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「社会保障と税の一体改革の素案」をどうとらえるか
◇回答
□山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究
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■今回の質問【Q:1246】
政府・与党は、「社会保障と税の一体改革の素案」を正式決定したようです。
http://jp.reuters.com/article/JPshiten/idJPTYE80502I20120106
この素案を、どうとらえればいいのでしょうか。
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村上龍
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■ 山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
ツイッターを眺めていたら、前回総選挙時の野田佳彦氏(現首相)の街頭演説の模
様を上手にまとめたYouTube画像の紹介がありました。
( http://www.youtube.com/watch?v=y-oG4PEPeGo&feature=youtube_gdata_player )
マニフェストと消費税について触れた部分が紹介されていて、先ず、書いてあるこ
とは命がけでやり、書いてないことをやるのはおかしいというのがマニフェストであ
り、書いてないことをやるような人はマニフェストを語る資格がない、と言っていま
す。消費税率引き上げに関しては、官僚をシロアリに譬えていて、税金の無駄遣いを
削減してからやらないと、増税した財源にまたシロアリがたかってしまうので、鳩山
党首(当時)が消費税増税は4年間やらないと言っていると、当時の野田氏は強硬に
訴えています。
政治家の考え方が変わることはあって構わないと思うのですが、これだけはっきり
約束と違うことをやるのなら、消費税率引き上げを含む政策パッケージを掲げてもう
一度総選挙をやってから堂々と税率を引き上げるのが民主主義の政治の常道ではない
でしょうか。租税に関しては「代表なくして課税なし」という言葉が有名ですが、代
表が嘘をついた場合は、どうしたらいいのでしょうか。代表を選び直して課税に至る
のが普通でしょう。
また、民主党政権は、前回総選挙時の野田氏が言うように、消費税率引き上げより
も先に、行財政のムダの削減にもっと取り組むべきでした。消費税率の早期引き上げ
に賛成の方でも、この点には少なからず同意されるのではないでしょうか。先日の内
閣改造で、通称「仕分けの女王」こと蓮舫前行政刷新担当大臣がさしたる業績を残せ
ないままクビになりましたが、この経緯は象徴的に見えます。
「社会保障・税一体改革について」(1月6日、閣議報告)とタイトルはついている
ものの、社会保障改革については、たとえば年金については、それこそマニフェスト
で謳っていた新しい年金制度の創設について「国民的な合意に向けた議論や環境整備
を進め、引き続き実現に取り組む」という調子で曖昧な記述にとどまっており、「議
論や環境整備を進め、平成25年の国会に法案を提出する」と書かれています。「一体
改革」というなら、消費税率の引き上げもその時に法案を提出すればいいのに、と思
うところですが、そうはなっていません。一方だけが具体的なものを「一体」と言い
張るのは不誠実です。
今回の一体改革案は、メディア的にはもっぱら消費税率引き上げ案としての側面が
紹介されていますが、日時と数字が入っていて新たに具体的に決定するのは消費税率
引き上げを中心とした税金の話なので、消費税にばかり注目が集まるのも仕方のない
ところです。また、「○○が××の財源になる」という論法は、お金に色が着いてい
ないことを思うと正確なものではありませんが、今回予定されている消費税の増税分
の全てを年金や生活保護などの社会保障費に充当すると決める訳でもありません。
無論、社会保障と税は主として富の移転を扱うものなので、一体で検討すること自
