09. 2012年1月29日 09:03:08
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2011年は「公的部門に(中央銀行)による金の購入が400トンに接近」した。1990年代から公的部門は年平均500トン前後は売っていた。それが2011年には買い手になっている。そうすると往復で1000トン近い違いがある。これはものすごく大きなインパクトです。なにせ年間の金生産量は2800トン。しかも外貨準備としての購入である。ヘッジファンドが100トン買おうが200トン買おうが、これはいずれ売るわけで、分析するに当たってはニュートラルに見るわけです。外貨準備となれば10年、20年、30年は持つわけで、その分だけ確実に価格の水準は底上げされていく。これは金価格がそう下がらないという論拠になる。 中国とインドだけで金需要が1700トン突破。年間の生産量2800トンの6割以上を新興国の代表格である2カ国が買取った。 ニクソンショック40周年に管理通貨制度が曲がり角にきた。そして中央銀行ですら金を買い始めた。 ドルも不安、ユーロも不安。その中で「金(キン)」が浮上しているのです。歴史的に言うとそういうことで、金本位制から信用通貨制度という金の裏付けのない、国の信用だけで価値が成り立つ紙幣といものに振り子が大きく振れて、振れ切ったところでリーマンショックが起こって、その反動で振り子がまた金の方に振れ始めた。これがまさに今の足元の流れということになる。だからと言って、金本位制になるとは思いません。 ただ、金が何もない国が発行する国と、金をいくばくだか持っている国が発行する紙幣では、ある意味で担保物件をどれぐらい持っているかのような違いのようなもので、国の信用力を示すことになると人々が実感し始めた。だから金の世界では中央銀行が金を買うようになっってきた。1990年代は金を売っていたのに、今は買うようになった。そんな流れがあって今がある。 金本位制というのは性悪説で、今の信用通貨制度は性善説ということを付け加えておきたい。つまり今の輪転機を回して1万円札や100ドル紙幣を刷るという制度は、「輪転機を回す係の中央銀行の人はめったなことはしないだろう。輪転機を回しまくって紙幣を刷ることはないだろう」という性善説の上に成り立っていました。だけど、リーマンショックを契機に一気に性悪説に変わった。特にバーナンキ議長はその最たるもので、「ヘリコプター・ベン」(デフレ脱却のためにはヘリコプターから紙幣をばらまけばいい、と発言したことで付いた異名)と言われるように量的緩和をやっている。 じゃあ人間が勝手に刷れない、人間の手が及ばないものに価値の礎をベースにそたらいいんじゃないか。そういう考えが出てきた。これはやっぱり性悪説なんだよ。人間がコントロールできないという意味でね。だから今は性善説から性悪説に流れてきている。 金はバブルかという議論が盛んですが、これがバブルだとは思いません。実際の買い手が国の外貨準備であり、新興国。これが買いっぱなしだから。バブルと言うのであればヘッジファンドが先物で売買して、それだけで金価格が急騰する。そううことであればそれはバブルだ。でもそれとは全く実態は異なる。先物はどちらかというと減っているわけですよ。 今回はすでに騰げ始めて10年。10年も続くバブルなんてありえないですよ。10年も騰げが続くというのは、よほどマーケットの構造が変わらないと続かない。単なるヘッジファンドの買いで10年も騰げが続くなんてことはない。こういう意味でもバブルではないとはっきり言える。 金融的側面で捉えるとこれはバブルではありません。今までと市場参加者が違う。一言で言うと金市場にすごく厚みが出てきた。今まで金を買っていなかった、買うことを考えていなかった人たちがどんどん金市場に入ってきた。 最初のきっかけは2004年にニューヨーク証券取引所に上場した金のETFというものだし、伝統的に需要大国だったインドないしは自由化が始まった中国も要因です。いずれも人口大国であり、証券市場で最も注目されてきた新興国であり、文化的、宗教的に金選好度が高い。金の選好度が高さは今に始まった話ではなくて歴史的に根ざしているから、にわかブームではないわけ。中国、インドの経済成長率は2008年ぐらいから加速している。ある証券会社のデータによるとインドの賃金上昇率は20011年夏に年率20%なんですよ。中国のインフレ率は6%台だけどインドは8〜9%。多少のインフレを跳ね返すようなことになっている。 それに加えて一番マーケットを変えたのは2008年のリーマン・ショック。これの後に欧米の投資家が本格参入してきた。それまではETFを介在した年金基金とかヘッジファンドとかが中心だったところに、個人の富裕層が入ってきた。アメリカでもヨーロッパでも名だたる銀行が国有化されたり国家管理されたりする中、「これは危ない」となって一気に市場の厚みが増してきた。 2010年はギリシャ通貨危機が起きて、通貨がおかしくなって政府自体が持たないとなった。2011年の5月にジョージ・ソロスが金を売った。金のETFを全部売ったなんていう話があった。ビッグネームだから以前なら多少は影響があった。それが、ソロスが売ったのは14.5トン。「ああ、そうなの」という反応しかないぐらい金市場に厚みが出ている。 もう一つの例を言うと、IMFが2009年に経済的に苦しい国を支援するためにキャッシュが要るとなって403トンの金を売ることになった。これをマーケットに影響を与えないように5年かけて売ろうとした。ところが中央銀行に話を持って行くと、インドがすかさず「私たちが半分買います」と200トン買った。さらに2、3の国が買って、残り193トン。5年かけて売ろうとしたらわずか13カ月で売れちゃった。それだけ市場に厚みが出てきた。従来感覚では説明できないことが起きている。 もともと中央銀行は投資家ではなく、値上がり目的ではない。年金基金も守りの姿勢で投資する。出たり入ったりニューヨークの先物取引を中心とするところから現物主体の投資に変わってきた。いくつかの金融イベントがあって金が注目され、市場に厚みが出てきた。 金は2011年にすでに400トン近く、外貨準備として買われている。公的部門がマイナスの販売量、つまりプラスの購入者。ドル不安、ユーロ不安の中で金への外貨準備のリアロケーション(再配分)が進んでいます。 需要の話としてドラマチックなインパクトがあるのは、外貨準備の話。これは重要で大きな要因です。ヘッジファンドの売買なんかとは比較にならない。1国が金を外貨準備として新たに購入した場合、1年や2年で売られるものではないからです。 外貨準備で金が買われることには2つポイントがある。1つ目は各国が長期保有目的で購入する量が徐々に増えている点。2つ目は、長期保有なのでそう簡単には売られないという点。マーケットへのインパクトとして外貨準備で買われるというのは独特の重みがあります。IMFが2009年に403トンの金売却を発表したらすぐにインドが200トン買った。マーケットにとっては、IMFが売ったということは「売り」材料なんだけど、インドが外貨準備に金を買ったことの方がはるかに強いインパクトを与えたという例です。 これまで、外貨準備としての金購入はBRICsの「B」を除く、ロシア、インド、中国が多かった。その次に韓国、タイ、メキシコ、ボリビアときていたが、今や中南米にまで波及してきている。新興国が相次いで金準備を増やしている。 ベネズエラだけは違う動きで、欧米のカストディアン(管理)銀行に預けた金を自国に戻したいという要求をした。その時にチャベス大統領が言ったのは「うちの国が預けた金と同じ刻印番号のものを返せよ。違うのはダメだ」と。こういった外貨準備が需要の最近の話題として指摘しておきたい点ですね。 |