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被災地に群がるゼネコン
「復旧狂騒曲」の光と影
週刊ダイヤモンド編集部
未曾有の被害をもたらした東日本大震災。大津波が残した大量のがれき処理からスタートした復旧事業は多岐にわたり、復興関連と併せて18.5兆円が投じられる。大規模かつ巨額の事業に、ジリ貧だった大手ゼネコンから中小建設業者までが色めき立ったが、どうやら現実は甘くなさそうだ。
「震災後、いち早く大量の人員を送り込んできた。やっぱり東北は鹿島。人脈の広さと深さも、他社はかなうわけがない」
宮城県の建設業者は、東日本大震災後の鹿島の活躍ぶりに、こう舌を巻く。中興の祖、鹿島精一は岩手県盛岡市の出身。その縁でこれまでも東北地方の大型工事に幅をきかせており、「東北の盟主」と呼ばれてきた。
鹿島の動きが最初に大きく結実したのは昨年夏。宮城県が発注した石巻ブロックのがれき処理プロジェクトを、鹿島が幹事をするジョイントベンチャー(JV)が落札したのだ。宮城県は被災3県の中でもがれきの量は突出している。
市町村単位で処理し切れないため、市町村の多くががれき処理を県に委託。県は4ブロックに分けて処理を進めている。なかでも、鹿島が落札した石巻ブロックは最大のプロジェクトで、鹿島JVの落札金額はなんと1923億円にも上った。
内需激減で海外でも失敗
復興特需は恵みの雨
震災前、鹿島のみならず、ゼネコン各社は底なしの苦境に陥っていた。国内の公共事業はピーク時の半分以下に激減し、民間工事もダンピングの嵐。新天地を求めてドバイの建設バブルなどに参入したものの、見通しの甘さが災いし、巨額損失をつくってしまった。
2010年3月期、鹿島は初の営業赤字に転落。翌期は黒字を回復したものの、アルジェリアの高速道路建設プロジェクトでまたもや、JV全体で最大800億円の損失が出る状況に陥るなど、明るい材料はなにもなかった。
そこに降ってきた復興特需。「大変な災害だったのだから、われわれが儲けるなんてとんでもない」。大手ゼネコン各社は表向きにはこう話すが、水面下では工事受注に向けた人材確保や提案営業などに余念がない。
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現在のところ、実際に動き出している大きな復旧・復興事業はがれき処理のみ。今後は除染や港湾・道路などの本格復旧、そして津波被害に遭った住民の高台集団移転など、大規模なプロジェクトが次々と誕生する。
政府がこれまで確保した復興関連予算は18兆5000億円だが、3県の試算を足し合わせれば、必要経費は最低でも30兆円。そのうち、公共事業関連費はかなりの割合に上ると見られる。被災地の経済復興のために、地元建設業者を優先させる政策となっているものの、大規模工事は大手ゼネコンの力に頼るしかない。
鹿島JVが受注した石巻ブロックでは、1次仮置き場に置いてある685万トンものがれきを処理するため、焼却プラントを作って燃やすほか、細かく分別してリサイクルにも力を入れる。焼却したがれきの分別に必要な人数は、1日なんと1000人以上。焼却プラントを建設したり、これほどの労働者を集められるパワーは大手にしかない。
今回、熾烈なダンピングをせずにすんだのも、ゼネコンにとっては嬉しい話だった。価格の安さが焦点となる競争入札方式と違い、今回のがれき処理にはプロポーザル方式が採用されたためだ。これは、価格だけでなく、さまざまな工程を評価し、合計得点で落札者を決めるもの。
石巻地区のがれき処理の場合、県の示した参考業務価格2290億円に対して、2割引きすれば満点だとあらかじめ決まっていた。つまり、2割引き以上、価格が下がる可能性がないということで、過剰なたたき合いにならななかったのだ。
東北の盟主・鹿島が最大のがれき処理区を落札したことで、談合情報が寄せられるひと幕もあるなど、「ゼネコン大儲け」の図式が成立するかと思いきや、現実はそう甘くもなさそうだ。
人手不足が頭痛の種
利益確保には苦戦か
「迷惑はかけない(赤字にはしない)から、参加しませんか」
石巻地区の入札前、鹿島の担当者は、ある宮城県内の建設業者を訪ねてこう持ちかけた。価格で戦わずにすむ代わりに、地元雇用をなるべく多く生み出すなど、提案内容には気をつかわなければならないためだ。
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しかし、この建設業者は「利益が出るとは思えない」と、盟主からの参加要請を断った。理由は人件費と資材費の高騰だ。
