http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/476.html
Tweet |
混乱極めるEU:ユーロの喜劇
2011.12.19(月)
(英エコノミスト誌 2011年12月17/24日号)
英国にとっては悪いサミットだったが、ユーロ圏にとってはそれ以上に悪かった。
この記事が活字になるころには、法律家たちがユーロ圏経済の規律を立て直すための欧州財政「協定(compact)」の草稿作りにいそしんでいるはずだ。
新年には、欧州連合(EU)に加盟する27カ国のうち1カ国を除くすべての国が、この条約の詳細について徹底的な議論を始めることになる。
一方、26カ国のパートナーすべてと対立した英国政府は、自国がEUの中心国であり続けること、そしてロンドンが欧州の金融の中心地であり続けることを確約している。
何の問題もない――。
しかし、実はそうではない。先日ブリュッセルで開かれたEUサミット(首脳会議)の成果と称されるものを並べてみるだけでも、それがいかに無意味であるかが分かる。欧州の首脳たちはまたもや、ユーロ危機を解決するのに失敗した。新たな条約は、市場により、あるいは一部のユーロ参加国の拒絶により、簡単につぶされてしまう可能性がある。
EUは数々の期待外れのサミットを(多くはこの1年以内に)経験してきたが、いまのところ壊滅的な事態には至っていない。だが、新たな憲法を巡るマラソンのような議論とは異なり、ユーロは時間と戦っている。市場がユーロ圏諸国を支払い不能状態へ追い込みつつあるからだ。
投資家や有権者の信頼が失われていくにつれ、単一通貨ユーロを守ることはますます困難になっていく。遅かれ早かれ、ユーロは救いようのない段階に至る。
今回のサミットがEUの性格そのものを変えてしまう恐れもある。しかも、それは良い方向にではない。その理由の1つは、このサミットがユーロに関して誤った道筋を描いたことだ。もう1つの理由は、EU加盟に関して以前から両面的な態度をとっていた英国が、恐らく意図的というよりは偶発的なものだったとはいえ、離脱に一歩近づいたことだ。
英国の抜けたEUは、今よりも偏狭になり、リベラルさを減じるだろう。ユーロのないEUは、そもそも存在できないかもしれない。
状況はそんなにひどいのか?
英国について騒がれているが、今回のサミットの最大の失敗は、ユーロを救う計画を立てられなかったことだろう。
ユーロを救うためには、譲歩が必要だ。まず各国政府は、身を律するインセンティブを与えるような信用できる財政規則を作り、その拘束を受け入れる必要がある。また、各国が何らかの形で債務の連帯責任を負わなければならない。その際、ユーロ共同債の庇護を受けられるのは規則を遵守する国だけに限る必要がある。
その代わり、欧州中央銀行(ECB)は支払い能力のあるすべての加盟国に全面的な支援を提供しなければならない。それでも、特に成長の促進と金融システムの改革についてはなすべきことがまだたくさん残る。だが、上記のような計画を立てさえすれば、投資家は少なくとも今後の明確な道筋を見通すことができる。
ところが実際にサミットで提示されたのは、またもやごまかしで、各国政府もECBも十分な努力をしなかった。今回のサミットの直前、ECBはユーロ圏の銀行に対する支援を拡大した。実質的に、低利の資金を無制限に貸し付けることにしたのだ。
それは銀行の支えになるだろうし、理論上はユーロ圏のソブリン債に対する需要を高められるかもしれない。だがECBの対策は、投資家の求める「バズーカ砲」とは、ほど遠いものだった。たとえそれが、さらに多くの国債を抱えて損失を被ることを銀行が警戒したためだとしても、効果がなかったことに変わりはない。
そのうえ、ECBはいまだ、ユーロ圏諸国の最後の貸し手として介入することはできないという主張を崩していない。
各国政府は、ECB以上に何もしていない。確かに、各国首脳は国際通貨基金(IMF)への貸付金という形で支援金を拡大することを約束し、ユーロ圏の自前の救済資金を拡充する可能性を残した。だが、すべての現金が約束通りに集まるわけではないという予兆が既に現れている。しかも、サミットの目玉だった財政協定は、欠陥のある代物だ。
不和を生む「財政協定」
協定の骨子は、財政規律を各国の憲法に明記し、EUの機関を利用して浪費や不節制に対して制裁を課すというものだ。だが、そうした協定では、将来の好不況の波からユーロを守ることはできない。
2008年に金融市場が崩壊するまで、スペインとアイルランドは経済の星として賞賛され、公的債務の負担はドイツよりも少なく、予算もドイツより健全だった。両国の財政が目に見えて悪化した時には、もう手遅れだった。
さらに悪いことに、この財政協定では、現在の問題を解決できない。緊縮財政に重点が置かれすぎ、成長が軽視されすぎている。
そのせいで、来年には欧州全域に及ぶと懸念されている深刻な景気後退が悪化する恐れがある。そうなると、ユーロ圏全体の信用格付けの引き下げが進み、各国の赤字削減目標が達成できなくなるかもしれない。そして、緊縮財政が一層強化されることになる。
この協定は、欧州の結束の極致として歓迎されたが、むしろ不和を生む可能性の方が高い。サミットでは、問題国の債務負担の一部もしくは全部を全加盟国が共同で負担するユーロ共同債という案に冷水が浴びせられた。その代わりに、調整の任のほとんどは赤字国だけが負うことになりそうだ。それは間違いなく、長く苦しい道のりになる。
今後、民主的に選ばれた政府が緊縮財政を実行し、国民の不満が高まれば、EU内でそうした責任を押しつけた国や機関が民衆の怒りの標的になるまでに、さほど時間はかからないだろう。
