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2人の「スーパーマリオ」に助けが必要な理由
2012.01.19(木) Financial Times1月18日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
2人のマリオ――テクノクラートからイタリアの首相になったマリオ・モンティ氏と、欧州中央銀行(ECB)の総裁に就任してまだ間もないマリオ・ドラギ氏――はユーロ圏を救うのだろうか? 答えはノーだ。
しかし、個人の力は違いをもたらし得る。この2人は洗練された実用主義を持ち込んでくれる。そうした実用主義がなければ、欠陥を抱えたユーロ圏という構造は存続できない。
政策立案者たちはこれまで以上に協力的、かつ柔軟になる必要がある。もしユーロが崩壊すれば、その経済的・政治的コストは莫大なものになるため、事態が良い方向に進むことを望まないわけにはいかない。この2人のマリオなら、政策をより生産的な方向に向かわせてくれるかもしれない。
将来を占ううえで、2つの兆候が認められる。
長期資金供給オペに踏み切ったドラギECB総裁
欧州中銀利下げ、1%に 国債買い取りは否定
切れ者として評価されるECB新総裁のマリオ・ドラギ氏(写真)とイタリア首相のマリオ・モンティ氏は、任天堂のゲームキャラクターにひっかけて「スーパーマリオ」と称されることがある〔AFPBB News〕
第1の兆候は、ECBが先月発表した新しい長期資金供給オペだ。銀行は資金調達にかなり苦しんでいたから、何ら恥じることなく、期間3年の資金をECBの政策金利(現在は1%)の平均値で借りられるとなれば、拒むことなどできはしなかった。
第1回のオペには523の金融機関が参加し、4890億ユーロの資金が供給された。
ECBのバランスシートはまさに爆発しそうなところまで膨らんでいる。このオペはドラギ氏が打った大胆かつ巧妙な手で、恐らく現状では、同氏がうまくやり遂げられる最大限の施策だった。
中央銀行による安価な長期資金の供給は、ユーロ圏の金融システム安定化に寄与するはずだ。これで国債市場も安定化するかどうかは、はなはだ不透明だ。欧州銀行監督機構(EBA)が銀行に自己資本の増強を求めていることから、欧州の銀行の大半はリスクの高い国債の購入を拒む公算が大きい。
ただし、国内銀行は、恐らくはプレッシャーをかけられて異なる判断を下す可能性がある。その場合、脆弱な国の政府の資金調達はいくらか楽になるだろうが、そうした国債を購入した国内銀行にさらにリスクが集中することになるだろう。
実際、リスクの集中度は高い。ブリュッセルを本拠地とするシンクタンク、ブリューゲルのジャン・ピザニフェリー氏の論文*1によれば、2011年半ば時点でスペイン国債の28%はスペインの国内銀行が、そしてイタリア国債の27%はイタリアの国内銀行が保有していた。
債権国に物申すモンティ首相
イタリアのエロチック夜会に終焉、モンティ首相は質素派
イタリアのマリオ・モンティ首相は債権国の協力を強く訴えている〔AFPBB News〕
第2の兆候は、マリオ・モンティ首相が本紙(フィナンシャル・タイムズ)とのインタビューで、イタリアの借り入れコストを引き下げるためにもっと努力するよう債権国に求め、協力を得られなければ周縁の有権者の一部が「激しく反発」するだろうという警告までしてみせたことだ。
モンティ氏は今、この議論を展開するのに有利な立場にある。彼でなければ誰がやる、今やらなければいつやるのだ、という感じだ。
モンティ氏は政策担当者として高い評価を受けており、筋金入りの欧州統合推進論者で、競争や財政・金融の安定性に対するドイツの態度にも強く共感している人物だ。ユーロの存続は、モンティ氏が成功するか否かで決まる公算が大きい。少なくとも、今の形で生き残ろうとする場合はそうだろう。モンティ氏が失敗すれば、破滅的な洪水がやって来る。
ドラギ氏とモンティ氏は、互いに関連している2つの脆弱性の問題に取り組んでいる。銀行システムが脆弱だという問題と、脆弱な国々には持続不能なほど厳しい借り入れ条件が適用されているという問題だ。
しかし、この2人では、こうした難問を解決することはできない。これを解決するには、この2人が独力で講じられるものよりも抜本的な対策が必要だからだ。
危機の解決に必要な抜本的な対策
