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この前紹介した『弱い日本の強い円』と同様、これも外資系証券会社のベテランのクレジット・アナリストとストラトジストが書いた本である。このように第一線―といっても、アナリストやストラトジストは自分ではトレードせずにクライアントにいい加減な分析や予測をプレゼンしたりする芸者だけど―のプロが一般書を出版するようになったのは、いうまでもなく金融業界の将来のボーナスの期待値が大幅に低下したためである。そろそろ本でも書いて引退するとか、あわよくば印税で一儲けと目論んでいるわけである。
日本の財政が破綻するという話はもう15年以上されているが、日本国債の金利が1%前後にへばりつく中、日本国政府は楽々と金融市場から資金を調達し続けてきた。日本国債が暴落するなどという兆候は全く見られない。
日本国債を売り崩そうとしたヘッジファンドはことごとく失敗してきた。この間、経済評論家やファイナンシャル・プランナーは日本破綻論を展開し、外国株や外国債券はては金貨などへの投資を呼びかけてきた。こういうアドバイスに耳を傾けたファイナンシャル・リテラシーの高い個人投資家は、リーマンショック以降の円高と世界株安の中、資産の半分を吹き飛ばした。その一方で、黙って郵便貯金をしていた日本のお年寄りの方々は圧倒的な投資パフォーマンスを達成したのである。
しかし僕はこのままいけばやはりいつかは破綻するだろうと思っている。国債で調達した金をばらまき続けても何も起こらないのなら、無税国家の誕生である。いつかは必ず調整されるのだ。
しかし、いつ、どういうことがきっかけで、どのように調整されるのか、よくわからない。世間に溢れるのは、日銀引き受けによるハイパーインフレのような破綻論や、国内債だから大丈夫だという極端な楽観論ばかりで、冷静な分析があまりないように思われる。そしてこの本では、そういった極端な悲観論と楽観論の間を埋める様々な議論がなされている。
一言で財政破綻といっても、国の破綻は会社の破綻とはぜんぜん違う。会社の場合は借りていた金を期日に返せなくなって、信用を無くして運転資金を借りられなくなったところで破綻だが、国にはいろいろな方法がある。返済期日を延ばしたり、金利を免じてもらったり、丸々踏み倒すのが狭義のデフォルトだとしたら、新たな国債を日銀に引き受けさせたり、極端な重税を課すといったことは広義のデフォルトといえるだろう。
この本では、それぞれのシナリオを考え、その確率を「エイヤー」と計算している。著者らのメインシナリオは、このままズルズルと10年程度は財政状況を悪化させ続けるが、国債は問題なく消化され続けるだろうというものだ。日本の銀行、そしてその背後にいる日本国民が、突然、狂ったように外貨建ての資産を購入し始めるなど、まるで想像できない。
そもそもリーマンという一証券会社やギリシャという小国が破綻しただけでこれだけの大騒ぎなのに、日本の破綻など、間違いなく"Too big to fail"であり、アメリカやヨーロッパ、それに中国が許してくれるはずはなく、いよいよ危なくなってきたら、国際社会から強烈な財政再建のプレッシャーを受けるだろう。日本国債が暴落というのは、やはり起こる確率は非常に低いのではないか。
世の中のファイナンス理論は国債の金利をリスクフリーレートとして、その上に全ての理論が築かれている。ギリシャなどの小国は別にして、日本のような大きな先進国の国債のソブリンリスクをどうやって考えればいいのか、僕にはよくわからない。この本を買ってよかったことは、国債やクレジット商品を分析しているプロもぜんぜんよくわかっていないことが、赤裸々に綴られていたことだ。僕は、国債のトレーディングには全く関わっていないので、こういう話が聞けるのはありがたい。
この本の著者は、大量の日本国債を売買している日本の銀行や保険会社のファンドマネジャーにもサービスしているのだが、僕は日本の銀行の国債トレーダーはもっといろいろ考えているのかと思っていたが、実は何にも考えていないことが判明した。そもそも国債とは、ファイナンスの教科書ではリスクフリーなもので、多くの金融商品はその前提で取り引きされている。言ってみれば、飛んでいる飛行機の中でいろいろな業務をしているのが、金融業界の人たちで、飛行機そのものが落ちたらどうするのか、などということは考えてもしょうがないのである。
日本の金融機関にしてみれば、日本が財政破綻したら、サラリーマンとしての地位も出世もヘッタクレもないので、日本国債がデフォルトするなどということは考慮する必要がないのだ。
実際問題、日本の銀行は日本国債以外に運用先がない。まとまった金額を外貨建て資産に振り分ければ、ほんの数%逆に行くだけで、債務超過におちいってしまう。これだけの莫大な日本国債のポジションをCDSなどでヘッジするのは、コストからいって全く問題外なのである。要するに、日本国債が暴落するなんてことは現場のトレーダーは何も考えなくてもいいのだ。
まぁ、なるようになるでしょう。
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