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今年は経済学説循環において重大な転機となることが予想される。それはこれまで沈黙していたハイエクが逆襲に打って出て、これまで大きく支持されてきたケインズがそれを迎え撃つ、という構図だろう。
*****2008-09年、時代はケインズ主義を要請した
2008年から引き起こされた、グローバルレベルでの金融危機は膨大な財政出動を余儀なくされた。そしてそれは、金融機関救済とリセッションに伴う景気刺激策であった。リーマンショック時、米国ではTARPやFedの信用緩和・流動性供給によって金融システムや信用秩序の維持が図られた。また米国外でも中央銀行は積極的な流動性供給を行い、金融システムの崩壊を食い止めるべく奔走した。この時点で信用秩序の維持に一応成功した。
しかし同時に、各国経済が"Great Recession"といった形で極度な不況に襲われた。米国では800万人以上の雇用が奪われた。時代は雇用の確保を求め、ケインズを要請した。そして、ブッシュ政権、レーガン、サッチャーに受け入れられていたリバタリアニズム的な発想はことごとくパージの対象となっていった。無論、その思想の中核的なところに位置しているハイエクについても同様である。
そのような背景の中で、時代はオバマ、そしてケインズを要請した。
リセッションに対して雇用を創出するため、巨額の財政を投じオバマ版ニューディール政策を実施していくことを国民に約束した。そして金融面からは、ニューケインジアン的な考え方を持ち、大恐慌の研究家でもある、ベン・バーナンキ議長を筆頭に緩和的な金融政策を実施していくこととなった。バーナンキ議長は雇用の回復に満足しておらず、量的緩和政策を行なってきた。そして2011年にはオペレーション・ツイストを通じて長期金利を低くさせ、経済を下支えしていくといった政策が決められた。
日本でも小泉改革が「格差を生み、新自由主義の結果経済が疲弊した」との批判が次第に高まり、これが2009年の総選挙において民主党が政権を取った原動力となったのは記憶に新しい。民主党は大きな政府、再分配(子ども手当などに代表される)、新しい公共、雇用創出をスローガンとして選挙に臨み、長きに渡って続いてきた自民党政治を終わらせた。
鳩山もまた、オバマ演説と同様、2000年代前半から中盤にかけて行なってきた政治手法とそれを取り巻く新自由主義などの考え方を厳しく批判した。巨額の財政を投じ、子ども手当のような再分配に傾斜する政策を行なっていった
*****財政拡大の行き詰まり
金融危機時の対応として民間債務を政府債務に移転させる動きを各国が行なってきた。端的にいえば、銀行への公的資金の注入である。また、リセッションにより失業率が大きく上昇していったことから、雇用創出や景気刺激策として財政を投じていくこととなった。しかし、リセッションにより各国税収が大きく落ち込んでいく中で、銀行救済のための費用や景気刺激策のための費用が嵩み、財政収支が極端に悪化していく事態となった。特に欧州の小国では、国のGDPよりも銀行のバランスシートが大きく、救済が国家財政を逼迫する事態となっていった。そして2009年以降、財政のサスティナビリティに対する疑念から、欧州でソブリンリスクが勃発した。
2005年、信用バブルの時期は好景気を謳歌し、税収も潤沢でかつ、また支出もそれ程膨らむことはなかったことから、現在ソブリンリスクとして意識されているスペインやアイルランドはむしろ財政黒字であり、欧州各国の中において優等生だったのである。アイルランドは法人税を大きく引き下げ、海外資本の流入が活発となり、2000年代中盤までは最も成功した国の一つだと言われてきた。しかし、金融危機により海外資本は流出し、国内経済も不振を極め、またバブルの後遺症に苦しむ銀行を国有化することで財政が急激に悪化、EU/IMFに救済を求めるまでになった。 (但し、債務の水準は比較的小さいので、財政出動によって景気を刺激していくことは可能である)。
米国でも、2011年8月に連邦債務が上限(14兆2940億ドル)に達することとなった。住宅バブル崩壊以前においても、米国は対テロ戦争を遂行している国であり、国防予算が財政を逼迫してきた。そしてバブルが崩壊し、雇用対策や住宅市場対策などで多額の財政出動を行なってきた。米国の対GDP比公的債務残高は2005年に61.6%であったが、2011年の見通しでは99.32%にまで拡大している。そして7月に議会で債務上限交渉を行い、政治的な駆け引きに、市場だけでなく消費者や企業の信頼感も振らされることとなった。財政赤字削減への取り組みの甘さからS&Pが米国の信用格付けをトリプルAから引き下げた。これまではこうした対策についても巨費を投じてきたが解決には程遠く、今後は赤字抑制にコミットしていることもあり、こういった対策に継続的に巨費を投じていくことが難しくなっていく恐れがある。
そのような中で、財政支出を抑制し、小さな政府を目指す茶会(ティーパーティ)が台頭し、一方で長期失業に対する不満などからオキュパイ・ウォール・ストリート(OWS)といった活動が活発していくこととなった。茶会はどちらかと言えばリバタリアニズム的志向が強く、オキュパイ運動はリベラリズム的な志向が強いものと思われる。
*****ロン・ポールの台頭と迎え撃つニューケインジアン
そのような中で今年は米大統領選挙が開催される。オバマ大統領は当然再選を狙って世論に働きかけていくだろう。対する共和党については、現在ロムニー氏が有力候補とみられているが、ロン・ポール下院議員が追走しており、大統領選挙のダークホース的な存在とみられている。彼は従来からFed段階的廃止論を唱え、共和党で唯一イラク戦争に反対し不干渉主義の立場を取る。彼の主張は過激である。彼の経済政策的な主張を少し挙げてみると、以下の通りである
