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「動き始めたIMF、日本の改革は対応できるか?」
■ 冷泉彰彦:作家(米国ニュージャージー州在住)
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■ 『from 911/USAレポート』 第558回
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IMF(国際通貨基金)が来週2月6日から日本に調査団を派遣して、国家債務の
内容について詳細に調べると報道がされています。そのIMFは昨年の12月に「日
本国債マーケットのリスクを評価する」というレポートを発表しています。文面は穏
やかな調子ですが、全体的には「近い将来に日本国債暴落の可能性がある」という指
摘もしているのです。今回の調査団派遣という行動は、このレポートの延長にあり、
IMFとしては、年明けの日本の政局などを見ながら、より危機感を深めていると見
るべきでしょう。
では、IMFはどうしてそこまで危機感を深めているのでしょうか? 日本国債暴
落の可能性というのは、具体的にどう考えればいいのでしょうか? 日本社会は5つ
の問題を抱えています。(1)輸出型産業の競争力低下、(2)内需の低迷、(3)
GDP比200%を越える巨額の財政赤字、(4)にも関わらず反転しない史上空前
の円高、(5)更に加速する少子高齢化、という問題を抱えています。
しかも、こうした問題は全てが極めて切羽詰まった問題です。まず(3)と(4)
についてですが、現在の円高は米国のドル安誘導政策の「はけ口」という側面が強い
わけで、ファンダメンタルズの根拠に支えられているわけではありません。ですから、
例えば1ドルが70円台というのが輸出型産業には重荷であるとして、80円とか9
0円になれば、あるいは110円とか120円というような水準に戻ってくれればい
いのですが、そうは簡単には行かないと思います。
仮の話ですが、日本がこのまま増税を決定できず、景気の回復もできない中で更に
債務を積み上げていくようなことになれば、国債の価格が崩れる中で円が大きく売ら
れるという可能性は覚悟しなくてはなりません。例えば(1)の輸出産業の側には、
今の円高が一服してくれたら、少し円安になった時点で「しっかり稼ぎ」その先の
「超乱世」に備えるという発想を持っているかもしれませんが、そんな「稼げる期間」
があるかどうかは分からないのです。
また(5)の少子化もこの問題には関わってきます。私は今年、2012年の「出
生数」を注目しています。ここ数年のトレンドの延長で言えば、104万とか103
万という数字になると思いますが、仮に震災の影響での「産み控え」が発生していた
とすると、102万とか101万と限りなく100万に接近してくる可能性もあると
思います。その先に待っているのは、遅かれ早かれ100万割れです。
例えば団塊ピークで一年260万人、団塊二世ピークで205万人あった年間出生
数が100万というのは、国内外に大きな衝撃を与えるように思います。(2)の内
需の低迷、(3)(4)に関わる「日本売り」の危険などとこの問題は関係してきま
す。
一方で、2012年に入って世界経済の様相に変化が出てきたということも注意す
べきでしょう。例えば、アメリカの経済は昨年までとは様子が変わってきました。今
週金曜日に発表された1月の月次雇用統計では、失業率は8.3%まで下がって来ま
した。噂されていた「フェイスブック」社の「大型上場」も第2四半期の公開目指し
て申請書が提出されてり、世界から資金を集めるような展開になりそうです。
通貨政策としては、当面は変更なしというバーナンキ議長の談話もありましたが、
この先にアメリカの景気が一層堅調となれば今のようなズブズブの金融緩和はやがて
手仕舞いとなるでしょう。その潮目が変わる瞬間に、もしかしたら円売りが仕掛けら
れる可能性を考えておかねばなりません。可能性は低いのですが、仮に人民元がドル
追随を抑えてもう一段階上昇したとして、その時点が円安に振れる潮目になるかもし
れません。
また、仮に増税法案が通らないとか、それで本当に野田首相が解散しても衆院の勢
力が三分されて決定ができないというようなことになれば、その時点が「日本売り」
になる危険も出てきます。その際に、円安が暴走し、日本国債が暴落して、短期間に
日本の資金繰りが苦しくなるということも可能性としてはゼロではないと思われます。
では、その場合には日本はギリシャのように、関係国の支援を受けて改革を迫られ
るのでしょうか?あるいは1997年のアジア通貨危機の際の韓国やタイのようにI
MFによる改革を強いられるのでしょうか?
