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吉田繁治 <第258 新年特別号:デ・レバレッジ動乱の2012年への展望>底値で買えば支配できる
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/633.html
投稿者 ts 日時 2012 年 1 月 11 日 22:40:48: kUFLMxTYoFY0M
 

 著者への感想等    ⇒ yoshida@cool-knowledge.com
HP:http://www.cool-knowledge.com/ 読者数:44,304
 著者:Systems Research Ltd. Consultant 吉田繁治
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あけまして、おめでとうございます。西高東低の気圧のため大陸か
らの風が強く、寒い日や雪が続いています。いかがお過ごしでしょ
うか。見事な正月晴もありますが、外を歩くと、気温は低い。

恒例の金融・経済のマクロ予測です。正月の新聞を見ても、毎年の、
株価予想や通貨の予想をあまり見かけません。テレビの経済討論も、
なぜか少ない。消費税増税((注)成立しません)のことばかり言
われています。

予想しきれないのか、あるいは予想すれば、大変なのか。こうした
時こそ、論理的な予測の価値があるはずですが・・・本稿は、新年
の有料版として1月4日に、送ったものです。今年も、よろしくお願
いします。(注)原稿は23ページです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

<第258 新年特別号:デ・レバレッジ動乱の2012年への展望>
2012年1月6日

【目次】
1.米欧の金融危機の始まりから
2.中央銀行のマネー印刷が、インフレを招いていない理由
3.ホルムズ海峡の、封鎖の可能性
4.世界の中央銀行の信用増加、言い換えればマネー印刷
5.米ドルより、ユーロが下がっている理由:そして円
6.10年スパンでのデ・レバレッジの時代に向かう
【後記】在庫欠品のお詫び

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■1.米欧の金融危機の始まりから

【住宅ローン証券の暴落】
始まりは、08年に露呈した米欧の住宅ローン証券の下落でした。米
国の住宅ローンは$11兆(880兆円)と、米国債($14.3兆:
1144兆円)並みに大きい。(注)日本では約200兆円であり、米国
の18%しかありません。

2000年代に、2倍以上に高騰していた米国の住宅価格(全米平均で
は3000万円くらい。都市部平均は5000万円。)が、90年代の平均価
格だった1500万円に向かい下がったのです。下落は欧州も同じです。

原因は、「ローンを払えないくらい高くなった」ため、買い手が、
1/4くらいに減ったからです(新築分)。ピーク時では1年に200万
戸もあった新築が、今、60万戸台です。(注)2011年11月は年間換
算ベースで68万1000戸です。(US Census)
http://www.census.gov/construction/nrc/pdf/newresconst.pdf

【米欧の、住宅ローン制度】
米国の住宅ローン制度では、買った人ではなく、住宅にローンをつ
けます。ローンを借りた人は、買った住宅を手放せば、ローンの支
払いから解放されます。

住宅を売っても、自己破産しない限り、どこまでも返済義務が追っ
てくる日本の住宅ローンとは異なります。このローンの制度は、
1929年からの大恐慌のため住宅価格が、2008年からのように暴落し
たとき、世帯の生活支援策として法制化されています。

1929年からの大恐慌は、通説では、ルーズベルト大統領のニュー・
ディール政策(国債を発行した公共事業)で解決したとされていま
すが、実態では異なります。

世界恐慌はほぼ10年続き、結局、第二次世界大戦(戦時国債の大量
発行)に突入したのです。戦争は、政府支出(軍事費)を増やし、
工場生産を上げ、軍隊が雇用する失業対策でもあります。

住宅に貸すローンの制度のため、高い住宅を買って返せない人は、
わが国に比べれば、容易に住宅を手放します。残るのが不良化した
ローン債権です。わが国での住宅価格の下落は、買った世帯の損に
なっています。米欧の制度では、金融機関に損が集中します。

【デリバティブの下落】
住宅ローンの回収権(元本の返済金+ローン金利)を担保にして
「証券化」したデリバティブ(MBSやRMBS)は、市場価値が下がっ
て暴落します。

00年代の金融は、ローンの回収権を担保にする「証券化(=デリバ
ティブ化)」です。MBS(不動産ローン証券)やRMBS(住宅ローン
証券)、および他の債権と複合化したABS(債権担保の証券)は、
内外の金融機関や年金基金が、投資資産として保有しています。

米欧の金融は、直接に融資するより、いろんな債権の証券化、証券
の売買、回収の保証(CDS)をする機関に、2000年代で変質してし
まったのです。(注)日本の金融機関も、増加預金では、国債しか
買っていません。

このため金融機関には未実現の含み損がたまり、信用危機が起こる。
まず銀行間のコール・ローン市場(短期の貸し借り)の消滅になり
ます。お互いが内心では相手の資産に疑念を持っているからです。

(注)公表される健全なバランス・シートは含み損を隠したオリン
パスのように、不良債券をタックス・ヘイブンに飛ばした嘘です。
08年9月以降の3年余、日本を含む世界の金融機関のバランス・シー
トはまるで信用できません。株式市場での金融株の暴落(日本では
野村證券やみずほ銀行)がこの事実を示しています。同様に、米国
ではシティバンク、バンカメ、ゴールドマン・サックス、JPモルガ
ンスタンレー等、欧州では主要20行が、程度の差はあっても債務危
機の状態を続けています。株価と、社債のCDSの料率を見れば、危
機が分かるのです。

【中央銀行のマネー印刷】
銀行間でコール・ローンから排除された銀行は、翌週には決済がで
きなくなります。このとき中央銀行は、システミックなリスク(連
鎖破産)を防ぐ目的で、緊急貸付を行い、不良化した債券(住宅
ローン証券等)を額面で買い取ります。

連鎖破産(数日で起こる)が起これば信用恐慌であり、マネーが必
要な経済取引(投資と購買)は急減するからです。

時価で買わない理由は、市場の時価(たとえば40%の価格)で買う
と、60%が銀行の実現損になるからです。簿価で買えば銀行の不良
債券が、中央銀行に移転します。中央銀行の信用が低下すると、そ
の通貨は外為市場で売られ、通貨信用が下がって行きます。(注)
ドルとユーロの下落、代わりに買われた円の高騰がこれです。

AAA格(米国債並の信用度)とされていた住宅ローン証券(MBS)の
価格は、2011年の年初には、額面の60%の価格でした。2011年12月
には、43%に下がっています(FT紙)。住宅価格の下落と期を一に
するのが、住宅ローン証券の価格です。

43%は、英国を含む欧州の金融機関がもつMBSの価格統計(FT紙:
11.12.21)ですが、欧州と米国の住宅の下落率は類似しているの
で、米国の住宅ローン証券も同率で下がっているはずです。

2011年はPIIGSの国債価格の下落が問題視されていました。もっと
大きなものが、米欧で同時の住宅の下落によるローン証券の不良化
です。PIIGS債は住宅ローン証券の損に(すこしだけ)加わったも
のです。

(注)政府やエコノミストの多くはPIIGS債にまぎれ、住宅ローン
証券問題への言及を避けています。理由は米欧の銀行の「同時危
機」が明白になるからです。ユーロ債を売らせ、米ドル債を買わせ
るのが目的なのかも知れません。

【総損失の推計額:1000兆円】
推計では、米国での住宅ローンの市場価値(流通価格)は、$11兆
×43%=$4.7兆(376兆円)に下がり、欧州でのローンの価値も
ほぼ同額で、$11兆×43%=$4.7兆(376兆円)に下落している
はずです。

銀行資産に対しては、含み損を計上する時価会計は停止されている
ので(政府規制)、金融機関が抱えている間、この損が露呈しませ
ん。

金融機関の資産の中に空いた、マネーを飲み込むブラック・ホール
のような巨大損です。(注)日本の農林中金も、米国のMBSで5兆円
の損を被っています。

・米国の住宅ローンで推計$6.3兆(500兆円)、
・欧州の住宅ローンで推計$6.3兆(500兆円)、合計で1000兆円
もの、不良債券が想定できます。

事実は、未だに明らかされていません。大きな利益回復での資本蓄
積か、政府による増資(または国有化)しか対策がないためです。
利益回復は、住宅と商業用不動産価格の値上がりがないと、生じま
せん。このため銀行危機は、最短でも5年と長引く性格を持ちます。

【住宅が上がる時期にならないと、1000兆円の不良債券は減らない


ローンで生じた不良債券は、住宅価格が上昇しない限り、少なくな
らない。2011年も増え、2012年にも増え続けます。2012年での、米
欧の住宅価格の回復は、見込めないからです。