@大統領は、議会におけるあらゆる不均衡な予算に対して拒否権を発動する。
@さらなる債務上限引き上げを許さない、従って政治家はもはや浪費出来ない。
@連邦準備システムを徹底的に監査する(そして終わらせる)ために闘う。ドル札を95%減らすことでドルが買われ、将来の債務のファイナンスを行うためにマネーを発行するというような空気を取り除く。
@サウンドマネー(健全なマネー)を合法化し、政府はドルの価値について真剣に考えさせる。(訳者注:Fedが発行する通貨の代わりに、健全なマネーを使うことを合法化することである)
@ホワイトハウスにおける企業への締め付けをやめさせる。
@オフショアの採掘を認めることで、燃料価格を引き下げ、高速道路の自動車燃料税を廃止。マイレージの償還率を引き上げ、企業や個人の天然ガス車の生産や使用のために税額控除を行う。
@あなたが稼いだハードマネーをより多くし、政府の干渉なしに家庭に恩恵を受けさせるために、収入、キャピタルゲイン、相続税を排除する。
@小企業に対して未積立義務や不必要な規制を廃止する
彼はフリードリヒ・ハイエクの写真を、事務所の壁に掲げているといわれているほど、リバタリアンなのである。そしてFedが大嫌いなのだ。彼は、均衡水準を逸脱した貸付金利の供給によって資源配分を人為的に歪めているというハイエクの批判を支持しているものとみられる。つまり、ハイエクの主張では、金利を下げ、需要以上に資金を供給するような状況となれば、投資活動が活発となり好景気となる。しかし、金利の反転上昇と新規マネーの流入停止という副作用を招き、景気循環の波を大きくさせてしまう。
現在の状況に例えるならば、ITバブル崩壊後のリセッションから住宅バブル、そしてバブル崩壊と金融危機、グレートリセッション時におけるFedの政策は、資金の需要以上に供給を過剰にさせたことで、景気変動の振幅を大きくさせた、ということだろう。こうした背景からFedに対して批判を行ってきているものと思われる。そしてサウンドマネーの合法化の主張については、Fedが独占的に通貨発行権を握っていることに対して不満を持っている表れであろう。ハイエクのような立場からすれば、通貨は何も中央銀行だけが発行を許されているわけではなく、自らのアセットをバックにして通貨(負債)を発行することも可能である。
さらに、彼の立場からすれば、昨今の欧州の財政危機に関連して、米国の財政が行き詰まり、当然のことながらFedが財政ファイナンスのためにプリンティングマネーを行うといった事態は絶対に許されない。そのために規制を緩和し自由な経済を促進することや、減税を行うことで経済活動を活発化させていきながら、同時に財政規模やマネタリーベースを縮小させていくといった、「小さな政府」を目指そうとしている。世界的に金融及び財政政策の行き詰まりを予感させる中で、こうした「小さな政府」を志向していくことでそういった懸念を克服しようとしているものと思われる。欧州債務危機や米国の債務の懸念、あるいはオバマ政権の経済運営への批判から、今年は政治的にこのような主張がある程度受け入れられていくものと考えられる。
しかし、例えばポール・クルーグマンのような立場(ニューケインジアン)の学者はこうしたロン・ポールなどの主張に大きく反発している。
いくら金融政策を緩和的に行なっても激しいインフレにはならないことを指摘しており、ニューケインジアン的発想、すなわちインフレ期待を高め、財政を拡大し、需要を喚起していくといった現行の政策の正当性をアピールしている。彼らは、ロン・ポールよりもオバマを今後も支持していくだろうし、雇用の確保を求めるオキュパイ運動も彼らに味方するかもしれない
*****経済学説循環的な位置づけ
経済学説的な循環からすれば、不況のケインズ、好況のハイエクと言われる。つまり、不況時は緩和的な金融政策と財政出動によって資源活用を活発化させる。そして好況時には資源配分に歪みが生じないように適切な金融引き締めを行う。スタグフレーションを克服し、長期好況時に入った1980年代-90年代は財政やマネーサプライを出来るだけ健全化し、規制を緩和して減税を行うハイエク的な思想が受け入れられ、大恐慌を克服したとされるニューディール政策のようなケインズ主義は不況時に好まれる。
★今年はハイエクの逆襲と迎え撃つケインズの構図となると予想しているが、これまでとは趣が異なる。つまり、ハイエクの逆襲は、行き詰まりを予感させる財政及び金融政策といった構図で要請されるものと思われる。それを打破するための「小さな政府」と規制緩和ということなのだろう。
★一方で欧州のように、景気が回復していない状況で財政を引き締めれば、景気が悪化し税収不足も深刻化することで、財政状況がさらに悪化するリスクがあり、財政や金融を今まで通り拡張的にさせて景気を浮揚させていくことが何よりも重要だと考える意見もある。恐らく本年は、両者が激しくぶつかり合う展開が想定されるのではないかと思われる。
ハイエクの逆襲は如何にしてロン・ポールが米大統領選挙の台風の目となりオバマを揺さぶる存在となっていくかであり、迎え撃つケインズはオバマが支持を拡大し圧倒的な力で大統領選挙を勝ち抜いていくかがポイントとなる。オバマが再選されたとしても、僅差もしくは苦戦であればそれは今後もこの論争の火種がくすぶり続けるということになるのかもしれない。
いずれにしても今年は世界的に選挙の年ということになる。(中略)
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