http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/759.html
Tweet |
ジョージ・ソロスが展望する2012年
欧州の新財政協定はデフレスパイラルを招きかねない
ジョージ・ソロス
2012/01/27
ジョージ・ソロス氏は哲学者、民主主義の伝道者、投資家として知られる。
同氏は1930年にOpen Society Foundationsを設立。これを基に民主主義と人権の擁護運動を世界的に広めている。ソ連崩壊後、中欧・東欧諸国が共産主義から民主主義へと転換する際、大きな役割を果たした。
投資家としても有名。1992年の英通貨危機の時には10億米ドルを資金に、“通貨戦争”に参戦。英ポンドの暴落から多額の利益を上げた。「イングランド銀行に勝った男」と評されている。
これらの経験から、投資や経済問題に関する同氏の論評は高く評価されている。
多くの先進国が2011年に陥った経済的苦境は、人間の手が及ばない経済的力学だけが原因ではなかった。世界の指導者たちが進めた政策、あるいは進めなかった政策によるところが大きかったのだ。
2008年に始まった金融危機の最初の段階において、世界の指導者たちは驚くほどの意思統一を実現した。2009年4月に開催されたG20ロンドン・サミットでは、総額1兆ドルに及ぶ救済パッケージをまとめたほどだった。ところが、この意思統一は早々に破綻した。現在の世界を覆っているのは、官僚たちの内輪もめと誤った状況理解ばかりだ。
さらに困ったことに、政策上の相違は、多少なりともそれぞれの国の方向性に沿う形で生じている。例えばドイツは財政的に非常に保守的な方向を取っている。一方、アングロサクソン諸国は今なおケインズに魅力を感じている。危機の根源には最初からずっと国家間の不均衡が存在する。これを是正するためには緊密な国際協調が必要なだけに、このような国家間の乖離は状況を極めて複雑にしている。
問題の根源は単一通貨ユーロ自体に
欧州の国債に対する疑念の中心には、単一通貨ユーロがある。昨今はこの疑念が高まり、ユーロの存続自体を疑問視する声さえ聞こえる。だが、ユーロというのは初めから不完全な通貨だった。マーストリヒト条約が方針として定めたのは、政治同盟を伴わない通貨同盟だった。つまり、共通の中央銀行は持つけれども、共通の財務省は持たないということだ。ユーロの仕組みの設計者はこの欠陥に気づいていた。しかし、彼らの設計から生じるその他の欠点が露わになったのは、2008年に金融危機が発生してからだった。
ユーロという通貨は、市場が行き過ぎたときには市場が自ら修正するという前提のもとに構築された。従って、不均衡は公共部門にしか生じないと想定された。ところが実際は、通貨危機を加速した最大の不均衡の一部は民間部門で発生した。その間接的責任は、ユーロにある。
特に問題だったのは、ユーロ圏の国債が無リスクと見なされたことだ。銀行は、ユーロ加盟国の国債に対して最低限の引当金しか準備しなかった。欧州中央銀行(ECB)のディスカウントウィンドウ(銀行向け常設貸出制度)を利用すれば、圏内のどの国債を担保にしても同じ条件で融資を受けられた。
つまり、加盟国は事実上ドイツと同じ金利で借り入れをすることができた。各銀行はわずかな利ざやを稼ぐために、ユーロ圏内でも財政体質の弱い国の国債を喜んで購入してバランスシートを拡大させた。
具体的な数字を見ると、欧州の銀行全体が保有するスペイン国債の残高は1兆ユーロ以上に上り、そのうちの半分以上はドイツとフランスの銀行が保有する。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120123/226425/?mlt&rt=nocnt
ユーロ圏内の2極分化
マーストリヒト条約は加盟国の経済格差を縮小するよう規定している。だが実際には、金利差の縮小を徹底したために、かえって各国の経済動向に格差が生じた。
スペイン、ギリシャ、アイルランドといった国では不動産バブルが発生し、成長が加速して、ユーロ圏内のほかの国に対する貿易赤字が拡大した。一方、東西統一の費用負担に苦しむドイツは、労働コストを抑制し、競争力を高めて、長期にわたり貿易黒字を続けた。
ところが、ギリシャで政権交代が起こり、この国の財政赤字が、前政権が公表していたよりも実際にははるかに大きいことが明らかになった時点で、金利差の縮小基準は維持できなくなった。欧州連合(EU)当局は、この問題に対する各加盟国の見解が大きく隔たっていたせいで、迅速な対応をとることができなかった。
ドイツは1920年代に経験したインフレの暴走と、その恐ろしい政治的帰結がトラウマになっているため、いかなる救済策にも強硬に反対した。しかもドイツはちょうど選挙の時期に向かっており、一層頑なな姿勢を示す必要があった。ドイツの首脳がギリシャに提供する救済資金に懲罰的な利率を課すことを主張している間に、危機は悪化し、救済コストは膨らみ続けた。
ユーロ加盟国は独自に貨幣を増刷することができない。このためギリシャなどの国は、外貨で借り入れをするしかない途上国と同じ状況に追い込まれた。その結果、これらの国のリスクプレミアムは拡大した。
後手に回るEUの対応
解決策を見出せないEU当局は、問題を先延ばしにした。通常ならば、こうして時間稼ぎをしている間に市場が鎮静化し、問題の解決が容易になる。ところが今回の危機は拡大を続けた。そして、ドイツ憲法裁判所が裁定――欧州金融安定基金(EFSF)向けに既に確定している以上の資金を拠出するには、連邦議会の承認が必要である――を下すに至り、EU当局は打てる手を失った。
2011年12月9日にブリュッセルで開催されたEU首脳会議で、ユーロ圏諸国はこれまで以上に緊密な財政同盟をつくることで合意した。だが、その時点で既に、金融危機をコントロールするにはこの合意では不十分なところまで事態は進んでいた。
ECBが着手した対策は、銀行の流動性不足を緩和するには大いに役立つものだった。しかし、拡大した国債のリスクプレミアムを縮小する手だては、何もとらなかった。リスクプレミアムは銀行の資本不足の問題と分かち難く絡み合っているため、中途半端な対策では十分な効果は望めない。ユーロ圏のほかの国の国債を防壁で囲い込み続けておかない限り、ギリシャのデフォルト(債務不履行)を引き金に、世界的な金融システムのメルトダウンが起こりかねない。
2012年がこの悪夢のシナリオをたどらなかったとしても、2011年12月のEU首脳会議は将来に禍根を残すものだった。「速度の異なる2つの欧州」の出現と、ユーロ圏について提案された財政協定の基にある誤った経済原則を巡る争いの種がまかれたからだ。この経済原則に従うなら、失業が拡大している中で緊縮財政を強いることになり、ユーロ圏はデフレスパイラルの悪循環に陥りかねない。そこから抜け出すことは困難だ。
(2012年1月9日)
George Soros (c) Project Syndicate
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120123/226425/?P=2
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。