予想すればベビーブーマー・ジュニア世代が住宅を買う時期(数年
後)までは、底打ちしない。数年後に底打ちしても、住宅価格が、
ふたたび年率5〜10%で上がることは、ないのです。

理由は、失業が10%レベルで住宅を初めて買う米欧の30歳代の賃金
が、日本と同様に上がっていないからです。買う人の所得が増えな
いと、買う住宅の価格も上がらない。将来所得の増加が見込めない
と、住宅も買われません。

親のベビー・ブーマー世代は60歳を超え、住宅を買う世代ではない。
年金が生活費に約5万円足りないので、貯蓄を取り崩す世代になる
からです。

(注)日本では、65歳以上の世代は一ヶ月に5万円(年間で60万
円)の貯金をくずし、厚生年金(一ヶ月平均16万円)では足りない
分を生活費として補っています。世界に共通することです。

参考に言えば、日本の60歳代世帯の金融資産は2377万円で、ローン
負債が252万円です。純金融資産は2127万円です。70歳代は、116万
円の負債を引いた純金融資産が2401万円です。

他方で30歳代の金融資産は、ローンのためマイナスです。(総務省
家計調査:2011年)

【銀行の破産が避けられている理由】
米欧のほぼ全部の金融機関が倒産を免れているのは、米欧の政府と
中央銀行が、銀行の決済に必要な資金を、貸しているからです。
(注)銀行の破産は、証券の持ち合いのため、連鎖します。

下落した住宅ローン証券を、資金繰りに困った銀行から、額面(簿
価)で買い取りもしています。

米国の住宅金融(ファニーメイとフレディマック)は、住宅ローン
を買い取って、証券化して価格を保証し、売却するものでした。
2007年と08年の保証損のため破産し、政府資本に変わっています。

このため、米国の住宅ローン($11兆)は、政府が保証すべき国債
と同等の負担を、米国政府にもたらしています。(注)政府保証を
はずせば、一瞬で、住宅ローンの流通市場は消えてほぼ全部の金融
機関が同時破産します(断言)。

【加わったPIIGS債の下落】
2010年からは、住宅ローン証券の下落損(1000兆円)に、PIIGS債
の下落損(推計150兆円)が加わっています。これらは、今は「含
み損」です。含み損は、1年、2年、3年と経過するごとに、実現損
になって行きます。

欧州の銀行(主要21行)に対し、監督官庁が行った2011年夏のスト
レス・テスト(資産査定)では、担当が「本当のことは言えない。
言わない。」と漏らしています。

◎本稿で推計したように、本当の損失額を言えないくらい大きすぎ
るからです。あたかも氷山にぶつかる前の、タイタニック号。当時
はなかった本当の計器は、氷山を示していますが見ていないふりを
し、ダンスに興じる・・・

PIIGS債に対しては、米国の銀行も、約100兆円のCDS(保証保険)
を引き受けています。米欧の銀行は、同じ泥船の一蓮托生です。

【結局は国有化】
最終的には(2012年末からか)、主要金融機関は、原発事故で生じ
た損害(数兆円)をカバーできない東電のように、資金不足のため、
国有化(国家が損失を補填)されるはずです。

しかし国家財政も赤字です。その資金は、赤字国債の発行によるも
のです。金融市場は、これを引きうけきれないので、中央銀行によ
る、国債の買い取り(マネー発行)になるでしょう。

■2.中央銀行のマネー印刷が、インフレを招いていない理由

中央銀行が政府の赤字国債を買い取ってマネー供給をすれば、イン
フレが想定されます。

【ハイパー・インフレはない】
しかしハイパー・インフレにはならない。対策金は金融機関が被っ
た損失を埋めるものであり、民間のマネー・サプライ(マネー・ス
トックとも言う)の増加にはならないからです。

不動産と株バブルの崩壊の後、7年目の1997年から金融危機になっ
た日本のように、金融機関が抱えた不良化した貸出金と、下落した
不良債券を埋めるものだからです。

金融機関の損失危機がない平常時なら、中央銀行のマネー印刷は、
銀行の現金を増やし現金が貸されて銀行システムによるレバレッジ
のかかった「信用創造」になり、その結果マネー・ストックを増や
します。

つまり民間の金融資産の総金額が増える。増えたマネーは経済取引
(投資と購買)を増やして、物価をあげることにもなります。

借入金の増加分は、借りた人の口座に現金が振り込まれるため、金
融資産の増加になったように見えます。その現金が使われると、次
は、その現金を受け取った人の預金になる。この「負債の無限連
鎖」が、銀行システムでの「信用創造」です。つまりマネー・スト
ックの増加です。

中央銀行が国債を買い、たとえば10兆円のマネー供給を増やすと、
それを借りる銀行の準備率(銀行の金庫に残す金額の率)が健全な
時期の5%なら、[10兆円÷準備率5%=200兆円]のマネー・スト
ックを負債の連鎖で増やすのです。

準備率が金融引き締め期の10%でも、マネー・ストックは100兆円
に膨らみます。銀行が始まってからの金融である「準備預金制度」
は、信用量(=マネー量)を、その乗数で増やすスレバレッジです。
このため、普通の時期は、インフレが恒常化しています。

◎現在のように銀行が不良債権をもつときは、損失の補填に使われ
るため、中央銀行がマネーを刷っても、連鎖でのレバレッジが働き
ません。このため、2000年代からの日本のように、マネー・ストッ
クが増えない。

マネー・ストックの増減とGDP(経済取引量)の増減、および物
価・資産の騰落の原理を示すのが、以下のフィシャー等式です。

M(マネー・ストックの金額)×V(マネー・ストックの回転率)
=P(物価と資産の上昇率)×T(実質GDPの成長率)

(注)現在は、金融のグローバル化での「キャピタル・フライト
(海外へのマネーの逃避)」もあります。ある国の中央銀行が国債
を買い、マネーを増加印刷するようになると、その通貨の価値下落
を恐れたマネーが海外の債券を買うので、ユーロやドルのように通
貨が下落します。

このため、中央銀行の国債を買いも、単純には、インフレを生みま
せん。国内のマネー・ストックの増加にならないからです。

日本のマネー・ストックは、2011年11月で1457兆円です。日銀の、
国債購入、マネー印刷の増加、ゼロ金利策にもかかわらず、2000年
代は、ほとんど増えていません。

マネー・ストックとは世帯、企業、自治体が、国内の金融機関にも
つ金融資産の保有額と理解していいでしょう。マネー・ストックが
名目金額で増えないと、インフレは起こりません。
http://www.boj.or.jp/statistics/money/ms/ms1111.pdf

■3.ホルムズ海峡の、封鎖の可能性

イスラエルを地図上から消すと言いながら、核兵器を開発している
イランの原発に(ロシアが支援:ミサイルは北朝鮮)、イスラエル
が空爆を仕掛けると「大変」です。

原油を運ぶタンカーが頻繁に通る狭いホルムズ海峡に、大型タン
カーを一隻でも沈めると、サウジ・アラビア、イラク、クウェート、
アラブ首長国連邦からの、日本を含む世界への原油輸送が、最短で
も6ヶ月間は、途絶えます。沈没したタンカーを、引き上げねばな
らないからです。

ホルムズ海峡は、1隻でもタンカーが没めば原油の輸送船が通れな
くなるくらい浅く、幅40キロメートルと狭い。最大水深は190メー
トルしかないのです。

米欧は、イランの核兵器開発をとめる目的で原油輸入に制裁金を課
す経済封鎖を敷こうとしています。日本でも、米欧からの経済封鎖
が、太平洋戦争の原因でした。

報復として、イランは2012年1月3日に、ホルムズ海峡の海上封鎖を
ちらつかせています。タンカーに、大砲を向けるという意味です。
ラヒミ副大統領は、「原油輸出に制裁金を課せば、一滴の原油も、
ホルムズ海峡を通さない」という。

2012年にイスラエル・イラン戦争が起これば(紛争でも)、即日に、
第4次石油危機になり、資源・穀物、金属、金は高騰します。

ゴールドも原油価格と同期して上がり同期して下がります。この可
能性も高い。そうなると、世界インフレでしょう。

銀行の不良債券を減らし、政府国債の実質負担を減らすインフレは、
金融機関と政府にとって普通は歓迎でしょう。インフレは、金融資
産の価値と、負債の価値を減らすからです。

◎ただし、現在は、国債の発行残高が、世界で5000兆円規模(世界
のGDPの100%)と大きい。それは、金融機関が保有しています。た
とえば、世界が5%の物価インフレになると、金融市場での「期待
インフレ率」も5%に上がります。期待インフレ率は、金融市場の
参加者が、物価の将来上昇を予想して抱く金利率です。政府の政策
金利とは異なります。