前述したジャン・ピザニフェリー氏の論文と、同氏がリューベン大学のポール・デ・グラウウェ教授と共同執筆した論文*2は、対処すべき深刻な問題がほかに存在することを示唆している。
前者の論文によれば、経済改革の議論はもっぱら財政規律に着目しているが、こうした財政ルールを順守できなかったことは今の危機の発生において小さな役目しか果たしていない。民間の貸し手、そして多くの場合、民間の借り手の無責任な行動も、同じくらい重要な役目を果たしているという。
*2=“Mispricing of Sovereign Risk and Multiple Equilibria in the eurozone”, January 2012
そのためどちらの論文も、構造としてのユーロ圏は互いに関係する3つの点で脆弱であることが理解されなければならないと主張している。公的債務に対する共同責任が一切存在しないこと、深刻な危機になっても政府の借り入れに対する金融支援が行われていないこと、国と国内銀行の間に緊密なつながりがあること、という3点だ。
ユーロ圏のソブリン債務のリスクスプレッドについて際立つ点は、英国など、独自の中央銀行を抱える高所得国のソブリン債務のそれと見合わないことだ。時として、後者の国々の赤字や債務の方が、比較対象となるユーロ圏諸国より大きいにもかかわらず、だ。
英国が(今のところ)トリプルA格付けを維持する一方で自国が格下げされたことにフランスが苛立っているのは、このためだ。
いまや「準ソブリン」債務となったユーロ圏の国債に投資している人は、流動性のリスクに直面しており、いつ危機に見舞われてもおかしくない状況にある。
ユーロ圏の脆弱な国々を脅かす問題
このように金融危機とソブリン債務危機に対する脆弱性が高まった状況は、弱いユーロ圏諸国にとっての唯一の脅威ではない。これらの国は、柔軟な為替相場を持つ国々よりも大きな調整を成し遂げなければならない。だが危険なのは、ユーロ圏諸国を襲う金融危機の深刻さが、競争力を是正するのに必要な時間を各国から奪い去ってしまうことだ。
例えばイタリアの場合、高金利と脆弱な銀行、そして財政緊縮の組み合わせは恐らく、長期に及ぶ深刻な景気後退を招き、ひいては、構造的財政赤字が減る一方で景気循環的な赤字を膨らませることになるだろう。
こうした状況下で、経済大国がデフレを通じて健全性を取り戻すことは、シーシュポスの罰のような不毛な試練だ。現代の民主主義国で無限の忍耐力を備えている国はない。市場はこのことを理解しており、それに応じて行動する。
前出のピザニフェリー氏は、考えられる改革はいくつか存在すると主張する。真の連邦監督体制への移行と銀行のための安全装置(バックストップ)の設置、ECBを近代的な中央銀行にするための改革、あるいは、財政連邦主義に近い体制といったものだ。
これらの改革はいずれも大問題を生む。どれも合意に至る可能性は低い。だが、このような改革なしで、今の危機から抜け出し、安定した体制へ移行することは考えにくい。もし現状がうまくいかず、ユーロ圏崩壊の可能性を排除するのであれば、どれほど苦痛であろうと改革を選ぶしかないのだ。
改革は難しいが、ユーロ圏崩壊のコストは大きすぎる
必要な改革はなぜそんなに難しいのかと問うなら、答えは恐らく3部構成になるだろう。まず、ユーロというプロジェクトは、参加国の市民がどれほど「欧州の一員」だと感じるかを試す賭けだった。その答えは今のところ「不十分」であり、場合によってその感覚は「どんどん薄れている」。
第2に、このプロジェクトは、危機時には共通の分析と実行可能な解決策に同意する能力に対する賭けだった。今のところ、それも欠けている。最後に、このプロジェクトは、いざ危機が起きたらリーダーシップが発揮されるという見込みへの賭けでもあった。ここでもやはり、我々はまだ、必要なビジョンを待っているところだ。
だが、プロジェクト頓挫のコストはあまりに大きいため、国内およびユーロ圏内の改革の可能性は生かしておかなければならない。ECBを率いるドラギ氏の指導力は、その助けになるだろう。一方、モンティ氏は、ドイツを含む参加国をうまく説得し、改革に向かわせる立場にある。同氏は債権国の権力者に真実を語ることができる。債権国は注意深く話を聞くべきだ。
By Martin Wolf
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