負担は14兆円も増える。これは消費税約6%分にも相当する額だから、増税の効果が打ち消される」
いまのギリシャやイタリアを見れば、未来の日本の姿が透けて見えてくる。たとえば消費税の税率をギリシャは19%から23%に、イタリアは20%から23%にそれぞれ引き上げ、さらに食料品や生活必需品などの軽減税率を見直した。
「それだけでは財政再建できないので、不動産課税も始めた。またギリシャでは歳出削減の一環として医療費をカットした。このため製薬会社がこれでは儲からないと国内出荷をやめて海外への輸出に振り向けた。結果、ギリシャ国内で医薬品不足が社会問題化している。公営病院の予算も40%削減され、医療スタッフも医薬品も確保できない状況。そのうえ教育関連費用も減らされたため、教科書を印刷する費用がなく、コピーを使って勉強している」(欧州事情に詳しいエコノミスト)
そこまでしても、ギリシャやイタリアはいまだ財政再建から程遠い。その間に国債が売られ金利が上昇、さらに借金の利払い費が増えていく隘路にある。ジワジワと痛みを受け入れながら、返せる当てのない借金を返し続けることになるのが「借金大国」の末路なのだ。
それが嫌なら、いますぐ自己破産する、つまりはもう借金は返せませんとデフォルト宣言するしかない。
「ただそのときは、'90年代にIMF管理下に入った韓国の悲劇の再来となる。2万社以上の企業が倒産し、200万人以上の失業者が街にあふれる」(在韓ジャーナリスト)
手を打つのが遅すぎた。本当のショックが、これから日本を襲うことになる。
■「少子高齢化」に「ひ弱な精神」なんで日本はこんなに弱体化したのか
「少子高齢化で日本の経済成長率は、2020年代半ばからマイナス成長が常態化する可能性がある。人口が減り、マーケットが縮めば雇用にも悪影響があるから、10年後でも失業率は約4%になる。さらに日本は世界で唯一のデフレ国家。デフレは経済をさらに収縮させ、買い控えが蔓延し、また賃金が下がっていく」(第一生命経済研究所主席エコノミストの永濱利廣氏)
塩をかけられたナメクジのように、いま日本経済はどこまでも縮んでいく運命にある。これに拍車をかけるのが「IT化」だ。
「先進国では納税申告用の汎用ソフトに会計士や税理士の仕事の一部が奪われ、医療の分野でも患者がオンラインで医療アドバイスを受けられるようになると、医師でさえ必ずしも安定的な職業といえなくなっている。ホワイトカラー層の仕事がコンピュータに奪われる事態は、日本でも今後本格化する」(日本リサーチ総合研究所主任研究員の藤原裕之氏)
経済が縮んでいく中にあって、日本人の精神も同じように小さくしぼんでいっている。京都大学名誉教授の竹内洋氏がこう嘆く。
「特にモーレツ社員として日本の高度成長を支えた中間管理職に元気がない。企業から使い捨てられ、生活の安定も担保できないから、イエスマンの官僚みたいな人ばかりが増えている。企業トップも『外れた奇人変人社員』を減点方式で一括評価するから、これが一層社員を縮こまらせている」
だから変わり種社員も生まれないし、イノベーションも起こらない。ますます企業は業績を悪化させて自信を失う「負のスパイラル」に陥っている。
「かつて伊藤忠の社長だった丹羽宇一郎氏は会社が赤字を出すと発表する際、くよくよせずに将来ビジョンを堂々と語り、『これからは俺に任せろ!』とぶった。彼は『会社の不祥事は運次第』と考えていた。どんな会社も不祥事を抱えていて、表に出るのも出ないのも運次第なんだと。だから失敗が表に出る時は言い訳もしない、責任を部下に押し付けることもしない。目を『次』に向けてすぐに走り出す。そんな器の大きい人物が、いまの日本企業を見渡してもいなくなった」(人事コンサルタント)
やるべき対策がわかっていても責任を問われるのを嫌がって抜本的な改革に乗り出さない。その「ひ弱」ぶりが最も顕著に見られるのが、いまの日本の政治家と官僚だろう。
「たとえば年金制度ひとつとっても、高齢者と現役世代を別会計にして、高齢者に支払う年金は国が100年かけて返すとすれば問題は解決するのに、国民からのバッシングを恐れてできない。デフレ脱却のためにはインフレを起こす金融政策が必要なのに、政府はこれを日銀に丸投げ。その日銀も超インフレを恐れて量的緩和策を躊躇しているのだから、どうしようもない」(大手シンクタンクのエコノミスト)
政治家も官僚も国民に信用されていないことがわかっているから、大胆な決断を下す自信がない。先送りを繰り返すことが問題をより深刻化させていくことを知っているのに、何もしない罪は重い。
どうして日本人はこんなに弱体化したのか。
「経済が成熟して下降局面に入ると、社会全体が余裕を失い、目先のことしか考えなくなる。そして『枠を外れた人』を受け入れる隙間をなくし、人と違うことをする人をバッシングするようになった。