こうなると、国債価格(10年債)は、15〜20%は下落しますから、
世界の銀行危機は救われないでしょう。

いまはの時期の、イランの経済封鎖の動きは、イランに「ホルムズ
海峡の封鎖」を迫るものです。インフレを起こしたい政府・金融機
関の一派が、導出したものかも知れません(推測)。

2001年の陰謀めいて禍々(まがまが)しい「9.11」の後の、2003
年のイラク戦争の名目は「フセインが大量破壊兵器を製造してい
る」という嘘でした。これはもう、明らかになったことです。

(注)イラクの大量破壊兵器(化学兵器)の一部が、独裁者カダフ
ィのリビアにあったと報じられてはいます。金正日総書記が亡くな
った北朝鮮でも、核兵器と核弾頭ミサイルは確認されています。今
のところ軍部の内部対立による暴発はないと思えます。怖いのは、
弾道ミサイル(テポドン)の誤射による、日本海の原発の破壊です。

「イランが核兵器を開発している」ことは、米欧が、イランの制裁
を仕掛ける名目になり得ます。イランのバックはロシアで、ロシア
は、表面には出ないかも知れませんが、原油高騰で利益を得ます。

ロシアの原油輸出は$2063億(16.4兆円)です。1位のサウジアラ
ビア($2155億:17.2兆円)とほぼ同じ大きさです(2010年)。
ロシアの原油生産は、国有化されています。原油の高騰は、ロシア
政府の直接の収入になるのです。プーチン政権は、現在、政府収入
に困窮しています。

米英系メディア(CNNやBBC)に比べ、わが国のマスコミの報道は少な
いのですが、中東は戦争の危機に向かっています。

■4.世界の中央銀行の信用増加、言い換えればマネー印刷

08年9月からの米国発の金融危機のあと、銀行の不良債券を埋める
目的で、まず米国、つぎに欧州(ユーロ17ヵ国)と英国、そして日
銀の合計信用が$8.3兆(640兆円)になり、それ以前の2倍に増加
しています。

中央銀行の信用の増加は、銀行がもつ不良債券と、政府が発行した
国債を買い上げ、その代金として金融機関の当座預金に現金を振り
こむことです。

マネーはデジタル化しているので紙幣は印刷しませんが、紙幣印刷
と同じです。日・米・欧・英で、320兆円の紙幣増発があったとい
うことです。

これは中央銀行が、3年間で320兆円の負債を増やしたことなのです
が、なぜか「信用の増加」と言う。実態は、中央銀行の信用の価値
は、減少しているのです。政府が発行する負債の証券は国債ですが、
国債増発を、政府信用の増加とは言わないでしょう?。

本義に戻ってクレジット(=負債)の増加と言えば、分かりやすい
でしょう。クレジットを翻訳するとき、逆の意味に取られる「信
用」という訳語を当てたのは、日本政府でしょう。

たとえば企業の信用増加とは利益が上がることです。しかし、中央
銀行の信用増加は、マネー印刷の増加、つまり中央銀行が発行する、
国民経済に対する負債証券(これが紙幣)の増加です。この証拠に、
中央銀行のバランス・シートでは、紙幣の発行額は負債勘定です。
資産ではない。

1万円札をもつひとは、日銀に1万円を貸していると言っていい。日
銀の窓口に返してくれともっていっても、何も返しません。1万円
の新札を渡されるだけです。これが、1971年の金・ドル交換停止以
後の紙幣です。

円は、直接に金には交換できませんでしたが、米ドルに換えてFRB
にもって行けば、$35を1オンス(31.1グラム)の金と交換できて
いたのです。

1944年からの金の交換価格は1グラム換算で、ほぼ1ドルでした。1
ドル金貨に相当します。これが1944年から1971年まで続いた金を
ベースにした「ブレトン・ウッズ体制」でした。

(注)通説では誤って金本位制と言われますが、金本位制ではあり
ません。発行するマネーは、金を担保にはしますが、金の準備率は
10%以下で、90%以上は金ETF(金の上場投信)のような証券
(ペーパー・マネー)だからです。金本位は、ペーパーではなく1
両小判のように、金貨を通貨として使うことを言います。

今は1グラムで4200円付近ですから(12.1.03)、ドルで言えば$
54です。米ドルという負債性の通貨の価値は、負債性ではないゴー
ルドに対し、40年で1/54(=1.85%)に下落しています。

年率平均では1年に9.5%という大きなドル価値(購買力)の低下
と見ることができます。

(注)2000年代のゴールドは、徐々に「ドルの反通貨」と認識され
るようになっています。新興国の中央銀行が買っています。金価格
が下がるのは、ヘッジ・ファンドが資金繰りに困って売り、ドルに
換えてドルが上がったときです。

どんな形になっているか一例として、単純化したFRBを見ます。
最新の2011年12月28日時点で、原本はFRBが公開しています。
http://www.federalreserve.gov/releases/h41/current/

【資産】 【負債】
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
米国債 $1.7兆 ドル紙幣の発行 $1.1兆
財務省証券 $0.1兆 銀行の当座預金 $0.2兆
MBS(不良債券)$0.8兆 7つの連銀からの借り入れ
その他資産 $0.3兆 $1.5兆
その他負債 $0.1兆
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
資産合計 $2.9兆 負債合計 $2.9兆(232兆円)

リーマンショック前の08年8月は、FRBの総資産・総負債は、$1兆
付近(80兆円)でした。152兆円のドルの増加発行があったことに
なります。FRBの総信用は、金融危機前の3倍で、欧州ECBの2.6倍
を超えています。

(注)FRBバランス・シートの数字は、負債を少なくした粉飾では
ないかと疑っています。実態は、もっとある感じがするからです。

FRBの特徴は、国債や証券の「保護預かり勘定(カカストディとい
う)」です。custodyの原義は、法的な拘禁、拘置、監禁です。

米国は海外に売った国債等の現物を渡していません。日本政府や中
国政府がもつ米国債(外貨準備)や、金融機関が買った米国債やド
ル証券は、「FRBが預かっている」ことになっています。

このため日本や中国は米国債を市場で売りにくいのでしょう。FRB
が「やめてくれ」というからです。FRBは世界の中央銀行の親玉で
もあります。

【FRBの保護預かり勘定:メモ欄】
海外政府がもつドル証券(住宅証券を含む)$3.4兆
米国債の保護預かり $2.7兆
米国財務省証券 $0.7兆
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
保護預かり合計 $7.8兆(624兆円)
http://www.federalreserve.gov/releases/h41/current/

保護預かり勘定も、たぶん(全部ではなくとも)、預かりと言いな
がら、FRBが買い取ってドル紙幣を発行しているのではないかと、
考えています。

いずれにせよ、日米欧英の中央銀行は、信用拡大といいながら、負
債を急増させています。

(注)08年9月以降は、日銀の信用拡大量がもっとも少ない。2011
年12月22日時点で、総資産・負債は141兆円です。金融危機の前の
08年8月は109兆円でした。32兆円の増加発行しかしていません。
(↓11年12月:141兆円 ) これが、円高の原因です。
http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2011/ac111220.htm/
(↓08年8月:109兆円)
http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2008/ac080810.htm/

日銀が信用拡大を全開にしたのは、1997年の金融危機から2000年ま
ででした。その後は11年間で上記の30兆円程度でしかない。理由は、
これ以上国債を買い上げ通貨を増発すれば、外為市場で円が売られ、
円の信用下落になると思っているからでしょう。

この点は欧州のECB(ユーロの中央銀行)も同じです。08年9月の米国
発の金融危機が、欧州銀行の債券の下落に波及したため、FRBに準
じて通貨増発を行っています。

欧州中央銀行(ECB)の総資産・負債は、$3.2兆(256兆円)に膨
らんでいます。金融危機の前の2.6倍です。(ECB 2011年11月)
http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2008/ac080810.htm/

ECBの信用拡大は、先に述べた住宅証券の下落(推計500兆円)と、
PIIGS債の下落(推計150兆円)のほぼ50%(575兆円)が、欧州の
銀行の不良債券になっているからです。(注)この損害数値(含み
損)も、まだ、明らかにされていません。

銀行に対しては、毎週、毎月の決済に不足するマネーを、その都度、
ECBが住宅の不良債券と国債の買い上げという形で、貸し付けてい
ます。

PIIGS債では、2012年1月〜3月の第一四半期に過去の国債で償還の
満期が来る分が、15兆円もあります。ギリシア、ポルドガル、アイ
ルランド、イタリア、スペインが15兆円の借り換え債を、新規に発
行しても、買い手はない。金利が高騰し、PIIGS債は、更に下落し
ます。(注)ユーロ国債全体では3か月で25兆円が満期。

