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割れる欧州:あの邪魔な英国人め
2011.12.15(木)
(英エコノミスト誌 2011年12月10日号)
統合が進んだ欧州は、英国との対立に向かっている。
ほんの数カ月前には、デビッド・キャメロン首相がブリュッセルの人気者だった時期があった。欧州懐疑主義者を自認する英国保守党の新首相のことを心配していた人たちは、キャメロン首相がかなり協調的になれることに驚かされた。
キャメロン首相は、恒久的な救済基金を設立するためのユーロ圏の新条約を邪魔しなかった。それどころか、アイルランドを救済する手助けまでした。
だが、また別の条約改正が迫ってくると、不実な英国人に対する旧来の怒りが復活してきた。多くの欧州首脳にとって、自分たちの通貨を破局から救う試みを邪魔しているのは英国なのだ。
もちろん、それだけが首脳らが直面している問題ではないが、このコラムが印刷に回された時点で、キャメロン首相は12月8〜9日の首脳会議で厳しい交渉に臨もうとしていた*1。
パリでは数日前、フランスのニコラ・サルコジ大統領とドイツのアンゲラ・メルケル首相が事実上、英国に最後通牒を突きつけていた。欧州連合(EU)の法律を改正する独仏の計画を受け入れろ。さもないと英国は、ユーロ圏17カ国が別の条約を模索する流れを作り、英国を孤立の危険にさらすことになる、というのだ。
キャメロン首相は、英国の利益を守る保護条項を含まないどんな条約にも反対すると述べた。ユーロ圏が条約改正を求めるのなら、英国も改正を求める、というわけだ。
サッチャー元首相の影?
こうしたやり取りには、マーガレット・サッチャー元首相と、EUからの拠出金返還を求めた同氏の戦いの匂いがしないだろうか? 保守党の後方席に座っている熱心な議員たちは、そうあってほしいと願っている。鉄の女が「自分のカネを返してほしい」と言ったように、キャメロン首相にEUの権限をいくらかでも(あるいは全部)取り戻してほしいと思っている。
保守党の一般議員にとって、首相はあまりにも柔軟すぎる。キャメロン首相は、英国の国民投票を求める要求に抵抗してきた。首相は、自分の優先事項はユーロ危機の解決策を見つけることだと話してきた。そして、どの利益を守るのかという決断について、多くの余地を自らに与えてきた。
さらにEUの法律家たちは、総会、政府間協議、EU加盟国27カ国すべての批准(一部の国の国民投票を含む)を必要とする完全な形の改定手続きではなく、統治ルールを変更して、27カ国の指導者による投票だけで済むような部分的な解決策を思いついていた。
*1=ご承知の通り、キャメロン首相は首脳会議でEUの条約改正に拒否権を行使した
英国の政府高官たちはこの考えを気に入っていた(それでも英国議会は改正を承認しなければならなかったが)。しかし、ドイツは、それでは財政規律を課す十分な権限を与えられないと思っていた。
ただ、仮にけんか別れが避けられたとしても、この方法では最後の審判の日を先延ばしするだけだ。徐々にか急速にかは分からないが、英国とユーロ圏は離れつつあるのだ。
曖昧な態度は昔からだが・・・
EUの古参はこれを、よくある英国の反撃だと見なすかもしれない。当初シャルル・ド・ゴールによって仲間外れにされた英国は、1973年にEUの前身である欧州経済共同体(EEC)に参加して以来、欧州統合に曖昧な態度を取ってきた。
英国はEUからの拠出金返還を達成し、自由な移動を認めるシェンゲン協定に加わらず、ユーロへの参加を見合わせた。法律的、政治的な事柄に関する協力からは半ば距離を置いてきたし、より強力な共通の防衛政策や外交政策を策定しようとする試みを阻止しようとしている。
英国がEUにこだわる大きな理由は単一市場だ。これが、英国が特にサービスの自由化という点で統合の深化を求めている1つの分野だ。
だが、今回の危機は本当に様子が違う。ミルクをかき混ぜてバターを作るように、金融の混乱が英国をユーロ圏から分離させている。今回の危機は、ユーロ圏諸国をより緊密に結びつける一方で、ポンドを維持する英知の正しさを英国人に確信させている。EUのルールをもっと多く取り除くことができれば、英国はもっと早く成長すると言う人もいる。
欧州連邦主義者と欧州懐疑論者はどちらも同じように、自分たちの正しさが立証されたと感じている。通貨同盟は、経済的、政治的統一がなければ機能し得ない、ということだ。
指導者たちは市場からの圧力を受けて、フランス人が「finalité politique」、すなわち終着点と呼ぶものに向き合わねばならない。それは欧州国家連合だろうか、それとも欧州合衆国だろうか?