こんな社会にあって、小学校を中退して裸一貫、町工場から世界の松下電器を作った松下幸之助のような人物は生まれなくなった。そして『お天道様に見られても恥ずかしくない生き方をしよう』という日本人本来の美徳や職業への矜持といったものも失われていった」(前出・竹内氏)
縮む国家にあっては、社会も人間そのものも、負のデフレスパイラルにはまっていく。日本はどこまでも堕ちていく運命に抗えず、最後はナメクジのように、「消える国家」になろうとしている。
■何をどう直せばいいのか いったいどうやったらこの国は立ち直るのか
日本が抱える諸問題を掘り下げていくと、底の底で、いつもコツンとぶつかる大岩がある。責任逃れに終始する経営トップ、国民に痛みを強いるだけで何も決められない政治家と官僚・・・・・・大岩の正体は「人材不足という悩み」にほかならない。
そんな時代にあって世界で通用する人材を次々と世に出す大学がある。卒業生の就職率は「100%」。進路を見ても米大手証券モルガン・スタンレーから、イギリスのブレア政権時代にその思想的支柱を担ったロンドン・スクール・オブ・エコノミクス大学院までと幅広い。
秋田県秋田市にある国際教養大学。ここに「日本復興」のヒントがある。同大学学長の中嶋嶺雄氏が言う。
「就職に強いのは全学生に1年間の留学を義務付けたり、徹底した英語教育を行っているためだと思われがちだが、それは違う。英語が話せるだけの人間では、社会に出ても通用しない。大切なのは教養です。
うちの大学では新渡戸稲造の『武士道』や斎藤茂吉の『万葉秀歌』などを必読書として学生に読ませたり、9月の入学前に学生自らが課題を設定して、自主的にボランティア活動などをやらなければいけないギャップイヤー制度を設けたりしている。
こういう経験を通じて初めて、日本語でも英語でも自分の言葉で『語れる内容』が生まれてくる。米アップルが急成長したのも、スティーブ・ジョブズが『科学技術が発達する時代ほど、人間の原点、つまりは教養教育が必要だ』と説く精神があったからだと思う」
付け焼き刃で社内公用語を英語化する経営者や、本業も疎かに早々に会社を出て資格試験を受けるサラリーマンには耳が痛い言葉だろう。中嶋氏が続ける。
「英語というのは教養を得る前提でしかない。新渡戸稲造や岡倉天心が10歳とか11歳とかで創成期の東京外国語学校に通って英語を学んだのも、外国の教養知識を貪欲に吸収したかったから。手段と目的をはき違えていくら努力をしても、世界で通用する人材にはなれない」
文部科学省が教養課程削減の方針を採ったのが約20年前のこと。同じ時期から日本が「失われた20年」に突入したのは偶然の一致≠ナはない。
■まだチャンスは残っている
人材を育てるのは「国家100年の計」。その成功事例は海外にもある。日本総研理事の湯元健治氏は「スウェーデンに学べ」と説く。
「日本の失敗は、衰退産業を補助金や助成金で温存することで、カネやモノだけでなくヒトを最先端の産業にシフトさせなかったことにある。
一方でスウェーデンはドラスティックに衰退産業を切り捨てる代わりに、『次はバイオ産業だ』となれば、その産業で働く人材を育成するために、職業訓練を徹底して行った。政府が企業ではなく努力する人を助けることで、衰退産業から新しい産業へと人材を移行させ、経済成長を続けています」
このままいけば若者から高齢者まで、日本全体が「共倒れ」するのは目に見えている。自分だけは生き残りたいという我欲が、自分の首をも絞めているという現実を直視するところから、日本は立ち直りのきっかけをつかめる。かつてコンサルタントとして世界各国の経済情勢を分析してきた経験を持つ、早稲田大学ビジネススクール教授の内田和成氏もこう語る。
「インドには現地の企業に請われてノウハウを教えに行っている日本人のリタイア層がたくさんいる。アメリカにはベンチャー企業にカネやオフィスや人脈を提供する資産家たちがいる。日本国内で、これと同じことをリタイアした高齢者や成功したビジネスマンが行えば、日本は活性化する。支援を受けた人はそのありがたみを感じて、次の世代に同じことをするから、好循環が生まれる。
日本のサラリーマンは引退して年金をもらって過ごすのではなく、こうした形で『新しく働く』という選択をして欲しい」
人が栄えれば企業が栄え、果ては日本が栄える。各人がまず一歩を踏み出すことで、日本が再び輝く未来が見えてくる。最後に前出・中嶋氏はこう語った。
「外国の優秀な政治家や経営者は文学を読み、哲学を学び、音楽や芸術にまで幅広く関心を持つ。そのうえで天下国家を論じるから、スケールの大きい仕事も成し遂げられる。
かつて日本にはこうしたパイオニアとなる人材がたくさんいた。みな天下国家を引っ張っていこうという気概に溢れていた。日本人独自の武士道精神、わびさびを解する心はいまも広く世界から評価されている。こうした精神を再び広めていくためにも、教養を学び直すことから始めたらどうだろうか」
「週刊現代」2012年2月11日号より
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