借り換え債が発行できないと、PIIGS債はデフォルトします。満期
が来た国債の償還と利払いができないことです。2012年1月〜3月の
PIIGS債の買い手は、ECBしかないでしょう。

中央銀行のECBが価値の下がったPIIGSの借り換え債を買い取れば、
不良債券がECBに移転して資産内容が悪化するため、ユーロが売ら
れているのです。

これが新年の1ユーロが100円を割れ98.6円(12年1月5日)に下落
した原因です。原因はユーロ債の売りです。通貨相場は、ほぼ3ヶ
月先を見て動きます(通貨先物の売買)。(注)同じユーロ建てで
すから、ドイツ債とフランス債も円やドルから見れば、下がってい
ます。

通貨の下落は、その国からマネーが脱出することでもあります。
ユーロ債売りで円債買いなら、ユーロ内のマネーが円に脱出したこ
とになる。

中央銀行がユーロを印刷しても、ユーロの民間経済の、マネー・ス
トックの増加にはならないのです。逆にユーロ内のマネー・ストッ
クが、マネーの脱出のため、国外に逃げてしまう。これが、1980年
までの、外貨の売買が規制されていた時代との違いです。

世界の1日での為替取引(外貨の交換)は、500兆円規模と巨大です。
円とドル間だけでも、58兆円(11.6%のシェア)です。中央銀行
がマネーの増発をすることは金利を下げることでもあり、外為市場
では、「その通貨の価値の下落」と認識されるように変わっていま
す。

ECBが、市場で売れないPIIGS債を買い取れば、ユーロ債の持ち手は
怖くなって売り、ドル債や円債を買うのです。これがユーロの下落
です。(注)市場の連れ買いで、ドルのように通貨が上がる時期も
あります。

◎こうしたマネー脱出によって、中央銀行のマネー印刷の効果が、
減殺されます。中央銀行のマネーの増発額以上に、瞬間に、マネー
脱出が起こると考えておいていいでしょう。

根にあるのは、1秒で3000回売買できるロボット・トレーディング
です。普通ロボット・トレーディングのプログラムは、下げが下げ
を加速する構造になっています。

外為市場(ほぼ25%)、国債市場(ほぼ50%)、株式市場(ほぼ
60%)は、同時にロボット・トレーディングの時代です。レバレッ
ジ、先物、オプション、デリバティブ、そしてロボット・トレーデ
ィングの、6重奏です。罫線を見て売買する現物取引の時代とは、
まるで変わっています。

変動相場で外為市場が大きくなった後の金融・経済モデルを示す
「マンデル・フレミングモデル」は、中央銀行が、金利を下げ、量
的緩和もして信用を拡大すれば、そのマネーが、巨大化した外為市
場で売られて通貨が下がる。通貨が下がれば、いずれ、その国の輸
出が増え、経済は回復に向かう。このため、金融緩和や量的拡大に
よる経済効果はあるとしています。

(注)変動相場の中での国債発行による政府財政の拡大は、その国
の金利が上昇し、金利が高い通貨は、金利が低い通貨から買われ、
通貨が上がるため輸出が減って、景気浮揚の効果がないとしたのも
「マンデル・フレミングモデル」でした。1990年代の、政府財政の
毎年40円の拡大(公共事業)がありつつも円高だった日本がこれに
該当します。

しかし上記の中央銀行の信用拡大の効果は、普通の経済の時です
(平常時)。金融危機の非常時には、これが言えない。

不良債券で銀行の損失が大きな時期には、信用拡大で印刷したマ
ネーが逃げてしまい、通貨と債券が下落するので、金融危機は却
(かえ)って深まってしまうからです。

中央銀行と政府が、マネー政策として頼拠(らいきょ)しているよ
うに見えるマンデル・フレミングモデルは、銀行の不良債券が巨大
化した経済を、見落としています。

■5.米ドルより、ユーロが下がっている理由:そして円

円を基準として見たとき、2011年での米ドルは、11年4月の高値85
円付近から12年1月3日の75.6円まで、11%の下落です。

他方でユーロは11年4月の120円付近から、1月5日は98.6円です。
18%の下落です。米ドルよりユーロが下がった理由は、米ドルには
まだ日本、中国、新興国からの買いがあるためです。

たとえば日本政府は、円高対策として、11年11月に(効果がなかっ
た)4.5兆円の、緊急のドル買いをしています。中国も、ユーロ債
を売って、ドル債に振り替えています。元高は、中国の輸出にとっ
て困るからです。

円債は、ユーロ債、ドル債の代わりに、買われています。前稿で取
り上げましたが(<回顧と展望:570号:111228>)、2011年6月か
ら11月の半年で、円国債(主は3ヶ月内満期の短期債)が、合計で
72.2兆円もが、外国人から買い越されています。

▼日本の長短公社債の、売買金額:投資家別概算(再掲)
(注)プラスは買い超、マイナスは売り超

2011年6月 7月 8月 9月 10月 11月 半年計
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
銀行等 17.5 13.1 12.1 18.2 8.0 15.8 84.7兆円
投信等 3.7 3.2 2.7 2.4 2.8 3.3 18.1兆円
外国人 8.1 11.3 17.4 9.7 11.0 14.3 72.2兆円
政府等 -24.5 -27.1 -34.6 -26.3 -23.1 -28.7 -163.9兆円
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(注1)主要な主体のみの概算合計のため、売買の総計はゼロにな
っていない。
(注2)銀行等は、日本の都銀・地銀、信託銀、農林系、第二地銀、
信用金庫、生損保の合計売買額を示す
(注3)投信等は、日本の投資信託、官公庁の共済組合、事業法人
の合計。個人の売買額は、無視できるくらい小さい。
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-LWH73V1A74GR01.html

2011年の異常な金額に思える外人による円債買いが、日本の国債金
利を下げ、円高をもたらした原因です。

外人の日本国債買いは国内の金融機関のような「長期保有」ではな
い。短期債の短期売買です。たとえば3ヶ月債は、発行の3ヶ月後に
は、日本政府が、円で償還せねばならない。

外人投資家(主体は、ヘッジ・ファンドと新興国の中央銀行)の買
いは、市場で売らずとも、買って3ヶ月間保有すれば、円での償還
があるため、外為市場で円が売られたのと同じことになるのです。

2012年は、いつまで、この外人の円国債の買い超が続くか?

6ヶ月で買い超してきた72兆円の短期国債を、
・そのままにしておくか(円が償還される)、
・あるいは売り超に転じれば、どうなるか?

72兆円分の、外人から売られる短期国債を、国内の金融機関が増加
買いすることは不可能です。財政の赤字で新規に発行される国債の
引き受けが、ほぼ50兆円はあるからです。日銀の、緊急買い受けに
なるでしょう。

円高は、経済界(経団連)の願望通り、そのとき終了します。

◎ところが、円高が終わった時は、今度は、ちょうど今のユーロの
ように、円国債の価格に下落が起こります。円高の終了は、円が海
外流出することだからです。(注)「円債売り→ドル債買い」にな
るでしょう。

日本の政府財政は、2011年中にほぼ100兆円分も買い越された円国
債が外人から売られれば、期待金利がわずか2%上がっただけで、
既発国債(約1000兆円)が10%は下がります。

低金利の国債は、国債価格の過剰評価、つまり、国債の価格バブル
を生むのです。バブルは、金利が正常化(3%になること)すれば、
崩壊します。

このとき、100兆円の不良債券が、国内金融機関に発生してしまう
のです。国内の金融機関も、損を怖れて売りに転じることになる。

◎金融市場は、まだこの、外人による国債債売りの、可能性の認識
をしていないように思えます。

なぜ、日本の増発され続ける国債の金利が、短期債で0.15%、長
期債で1.03%と、(異常に)低いままなのか。原因を調べていて、
2011年の外人買いのデータに遭遇したのです。

どう考えても、2012年も外人が円国債を買い越すとは思えません。
ポートフォリオ(分散投資)での円債の、保有ポジションが、100
兆円は大きくなっているからです。どうお考えでしょうか?

