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無責任な政治〜「適度なインフレ」を前提に設計された「現在の社会保障制度」を「消費増税」で維持すると主張する理解し難い理屈
近藤駿介ブログ 2012-01-19
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「現在の社会保障制度を維持するためにも社会保障と税の一体改革をやらねばならず、これがひいては財政再建の大きな一歩になる」。
素人財務相は、消費税増税へ理解を求めるための全国行脚の手始めとして、19日午前に日本商工会議所の岡村会頭と懇談。その席上でこのように述べ、社会保障と税の一体改革の柱となる消費増税への理解を求めた。
「現在の社会保障制度を維持するためにも社会保障と税の一体改革をやらねばならない」というのは、「財政再建原理主義者」が布教に使う常套文句である。「財政再建原理主義者」は「消費増税」が「現在の社会保障制度を維持する」ための唯一の解決策であるかのような錯覚を世の中に植え付けようとしている。しかし、「消費増税」は「現在の社会保障制度を維持する」ための何の解決策にもならない。
2004年に自公政権下で、「基礎年金の国庫負担を3分の1から2分の1に引き上げ」「保険料を報酬比18.3%に引き上げ」「支給開始年齢を60歳から65歳まで引き上げ」を柱とした年金「100年安心プラン」が決定された。しかし、「100年大丈夫」だったはずの年金制度(社会保障制度)は、僅か7年で立ち行かなくなった。
「100年安心プラン」が立ち行かなくなった原因は、消費税率が低過ぎたからではない。問題は、「100年安心プラン」が、3.2%という高い運用利回りを前提に設計されていたからである。実際の年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)の年金運用の利回りを見てみると、平成22年度▲0.25%、直近5年間(平成18〜22年度)で▲0.32%、過去10年間(平成13〜22年度)でも+1.2%に留まっており、「100年安心プラン」の前提となる3.2%という運用利回りを大きく下回っている。さらに今年度の第2四半期(2011年7-9月期)の運用利回りは▲3.32%と悪化して来ている(ユーロ圏のソブリン危機の金融市場への影響は9月以降顕著になっており、10‐12月期はさらに悪化している可能性が高い)。
こうした、年金財政の設計上の運用利回りと、実際の運用実績との乖離による収支悪化が、「現在の社会保障制度を維持する」ことを困難にしている最大の原因であり、素人財務相が強調する「所得税を中心とした税収が減少している」ことが「現在の社会保障制度を維持する」ことを困難にしている根本的問題ではない。
「現在の社会保障制度」の前提となる運用利回りは、「物価上昇率」「実質賃金上昇率」「実質長期金利」の推計値に基づいて決定されるものである。そしてこの運用利回りは、ご丁寧に10年債利回りが1.5%を割り込んだ2009年の財政再計算で3.2%から4.1%という非現実的な目標に引き上げられている。
正確な比較ではないが、+1.0%と推計された「物価上昇率」に対して実際の年度デフレーターは、1998年以降13年連続で前年度比マイナス。+1.5%とされた「実質賃金上昇率」も、連合の「実際の賃金水準上昇率」でみると、1998年以降2007年を除いてマイナスで推移している。こうした経済状況を受け、安定運用の主役である10年国債利回りは、足下で0.97%程度と1%を切る水準まで低下して来ている。
要するに、景気が弱く、現役世代の賃金が低下し続けたことで年金の掛け金収入が減り、デフレ進行による国債利回りの低下と株価の下落が運用利回りの悪化を招いたことで、「100年安心プラン」は僅か7年で破綻の危機に晒されたのである。
従って、政府が「現在の社会保障制度を維持する」ために採るべき選択肢は、年金給付を減らす(国の将来の借金を棒引きする)か、「デフレからの脱却」を図り「賃金上昇」或いは「長期金利上昇」が起きるような経済状況を作り出すか、のどちらかということになる。
「消費増税」は経済にデフレ圧力を加える政策である。掛金収入の減少と、債券や株式の期待収益率の低下という「収入と運用」両サイドに打撃を与えかねない「消費増税」は、「現在の社会保障制度を維持する」ための政策としては「最悪の選択肢」であり、「現在の社会保障制度を破壊させる政策」でしかない。
