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全国民必読 「世界恐慌」欧州からアジアへ 頼みの中国経済まさかの大崩壊 工場倒産、経営者は夜逃げ、エリートは国外脱出
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/31659
2012年01月31日(火) 週刊現代 :現代ビジネス
誰もが「本当にこのまま成長が続くのか」と疑いつつ、目先の儲けのために中国に莫大なマネーを注ぎ込んできた。だが、バブルは必ず弾ける。我々、日本人はそれを誰より知っていたはずだったのに。
■ここまで悪いとは
中国浙江省の東南部にある温州市。同市は死者40人を出した昨年7月の中国版新幹線衝突事故が起きた場所でもある。その温州市で1月14日、不動産業者が自ら命を絶った。
地元の経済誌は「(1月23日の)旧正月を前に、中小企業経営者の自殺と夜逃げがピークに達している」と報じ、経営者の自殺が珍しくもないことを伝えている。実際、温州市では昨年9月22日から27日までのわずか6日間で、3人の経営者が飛び降り自殺。また、同時期に中国屈指の眼鏡メーカー「信泰集団」の会長が20億元(約240億円)以上の負債を抱えて国外逃亡、賃金支払いなどを求めた1000人以上の社員が大規模なデモを行った。
中国では地域間格差の問題が長らく指摘されてきたが、温州市は田舎の地方都市ではない。中国の改革開放政策のモデル地区で、経済技術開発区に指定されている。約14万社の中小企業があり、眼鏡や靴、衣類などの軽工業を中心に栄えた同市は、「ニューリッチ」と呼ばれる俄か成金を次々と生みだしてきた、いわば中国の経済成長を象徴する都市だったのである。それが昨年夏頃から暗転した。先のデモが起きた際は、慌てた温家宝首相自ら現地入りし、鎮静化に当たったほどである。
ジャーナリストの福島香織氏が語る。
「温家宝首相が温州入りした後、浙江省の夜逃げ問題は落ちついたと言われましたが、私が現地に行ってみると、11月も12月も続いている。その理由は、秋以降、担保企業という民間の金融業者が夜逃げをし始めたからです。担保企業というのは、個人や企業から資金を集めて、銀行より高い金利で貸し付けを行う高利貸し。
つまり、昨年秋までは高利貸しから借りたカネを返せなかった企業の経営者が夜逃げし、それ以降は企業から貸付金を回収できず、出資者に返せなくなった高利貸しまで逃げ出したわけです。高利貸しにおカネを出していた市民はパニックに陥り、暴動寸前の集団抗議が行われているところもあります」
高利貸しまで逃げ出す異常事態が起きている温州市では、14万社の中小企業のうち4割が倒産危機に陥っている。
実は、こうした状況は温州市に限った話ではない。北京や上海こそ、ここまでひどい状況にはなっていないが、中国経済を牽引してきた沿岸部の広州、東莞などでも同様のことが起きており、経営者が夜逃げし、放置されたままの工場が無惨な姿を晒している。
世界経済の頼みの綱だった中国で、いま、いったい何が起きているのか。
独立行政法人・アジア経済研究所新領域研究センター長で、在中国日本大使館で勤務したこともある大西康雄氏が言う。
「欧州危機が中国経済にマイナスの影響を与えるのは避けられませんが、そもそも欧州経済の悪化がなかったとしても、中国経済は減速せざるを得なかったでしょう。中国は'08年のリーマン・ショック後の経済対策として、大型公共投資と大幅な金融緩和を実施してきましたが、その効果が切れかかっているからです。
中国政府も、この緊急措置的な経済対策は『2年以上はやらない』と言ってきたように、昨年中には打ち切られた。その後、なんとかソフトランディングさせようとしていたところに欧州危機が起きたというのが実情です」