日本経済(政府と金融機関)にとっては、PIIGS債の償還が増える
2012年の1月から3月までに、ユーロ危機が深刻になって、ヘッジ・
ファンドからユーロ債が更に売られ、その資金で円債の買い超が続
き、円高($1=70円;1ユーロ=80円等)になることが望ましい。

円高は輸出の製造業(輸出額で1ヶ月6兆円:年間72兆円)にとって
は、円での売上が減って、困る事態です。しかし、国債を売る政府
財政にとっては好ましいのです。通貨は、「多角度から」みなけれ
ばならない。

世界で、毎日の経済ニュースのトップとして、通貨変動が報じられ
るのは、1日で500兆円もの世界の外為市場で、通貨価値が日々変動
していて、それが経済に大きな影響を及ぼすからです。

■6.10年スパンでの、デ・レバレッジの時代に向かう

銀行の不良債券が巨額化し、事実上では自己資本が消えた時期に、
世界の中央銀行の中央銀行であるBIS(国際決済銀行)は、世界の
銀行に対し、自己資本比率を上げることを要求しています。

(注)米国の銀行に対しては、BISの傘下であるFRBが、第一段階と
して、リスク資産に対する中核的自己資本の下限を5%超にし、
2019年までに、その下限を、7.0%〜9.5%に上げることを決めて
います。

同時に、現在は「安全資産」として、時価評価を逃れている国債に
対しても、AAA格から落ちたものを、BISはリスク資産にするという
ことも、言っています。世界でAAA格は、英、スイス、ドイツ、フ
ランス、カナダ、オーストラリア債です。米国債は昨年8月から下
がってAA+ 日本債、中国債はAAマイナスです(S&P:2011年)。
近々、フランス債と英国債も下がるでしょう。

格付け機関の「いいかげんさ」は、サブプライム・ローンを含んで
証券化したデリバティブ(MSB、RMSB、ABC)のシニア債をAAA格と
したときから露呈しています。

しかし実際には、年金基金等が買うときは、安全なAAA格の証券に
限定されます。格付けが下がると、保有する国債を売らねばならな
い。会計監査ではねられるからです。

米欧の年金基金(Penshion Fund)は、巨大な機関投資家であり、
国債や、米国で多い州債(地方債)の買い手です。国債も、買い手
が少なくなれば、下落し、金利が上がります。格付けの下落は、市
場での国債の買い手にとって、大きな問題なのです。

デ・レバレッジは、金融機関の自己資本に損害が生じ、銀行システ
ムの信用創造力が減少したとき生じる「信用恐慌」です。具体的に
は、銀行が貸付金を減らすことを迫られて、同時に、価格変動があ
る証券(株や社債)とAAA格以外の国債を売ることになる。

結果は民間のマネー・ストックが減少です。マネー・ストックが
10%も減れば、実体経済の投資と購買も急減し、100%の確率で恐
慌になります。信用恐慌といわれるものがこれです。

【銀行の損失とマネー・ストックの急減】
リスク資産(貸付金と証券)を100兆円もち、自己資本が8%(8兆
円)あった金融機関に、仮に3兆円(3%)の損が生じたとします。
この銀行は、いくらのリスク資産を減らさねばならないか?

自己資本が5兆円に減って、8%の自己資本比率にしなければならな
い。5兆円÷8%=62.5兆円です。

結果は[100兆円−62.5兆円=37.5兆円]の貸付金回収と、国債、
社債、株の売りです。マネーストックが37.5兆円(37.5%)も減
ることと同じです。

3兆円の損害で、12.5倍の37.5兆円の信用収縮です。デ・レバレ
ッジによる信用恐慌になります。1000兆円の不良債券に対し、デ・
レバレッジが起これば、もうそれはマネーの消滅です。デフレ型恐
慌どころの騒ぎではない。

日本のバブル崩壊期(1990年〜)にも、BISは国際業務を行う日本
の銀行(都銀)に対して、8%の自己資本を要求しています。これ
が、銀行が企業と持ち合っていた株の(継続的な)売りを生み、貸
付金の回収も生んだのです。

ただし当時は国債は安全資産とされていました。このため日本の銀
行は株を売り、同時に貸付金を回収で入ってきたマネーで、国債を
1年に40兆円も増加買いしていたのです。国債が増えた原因は、超
低金利債が安全資産とされて銀行、保険会社、郵貯・簡保に売れて
いたからです。本来は、国債金利が3%くらいに上がって、政府財
政の拡張に歯止めが必要だったのです。

(注)BISによる「AAA格を落ちた国債をリスク資産にする」という
発令は、、まだ出されていません。予告の段階です。

BISの自己資本規制を守ることができない銀行は、国際業務(海外
銀行との貸し借りや外為業務)ができなくなるため、事実上の破産
状態になります。

◎BISやFRBが、なぜ100年サイクルでの、1929年を超えることが想
定される世界の金融危機の時期に、銀行の自己資本を高める規制を
強化するのか、理解不能です。世界を、意図的に、信用恐慌に陥れ
る策としか思えません。

現在の、不良債券を巨額に抱えてしまった世界の銀行に、自己資本
比率を高めることを要求すれば、信用恐慌を生んで、マネー・スト
ック(世界ではGDPの3年分;1京5000兆円)を急減させることは、
100%わかりきったことだからです。実行しないことを言う、リッ
プ・サービスなのか?

BISが、世界の中央銀行が売ってきたゴールドを買い占めた金融一
派(デル・バンコ)に支配されているとすれば、暴落した世界の銀
行株と国債を、底値で買い、その後の世界の金融を、支配するため
と思えます。恐慌は、株と国債の底値での買い手にとっては、未曾
有のチャンスになる。

(注)東京が、米軍の空襲に襲われ、燃えさかっている最中に、二
束三文で、宮家の土地を買い漁ったのは、西武グループ(提康次郎
氏)でした。戦後の、物価・資産が300倍に上がったハイパー・イ
ンフレで巨大資産になっています。東日本大震災のあとにも、小規
模ですが、仙台等でこれが見られます。

銀行の国有化と言っても資金源は国債です。暴落しているギリシア
債を更に下げ、底値で買えば、その後のギリシアの金融を、国債を
買ったところが支配できます。国債に価格がつくのは、売り手と買
い手が、同量あるからです。買い手は、誰になるか・・・です。

米国発の1929年からの世界大恐慌でも、ある銀行による株、不動産、
国債の底値買いがあり、10年後の回復期には巨大資産になったので
す。恐慌の時期は、5年や10年後を長期で見る必要があります。

【後記】
新刊書『国家破産:これから世界で起こること、ただちに日本がす
べきこと』が、ほぼ日替わりでアマゾン等では在庫の欠品を繰り返
しています。購入予定の方々には、ご迷惑をかけていることを、お
詫びします。すぐ、補充されるはずです。
http://www.amazon.co.jp/?tag=hydraamazonav-22&hvadid=4677461822&ref=pd_sl_909gv786j_e

本年も、よろしくお願いします。良質な論考をおとどけすべく努め
ます。怠(なま)けていた本を書くことも、目標にします。3つの
出版社に約束しながら、日々の原稿にまぎれ、反古(ほご)にし、
守っていませんでした。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【ビジネス知識源アンケート:感想は自由な内容で。以下は、項目
の目処です。】

1.内容は、興味がもてますか?
2.理解は進みましたか?
3.疑問点、ご意見はありますか?
4.その他、感想、希望テーマ等
5.差し支えない範囲であなたの横顔情報があると、今後のテーマ
と記述の際、より的確に書くための参考になります。

コピーして、メールに貼りつけ記入の上、気軽に送信してください。
感想やご意見は、励みと参考になり、うれしく読んでいます。時間
の関係で、返事や回答ができないときも全部を読みます。時には繰
り返し読みます。

【著者へのひとことメール、及び読者アンケートの送信先】
yoshida@cool-knowledge.com

■最近の有料版のテーマと目次

<567号:紙幣を発行する中央銀行の敵は、
ゴールドだった(1)>
2011年12月07日号

【目次】

1.紙幣は負債性の通貨
2.金、貨幣、中央銀行の根源を論じれば「陰謀論」とされる
3.金の在庫と需要
4.ゴールド価格の短期変動は、ヘッジ・ファンドの売買が原因。
しかし、2004年からの長期の上げは、ヘッジ・ファンドの売買では
説明できない
5.金準備銀行だった中央銀行
6.通貨の覇権争いが戦争だった
7.ユーロの結成
8.ユーロの金融・財政の危機対策:危機のユーロに見るペー
パー・マネーの性格
9.変動相場の中では実効レートが、真の金利
10.金匠の「預かり証」が貨幣になった
11.銀行の発展
12.戦後のブレトン・ウッズ体制(以下次号)

<568号:紙幣を発行する中央銀行の敵は、
ゴールド価格だった(2)>
2011年12月14日号

【目次】

1.中央銀行は、なぜ作られたか?
2.民間銀行の、自己資本の乗数での信用増加(レバレッジと同
じ)が、マネーストックを増やす
3.1971年から1999年までの中央銀行とゴールド
4.1980年 金価格は、産油国の買いで850ドルへ
5.金価格が低迷した1990年代

<569号:紙幣を発行する中央銀行の敵は、
ゴールド価格だった(3)>
2011年12月21日号

【目次】

1.金融危機の収束には、約5年かかる
2.中央銀行の紙幣が、マネー・ストックを増やす仕組み
3.銀行が抱えた不良債券は、
銀行システムによる信用創造力を急落させる
4.欧州中央銀行(ECB)が4兆ユーロを刷れば・・・
5.「ある世界像」か?
6.世界の銀行への、新BIS規制の不思議さ
7.BISは、国債をリスク資産にする意図ももつ


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コメント
 
01. 2012年1月12日 05:58:27 : O9ufR2f2fw
必見!!!!

