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日本にいると気づかない世界食糧危機の“実態”とは 〜食糧危機とは経済が弱い地域で生じる現象
http://diamond.jp/articles/-/15590
【テーマ6】人口70億人を突破した地球の食糧問題を考える@
――東京大学農学生命科学研究科 川島博之准教授
川島博之(かわしま・ひろゆき)
1983年東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得退学(工学博士)。東京大学生産技術研究所助手、農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員を経て現職。著書に『「食糧危機」をあおってはいけない』(文芸春秋)『「作りすぎ」が日本の農業をダメにする』(日本経済新聞出版社)など著書多数。
「今、世界は食糧危機に陥っている――」
このように書いても、多くの日本人は実感がないはずだ。だが、実際に穀物価格の推移を見ると、世界はまさに食糧危機の真っ只中にあることがわかる。
トウモロコシは世界で最も多く取引される穀物だが、IMF(国際通貨基金)によると、その先月の価格は1トンあたり274ドルだ。2011年の4 月には319ドルまで上昇した。もちろん、過去最高値である。2005年1月の価格は96ドルだったから、数年で約3倍に上昇したことになる。中世以来、 穀物価格がこれほど短期間に、これほど急激に上昇したことはない。これを危機と言わずに、なにを危機と呼ぶのか。
両者とも2005年頃から乱高下しているが、よく似た動きをしている。干ばつでトウモロコシが不作になったときに、原油が採掘し難くなることはないから、この変動は需給に基づくものではないことが分かる。その原因は金融に求めるべきだろう。http://diamond.jp/mwimgs/8/c/600/img_8c2553174f6292ed2576915a81d641e811167.gif
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食糧危機を喧伝している農水省
日本に住んでいても食糧危機を実感することはできない。それも当然のことだ。街には食糧が溢れ、デフレが続く中で牛丼のチェーン店などが値下げ競争を続けているような状況だからだ。
背景には円高がある。ただ、円高でなくとも日本人が食糧の入手に困ることはない。結論を先に述べれば、食糧危機とは経済が弱い国で生じる現象であるためだ。それは北朝鮮やサハラ以南のアフリカ諸国などの貧しい国の問題なのだ。
しかし、日本にはいつごろからか、世界食糧危機の影響を心配する向きがある。それは、農水省や農業関係者が、世界が食糧危機に陥ると、輸出国が自 国民への食糧供給を優先するため、日本に食糧を売ってくれなくなると喧伝しているからだ。それを信じて心配している。そして、それは食糧安全保障のために 食糧自給率を上げなければならないとの議論につながってゆく。
日本が食糧危機に陥らない理由
現在、世界は食糧危機に陥っていると説明したが、日本は食糧危機に陥っていない。むしろ、日本人が心配すべきなのは食糧が買えなくなることではなく、食べ過ぎで、健康診断でメタボと指摘されることの方だろう。
なぜこのような状況になっているのであろうか。ビジネスマン向けに、冷厳な世界経済の現実について説明したい。
食糧の中でも米や小麦など穀物は特に大切である。現在では、食用油の原料や家畜の餌になるトウモロコシも重要な穀物だ。穀物は世界で毎年25億ト ンほど生産されており、その多くは生産国で消費されている。しかし、輸出に回される分もある。2009年には3億3000万トンが輸出に回された。
それでは、どのような国が穀物を輸出しているのであろうか。最も多いのはアメリカである。7700万トンを輸出している。それにフランスの 3000万トン、ウクライナの2600万トン、カナダの2300万トン、ロシアの2200万トン、オーストラリアの2100万トン、アルゼンチンの 1800万トンが続く(2009年)。
ここに挙げた7ヵ国だけで、世界で交易される量の3分の2を輸出している。これらの国は大輸出国であり、穀物輸出は一大産業になっている。
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穀物の大輸出国は地理的に離れている。アメリカが干ばつに襲われた時に、ロシアやオーストラリアも同時に干ばつに襲われる可能性は少ないだろう。 むろん、その可能性がゼロとは言い切れない。しかし、極めて低いことは確かである。実際、FAO(国連食糧農業機関)によるデータの整備が進んだ1961 年以降、そのような事態は生じてない。この50年間、常に世界の穀物生産量の10%から13%程度が輸出に回されている。