「消費増税」で維持出来る可能性があるとしたら、それは「現在の社会保障制度」ではなく、「現在の給付水準」である。しかし、デフレ経済を放置し、債券や株式の期待運用利回りが低水準である限り、基礎年金の国庫負担率を現状の50%を引上げて行く以外に選択肢はない。もしそうなれば、消費税率は10%どころか、20%を超えて行くのも時間の問題である。「将来の世代にツケを残さない」という無意味な耳触りの良いキャッチフレーズと引換に、「将来の世代に増税社会を残す」ことになりかねない。
年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)の23年度第2四半期の運用成績は▲3.32%で、第1四半期比で3兆7,326億円の損失(22年度末比では7兆4,633億円の損失)を計上している。消費税による税収は年間約10兆円強であるから、GPIFの損失は消費税換算で7%に相当する規模である。さらに、国が定めた4.1%という運用利回り目標を考えると、23年度第2四半期時点でGPIFは前年度末比で2兆3,845億円の収益を挙げている必要があり、国が定めた4.1%という運用目標に対して、今年度だけで9兆8,478円の未達となっているのである。これは、ほぼ現在の消費税による年間収入に匹敵する額である。
「適度なインフレ」を前提に設計された「現在の社会保障制度」は、デフレ経済下では存続出来ず、消費増税で埋め合わせを出来るようなものではない。デフレ経済を放置する中での「消費増税」は、「穴のあいたバケツに水を汲む」ようなもので、何の解決策にもなりえない。「現在の社会保障制度を維持する」ことが政治目標なのだとしたら、「消費増税」よりも国が「現在の社会保障制度を維持するため」に必要だとして定めた4.1%という運用利回り目標を達成できる経済環境に戻すコストの方が安い可能性が高い。
デフレを放置し続けたことで、今年度上半期時点で、既に年間の消費税収入分に匹敵する年金資産が失われている事実に、「財政再建原理主義者」は触れようとはしない。それは、「財政再建原理主義者」の目的が、「消費増税」にあって、「現在の社会保障制度を維持すること」にはないからである。
先週の米格付け機関S&P社のユーロ圏9カ国の一斉格下げを受け、野田総理は「ヨーロッパの危機は対岸の火事ではない。日本も今さえ良ければいいという財政運営を続けたら、スポットライトがあたってくる」と述べ、日本国債の格下げなど日本の信用力の低下につながりかねないとの危機感を表明し、財政再建が不可欠という認識を強調した。
現実問題として、外国人の保有比率が低く、国内で95%近くの資金を調達出来ている日本国債にスポットライトが当たり、「直ちに」金利が急上昇する可能性は殆ど無い。金融に於いて重要なのは、どこから資金調達をしているか、どの程度レバレッジがかかっているかであり、資産規模の問題ではない。
国内で必要な財政資金の半分以上を海外からの調達に頼っていたユーロ圏諸国と日本は事情が全く違う。国債を「国の借金」と捉えると大規模な国債残高は問題かもしれない。しかし、国全体のバランスシートを考えると、国が国民から借りている資金は、企業財務で言えば「自己資本」に相当するものである。「他人資本」に当る外国からの資金調達が少ない日本は、「自己資本比率の高い国=レバレッジの低い国」とも言える。
「自己資本比率約95%」。こうした優良な財務バランスを保った国の財政リスクにスポットライトを当て、わざわざコストを掛けて日本国債を調達し、市場で売却して値下がり益(金利上昇)を得ようとする「勇気ある投機筋」は、野田総理が心配するほど多くない。何故ならば、それは「非論理的な」「無謀な」投資行動であるからだ。
確かに、歴代の無策な政府がここまでデフレ経済を放置したことで、日本社会は国債の金利上昇に弱い構造になって来ていることは事実である。国債を大量に保有する日本の年金も、長期金利が上昇すれば一時的に評価損の発生を余儀なくされる運命にある。
しかし、「現在の社会保障制度を維持する」ことだけに目をやれば、日本国債にスポットライトが当たることで長期金利が上昇することは必ずしも悪いことばかりではない。「100年安心プラン」に必要な「長期金利水準」が保たれる可能性が高まるからである。
「現在の社会保障制度」は、「適度なインフレ」を前提に設計されている。従って、「現在の社会保障制度を維持する」ための政策課題は、「適度なインフレ」が存在する経済状況を維持することである。デフレ経済を放置したまま、インフレを前提とした「現在の社会保障制度を維持する」ことは論理的に不可能である。
「現在の社会保障制度を維持する」ために如何に景気を浮揚させるかに注力するか、「現在の社会保障制度を崩壊させる」「消費増税」に走るのか…。社会の仕組みを全く理解せずに、結論だけを頭に詰め込んでいる頭でっかちな首相が、眼帯を付けたことで、本当に「心眼」が身に付いたかを測る良い機会である。
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