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/31471


02. 2012年1月12日 12:01:35 : Pj82T22SRI

去年と、あまり状況は変わってないが
吉田もismediaも煽り記事が好きだな

ただシンガポールは為替操作国家で、赤字国債0と言っても
Tamasek,GICは日本のかっての郵貯の財政投融資と同じ構図だから
実質的には政府の信用で投資を行っている
失敗したら国民が尻拭いだ
http://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1022127/www.mof.go.jp/jouhou/kokkin/tyousa/tyou022c.pdf

それに日本の場合、さらに莫大な赤字はほとんど福祉予算だから、投資で回収できる見込みなどなく、今後、日銀緩和(国債買取)が常態化すれば、インフレで破綻するのは確実


http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5170 
2011年、戦後最大の経済危機が訪れる 3月危機を乗り切れるかが第1関門、次は6月・・・

2011.01.11(火) 山崎 養世:プロフィール

今年最初の東奔西走は重大な警告書になった。一気に読まないと、多面的な状況を把握して解決策を理解することはできないので、最後までお付き合いいただきたい。
 防災の基本は情報収集と事前準備であり、いざ発生した時の断固たる行動が生死を分ける。経済の巨大災害も変わらない。
 日本は、これから2年の間に、戦後最大の経済危機に直面するだろう。考察し、準備し、行動しなければ、日本は破綻する。詳しくは筆者の『ジャパン・ショック』(祥伝社)をお読みいただきたい。またこの問題に対するフォーラムも開催するが、ここではその解決策を紹介したい。
 日本の歴史をひもとけば、絶体絶命の危機ほど大復活を遂げ、世界を驚かせてきたことがよく分かる。それが日本の「国民力」ではないだろうか。
 今回の危機も同じだと思う。立場を超え、力を合わせれば、日本は奇跡の復活を遂げ、世界をリードする国家に生まれ変わると信じている。
驚異の高度成長を遂げた国債発行
 日本経済は「失われた」「ゼロ成長」の20年間とよく呼ばれるが、実はこの間に8倍もの高度成長を達成した巨大セクターが日本経済にはある。

 国債発行である。1990年度は21兆円だったものが2010年度は162兆円に増え、国内総生産(GDP)の34%にも達した。
 しかし、不思議なことに世間に流布している国債発行額は2010年度で44兆円しかないのである。それは世間で言う国債発行額は、「新規財源債」という種類の国債に限っているためだ。
 それ以外の、既存の国債の償還のために発行する「借換債」の103兆円や特殊法人や自治体に貸し付けるための「財投債」の15兆円は、政府が発表しマスコミが伝える「国債発行」には含まれていない。
 しかし、これら3種類の国債の違いは資金使途の違いに過ぎず、投資家から見たら全く同じものだ。
 このような情報開示は、企業会計ならば考えられない。もし、上場企業が、社債の借り換えや子会社への貸し付けのために発行する社債を財務諸表に記載しなければ、経営者は刑事罰に問われてしまう。

 ところが、国は、発行総額の4分1程度しか「国債発行」と呼ばず、マスコミはそのまま報道するから、日本国民は国債発行の本当の大きさを知らない。
 これでは「借金隠し」「大本営発表」のそしりを免れないのではないか。
自分のお金が国債に使われているのを知らない日本人
 しかも、国債の93%を保有している割には、日本人には「国債を持っている」という意識が薄い。なぜなら、個人の国債保有は全体の5%に過ぎず、76%は金融機関と年金が持っているうえ、国民の多くは自分の預貯金や年金がどう使われているかに関心がないからだ。

 国民の金融資産は過去20年でほとんど増加していない。だから、金融機関や年金は国債の保有を大きく増やした分、民間への貸し出しや株式や不動産への投資を減らしてきた。
 税金を払う民間への資金を減らし、税金を払わない政府部門の借金に国民の貯蓄をつぎ込めば、税収が減るのは当たり前だろう。
 2009年度の一般税収は37兆円しかなく、20年前の60兆円を4割も下回った。税収が不足して財政赤字が膨らみ、さらなる赤字国債の大量発行を招いている。完全な悪循環の構造が出来上がった。

20年間で逆さまになった常識
 1980年代の行政改革を引っ張った土光臨調の目標は、財政再建であり「赤字国債撲滅」だった。財政赤字=赤字国債=「悪」という健全な常識がそのころの日本にはあった。おかげで、1990年代初めには、赤字国債発行がゼロに近づいた。
 しかし、今では国債は「安全確実」、株や不動産はもちろん民間貸付も「危ない」、という常識がまかり通っている。
 どうしてこのような常識の逆転現象が起きてしまったのか。それは、世界の金融機関を規制する国際決済銀行(BIS)が作ったルールのおかげである。
 その結果、経済開発協力機構(OECD)の国債ならギリシャのように投資非適格のBB格でもリスクはゼロ、一方で企業の社債ならトヨタ自動車のようにAAA格でもリスクは100%という、後世から見たら摩訶不思議な「常識」が誕生したのである。
 なぜ、こんな「常識」が必要だったのか。それは、米国が自国の赤字国債を何とか世界中に買わせたかったからだ。BIS規制が米国発のルールだと知れば、BISのからくりも解けてくる。
 日本政府は、1980年代にはBISルールの採用を拒否していた。規制の中味が日本の金融機関には不利で、当時世界の資産を買い漁っていた日本の金融機関を狙い撃ちにしていたからである。

 しかし、1993年になると突然、BIS規制を一転して採用する。何のことはない。日本が自ら大量の赤字国債の発行に踏み切ったからである。
 以後、一貫して「リスク管理」と称して、“リスクがゼロの”赤字国債の買い入れを金融機関や年金に奨励してきた。堕落としか言いようがない。
政府が国民の貯蓄を吸い上げ尽くそうとしている
 過去20年間の驚異の高度成長によって、地方も合わせた日本の政府部門の借金(国債や地方債と借り入れなど)の総額は、ついに1002兆円に達した。国民の金融資産は、住宅ローンなどの借金を差し引けば1079兆円である。その差は、あと77兆円しかない。
 しかも、国債につぎ込める日本人の貯蓄は急速に細っている。20年前は日本の貯蓄率は15%程度であった。ところが、直近の2008年には2%台に低下した。
 高齢化が進んで貯蓄を取り崩す人が増えたうえ、国民の所得が伸びないためだ。だから、1年間に金融機関に流入する貯蓄は10兆円を下回る。年間160兆円の国債発行を消化するにはあまりにも小さい。
 それでも、これまで国債が消化されてきたのは、金融機関や年金が民間への資金を減らした分で国債を買ってきたからだが、それも限界に近づいている。国債の消化不能が見えてきたのだ。
財政悪化はこれからが本番
 しかも、首都圏を中心とした大都市での高齢化の進行によって、日本の経済と財政はこれからさらに悪化する。
 この問題に関しては、日本の第一人者で、元大蔵省主計官・政策研究大学院大学教授の松谷明彦先生の最新著『人口減少時代の大都市経済』(東洋経済新報社)を読むことをお勧めすしたい。
 首都圏では、今後20年間で生産年齢人口が2割減少する一方、高齢者が8割近くも増加するからだ。
 そうなると、消費も税収も保険料収入は激減するが、高齢者のための社会保障支出や医療介護施設などのコストは激増し、首都圏の自治体の財政は破綻が予想される。
 一方、島根県などの地方では、高齢化は既に進行しているため、影響は比較的に軽微だ。