リーマン・ショック後の経済対策で、中国政府は実に4兆元(当時の為替レートで約57兆円)をマーケットに注ぎ込んだ。そのうち8割が鉄道や道路、公共住宅に費やされている。公共投資で景気を刺激するのはかつての日本と同じだが、中国では同時に住宅ローン金利の優遇や貸出金利の引き下げなどの金融緩和も行った。このなりふり構わぬ対策で、確かに中国は、リーマン・ショックから世界でもっとも早く立ち直った国となり、中国の経済成長はこれからもずっと続くかのように思われた。
だが、急激な経済対策は市場を歪め、投資バブルを生んだ。
「2010年春にかけて、不動産価格は急騰し、一部の大都市ではわずか2年で、2倍近い値段に跳ね上がったところもあります。銀行の貸し出しも前年比30%増という勢いで伸びました。そこで、政府は不動産バブルを抑制するため、今度は逆に、'10年秋頃から金融引き締め策を取ったわけです」(クレディ・スイス証券チーフエコノミストの白川浩道氏)
冒頭にあげた温州市のケースでも、金融引き締め策で、銀行の貸し渋りや貸し剥がしにあった中小企業が、高利貸しに頼るようになったのが、破綻の原因だった。
■中国から資本を引き揚げた
バブルは必ず弾けるというのは、日本がかつて高すぎる代償を払って学んだ教訓だが、人口13億人を抱える中国のバブルは、膨らみ方も弾け方も日本の比ではない。
「一言で言えば、中国という国は『空気を入れすぎた』。不動産に集中的にカネが投下された結果、都市部では庶民にはとても手が出せない金額のマンションが増えた。地方でも、地方政府が日本の第三セクターのようなものを作り、銀行から借りたカネでマンションなどを作りまくった。もちろん、返済の裏付けなどありません。そうやって作られたマンションには、人がまったく住んでいないところまである。言ってみれば、ゴーストタウンを作ったようなものです。
その結果、6500万戸もの空き家が出現。そんな状況ですから、マンションを作った第三セクターの借入金250兆円のうち170兆円以上が不良債権化しているとされています。また急速に鉄道網を延ばしてきた鉄道部の負債も24兆円と巨額になっている。これが中国バブルの正体です」(評論家・宮崎正弘氏)
高級マンションが売れないため、価格を下げれば、すでに購入していた投資家が暴動を起こし、高級マンションとは縁のない庶民は、インフレで生活が苦しくなるばかり。特に食料品の値上がりに対する不満は強く、豚肉などは一時、前年比で40%近くも上がった。政府はインフレを抑えようとあらゆる策を使っているが、それでも豚肉を例に取れば、いまだ前年比で25%も高くなっている。
こうした状況のなか、欧州危機の影響が直撃したのである。
中国の輸出額を見ると、最大の輸出先は欧州で、約19%を占める。日本にとって中国は最大の輸出国だが、中国から見れば日本への輸出は8%に満たず、欧州の半分以下。しかも、1月18日の中国商務省発表によると、'11年度の中国の対欧州(EU圏)投資額は、なんと前年比約94%増と倍増している。それだけに「お得意先」である欧州が経済破綻すれば、中国には大打撃となる。
「私が実際に見たなかで、欧州危機の影響が顕著だったのは広東省広州市の製造業です。ここは欧州のファッションブランドから受注して靴や洋服などを作っている工場がたくさんありますが、すでに倒産が相次いでいます。広州市内の『靴城』と呼ばれる靴の巨大な展示場を覗くと、かつては450くらいの店舗があったのが、いまでは10分の1ほどに減っていました。理由を聞いたら、商品を納入していた欧州のブランドが倒産したからだと答えた業者もありました。もともと靴は、イタリアやスペインといった経済状態の悪い国の納入量が多かったから、特に影響が大きかったのでしょう」(前出・福島氏)
この欧州危機による中国への影響は、すでに数値にも表れている。報じられているように、中国の'11年度GDP(国内総生産)は9・2%増と一桁成長に留まり、4四半期連続で中国経済が減速したことになる。'12年度の予測でも、政府系シンクタンクの中国社会科学院は8・9%と、さらなる減速を織り込んでいる。