世界の穀物貿易は市場原理で動く
それでは、どのような国が穀物を輸入しているのだろうか。2009年を見ると、最も多いのは日本で2560万トン、それにメキシコの1340万ト ン、スペインの1320万トン、韓国の1160万トン、イランの1120万トンが続く。これ以外にも、多くの開発途上国が輸入している。例えば、エジプト が600万トン、フィリピンが530万トン、コロンビアが510万トンだ。最貧国のエチオピアも230万トンを輸入している。
その交易価格は、シカゴの穀物市場が強い支配力を持っている。世界の穀物取引ではシカゴの市場の価格を参考に、品質を考えて個々の価格が決まる。
輸送費がかかるから近い国から輸入していると思いがちだが、大型の船舶が世界を往来する今日、輸送費はそれほど高くない。たとえば、韓国はヨーロッパの東に位置するウクライナから60万トンほどの小麦を買っている(2008年)。
日本はウクライナから小麦を全くと言ってよいほど輸入していない。それは、ウクライナがチェルノブイリを抱えており、いくら汚染されてはいないと 言っても、なんとなく食べたくないからだろう。今回、福島の事故を受けて日本からの農産物の輸出が問題になっているが、ウクライナからの小麦輸入に及び腰 であったことを忘れるべきでない。これまで日本は、国際社会の中において、風評に対して特に敏感な国の一つであった。
日本は多くの小麦をアメリカ、カナダ、オーストラリアから輸入している。それは、先進国であるために品質が安定しており、また大量に作っていることもあり、輸入しやすいからだ。日本の経済力をもってすれば、世界で一番品質が良いものを好きなだけ輸入できる。
世界の穀物貿易は市場原理で動いており、輸送手段や情報技術が発達した現在、それはとても柔軟だ。
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穀物価格は高騰しているが需給バランスは崩れていない
世界の穀物生産量は順調に増加している。需給のバランスが崩れているわけではない。現在、穀物価格が高騰している原因は、ドルやユーロの信任が低 下する中で、実物に資金が集まっているためだ。干ばつなどで生産量が急減していることが原因ではない。実物に資金が集まった結果、価格が高騰したことは危 機であるが、需給バランスが崩れて起きた危機ではない。
もっとも、交易価格が上昇したことによってエチオピアなど最貧国では穀物価格が上昇し、収入が少ない庶民が苦しんでいることは事実だ。また、エジプトなどエチオピアより所得水準が高い国でも、庶民の生活は苦しくなっている。
エジプトでは食糧価格の高騰をきっかけに民衆の政権に対する怒りが爆発し、ムバラク政権が崩壊したことは記憶に新しい。ただ、エジプト程度の経済 力があれば、食糧価格が高騰したと言っても、庶民の生活が本当に脅かされたわけではない。政権に対する不満表明の口実になっただけである。
一人当たりGDPが100分の1になるか?
一方、日本ではニュースに取り上げられることは少ないが、今回の食糧価格の高騰で本当に苦しんでいるのは、エチオピアなど最貧国の庶民だ。エンゲル係数が60%にもなっている人々は、小麦の価格が3倍になると、本当に生活できなくなる。
その一方で、強い経済力を持つ先進国の人々は、食糧危機の影響をほとんど感じていない。もちろん、強い円を持つ日本も同様だ。
世界が一つの市場であり、世界にものすごい経済格差がある以上、食糧危機の結末はここに述べたようなことになる。それは、過去にもそうであったし、今後もそうだ。
世上流布されるように、人口の増加や地球温暖化、水の不足などで世界が食糧危機に陥ることはない。それについては、拙著「食糧危機をあおってはい けない」(文藝春秋)に述べたが、拙著を読まなくとも、ビジネスの世界に生きる人であれば、ここに述べたことから、日本が食糧危機に襲われる危険性がない ことを理解することができよう。
蛇足ながら、日本が本当に食糧危機に陥るとしたら、それは日本の一人当たりGDPがエチオピア並に下落したときである。一人当たりGDPが現在の 100分の1になれば、食糧危機に見舞われる可能性がある。だが、そうはならないと思うし、そうならないように努力すべきである。
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