体は妥当です。しかし、社会保障については具体性を欠いているのに、増税案を「一
体改革」という名前で呼ぶことには誤魔化しが含まれています。
さて、地方税分を合わせて平成26年4月に8%、27年10月に10%に消費税率を引き
上げることは妥当なのでしょうか(実施時期については、税率引き上げ前の駆け込み
需要による景気の一時的な改善を選挙の追い風に使いたいという考慮が働いている可
能性を少々感じます)。
消費税率の引き上げについては、(1)増税と(2)税目の中の消費税のウェイト
上昇に分けて考えるべきだと思います。
このうち、増税については、現在デフレが問題で、しかも、日本が直接の震源では
ないとはいえ、欧州をはじめとする海外の景気・金融の問題が片付かないばかりか拡
大も懸念される中で、急いで増税を行うことは不適切ではないかと私は考えます。財
政赤字の拡大・縮小のGDPに与える乗数効果が1に近い小さなものであるとしても、
増税それ自体が物価に対してもたらす効果の方向性はデフレ側でしょう。もちろん、
金融政策の問題も重要ですが、デフレを解消してから(少なくとも消費者物価、GDP
デフレーターが継続的にプラス1%を超えてから)増税するということでいいのでは
ないでしょうか。
財政赤字のグロスの累積赤字額の対GDP比をもっぱら強調して日本政府の財政赤字
縮小が急務だとする向きがありますが、今のところ日本政府の債務は、物価はデフレ、
長期金利でも1%弱と、市場に映る姿を見る限り過剰なまでに信認されています。
「財政再建」よりも、経済的にはデフレ対策が重要でしょうし、政治的には総選挙時
に野田氏が言っていたように、行政の効率化の方が優先されるべき課題でしょう。
他方、税目としての消費税のウェイト増大は、消費税が脱税しにくい税金で、税源
として安定していることなどから考えて、「悪くない」と思います。(注;議論には
影響させていないつもりですが、筆者は個人的には、所得税を上げられるよりも、消
費税を上げて貰った方が得だ、という利害を持っていることを述べておきます)
消費税率の引き上げについて民意を問う場合には、「一体改革」という言葉で暗に
言いたがっているように「社会保障費を削るか・消費税を上げるか?」という選択の
提示の仕方ではなくて、「所得税がいいか、消費税がいいか?」、あるいは「法人税
がいいか、消費税がいいか?」といった選択肢を掲げることが適切なのではないで
しょうか。
また、財政の改革には、歳出の削減ばかりでなく、歳入の効率性・公平性の改善も
重要な課題です。社会保障の背番号と一体化された納税者番号制度を作るなど課税の
効率性・公平性の改善措置を早く導入する必要もあるでしょうし、税金と社会保険料
の徴収を一体化して効率を改善する歳入庁構想も早急に実現すべきです。政治家がた
だの音声付き操り人形でないなら、財務省に対して、消費税率の引き上げと、歳入庁
の創設を「一体」で飲ませるくらいの知恵と胆力を発揮すべきでしょう。
経済的な判断についても私は「今は、増税に反対」ですが、仮に私が消費税率の早
期引き上げに賛成であるとしても、こんな政府は信用できないと思うに十分な社会保
障と税の「一体改革素案」です。社会保障に関してあれこれと項目を羅列してはいる
ものの、現時点での民主党政権の嘘の集大成というべき文章でしょう。
経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
( http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/ )
■ 津田栄 :経済評論家
6日に政府・与党が「社会保障と税の一体改革の素案」を正式決定しましたが、個
人的には違和感を感じています。素案全体は、年金制度だけでなく子ども・子育て支
援、医療・介護、貧困・格差対策、雇用対策など社会保障全般にわたって50ページ
にも及ぶ内容で総合的なものですが、要は今後予想される高齢者社会において現行の
社会保障給付を維持するためにそれに見合う負担として消費税増税を行うが、加えて
所得税・法人税・相続税などの広範囲な増税政策を謳っているからです。
それは、素案全体の構成と表現を見ると、分かります。まず、素案の項目としては
「はじめに」(4ページ)のあと、「社会保障改革」と「税制抜本改革」の二つが