また、中国では過去13年間上昇し続けてきた外貨準備高が、昨年11月末時点で減少に転じた。これは、破綻危機に瀕している欧州の銀行が資本を中国から引き揚げ始めたことが大きな原因だ。この傾向は12月末も続き、2ヵ月連続の減少となった。もちろん、世界中からマネーが集まってきていた中国は、それでも世界一の外貨準備高を誇るが、もはや中国の経済成長だけに頼るわけにはいかなくなったということだ。
法政大学経済学部(中国経済論)の菊池道樹教授は、中国が欧州危機で受けるダメージは二通りあると解説する。
「輸出依存型で成長してきた中国が、大口の輸出先である欧州への輸出が減ってしまうことで受けるダメージは当然ながら大きい。これは中国国内の雇用問題とも直結しています。
さらに、中国では海外に投資するよりも、海外の企業を買収する動きのほうが盛んです。'10年には浙江吉利控股集団がスウェーデンのボルボを買収していますが、欧州経済が悪くなれば、こうした買収企業の業績も落ち込み、その影響も受けることになる」
■3月下旬に最初のデフォルト
では、欧州から始まった経済危機が中国に波及して、世界恐慌の引き金になる決定的なタイミングはいつなのか。
市場関係者が注目するのは3月下旬である。今年1月から3月末までに償還期限を迎えるユーロ圏の国債総額は約15兆円。そのうち3分の1を占めるのがイタリア国債だ。欧州危機の発端となったギリシャも3月20日に約1兆4000億円の国債が償還期限を迎える。それまでに債務を抜本的に減らす案を立て、それがEU関係国及び国際通貨基金(IMF)に認められなければ、デフォルトに至る。
「そんな事態になれば、中国の景気はさらに悪化するでしょう。中国は経済成長率8%をキープできなければ、雇用を吸収できない。しかし、1~3月期はこの8%を切る可能性もあります。そして、中国の景気が悪化すれば、欧州の金融機関はもちろん、アメリカの金融機関にも破綻するところが出る危険性がある。そうなれば、本格的な世界恐慌です。
日本は欧米と中国の景気悪化の影響をモロに受け、輸出関連産業を中心に企業の業績が下がり、賃金も下がる。いまは4%台の失業率も5%台の半ばまで上昇するでしょう。しかし、行き場を失ったマネーが円を買う動きは簡単には止まらないでしょうから、円高だけが進む。ますます輸出企業は苦しくなり、その影響はリーマン・ショックどころではない」(信州大学経済学部・真壁昭夫教授)
言うまでもなく、多くの日本企業は、中国市場の成長を前提に苦境を脱しようと考えてきた。日本の輸出総額を見ても、'90年にはシェアで2%程度だった中国向け輸出は年々上昇し、'10年には20%近くにまで増加している。この間、中国がアメリカを抜き、日本にとって最大の輸出国になったのは前述の通りである。
当初、日本企業は中国の安い労働力に頼り、「工場」として利用。中国が発展し、賃金が上昇すると、今度は巨大な「市場」として、進出を強化した。そして、いまでは自動車メーカーを中心に、製品開発の拠点そのものを中国に移したり、中国企業と合弁会社を作るなど、依存度は高まるばかりだ。その結果、トヨタやホンダが苦戦するなか、中国での売り上げが好調な日産では、'10年に中国での販売台数がアメリカを上回ったことが、業績の急回復につながっている。
「日本からの投資も伸び、'11年は約70億ドルが投じられた。かつては『アメリカがくしゃみをすれば日本が風邪をひく』と言われましたが、いまでは『中国がくしゃみをすれば・・・・・・』に変わりました」(前出・大西氏)
一方、そんな日本企業を尻目に、すでに中国経済の先行きを不安視して、韓国企業や台湾企業のなかには、利益が出ているうちに撤退の判断を下すところも出始めた。それどころか、中国企業ですら自国から逃げ始めている。
「これまで中国企業が生産し、欧米に輸出してきた衣類などの低付加価値商品は、賃金が高騰してきた自国での生産が難しくなっており、ベトナムやバングラディシュなどに工場を移転させる傾向が強まっています」(東短リサーチ・チーフエコノミストの加藤出氏)
