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欧州共通通貨ユーロの危機がおさまらない。ユーロ危機とは何なのか。だれがその勝者なのか。敗者ナンバーワンはどこか
ユーロ建ての国債が広がった2002年以降、08年前半までの推移をみると、加盟各国の国債利回りは大差なく、一束の折れ線となって6年間も安定してきた。このユーロ建て国債の束を一発で吹き飛ばし、ばらけさせたのが、08年9月のリーマン・ショックである。
■米金融大手が暴露
「リーマン」は米金融商品バブルの崩壊でニューヨーク発なのだが、紙くずになりかけた住宅ローン担保証券など証券化商品やそのリスクを引き受ける保険である「デリバティブ」の多くを保有していたのが欧州の金融機関だった。
欧州の金融機関は信用不安のためにドル資金を調達できなくなり、米連邦準備制度理事会(FRB)にドル資金の緊急融通を頼むしかなかった。国際的な貿易や資本取引の主要決済通貨、つまり基軸通貨としてドルを猛追していたユーロの凋落(ちょうらく)が始まった。
それでも、09年に入るとユーロ相場はいったん持ち直した。米FRBがドル札を大量発行する量的緩和政策に踏み切り、ドル安への誘導を始めたからだ。このドル下落をみて、日本国内では一挙に「基軸通貨ドル体制の崩壊」論が盛んになったが、覇権国米国はそんなにやわであるはずがない。
米国は次のステップに踏み出した。米金融大手は、ユーロ本来の致命的な弱点をさらけ出し、危機はドルではなくユーロだ、というまぎれもない証拠を暴露したのである。
標的はまず、ギリシャである。09年12月ごろからギリシャ政府の債務の過大さや放漫財政、公務員天国、過大な年金給付制度など構造問題が表面化し、ギリシャ国債相場の下落が始まった。国債信用失墜の決め手になったのは、09年2月中旬ゴールドマン・サックスが米ヘッジファンド業界の大物、ジョン・ポールソン氏率いる投資グループ代表団をアテネに案内し、ギリシャ政府の高官たちに引き合わせた「事件」である。
2月17日付の英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙の記事は、この米投資グループのアテネ入りに引っかけて、「ゴールドマンを筆頭とするウォール街の大手投資銀行がギリシャを含むユーロ圏諸国の債務関連統計の操作に長らく手を貸してきた」と報じた。ギリシャは01年にユーロに加盟した。翌年、「ゴールドマンはアテネの金融街に突然姿を現し、GDP(国内総生産)を上回る水準のギリシャの公的債務の資金調達コストを引き下げる大規模なデリバティブ取引をアレンジした」(FT紙)。円建てやドル建てで発行されていた債券を市場外でユーロと交換する「スワップ」と呼ばれる手法を使って債務を帳簿外に飛ばす操作を行った。この取引は借り入れではなく為替取引として扱われたため、欧州連合(EU)の定めた財政赤字の基準をギリシャがクリアしながら返済を将来に先送りするのに役立った。同じような取引はイタリア、ポルトガルなど他の南欧諸国も行っているとFT紙は明らかにした。
ゴールドマンやJPモルガン・チェースなど米金融大手は南欧諸国の政府債務の「飛ばし」を伝授するのと引き換えに、空港使用料や宝くじの収入を担保として設定した。ゴールドマンの場合ギリシャから300億円以上もの手数料を稼いだ。その半面で、ギリシャなどの債務は減るどころか隠れ債務が膨れ上がった。
ギリシャ政府は米金融大手に手玉にとられたのだが、国際金融市場ではギリシャなどユーロ加盟の南欧各国の財政危機の底知れぬ深淵(しんえん)を見てとり、ギリシャを筆頭に国債の暴落、そして政府債務危機が急速に進行していく。
■円高・デフレの泥沼
危機のプロセスの最大の勝者は、米国である。ユーロに対してドルは強く安定し、ユーロ債から逃げ出したマネーは米国債に回り、米国債の利回りは低下し、米政府の債務利子負担を引き下げている。FRBはリーマン後、ドルを3倍も刷って垂れ流したが、米国はインフレにもならず、株価は回復軌道に再び乗った。次の勝者はドイツだろう。ユーロ安でドイツの輸出産業は息を吹き返している。
対照的に、最大の敗者は日本だ。ユーロ債を売却した投資家は日本国債にまわり、超円高を進行させている。デフレ不況はさらに進み、輸出は不振、マイナス成長が続く。円高・デフレの泥沼に日本ははまりこんだまま、抜け出せない。
(特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS)
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