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http://diamond.jp/articles/-/15804 論争!日本のアジェンダ【第1回】 2012年1月24日
社会保障と税の一体改革批判@6つの視点で改革を徹底検証する
嘉悦大学教授 高橋洋一
た かはし・よういち/1955年、東京都生まれ。東大理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年、大蔵省入省。理財局資金企画室 長、プリンストン大学客員研究員、総務大臣補佐官、内閣参事官などを歴任したあと、08年退官。09年政策工房を設立し会長。10年嘉悦大学教授。
Photo by Toshiaki Usami
24日から通常国会が始まる。今国会の最大の焦点は、「社会保障と税の一体改革」だ。では、「一体改革」は一体何なのとか検討してみると、その内 容はオヤジギャグとでも言いたくなるような「社会保障と税の一体改革」だ。はじめのうちは、政府の本音が出て、「社会保障」と「税」の順番が今とは逆に 「税」が先になったりしていたが、今や「社会保障」が先に来る順番が定着した。
政府素案を見ると、「一体改革」なのに、先に書かれている社会保障の基本ともいうべき年金では、民主党が掲げる最低保障年金を柱とする年金制度さえ示していない。しかし、後に書かれている税では、消費税率の引き上げがスケジュールつきで明確に書かれている。
政治論、社会保障論から
みた問題点
まず政治論から始めよう。最近インターネットで話題になっている野田総理の政権交代前の街頭演説の動画がある。それを見ると、「書いてあることは命懸けで実行する。書いてないことはやらないんです」といっているのが、YouTubeにある。この話は以前から有名で、国会でも野田総理は演説しているので、テレビビデオもあるだろう。
政権交代時のマニフェストに書いていない消費税はスケジュール、税率まで決めておきながら、マニフェストに書かれている年金改革はまだでは、話にならない。
次のページ>> 税率を引き上げる前に不公平をなくすのが先決
第2に社会保障論。消費税を社会保障目的税とすることであるが、消費税を社会保障目的税にするのは、先進国ではまず例を見ない奇妙なものだ。
社会保障はふつう保険方式で行われる。給付と負担の明確化のため財源を保険料とするのが原則なのだ。所得のない人向けに税財源を投入することはあっても、税を目的税化することはない。税を財源にすると、給付と負担の関係が明確でなくなり、サービス需要が大きくなる。
経済学では財政錯覚(Fiscal Illusion)として知られるが、税財源だとサービス需要が大きくなって社会保障費が膨らむ。最近、特養ホーム(特別養護老人ホーム)で内部留保が2 兆円にものぼったことが指摘されたが、税金投入が一因だろう。この論点からさらに詳しいことは、筆者の連載コラムの昨年1月27日「社会保障を人質に理屈なき消費税増税を狙う 消費税の社会保障目的税化は本当に正しいか」を参照していただきたい。
租税論、地方分権、
行革論からみた問題点
第3に租税論。セオリーは、税率を引き上げる前に、不公平をなくすのが先決だ。そうでないと穴の空いたバケツで水をすくうことになり、しかも不公平をそのままにしておくと、税率の引き上げは税収確保がやりにくいばかりか不公平を増大させる。
社会保険料といっても、法的性格は税と同じだ。払わなければ滞納処分になるのだが、年金機構(旧社保庁)の執行が甘い。
税・保険料の不公平は、まず消えた保険料。国税庁と年金機構の把握法人数は、年金機構のほうが少なく国税庁と80万件もの差がある。これは保険料の徴収漏れになり、年間10兆円程度と推測できる。
2番目に国民番号制度がないこと。そのために所得税などの正確な補足が出来ず、これも不公平だ。国民番号制度を導入すれば、5兆円程度増収になる 可能性がある。3番目に消費税インボイスがないこと。そのため消費税も3兆円程度漏れがあるだろう。合計で18兆円程度の徴収の漏れかつ不公平がある。
次のページ>> シロアリ退治しないで消費税引き上げる行為
国税庁と年金機構を合体する歳入庁構想は、世界では当たり前である。先進国で歳入庁でない国を探すほうがむずかしい。最近ではイギリスでは、歳入 庁を1998年に作っている。検討に1年間、実施に1年間と2年程度でできた。また、国民番号制度も消費税インボイスをやっていないのも、先進国では日本 くらいだ。
これらの世界の常識は、税率を上げる前に行うべきだ。
この論点からさらに詳しいことは、筆者コラムの昨年9月8日「増税一直線の野田政権に告ぐ増税に代わる財源を示そう」や12月1日「超党派議員が開いたシンポジウムで鳩山元総理がぶち上げた日銀法改正論」を参照していただきたい。
第4に、地方分権の観点から消費税の社会保障目的税化は大問題だ。地方分権には、三ゲン(権限、人ゲン、財源)の同時移譲が必要だ。財源移譲では 地方は身近な行政サービスを行う(これは「補完性の原則」といわれるものだ)。そのため、景気に左右されない安定財源が必要だ。地方の行政サービスのため の安定財源は、地方分権された地方を見ても消費税が適切である。ところが、消費税を社会保障目的税化して、国のサービスに固定されると、地方分権ができに くくなる。
この論からさらに詳しいことは、筆者コラムの昨年12月15日「消費税の税源移譲なくして地方分権なし その社会保障目的税化は地方分権の大障害」を参照していただきたい。