宮城県の公共事業費は10年で約9000億円から2970億円と、3分の1にまで縮小。建設業界では廃業や倒産、リストラの嵐が吹き荒れ、建設業従事者の人数はピーク時の7割にまで減っていた。
需要減少に合わせて、生コンクリート工場の数も10年前の半分に減ったほどだ。そんな状況で起きた大震災。本格的に復興工事が始まる来年度は「10年分の仕事量」が殺到すると予想されているのだから、人もモノも足りなくて当然だ。
すでに人手不足は深刻化しており、宮城県では昨年10、11月には不調(入札業者がおらず、入札が成立しない)工事の比率が全体の4割にも上った。専門技術を持つ技能労働者のみならず、交通誘導のガードマンすら足りず、震災前なら7000〜8000円程度だった日給が今では1万5000円にまで跳ね上がったという。
工事が本格化する来年度以降はさらなる人手不足と賃金高騰が予想される。ましてや、こんな大量のがれき処理は誰も手がけたことがない。「思いのほか時間がかかるなどして、儲かるはずが一転、赤字になる可能性もある」(別の地元建設業者)。中小建設業者のみならず、「清水建設だって、おっかなびっくりで鹿島のJVに乗った」(某ゼネコン幹部)とささやかれている。
復旧・復興は時間との闘い。行政側は「柔軟に価格を見直す」(村井嘉浩・宮城県知事)と表明するなど、建設業者の不安払拭に心を砕くが、これまで公共工事でさんざん赤字受注を繰り返してきたトラウマか、地元建設業者は「にわかには信用できない」と慎重姿勢を崩していない。
人手不足は、民間の建設事業にも響く。被災地では壊れた工場の修繕や取り壊し作業が終わり、これから新築案件が増えると見込まれているが、価格が急上昇しているため、建設を躊躇する企業が増えている。
それだけではない。被災地が全国の建設労働者を吸い上げているため、ほかの地域の工事でも労務費が上昇しているのだ。あるスーパーゼネコン幹部は「せっかく復興需要で稼いでも、民間工事で赤字となるかもしれない」と顔を曇らせる。民間工事のダンピング合戦は激しく、ただでさえ赤字すれすれの受注も珍しくない。そのうえ、工期途中のコスト上昇を支払ってもらえる可能性も低い。
次のページ>> 復興バブルで浮かぶゼネコン、沈むゼネコン
さらに悲惨なのは東北地方以外の中小建設業者。大手と違い、越境して復興需要にありつく規模と体力はないが、費用高騰のあおりは受ける。ただでさえ、公共工事激減で業界存亡の危機に瀕しており、今回のコストアップで息の根が止まる懸念もある。
未曾有の災害が生み出した巨大な建設需要だが、手放しで喜べる状況には決してない。また、復興需要が盛り上がるのはせいぜい5〜10年ほど。なにも手を打たなければ、その後は再び、震災前と同じように少ない公共工事に群がり、いつ倒れるか知れないガマン比べをする日々に舞い戻る。
震災以降、インフラ整備を再評価し、八ッ場ダムや整備新幹線、そして高速道路など、中断していた大型プロジェクトが一気に再開する動きもあるが、これまた公共事業の分配にメリハリがつけられただけで、パイが大きくなったわけではない。
真っ暗な未来しか描けなかった建設業界。復興需要は、そこに差し込んだひと筋の光となったのは間違いないが、これを機に生き残りへの道を歩むことができるかどうか。業界の知恵が試されている。
復興バブルで
浮かぶゼネコン、沈むゼネコン
『週刊ダイヤモンド』1月28日号の第1特集『復興バブルで浮かぶゼネコン 沈むゼネコン』では、復興バブルにありつけるゼネコンと、そうでないゼネコンをあぶり出し、復興需要の光と影をお伝えします。
なかでも注目は、大手ゼネコン30社を対象に、東北地方で発注された公共事業の受注率や土木工事比率を基に作成した「復興で浮かぶゼネコン格付け」。結果は本誌をご覧いただきたいのですが、意外な傾向が見て取れました。
その他にも、復興需要にありつけない地方の建設業者の実態について、全国縦断レポートと都道府県別1109社建設業経営危険度ランキングなどを通してご紹介します。
建設業の実態だけでなく、震災の復旧・復興の現実も見て取れますので、建設業に従事されていらっしゃる方も、そうでない方も興味深く読んでいただくことができると思います。
(『週刊ダイヤモンド』副編集長 田島靖久)
質問1 今後の建設業界の行方をどう見る?
58.1%悲観的24.9%どちらとも言えない17%楽観的
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