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日経ビジネス オンライントップ>企業・経営>御立尚資の帰ってきた「経営レンズ箱」
2050年以降には世界全体が少子高齢化に直面する
課題先進国・日本ならではのチャンスをつかめ
2012年1月27日 金曜日
御立 尚資
前回、人口問題を取り上げさせていただいたところ、ずいぶんたくさんのコメントをいただいた。大半のコメントは、こちらの論旨の問題点の指摘も含めて、至極ごもっともなもので、中には大変勉強になるようなものもあった。ありがとうございます。
「粗くとも、数字で考える」ことで、具体的な議論が巻き起こる、という当初の狙いが達成できたような気がする半面、反響の大きさは、日本での人口減少・高齢化問題への興味の高さの素直な表れだとも思える。
そこで、前回の日本のマクロ経済へのインパクトにとどまらず、もう少しグローバルな視点で、人口問題について触れてみることにしたい。
高齢化は日本だけの問題ではない
まずは、高齢化はグローバルに人類全体を見ても、進行し続けるというポイントから。図表1に、1950年、2010年、2050年の世界の人口ピラミッドを示してみた(国連の2010年推計を基にしたボストンコンサルティンググループ分析)。
日本のように、上が膨れた形にはなっていないが、細長い三角形が次第にがっしりとした家のような形になっていくのが、見て取れるだろう。65歳以上の方々が世界人口に占める割合は、5%、8%、16%と増え続けていく。
同じ期間に15〜64歳の生産年齢人口は61%、66%、63%という割合なので、生産年齢層が65歳以上の層を支えている割合(65歳以上の人口÷生産年齢人口)は、8%、12%、25%と大きく高まっていく。
世界全体として見ると、少なくとも2050年までの間は、人口増加が見込まれているので、高齢化の進展に伴う生産年齢人口減少は避けられるだろう。しかし、高齢者が大きく増加することに伴う社会制度の変革ニーズは非常に大きい。新興国の多くでは、年金や医療制度、介護システムの整備が遅れており、過去にない高齢者増への対応が必要となってくるだろう。
ちなみに、昨年発表された国連の長期推計は、大変に興味深かった。2050年以降の世界の人口を見た場合、新興国で経済成長が進み、出生率が先進国並みになるという前提で試算すると、2050年以降に地球上の人口は減少に転じる、というのだ。もちろん、これは極端なケースだが、かなりの確率で人口増加率が2050年から2100年にかけて大きく低下していくというのがメーンシナリオになっている。
さて、地球全体での高齢化。これを牽引するのは、当面は現在の先進国、特にG7諸国だ。日本の生産年齢人口と65歳以上人口との比率は、2010年が33%、2050年推計が65%であり、G7の中では突出して高い。一方で、ドイツやイタリアでも既に生産年齢人口の減少が始まっている。米・英・仏・カナダでも、その層の伸びはどんどん縮小する見通しだ。
その他の国も、遅かれ早かれこの影響からは逃れられない。よく知られているように、新興国の中でも中国は高齢化の進展が早く始まり、2010年から2050年までの間に、生産年齢人口が約2割縮小、全人口ベースでもあと5〜10年のうちに減少に転じると見る向きが多い。インドを除けば、遠くない将来、多くの新興経済圏で、日本が直面している問題にぶち当たることになるだろう。
世界全体で成長モデルの転換が起こる
図表2は、1950年と2010年の出生率と平均余命を先進国とBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)諸国について比較したものだ。半世紀強遅れて、BRICs諸国が過去の先進国と同じような状況に至ったということがよく分かる。
こう考えていくと、生産性の大幅な上昇といったことがないと仮定すると、次のようなことが言えそうだ。
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当面の間、昨今の2スピード経済、すなわち先進国の低成長と新興国の中ないし高成長、という流れは、人口変動というトレンドからも長引く可能性が高い。
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しかし、今世紀半ばまでには、新興国でも高齢化傾向が明確に表れ、国によっては、もっと早い時点から生産年齢人口の減少という先進国型の課題に直面する。
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従って、いわゆる人口ボーナス要素と社会インフラや工業分野への投資が主導する形での、新興国の高成長は次第に影を潜め、世界全体で「成長フロンティアを新興国に求める」というモデルから「成長フロンティアをイノベーションに求める」というモデルへのシフトが起こる。
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ないしは、経済の低成長を前提とした世界的な社会経済モデル構築が起こり始める。
やや皮肉なトーンも含めてだが、日本は課題先進国である、という言い方がよくなされる。実際に人口変動という観点で見れば、これは全く正しいテーゼであり、苦労しつつも何らかのブレークスルーを見いだすことができれば、次のような可能性があるということだ。
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企業のビジネスモデルというミクロ面であれば、グローバルに通用する競争優位性につながる。
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世界有数の長寿を可能ならしめた保健・医療システムや世界で初めて構築された介護保険を中心とする介護の仕組みは、これから高齢化に直面する新興国にとって大変魅力的であり、インフラに加えてシステムとしての輸出も十分可能だし、大きな対外貢献の余地がある。
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もっとマクロに見た場合、日本では、「経済の高成長に依存しない幸福のあり方」という議論が盛んに行われてきたが、世界の経済・社会全体のあり方の大きなシフトをリードする可能性すらある。
日本のアキレス腱は膨らみすぎた財政赤字
残念ながら、3点目については、「リードする」というところまでは、行き着けないのではないかと思える。
日本は、あまりにも大きな財政赤字を蓄積させてしまったので、(たとえ増税が行われたとしても)一定の経済成長なくしては、大きなリスクを抱えた状況から抜け出せない。従って、当面、社会全体として、成長への執着をなくすわけにはいかない、というのが第一の理由だ。
また、別の言い方をすれば、大きな変革を行うための投資すらできない状況なので、社会の中でのさまざまな試みや精神面での個人の内面的変革、という部分は進んでいくような気がするものの、経済・社会のあり方全体をシフトさせるには、力不足なのかもしれない、ということもある。
さて、人口を取り巻く問題は深くて広い。次回は、少し趣きを変えて、企業に対するミクロな影響、という面から考えてみることとしたい。
このコラムについて
御立尚資の帰ってきた「経営レンズ箱」
コンサルタントは様々な「レンズ」を通して経営を見つめています。レンズは使い方次第で、経営の現状や課題を思いもよらない姿で浮かび上がらせてくれます。いつもは仕事の中で、レンズを覗きながら、ぶつぶつとつぶやいているだけですが、ひょっとしたら、こうしたレンズを面白がってくれる人がいるかもしれません。
【「経営レンズ箱」】2006年6月29日〜2009年7月31日まで連載
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著者プロフィール
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御立 尚資
ボストン コンサルティング グループ日本代表。京都大学文学部卒。米ハーバード大学経営学修士(MBA with High Distinction)。日本航空を経て現在に至る。様々な業界に対し、事業戦略、グループ経営、M&A(合併・買収)などの戦略策定、実行支援、経営人材育成、組織能力向上などのプロジェクトを数多く手がけている。著書に『戦略「脳」を鍛える』(東洋経済新報社、2003年)、『使う力』(PHP研究所、2006年)、『経営思考の「補助線」』(日本経済新聞出版社、2009年)など。
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