 今後、首都圏が、全国を富で潤す「富士山」から巨大な支出が必要な「ブラックホール」に変わると、戦後日本のビジネスモデルは崩壊し、首都圏も地方も共倒れになる。
消費税増税はできない
 財政再建の切り札、と良識ある多くの人が考えているのは消費税増税だ。しかし、松谷教授によれば「消費税の増税は財政と社会の崩壊を早めるだけ」なのだ。
 なぜなら、消費税増税は首都圏の経済活動を一層低下させる。そして、現役世代の首都圏脱出を促し、地方の若者の首都圏への流入を思いとどまらせる。首都圏の現役世代はさらに減少し、財政悪化を早める。
 だから、消費税増税は不可能になる。その時は、年金も維持不能だ。東京一極集中の国土と経済の構造を、地方に分散し地方から成長する構造に転換するしかなかったのだが、もう間に合わない。
 そもそも、年間9.6兆円しか税収がない消費税のフローを2倍にするだけでは、1000兆円を超える政府部門債務のストックは解消できない。
国債バブルは最終局面
 日本国債は、金融商品として見ると、巨大バブルの最終局面にあることは明白である。
 第1に、ファンダメンタルは最悪である。国債を返済すべき財政は、今後さらに悪化が見込まれる。一方、国債の買い手である金融機関や年金に流れ込む国民の貯蓄が尽きようとしている。
 第2に、史上最高値水準だ(つまり、金利は最低水準まで低下している)。1992年1月に価格100でスタートした日本国債先物インデックスは、2011年1月5日で242にまで上昇した。
 さらに、その間、円高が54%も進んだから、日本国債価格をドルベースで見れば、さらに上昇する。
 第3に、規模が巨大だ。市場性国債の市場として世界最大であり、日本の株式市場の3倍近くに達している。
 日本国債下落が始まれば、世界の国債市場だけでなく、株式や不動産市場、さらには、世界の金融機関の経営と各国の財政に巨大な「ジャパン・ショック」を与え得る。

 こうした点から見て、現在の日本国債は、1980年代末の日本の不動産・株式や、2000年代の米国の住宅・不動産・サブプライムといった、第1級バブルの崩壊前夜に似ている。
下がる時は速い
 長い時間をかけて積みあがった巨大バブルも、崩壊する時は驚くほど速い。2008年9月14日のリーマン・ショック発生後、日米の株価はわずか3週間で半分以下となった。
 巨大暴落が金融機関の経営危機を誘発し、資金繰り不安や連鎖倒産の恐怖のために、あらゆる資産に一斉に売りが広がるからだ。リーマン・ショックの場合は、欧米政府が300兆円を負担して金融機関を救済することを発表してようやく暴落は止まった。
 ゆっくり上がり猛スピードで下がる点で、バブルの生成と崩壊はジェットコースターに似ている。そのスピードは、温暖化海面上昇と大津波くらい違う。
2011年3月末が危機になる
 2011年3月末には、日本国債は重大な局面を迎える。赤字国債の発行ができなくなる危険性が高いからだ。
 赤字国債の発行には「特例国債法案」という予算関連法案の可決が毎年必要だが、予算そのものではないため、両院の議決が必要だ。もし野党が多数を占める参議院で否決された場合、赤字国債は発行できない。
 実は、こうした事態が日本でも過去に1度だけ起きたことがある。細川護煕内閣の時だ。当時は赤字国債が極めて少額だったため、補正予算で対応できた。
 しかし、今回は、赤字国債が最大の財源であり、否決されると本当に予算が組めなくなる。
 日本の予算が成立しないことが世界中に知られた時に、世界の債券市場の賢い人たちが何の反応も示さないだろうか?
 今まで安全確実と言われてきた日本国債の発行不能状態は、日本の財政の絶望的な悪化と国債のバブル状態との異常な落差に世界の耳目を集めるだろう。
 しかも、その時に、もし国会が解散し総選挙に入って、国家の管理能力に空白が生じれば何が起きるだろうか。
 少なくとも、市場参加者には格好の「売り」の舞台を提供するだろう。その時、国民の財産と生命を守れるのか。久しく問われなかった難問に日本は直面するはずである。
国家予算を弄ぶのは亡国の遊戯
 政治報道によれば、来年度予算関連法案を人質にとって解散総選挙に追い込むのが野党の戦略だそうだ。
 しかし、危機を目前にして国会の権能を政争の具にすることなど、氷山を前にしたタイタニック号でダンスにうつつを抜かすようなものではないか。
 とりわけ、過去20年間に財政を崩壊させた旧政権党が政権欲しさに世界経済の大混乱の引き金を引けば、市場と国際社会と歴史から厳しい指弾を受けるだろう。
 仮に、3月末の危機を政治が切り抜けたとしても、その先、事態はさらに悪化する危険性が高い。
 6月末には、QE2と呼ばれる米国の金融緩和(あとで説明するがFRB=連邦準備制度の国債「全量買取」)が終わるためである。
 それから先は「逢魔が時」だ。計算上、2012年末で、日本の政府部門の借金が国民の純金融資産を上回る。その中で日本国債を買い増すのは、(日本の株価が最高だった)1989年末に日本株を買うようなものだ、と思う投資家もこれから増えるだろう。
臨界点は迫っている。
国債暴落そのものが財政を崩壊させる
 下落が始まれば、国債はどこまで下がるのだろうか。例えば、金利が1%上昇すれば国債インデックスの価格は5.5%下落する。
 1970年代末に代表銘柄の「ロクイチ国債」は3割暴落した。当時は、国債の残高は小さかったから暴落の影響は小さく、1980年代の成長と税収の伸びで財政は再建された。
 しかし、現在、政府の借金はGDPの2倍に達し、今後、未曾有の人口減少・高齢化と経済衰退が予想される。それなのに、日本国債の価格は史上最高だ。下落幅の予測が難しい。
 仮に国債が3割下落すれば、日本の金融機関や年金には200兆円近い損失が発生する。多くの金融機関が破綻するだろう。
 とりわけ暴落に弱いのが、国債の最大の保有者であるゆうちょ銀行だ。資産の9割近くを国債で(総額160兆円も)運用しているうえ、現金は5兆円ほどしかなく、自己資本(自己資本に組み入れた国債分を除く)も8兆円しかない。
 国債が値下がりすれば、すぐに自己資本不足に陥る。いったん、ゆうびん貯金の解約が大量に起きれば現金が底を尽き、国債を売る以外に解約に応じる資金が捻出できない。
 しかし、大量の国債売却を実行すれば、さらなる国債暴落を呼び手持資産が減少し、貯金が払い戻し不能になり破綻するだろう。「ゆうちょショック」の発生だ。
 筆者が2005年の郵政特別国会の最初の参考人として指摘し、別の会合で当時の生田正治総裁が「その通りのリスクがあります」と筆者に答えた構造的な問題だ。郵政民営化はこの根本問題を未解決のままだ。
 そして、国債を70兆円持つ、かんぽ生命も経営危機に陥るだろう。このほかにも、国債を80兆円持つ公的年金も資産が大きく減少するはずだ。もちろん、民間の金融機関も、国債への集中度合いが高いところは、経営危機に陥るだろう。