自国の経済成長に見切りをつけ、逃げ出し始めたのは企業だけではない。中国では急激な経済成長で成金になった共産党幹部が、アメリカやイギリスに資産を持って移住するケースが増えている。また、海外の大学に留学したまま、中国に戻らないエリートも増えたという。
中国で長年ビジネスをしている日本人商社マンが明かす。
「10年ほど前までは、海外留学で得た知識を中国の発展のために活かそうとする若いエリートが多かった。彼らは中国語で『海亀』と呼ばれ、政府も彼らが起業すれば法人税を安くするなど支援したものです。でも、いまではそんな話をめっきり聞かなくなりました。清華大学や北京大学というトップクラスの大学に入れる能力を持ちながら、香港の大学に行く若者も増えています。
中国の銀行にとって、いまや最大のヒット商品は留学ローンと言われるほどで、もはや、本当のエリートたちは、中国に留まっても将来がないと考え始めているようです」
■「日本売り」の恐怖
このまま中国経済が大崩壊に向かうと、日本はどうなってしまうのか。
不気味なのが、'10年夏頃からマーケットで囁かれ始めたように、中国系ファンドが日本株を買い進めてきたことだ。正確な額は不明だが、市場関係者の間では、その総額は3兆円とも言われる。
同様に日本国債も買われており、さらに東京・銀座や麻布などの一等地のマンションなどを買い漁るツアーもある。
中国がこうした日本の株・国債・不動産を苦し紛れに投げ売りする「日本売り」に走れば、日本国債破綻に張っているファンドがそれに乗り、日本国債は暴落。日本国債をせっせと買い込んできたメガバンクや生保といった日本の大手金融機関はたちまち経営危機に瀕し、我々の貯金や生命保険も無事では済まない。海の向こうの話だと思っていた欧州危機はアジアへ広がり、日本人の財布や老後を脅かしているのである。
同じ危険性はアメリカにもある。中国はアメリカ国債を最大時で1兆ドル以上保有し、外貨準備高の3分の2近くをドル建てで所有していると言われる。これらを中国が手放せば、アメリカとてひとたまりもない。
「アメリカはバンク・オブ・アメリカの株価が急落し、破綻寸前と言われており、自己資本比率を高めるために貸し渋りや貸し剥がしを始めている最中です。まもなく景気の二番底に入ると見られ、世界を見渡したとき、今年は欧州、中国、アメリカ、日本と全世界が不況の入り口に立っていると言える」(国際問題アナリスト・藤井厳喜氏)
欧州発の経済危機が世界同時不況になるのを防ぐためには、中国経済をこれまでのバブル状態から、成長率は鈍化しても安定した成長状態に移行させるしかない。だが、中国が抱える問題はあまりに多い。貧富の差は拡大し、一人っ子政策の影響で少子高齢化も進む。「蟻族」と呼ばれる高学歴でも働き口のない若者たち。インフレへの対応。なかでも、民族問題を指摘するのは、中央大学経済学部の谷口洋志教授である。
「これまで中国の繁栄の恩恵を授かってきたのは漢民族ばかりです。それに不満を抱えているのはチベット民族だけではありません。ウイグル族、モンゴル族、朝鮮族なども同様で、こうした少数民族を放置すれば、政治的にも経済的にも不安材料になるでしょう」
いまでも中国全土では1日平均で500件近いデモや官民衝突が起きている。こうしたデモがあっても、なんとかやってこられたのは、中国が成長を続けてきたからこそ。経済成長率が8%を切れば、大暴動が起きると指摘する専門家もおり、もう目前に迫っている。
世界第2位のGDPを誇りながら、一人当たりのGDPにすれば、わずか4300ドル(約33万円)に過ぎない国に世界が頼った結果、「これまでのペースで貿易黒字が伸びていけば、世界中の貿易黒字がすべて中国に集中し、不均衡が大きくなりすぎて世界経済が持たなくなる」(富士通総研主席研究員・柯隆氏)というほど肥大化した中国経済。もはや制御不能になったそれは、人間の愚かさを嘲笑うように、世界を呑み込もうとしている。
「週刊現代」2012年2月4日号より
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