あって、前者が21ページ、後者が25ページ割いて説明していますが、前者の社会
保障改革では具体的な改革内容は6分野19ページ、そのうち一番多いのは医療・介
護ですが、年金についても5ページ割いています。そして、この素案の中心は、割か
れているページが多い税制抜本改革の中の消費税の税率引き上げですが、後半に所得
税のほか広く増税政策をさらりと入れています。
社会保障改革については、どの分野も大半がこれまで厚生労働省が政策として掲げ
てきたことであり、年金については、これまで問題になっていた物価スライド特例分
の解消、第3号被保険者制度の見直しなど、より具体的な項目を掲げて、改革を説明
していますが、社会保障改革の内容としては政策の新規性に乏しく、具体的内容にま
では踏み込まず、「図る」「検討する」「推進する」「取り組む」などの表現で言葉
を濁すとともに、「国会に法案を提出する」と言って、法案提出には責任を持つけれ
ど実現するかどうか分からない、人ごとのような責任のない表現になっています。
しかも、気になることは、改革と称しながら、子ども・子育て支援、医療・介護
サービス、社会保険制度のセーフティネット機能、貧困・格差対策(重層的セーフ
ティネットの構築)などの強化、就労促進・ディーセントワーク(働きがいのある人
間らしい仕事)の実現を挙げて、新たな制度を作ろうとしていることです。これでは、
増税が新たな制度に使われて、何のための増税か分からなくなります。また増税が追
い付かず、さらなる増税につながります。どうも、民主党政府は、改革とは何か制度
や組織を作り、増税により得た資金を使って保障を厚くすることと考えているように
見えます。
それは、この素案とともに資料として厚生労働大臣が提出している(作成は厚生労
働省の官僚でしょうが)「社会保障・税一体改革で目指す将来像」の表題が、「未来
への投資(子ども・子育て支援)の強化と貧困・格差対策の強化」となっていて、増
税で得た資金を、高齢者の年金・医療・介護だけでなく、現役世代の年金・医療・介
護・子育てなど新たな制度にも使うということに表れています。つまり、厚生労働省
として新たな制度の創設で既得権益を得ようとしていることに、民主党政権は手を貸
そうとしているということになります。
後者の税制抜本改革では、メインは、これまで議論してきた消費税増税であること
は疑うところがありません。しかし、気になることとして、一つは、社会保障制度改
革では、先ほども書きましたように、「図る」「検討する」「推進する」「取り組む」
などの表現を使い、「国会に法案を提出する」という表現にとどめて、実現するか不
透明な一方、消費税増税は、具体的に「2014年4月1日より8%へ、2015年
10月1日より10%へ段階的に引き上げを行う」と断定的に宣言していることから、
改革実施では曖昧な面を残しながら消費税増税の負担は確実に行うという政府・民主
党の改革と税における責任の落差です。このままでは社会保障改革は進まず、消費税
増税だけが確実に行われる恐れがあります。
もう一つは、マスメディアの報道が不明確なのか、政府の説明が不十分なのか、そ
れとも受け取っている私が悪いのか分かりませんが、これまでの「社会保障と税の一
体改革」の議論は、本来社会保障改革に合わせて、今後増えてくる給付に必要な財源
をどうするかということで消費税を引き上げてそれに充てるということが中心だった
はずですし、確かに消費税増税は社会保障関係に限定するとしています。しかし、税
の改革は、素案を見ると、所得税や法人税、相続税などの直接税の引き上げ、金融所
得課税の軽減措置の廃止、共通番号制度の導入など、社会保障改革とは別に財政再建
に向けた全般的な増税をも含めています。
ということは、この素案は、財政再建に向けた増税が、実はメインで、その一環と
して財政赤字の増大につながっている社会保障関係費をいかに抑えるかという社会保
障改革を付随的に付けたものともいえます。もちろん、財政再建に向けた改革は避け
て通れません。そこで重要なのは、経済成長と歳出・歳入の一体改革であるはずです
が、今回は、経済成長は横において、歳入改革で増税だけはしっかり押さえて、歳出
改革は国民の注目の社会保障に焦点を絞り、その他は省庁の抵抗が強くあまり触れな
