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成熟時代に突入した日本へのアジェンダ
世界で最も速く凋落する日本 2012年はささやかな“最後の春”
2012年2月3日 金曜日
波頭 亮
前2回で、欧米においても、日本においても、国家金融資本主義が限界を露呈しつつある現状について説明した。国民経済は困難に直面している。政府や銀行が、国民経済の実力以上に信用を膨張させて、経済を拡大しようとしても、うまくはいかない。早晩「ダウト」の声が上がり、そうした虫の良い政策は破綻をきたしてしまう。そのメカニズムを確認した。
多様な市場参加者がウォッチしているため、欧米ではダウトの声が早い段階で上がる。2011年夏のアメリカ国債のデフォルト危機、昨年以来今も続いているユーロ危機がそれである。
いっぽう日本では、政府の管理下にある銀行が政府と一蓮托生になって、延々と国債を購入・保有し続けている。この点に違いはあるものの、信用を過膨張させた経済運営が限界に達しているという問題の本質は日本も同じである。いつダウトの声がかかっても不思議ではない。ダウト前夜の様相である。
2012年の日本がはく2つの“ゲタ”
では2012年の日本経済はどうなっていくのか。
結論から言うと、大きなメッセージは2つである。
1.2012年の日本は、ささやかではあるが最後の暖かさを感じることができる年になろう。
2.しかし世界経済の中でのウエイトは低落し続けていくだろう。
IMFは、2012年の日本の成長率を1.7%と予測している。対してアメリカは1.8%、EUは▲0.5%。つまりこれほど不況感が蔓延している日本ではあるが、アメリカとほぼ同等、ヨーロッパと比べると“まだまし”なのである。
しかし1.7%という数字は、2つの“ゲタ”をはいた数字だということに留意しなければならない。
1つ目のゲタは2011年のマイナス成長からのリバウンド効果である。2005年〜2010年の間、日本経済の平均成長率はほぼゼロ(厳密には▲0.06%)であった。これが、2011年には大震災のダメージで▲0.5%(IMF予測)と沈んだ。2012年は、日本経済が回復軌道に乗ってくるため、2011年のマイナス分の反動で上跳ねする。その分、実力よりも高めの成長が見込めるのである。
もう1つの“ゲタ”は、18兆円にも上る復興予算の投入である。18兆円は、2011年のGDP比で3.8%に匹敵する莫大な金額である。この大盤振舞いが大きく成長をかさ上げする。
見方を変えてみれば、リバウンド効果と18兆円もの大盤振舞いがあっても、この程度(1.7%)の成長でしかないわけだ。
2013年度にはリバウンド効果は減衰する。また逼迫した財政状況の中で、政府は大盤振舞いを継続するわけにもいかない。そうなると、2013年以降は、国債暴落のような財政破綻が起きなかったとしても、成長は見込めない。よくて震災以前のゼロ成長への回帰。悪ければ財政逼迫や人口減少による影響で、マイナス成長への道をたどるものと予測できる。
以上が、2012年は日本がささやかではあるが最後の暖かさを感じることができる1年になると評価する背景である。
凋落する、世界経済における日本のプレゼンス
次いで、第2のメッセージ――世界経済の中で、日本はますますウエイトを低落させていく――について説明しよう。
日本経済は2つのゲタをはいても1.7%成長にしかならないことを指摘した。これに対して世界全体の2012年の成長予測は3.3%とほぼ2倍である。つまり、世界の成長水準から日本は置き去りにされているのだ。
しかも極めて深刻なのは、日米欧先進国の中で特に日本だけが、世界経済に占めるウエイトを急速に低下させているという事実である。
2012年に限ってみれば、日本はヨーロッパに比べて“少しはまし”な状態にある。だが、2000年〜2010年の10年間のトレンドを見ると、日本が最も凋落していることは明らかである。
2000年時点の世界経済のGDP(33兆ドル)に対して、アメリカのシェアは30.5%、EUは26.0%、日本は14.3%、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)は7.9%であった。
2010年は、世界のGDP合計60兆ドルに対して、アメリカは24.1%、EUは26.9%、日本は9.1%、BRICsは18.5%である(年率換算の平均成長率は、アメリカ3.9%、EU6.6%、日本1.6%である)。