その可能性は低いと思われます。というのは、仮に日本がデフォルトに至った場合
は、国家債務が1000兆円を越えることになり、単純に考えるとIMFの資金力の
20倍、中国の国家予算の10倍という規模になるわけです。ということは、旧来の
手法では日本の再建は不可能になります。勿論、1000兆円全額がデフォルトする
わけではないにしても、IMFとか関係諸国の支援と介入で何とかなる規模ではない
わけです。
一つ確認しておきたいのは、いっそのこと日本は破綻したほうが「ガイアツ」で一
気に変われるのだから、「行くところまで行ったほうがいい」という議論は間違いだ
ということです。日本のような規模の国が破綻するということは、世界経済の破滅を
意味するのでテクニカルに不可能だと思います。ということは、ある一線を越えた時
点でジワジワと国際社会の圧力が強まる中、いつまでもスッキリしない、ドロドロと
した交渉が続くという可能性を考えておかねばならないと思います。
つまり、仮に今年ないし来年に円高トレンドが反転し、逆に円の暴落や資産の流出、
国債の暴落という可能性が出てきた場合には、世界は協調して日本を救済にかかると
思います。そして、その代わりに様々な要求を出してくるでしょう。その場合に、ス
ッキリした「ガラガラポン」とか「カタルシス」などということは起きないように思
うのです。
そうではなくて、今の閉塞感がもっと重くなったような感じが出てきて、その先に
「ある種の根本的な解決」をしないと社会のムードも、対外的な交渉なども好転しな
い、そんな流れになるのではと思われます。また、日本の状況が苦しくなればなるほ
ど、国際社会との協調は必要になってくるでしょう。
この問題の相当な部分は、政府の財政規律に関係しています。では、例えば最近の
「地方発」の政策集団が主張するような、劇的な行政のコストカットをやれば、それ
だけで一気に事態は好転するのでしょうか? そうではないと思います。政府の歳出
カットだけでなく、産業の衰退トレンドをどう反転させるのか、官民を挙げて競争力
のない部分は捨て、競争力のある部分は生かし、収支の帳尻を合わせてゆく作業も急
がねばなりません。
例えばですが、今週発表になったエレクトロニクス各社の決算と、決算見込みは各
社ともに非常に苦しい数字が並んでいます。こうなると、この産業は構造不況産業と
して官民で戦略の見直しをしなくてはなりません。空洞化して利益だけを国内に連結
してくれるのならまだしも、全体として失速状態というのは大変なことです。
その意味で、「劇場型」政治で「ぶっ壊し」に時間をかける余裕はもうないのでは
と思います。また、イデオロギー的な論争を楽しむ余裕もないように思います。例え
ばですが、大阪都構想というのは、3年とか4年のレンジでのタイムテーブルがある
話です。今回堺市が参加を拒否しましたが、そこで市議会をひっくり返すのだとすれ
ば時間がかかるでしょう。とにかく、スンナリ行って3年とか4年の話です。
ですが、国政の方はそんなに悠長なことは言っていられないのです。今年中には、
財政規律の改善ということで具体的な成果を出さねばならないと思います。数合わせ
や好き嫌いを言っているヒマもないように思います。
矛盾した言い方になりますが、日本国債が大暴落してもIMFやG8は直接支援は
できません。破綻してから救済するというのでは、破綻規模が大きすぎて不可能だか
らです。ですから、国際社会の日本への要求はガラガラポンで一気にはならない、そ
こでは非常に苦しい期間が長く続くでしょう。だからこそ、そうした事態は回避しな
くてはならないのです。また他力本願というのもあり得ないのです。
何とかして、円高トレンドが反転した時には、ある水準で円安が止まるように、そ
こで国債の暴落が起きないように財政規律改善のしっかりしたメッセージを国際社会
に出さねばならないのです。そこで一歩遅れを取ることで、マーケットに売り浴びせ
を食らっては大変だからです。ここは何とか既成政党、特に二大政党と、人気のある
地方発の改革グループがお互いに連携をすることでまずは増税を含む一体改革案を通
すことが先決ではないでしょうか?
その意味で、橋下=河村会談で「国政レベルでの減税は棚上げ」で合意をしたとい
うことの意味は評価してもいいように思うのです。それは、「地方発」のパワーが結
集して面白いからではないのです。選択の範囲は実は狭く、そして苦しく、様々な政
治勢力が足を引っ張り合うのではなく、連携して世論を説得してゆかねばならない、
今はそんな時期だからです。
アメリカの大統領選挙は、共和党でロムニー候補が着実に地歩を固めつつあります。
ですが、このままアメリカの景気が回復するようですと、オバマの再選は有力になっ
てくるでしょう。その際には、現時点ではガイトナー財務長官、ヒラリー・クリント
ン国務長官の両名は、二期目への「続投」はないと言っています。
ということは、財務長官も国務長官も交代という可能性が出てきているのです。日
本としては、特にこの財政規律と国家債務の問題で、アメリカに理解と連携を求める
ためにも、この二つのポジションの人事には注意を払うべきと思います。一方で、と
かく中国との接近が感じられる共和党穏健派ですが、万が一の「ロムニー政権誕生」
にも保険をかけておくべきでしょう。
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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家(米国ニュージャージー州在住)
1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大学大学院(修士)卒。
著書に『911 セプテンバーイレブンス』『メジャーリーグの愛され方』『「関係の空
気」「場の空気」』『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』。訳書に『チャター』
がある。 またNHKBS『クールジャパン』の準レギュラーを務める。
◆"from 911/USAレポート"『10周年メモリアル特別編集版』◆
「FROM911、USAレポート 10年の記録」 App Storeにて配信中
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●編集部より 引用する場合は出典の明記をお願いします。
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JMM [Japan Mail Media] No.673 Saturday Edition
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【発行】 有限会社 村上龍事務所
【編集】 村上龍
【発行部数】100,039部
【WEB】 ( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )
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