既に、協定の方針に合意した国も、批准は詳細次第だと牽制している。アイルランド政府は、国民投票を実施せよという圧力にさらされている。実施されれば、勝つのは簡単ではないだろう。スロバキア(ユーロ圏内)とチェコ(ユーロ圏外)の議会が批准をためらう可能性もある。
世論調査で優位に立つフランス大統領選の野党候補は、ユーロ共同債を実現し、ECBの役割を拡大するために、再度交渉を行うと発言している。欧州の至るところで、ユーロから膨大な利益を得てきたドイツが、他国にあまりにも多くを求めすぎているという不満が聞こえてくる。
失敗に失敗を重ねたキャメロン首相
英国のデビッド・キャメロン首相は一体どうやって、そうした国々を結束させたのだろうか? その答えは、政治的なご都合主義と、的外れな戦術と、お粗末な外交の組み合わせによって、だ。
キャメロン首相の目論見は、新条約を支持するのと引き換えに、単一市場の保護策を手に入れ、一部の金融規制については全会一致による承認を条件とすることだった。キャメロン首相は求めるものが得られなかった時、条約への支持を取り下げた。
キャメロン首相の弁護のために言っておくが、同首相は、保守党のEU懐疑派の平議員だけでなく、EUに懐疑的な世論とも闘わなければならなかった。ドイツのアンゲラ・メルケル首相やフランスのニコラ・サルコジ大統領が、国内の政治的な制約に縛られているのと同じことだ。
さらに、英国には、金融規制を懸念するだけのもっともな理由がある。ロンドンは、欧州でも突出して大きな金融サービス産業を抱えている。なかには、EU域内のビジネスの実に90%を牛耳っている分野もある。フランスなどにけしかけられた欧州委員会は、金融を規制する多くの愚かな提案を出しているうえに、金融取引税の導入を示唆している。
だが、キャメロン首相の対応が政治的には適切だったとしても、戦術的、外交的には適切だったとは言えない。
首相は、自らの求めるものは理解していたが、誤った方法でそれを手に入れようとした。土壇場になって一方的な要求を押し付けたのだ。そうした行動は、20年以上前にマーガレット・サッチャー氏の英国自らが率先して提唱した、単一市場のルールを決める際の多数決の原則を部分的に覆すものだった。
前もって他国との間で地固めをしておけば、キャメロン首相の目論見はうまくいったかもしれない。サミット前夜に、中道右派のグループから距離を置くのではなく、これらの国の指導者たちと話し合っていれば、逆にうまくいくはずがないと気づいたかもしれない。
キャメロン首相による拒否権の行使は、自滅的なものだった。一時的に保守党の平議員たちの称賛を浴びたかもしれないが、目指すものがロンドンのシティと単一市場を守ることであったのなら、キャメロン首相はしくじったことになる。
英国が27カ国の条約に何の制約も課されずに参加するよりも、今後26カ国だけの首脳が参加することになるサミットから外れる方が、ロンドンのシティも単一市場も、よほど大きな危険にさらされることになる。
ここ数十年の間、英国の外交は交渉の席を確保するという方針に導かれてきた。その方針は有効で、金融サービスに関する重要な法案の採決で、英国が敗れたことはなかったのだ。
扉を閉じるのではなく、関係を修復せよ
ユーロが崩壊すれば、あるいは条約が成立しなければ、キャメロン首相はやはり自分が正しかったと主張するかもしれない。そうした事態になれば、確かに拒否権の行使がそれほど重大なものだったとは見えなくなるだろう。
だが、英国が重要な局面でサミットを脅して譲歩を迫ったことを――そして多くの国が危機の元凶だと非難している金融サービスを守ろうとしたことを、他の欧州諸国はすぐには忘れないだろう。英国内では、保守党のEU懐疑派と、連立政権を組む自由民主党が、すでに険悪な関係になっている。
最悪の場合、今回のサミットは英国がEUから離脱するプロセスの始まりになるかもしれない。だが、必ずそうなるというわけではない。キャメロン首相に、EUとの関係を修復し、欧州の一部にとどまるという戦略に沿って自身の戦術を修正する気があるならば、最悪の事態は防げる。
キャメロン首相はひとまず、新条約に参加する26カ国にEUの建物や施設を使わせないという無益な脅しを撤回し、関係改善の糸口を開いた。欧州内の力関係が変わる中で、チャンスはまだ生まれるだろう。
英国は、新条約の拘束を嘲笑する他のユーロ非加盟国の力になることもできるし、保護貿易主義や過剰な規制に抵抗したいドイツなどのユーロ加盟国に力を貸すこともできる。キャメロン首相は少なくとも、メルケル首相とは関係を修復すべきだ。メルケル首相はこれまで、英国を交渉の席にとどめようと懸命に努力していたのだ。
シティに関して英国を多少なりとも安心させ、ひいてはキャメロン首相を会議の席に引き戻す妥協策も、まだ可能かもしれない。思い出してほしい。キャメロン首相がサミットで見せた新たな強硬な一面は、同首相に排他的な英国人を押さえ込むだけの力があることをも意味しているのだ。
代償を払う覚悟があるかどうか
問題は、キャメロン首相が英国の地位を回復できるかどうかではない。そのために必要なことをする覚悟ができているかどうかだ。
最終的には、ユーロ圏も同じ選択を迫られることになる。ユーロ加盟国は、財政統合と引き換えに、ECBのバランスシートを駆使し何らかの形のユーロ共同債を受け入れるという包括的取引を結ぶこともできる。
問題は、ユーロ圏諸国がユーロを守れるかどうかではない。ユーロ圏内の十分な数の国が、その代償を支払う覚悟ができているかどうかだ。今回のサミットは、その答えが否であることを示唆している。
© 2011 The Economist Newspaper Limited. All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/33291
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。