 金融機関の破綻は財政負担に直結する。個人向けの預貯金や保険・年金は一定限度まで政府が保証している。損失を政府が肩代わりするのだから、仮に国債が3割下落すれば、100兆円を超える財政負担が新たに発生するだろう。
「ジャパン・ショック」が発生する
 その時は、赤字国債の発行しか救済財源はない。しかし、その時は、これまでの国債の主な買い手である金融機関や年金が破綻しているのだ。とても、巨額の国債を買い入れる資金などない。
 かといって、今さら日本救済のために日本の国債を買うことを外国人に期待することもできない。
 そもそも、与野党の合意がなければ、ねじれ国会では赤字国債の発行そのものが承認されない。そうなると財政負担での金融機関の救済ができず、本当に、預貯金や保険が返ってこなくなる。
 日本は金融恐慌に突入するだろう。取り付け騒ぎが全国で起き、銀行だけでなく、証券取引所も閉鎖となるかもしれない。
 2008年のリーマン・ショックでは、米国とEU諸国が300兆円の財政負担を実行したから恐慌は防げた。
 しかし、日本国債の暴落は国債消化の限界で起きる。このままでは、日本は財政負担での救済ができず、日本の金融財政システムは破綻する。
 その時は、GDP比で戦後最高レベルにまで積み上がった欧米の国債市場も同時に暴落し、瞬時に世界の株式や不動産の暴落と金融危機の連鎖反応を誘発するだろう。「ジャパン・ショック」の発生である。日本は戦後初の金融恐慌を起こす国になってしまう。
65年ぶりに「暴落シフト=国債全量買取」に踏み切った米国
 既に暴落シフトを敷いているのが米国だ。FRBはリーマン・ショックから今年6月までで、200兆円もの国債や証券化商品(MBS)を米国の金融機関から買い取る計画を実行中だ。
 これで、FEBのバランスシートは300兆円に達する。米国人が持つ国債の金額に等しくなる。国債の「全量買取」である。
 米国には過去の成功体験がある。FRBは終戦直後の1946年から5年間に国債の全量買取を行って金融危機を回避し、インフレも起こさず、戦後の繁栄の基礎を築いた。
 終戦当時の米国は、金融機関が保有する戦時の長期国債がGDPの1.4倍に達していた。今の日本と同じ水準だ。
戦後復興によって景気が回復し金利が上昇すれば長期国債が暴落し、金融機関が破綻して再び大恐慌の悪夢が繰り返す。かといって、金融機関を財政で救済すれば巨額の負担が発生する。
 しかし、FRBが全量買取して持っていれば、国債が暴落してもFRBのバランスシートに損失が発生するだけだ。FRBの穴は、FRB自身が新規の通貨を増発して埋めればいい。
 一方、金融機関に供給した資金は適切に吸い上げてインフレを起こさせない、という方針を立てた。
 当時の米国はその通りに実行した。FRBが金融機関から戦時国債を買い取った。一方、FRBから資金を得た民間金融機関は旺盛な民間投資を実行して、米国経済の黄金の50〜60年代の高度成長が始まった。
 国債全量買取の終了時に生まれたFRBと財務省の合意がアコードだ。最大の危機は成長への大チャンスに変わった。米国のすごさだった。
 その一方、終戦直後の日本は100倍のインフレを起こして戦時国債を紙くずにし、国民の「国債不信」を生んだ。今でも、お年寄りの中には「国債はとんでもなく危ないもの」という人たちがいるのはそのせいだ。
 英国も、過大な戦時国債に手をこまぬいて処理せず、戦後経済は衰退した。金融政策の成否が、米英の戦後経済の明暗を分けた。
金融危機対応を進めるFRBのバーナンキ議長
 ベン・バーナンキ議長のFRBは背水の陣を敷いている。
 米国民主党は議会少数派に転落した。リーマン・ショックの処理に要した70兆円の財政負担は議会の保守派から批判されている。
 バラク・オバマ政権が、将来、国債暴落が金融機関の破綻につながった時の財政負担に共和党が支配する議会の承認を得るのは困難だ。
 とすると、国債暴落が起きた時の金融システム破綻を未然に防止するには、「全量買取」という中央銀行の伝家の宝刀に頼る以外に選択肢がない。
 インフレと金利上昇リスクは高まっている。既に中国やインドなどの経済は高度成長軌道に戻った。米国ですら、戦後最大の金融緩和策によって景気は回復に向かっている。

 石油価格は再び1バレル100ドルに近づき、穀物価格も史上最高値に迫る。先進国は通貨安競争を繰り広げた。しかも、PIIGSと蔑称されるEU諸国の国債不安はくすぶったままだ。世界の債券市場暴落の条件には事欠かない。
 こうした状況を理解したFRBのバーナンキ議長は、金融危機に備えて「無限に通貨を供給し得る」という中央銀行のラストリゾートを65年ぶりに使っている。
 現在、FRBは、月間の国債発行額1100億ドルを上回る1300億ドルの国債を毎月買っている。国家の仕組みをよくわきまえた大胆な行動である。
 一方、ねじれ国会によって国債発行そのものが不能になる事態を目前にして、日本の中央銀行は、一体いかなる行動を取っているのだろうか。
より深刻なのに行動しない日銀
 日本の中央銀行たる日銀が深刻な危機意識を持っているとはとても見えない。
 リーマン・ショック後に国債やMBSを200兆円も買い増したFRBに対して、日銀はなんと30兆円もバランスシートを縮小した。
 この日米金融政策ギャップが、過去2年の激しい円高・デフレ、マイナス成長・税収不足の主因となった。ようやく昨年、日銀は渋々5兆円のバランスシートの拡大を行ったが、むろん焼け石に水である。
 そんな状態だから、米国に倣って金融機関や年金が持つ600兆円の国債を「全量買取」することなど全く考えていないだろう。
 米英にもない「日銀券ルール」というものを持ち出して、長期国債の保有は日銀券の範囲を超えられないと言い張っている。国債の保有をこれ以上増やさないと主張しているのだ。
 しかし、金融システムの安定は日銀の根幹業務なのである。同盟国・米国が最後の手段に打って出ている時、手をこまぬき、小出しの対策を逐次投入 (英語では、too little, too late)するだけであれば、日銀の無策によって、日本経済が一面の焼け野原になる事態を迎えることになるだろう。
 そして、日銀の正副総裁や政策委員の任命権者たる政府には、日銀に義務を果たさせる重大な責任がある。
 日銀がことあるごとに振りかざす「独立性」という、まるで戦前の軍部の「統帥権」のような言葉に呪縛されて行動を起こさなければ、政府の不作為責任は重大だ。
日本も危機を大転換のチャンスとせよ
 米国の戦後は、FRBが国債を全量買取して金融危機を未然に防止し、金利連動国債などを活用してインフレも起こさなかった。FRBから銀行に供給された資金は民間の成長に投資され、戦後の高度成長が始まり、経済と財政が再建された。
 一方、日本の戦後はインフレを起こして戦時国債を紙くずにしたところから始まった。虎の子を紙くずにされた国民の怒りが赤字国債の発行を「原則」禁止する法律を生み、ために、赤字国債の発行には、両院の議決が毎年要るのである。
 それでも、終戦直後の日本は若かった。復員とともにベビーブームが始まり、人口が急増し、日米同盟と太平洋ベルト地帯での輸出国家モデルが戦後の経済成長を生んだ。
 しかし、これから老いが進み人口が減る今の日本にそんな元気はない。
 ここで日銀の無策や政治の混乱によって金融・財政システムが崩壊すれば、経済大国日本は終焉を迎えるだろう。そうなれば、これから人口が急増し資源・エネルギー・食料不足を迎える世界の中での日本人の生活はとても難しいものになってしまう。
国債「全量買取」からの具体策
 日本経済を救うには、日銀が国債の「全量買取」に踏み切る以外に方法はない。具体的には、日銀が、今後3年間、年間200兆円、金融機関や年金から既発国債を購入する。合計600兆円だ。
 一方、政府は価格下落のリスクのある長期国債の発行をやめ、下落リスクのない短期国債と金利連動国債にすべて切り替える。
 日銀は、過大な通貨供給を制御するために、金融機関や年金が持つ国債の一部を現金でなくこうした下落リスクのない国債と交換し、インフレを防止する。
 政府と金融機関や年金は、「脱国債」の投融資を進め、今後の高齢化社会に適合した分散化型の地域開発や環境技術や新エネルギー、食料、インフラなどの分野に投資して、新しい成長企業を育てていく。
 地域に競争を促して海外からの資金や人材は積極的に受け入れ、また、世界に売り込める人材を地方に育てる。
当然、日本国内だけでは成長に限界があるから、新興国での地域開発やインフラ投資をシンガポールなどに負けずに進め、日本企業の成長基盤を高め、また、新興国の成長を高める。
 こうした真に有効な「地域発展戦略」「高齢化戦略」「新企業戦略」「国際投資戦略」「新エネ・農林水産戦略」などに金融機関と年金が投資して「成 長戦略」を進めれば、企業所得と国民所得が持続的に向上し、老後も子育ても安心できる地域が開発され、エネルギー・食料の自給率を高める方向性が固まる。
 そこから、税収の持続的な向上が可能になる。
 こうした方向性を確認したうえで、現役世代を直撃する所得税や法人税から全世代が負担する消費税などに税収の中心を移し、持続可能な均衡財政を実現する。
国債ゼロの国へ
 かつて、日本の誇りは赤字国債がないことだった。今はま国債で沈みかけている。
 今も国債発行ゼロの国がある。シンガポールだ。シンガポールの社会保障基金は、国家戦略ファンド(SWF)として有名なTamasekやGICを通じて、全て長期成長をする対象に投資されている。
 だから、日本最大の不動産投資家の1つがシンガポール政府だ。中国でも天津などで環境未来都市を展開する。
 日本では、環境未来都市にも高齢化対応地域の開発にも、公的年金やゆうちょ銀行やかんぽ生命の資金は一銭も出ない。だから、シンガポール政府に資金をお願いに行く、というマンガのような状況が日本の金融の現実だ。
 かくして、中国からも遠く離れた赤道直下、淡路島と同じ広さの人口400万人の島国シンガポールの1人当たり国民所得は日本よりも高い。国債はゼロ、長期資金は成長戦略投資という戦略を営々と続けてきた結果だ。
 日本も、借金を将来の世代に背負わせるのを止め、もう一度赤字国債ゼロの国に戻り、長期の貯蓄は長期の成長に投資する、当たり前の国に生まれ変わる今が最後のチャンスだ。



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