この10年間のシェアの変化を見ると、大きくシェアを落としたのがアメリカと日本である。とは言うものの2000年には、日本はアメリカのほぼ半分のウエイトを占めていた。しかし2010年には4割にも満たなくなっている。ここからも明らかなように、日本が最も大きく相対シェアを落としているのである。
一方、同じ先進国でも、この間にEUはほとんどシェアを落としていない。2011年のユーロ危機以降、深刻な不況に突入したため、2012年は▲0.5%と先進国中最悪の状態になってしまった。しかし、2000年〜2010年の間、EUはBRICsを含む世界経済と同じペースで成長を遂げてきた。
今やBRICsの経済力は独仏英伊と同等、日本の2倍
そして括目すべきはBRICsの躍進である。2000年時点では、ブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国を合わせても日本一国の半分程度のGDPしか産出することができなかった。これが、この10年間で日本の2倍以上の規模にまで成長したのだ(よく知られているように、2010年には中国一国だけでも日本のGDPを上回った)。
また、ヨーロッパ先進国は比較的健闘しているとは言ったが、BRICs4カ国(GDP:11兆1530万ドル)は独仏英伊というEUの主要4カ国(GDP:10兆1303億ドル)を既に凌駕している。言い換えると、BRICs4カ国は独仏英伊4カ国以上に世界経済に対して大きなインパクトを持つのである。
しかもこの傾向はますます強まっていく。
BRICsの平均成長率は6.4%(中国8.2%、インド7.0%、ロシア3.0%、ブラジル3.0%)と圧倒的に高い。BRICsの牽引によって、世界経済は今後しばらく4.0%程度で成長していく。
一方、先進国は成熟、停滞のフェーズに入る。2012年の成長見通しでは、日米欧の成長率は平均で1.2%程度にとどまる。加えて、信用を過膨張させて経済を活性化させる国家金融資本主義のやり方が利かなくなってしまった。中でも日本は、人口の減少、世界最高の高齢化、そして破綻寸前の財政状況という三重苦のファンダメンタルズを抱えて、米欧以上に厳しい局面に直面する。
こうした世界経済のトレンドを見ても、これまで指摘してきた国内の経済条件からしても、日本は“成長指向”の経済政策だけで国民経済を運営し、国民の生活を維持することはもはや不可能である。本連載のテーマである成熟社会に向けた“分配論”主導の経済政策への基軸転換が、どうしても必要だ。このことは明らかなのである。
このコラムについて
成熟時代に突入した日本へのアジェンダ
日本の成長が止まって15年になる。人口は既に減りつつあり、何とか日本を支えて来た個人金融資産も3年前からついに減り始めた。
15年前には、日本経済は世界の18%も占めていたのに、今やその半分の9%でしかない。GDPの金額が15年前と比べて低下している国はOECD30カ国の中で、日本ただ一国だけというありさまである。
明らかに国家のファンダメンタルズが成熟したのだ。なのに、日本は成熟フェーズを迎える覚悟も準備もできていない。
経済や産業が成熟し、人口もピークアウトしてきているのに、社会の仕組みも経済政策も、人々のライフスタイルまでも、成熟フェーズを迎える準備が何ひとつできていないのだ。
あと10年で総人口は440万人減る。その中で高齢者は650万人増え、働き手(雇用年齢人口)は770万人減るのだ。その時、日本の国民が安心して暮らしていくためには、社会の仕組みをどのように変えて、どのような政策を実現しなければならないのか? このコラムで明らかにしていく。
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著者プロフィール
波頭 亮(はとう・りょう)
1957年生まれ。東京大学経済学部(マクロ経済理論及び経営戦略論専攻)を卒業後、マッキンゼー&カンパニー入社。1988年独立、経 営コンサルティング会社XEEDを設立。幅広い分野における戦略系コンサルティングの第一人者として活躍を続ける一方、明快で斬新なヴィジョンを提起するソシオエコノミストとしても注目されている。
主な著書に「プロフェッショナルコンサルティング」(冨山和彦氏との共著 東洋経済新報社)、「成熟日本への進路」(筑摩書房刊)、「プロフェッショナル原論」(筑摩書房刊)、「組織設計概論―戦略的組織制度の理論と実際」(産業能率大学出版部刊)、「戦略策定概論―企業戦略立案の理論と実際」(産業能率大学出版部刊)などがある。
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