第5に行革論。冒頭に掲げた動画では、「12兆6000億円ということは、消費税5%ということです。消費税5%分のみなさんの税金に、天下り法 人がぶら下がってる。シロアリがたかってるんです。それなのに、シロアリ退治しないで、今度は消費税引き上げるんですか?」といっている。
20日に、野田政権が独立行政法人の改革案を閣議決定したが、肝心な支出削減額が明記されていない。マニフェストでも官僚の天下り先である独法への補助金を減らすと書かれている。ここでも、マニフェストに書かれているが、やっていない。
次のページ>> デフレのまま消費税増税を行うのは狂気の沙汰
内向けと外向けで
成長率を使い分ける2枚舌
最後にマクロ経済からの問題。デフレのまま、消費税増税を行うというのは狂気の沙汰である。世界の標準的なエコノミストなら、日本がデフレのほかに欧州危機を考慮して、財政再建への軸足をかけすぎるべきでないという。
ちなみに、緊縮主義で有名なIMFでも、チーフ・エコノミストのブランシャールは「財政再建とは、アンゲラ・メルケル独首相が言うように、『スプ リント種目』ではなく『マラソン競技』であるべきだ。債務を適切な水準に戻すまでには優に20年以上かかるだろう。「急がば回れ」という格言はこれにぴっ たり当てはまる」といい、性急な財政再建を戒めている。
日本の低いままの名目成長率は、必要な増税額を水増しするという形で、財政当局に悪用されている。社会保障の項目については、高齢化によって年間1兆円程度増加するとしている。その一方で、消費税増税については、今後5年間の名目成長率1%程度を前提に計算している。
増税では低い名目成長率を使いながら、外に経済成長をいうときには実質2%、名目3%を目指すと二枚舌になっている。世界を見ると、アメリカでは 名目成長率3.5%、イギリスでは5.3%を前提に計画が行われている。名目3%は低いが、名目1%で増税を大きく算出しているというと、誰もが驚く。
名目成長率を上げることはそれほど難しくない。マネーを増やせばいいだけだ。マネーを増やせば、為替はかなり簡単に円安になり、それだけで名目GDPが上がる。これについては、筆者コラムの昨年11月4日「為替介入効果が長続きしない理由 日米マネー量の相対比が円ドルレートを左右する」や今年1月12日「為替再考!なぜ小泉・安倍政権時代には円安誘導に成功したか」を参照していただきたい。
さらにデフレも脱却でき、名目GDPも上がる。円の総量とドルの総量の関係から為替が決まることと、円の総量とモノの総量の関係で一般物価が決ま ることはかなり似ている。円が増えてドルが相対的に少なくなってドル高(円安)になることは、円が増えてモノが相対的に少なくなって物価が高くなることは 基本的に同じ現象だ。
次のページ>> 名目GDP伸び率と基礎的財政収支は高い相関
適切なマクロ経済運営をとれば
消費税増税は必要ない
こうしたことはデータで示される。ここ20年間ほど名目GDP伸び率(成長率)と名目雇用者所得伸び率、名目GDP伸び率と基礎的財政収支は、そ れぞれ9割程度の相関がある(図1)。5%程度の名目成長でよく、少し歳出削減するなら4%の名目成長でも財政再建は可能である。
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これまで日銀は金融緩和してきたが、名目成長につながっていないとの反論がある。しかし、世界に目を転ずると、ここ10年で日銀は世界でもっとも金融引き締めを行った結果、世界最低の名目成長しか実現できなかったのだ。
2000年代のマネー伸び率と名目GDP伸び率の平均を国別に算出し、散布図にしたのが図2。日本は一番左に位置している。
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次のページ>> 適切なマクロ経済政策をとれば消費税増税は不要
1980年代で同じ散布図をつくると図3になる。日本はそこそこ金融緩和していたので、名目GDP伸び率はまっとうだったことがわかる。
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日本もマネー伸び率10%程度を10年間継続して行えば、5%程度のまともな名目経済成長ができる。そうすれば、消費税増税は不要になる。
このように、適切なマクロ経済政策をとれば、消費税増税は不要なのだが、今の民主党政官は、放漫な財政運営で、自公政権時代より10兆円近く財政を膨らませてしまった。結局、今回の消費税増税はこのツケである。この点についてさらに詳しくは筆者コラムの昨年12月29日「民主党マニフェストは総崩れ ツケは増税で国民に回る」を参照していただきたい。
増税分は社会保障に使うとか、カネに色のついていないことをいいことに、デタラメな説明を繰り返しているが、これが社会保障と税の一体改革の正体である。
質問1 政府・民主党の「社会保障と税の一体改革」についての評価は?
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あまり評価しない
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高く評価する
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