かっただけでなく、厚生労働省の出した社会保障改革はむしろ新たな制度や仕組みを
作るなどして改革とは真逆な無駄を生む方向になっているという見方もできます。
また、この素案でも、歳出改革の一環として「政治改革・行政改革への取組」が書
かれていますが、半ページにすぎず、「衆議院議員定数を80削減する法案等を早期
に国会に提出し、成立を図る」、行政構造改革の「所要の法案を早期に提出し、成立
を図る」、「給与臨時特例法案及び国家公務員制度関連法案の早期成立を図る」など、
消費税増税と違って期限を設けず努力目標としてしか説明しておらず、付け足しただ
けという印象です。つまり、政治家も官僚も、自分たちの痛みになることを避ける点
で共通しており、歳出改革にはあまり積極的になっていないともいえましょう。
歳出がここにきて増えたのは、民主党政権が成立してからであり、その額が10兆
円近くなのですが、それはマニフェストでやるとしていた歳出改革をせずにバラマキ
政策をしてきた結果であり、それがまた各省庁の既得権益の維持拡大につながってい
ます。そう考えると、最近の急激な財政赤字の拡大は、社会主義的政策志向の強い民
主党と社会主義的思考をする官僚の間で既得権益として共有した結果であり、そこか
ら、その歳出を見直し、改革をすれば、問題解決の一歩になるはずです。
しかし、民主党も官僚も、歳出改革をしないで、既得権益を維持しようとする点で
共通していて、増えていく財政赤字を増税で埋めるという選択で乗り切ろうとしたこ
とが、この「社会保障と税の一体改革の素案」になったといえましょう。その意味で、
この素案は、経済成長と歳出・歳入改革という根本的な改革ではなく、社会保障改革
に名を借りた増税政策といえましょう。そして、このまま経済成長も描かず歳出改革
なしに進めば、底に穴のあいたバケツに税金をつぎ込むように、いずれ税収が足らず、
財政赤字が減るどころか増えて、再び増税の道を歩むことになるのではないでしょう
か。
最後に、今回の素案で三つほど気付いたことですが、一つは、この素案の表題とし
て「安心で希望と誇りが持てる社会の実現を目指して」と掲げていますが、若い学生
や社会人と話していると、今さえ所得が低く不安で希望が持てないのに、今後増税を
すれば老後に至る前に生活ができず希望どころか絶望になるかもしれないという不安
を感じていることです。そして、多くの若い人たちは所得が低いために結婚に踏み切
れない現実を見ると、増税が一段と結婚・子育てを難しくするだけでなく年金をも危
うくするかもしれず、むしろ今の現状を変えて、若い人たちに安心と希望と誇りと夢
を与えるような政策が必要なのではないかと思います。
二つ目は、先日ドイツからの留学生と話す機会がありましたが、ドイツでは消費税
が19%(食料品は7%)で日本と比較して高いのですが、実際は食料品では現行の
5%の日本のほうが高く感じると言っていました。それは、食料品の価格が水準的に
高いことからきているのですが、ここに経済の構造的な問題があって、それを改革し
ない限り、消費税増税は他国と比較して低いと言っても国民には他国以上に負担が重
いのではないでしょうか。それに、他国が食料品に軽減税率をかけているのに、日本
ができない理由も理解できないところです。結局、経済の構造改革もしたくないし、
国民が困っても財務省にとって楽な単一の税率で取れるだけ税金を取ろうとするお上
意識の姿勢が消えていないのかもしれません。
最後に、政府・与党が発表する政策について、いつも疑問を感じるのですが、それ
は発表される内容が自分たちの言葉で書いているのかということです。どれを見ても、
理路整然としていますが、そこは官僚が考え、官僚言葉で自分の都合のいい内容で書
いたものであるためで、それに政府閣僚や与党幹部が了承したものといえます。それ
では、首相・大臣、政治家が自分の言葉で書いていないために、国民の心に響かない
のではないかと思います。今回も、そうしたことがうかがえ、国民は、野田首相が不
退転の決意でやり遂げると言っても、どこか別の世界のように空疎に聞こえているの
ではないでしょうか。
経済評論家:津田栄
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