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教育の普及が世界にもたらす深刻な影響 年頭に考える〜デフレは経済現象なのか
2012.01.10(火) 川島 博之:プロフィール
世界は急速に高学歴化している。先進国だけでなく開発途上国でも、多くの人が大学で学ぶようになった。
この変化を理解するためには、まず60年ほど戻って1950年頃の世界を見てみる必要がある。
1950年の世界の人口は25億人だった。先進国に8億人、それ以外の地域に17億人が住んでいた。日本ではその頃に学制改革が行われて、中学までが義務教育になった。当時の日本は、西欧以外では教育が普及した国であったが、それでも大学に進む人は少なかった。
1950年に世界の何人が大学を出ていたか正確に知ることは難しいが、先進国に住む人の1割以下と考えても大きな間違いにはならないだろう。そうすると、世界で大学を出た人の数は8000万人以下になる。世界人口の3%以下だ。
70年代になってもその割合が大きく増えることはなかった。世界の人口は40億人になったが、先進国に住む人は10億人でしかなく、人口の多くが途上国で増えたためである。
先進国では、大学教育を受ける人の割合が大きく増加したが、それでも、大学を出た人は先進国人口の2割程度だっただろう。先進国でも、現在の高齢者の多くは初等教育や中等教育を受けただけだった。
そう考えると、当時、大卒は世界人口の5%でしかない。つまり、この時代までは大学を出た人は世界のエリートであった。
急増した大学卒業者を受け入れた製造業
大学を出た人は高度な知識を必要とされる職業に就く。高級官僚、医者、弁護士、大学教授などである。しかし、どこの国でもそれらの職に就く人の数は限られている。
それでは50年代以降、先進国で急速に増えた大学の卒業者はどこに就職したのであろうか。
それが製造業だった。戦前において自動車や家庭電化製品は、ごく限られたエリートの持ち物だった。しかし戦後になると、先進国では自動車や家庭電化製品は急速に一般家庭に普及していった。また、途上国でも富裕層がそれを欲しがった。
その需要を満たすために、先進国の製造業が繁栄した。世界の人が欲しがったから、いくら作っても足りない。その結果、製造業は多くの人を雇用し、高い給料を払うことができた。そして先進国で大学を卒業した者は、繁栄する製造業の管理職として雇用された。
今や世界の若者の3人に1人が大学に進学
そのような状況は21世紀に入って大きく変わった。2010年の世界人口は69億人になったが、それでも先進国の人口は12億人に過ぎない。57億人が途上国に住んでいる。
ただ、途上国の状況は急速に変わりつつある。その変化は各方面にわたるが、最も顕著な変化は進学率の急激な上昇だ。
多くの人が貧困にあえぎ、小学校も満足に通わせてもらえない。途上国の教育事情について、ステレオタイプにそんなことを考える人が多いが、それは1980年頃までの話だ。もちろん現在になっても、そのような国はある。しかし、それは急速に少数派になりつつある。
例えば世界最大の人口を擁する中国の大学進学は22%である。インドは中国よりは低いが13%だ。タイでは46%、ブラジルで39%、マレーシアで30%、インドネシアで18%になっている。途上国でも、多くの人が大学に進学するようになった。
その結果、30歳以下について見れば、世界で大学教育を受けた人の割合は30%程度にまで上昇している。現在、世界の若者の3人に1人は大学に進んでいる。
そればかりではない。現在も進学率は急速に上昇している。もし、人口大国の中国とインドの大学進学率が現在の2倍になったら、世界の進学率は40%に跳ね上がる。そして、それはそう遠い日の出来事ではない。
高まり過ぎた世界の生産性
大学の卒業生はそうでない者に比べて生産性が高い。だから、より多くの給料をもらうことができるし、そう考えるから、多くの人が大学に進学する。
そうだとすると、世界の生産性は急速に上昇していることになる。21世紀をデフレ社会とする見方があるが、その真の原因は進学率の急速な上昇にある。
先にも述べたが、第2次世界大戦後、大卒を大量に受け入れてきたのは製造業だ。先進国の中産階級の多くは製造業に勤務していた。しかし、途上国で 進学率が上昇すると、途上国でも多くの人が製造業に勤めるようになった。わが国では、工場が海外に移転することを円高の影響と見ているが、それはものの表 面しか見ない見方であろう。
途上国で急速に進学率が高まれば、大学を出た人々は、当然のこととしてそれに見合う職を求める。そのために、どの国でも大学を出た人々を雇うために製造業が必要になる。円高で日本から製造業が逃げ出さなくとも、途上国は製造業を作らなければならない。
世界の若者の5%が大卒で、その若者が先進国で製造業に就労していた時代、製造業が作り出す製品は不足気味であった。世界の人々が工業製品を欲しがり、性能の良い自動車などは憧れの的だった。それは、ものが不足するインフレの時代でもあった。
そのような状況は大きく変わった。世界の若者の30%が大卒になり、多くが製造業で働くようになると、工業製品が世界に溢れる。100円ショップは世界のどこにでもある。
特に、中国の若者が製造業で働くようになった影響が大きい。中国の1人当たりGDPは上昇したと言ってもいまだ3270米ドルであり、日本の10分の1だ。その中国の2010年の大卒の数は630万人にもなっている。日本の10倍だ。
国連人口局によると、現在、世界の22歳の人口は1億2000万人ほどである。中国の大卒の数は、同世代の5.3%を占めている。中国が世界の工場になったことは、この数字からも明らかだ。
世界は20世紀型社会から卒業できるか
20世紀型の産業社会を想定すると、世界の大学卒業者の数は明らかに過剰である。その結果、多く国で大学を卒業しても、それに見合う就職先を見つけることができない。それは、世界に大量の工業製品を送り出している中国においてもそうなのである。
若者の就職難は日本だけの問題ではない。多くの若者が大学を出て高い労働生産性を有するようになった今日、その労働力を20世紀型の社会に当てはめると、生産過剰社会が出現する。
これが、21世紀になってから世界がデフレに見舞われ、また世界で若者の就職難が問題となる真の原因である。
世界は20世紀型社会を卒業しなければならない。高い教育を受けたものが製造業に携わらない社会をつくる必要がある。
そのような世界の流れを認識せずに、政治家も官僚も庶民も、そして知識人までもが、70年頃に栄えたもの作り大国の復活を夢見ているようでは、日本は直面する多くの問題の何も解決できないだろう。
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