誰も口にしようとしない。いずれにせよ、ユーロ圏は連邦主義の方向に向かっており、英国はもっと主権を取り戻そうとするかもしれない。
特にサルコジ大統領は、ユーロ圏をフランスとドイツが支配する排他的(そしてことによっては保護主義的)な中核勢力に変える好機を見いだしている。ユーロ加盟国の首脳会議がこれまで以上に多くなるだろう。サルコジ大統領は、危機時には毎月首脳会議を開くことを望んでいる。
ドイツはもっと慎重に、EUの機関とユーロ非加盟国10カ国を確実に関与させようとしている。だが、メルケル首相は国の債務と赤字に関する規制強化を勝ち取るために、「経済政府」の形について繰り返しサルコジ大統領に譲歩してきた。プロセスがどのようなものであれ、ユーロ圏は単一市場に手を加えたいという誘惑にかられるだろう。
12月7日に交わされたドイツとフランスの書簡を見るといい。書簡は、金融規制、労働市場、金融取引税、法人税基盤の共通化に関するユーロ圏の行動に言及している。これらはすべて、17カ国のユーロ圏ではなく、27カ国のEU加盟国に関する事柄であるはずだ。
英国の利益を守る代償
英国は心配した方がいい。キャメロン首相が条約改正に賛同する見返りに何を求めているのかは、はっきりしなかった。当局者たちは、EUの雇用法の改正、EUの規制が英国の金融サービス産業を傷つけないという保証、ユーロ「圏内の国」が「圏外の国」を支配することがないようにする仕組み、単一市場を維持することなどを口にしていた。
これらはどれも簡単ではない。フランスその他の国は、英国による「ソーシャルダンピング」の気配が感じられるものはどんなものにも抵抗するだろう。ロンドンの金融街シティに関する手前勝手な議論は、「アングロサクソンの投機筋」が危機を招き、今もユーロを破壊することをたくらんでいるかもしれないと思っている人たちからあっさりと片付けられている。
英国は、単一市場とユーロ「圏外の国」の利益を守るよう努力する時には、より多くの支持を得られる。だが、英国の友好国は警戒している。英国がシティに対する特別の保護を手に入れたら、ドイツの自動車産業やフランスの農業にも便宜を図らないと言えるのか?
また、大部分の「圏外の国」は英国と緊密すぎる関係は持ちたくないと思っている。彼らの最終的な目的は、「圏内の国」になることなのだ。
キャメロン首相は、両立しないかもしれない目的を量りにかけなければならない。短期的には、ユーロの崩壊を回避すると同時に、自らの党を弱体化させる内部分裂を防がなくてはならない。だとすると、キャメロン首相は難しい英国の批准を避けるために、ユーロ圏が独自の道を行くのを認めるかもしれない。
だが、キャメロン首相の長期的な利益は、首相が自らの要求を和らげて27カ国での条約改正を可能にし、テーブルにとどまるべきだと言っている。なぜか。単一市場を維持し、英国の影響力を強め、経済自由主義の推進者として行動するためだ――英国と欧州のために。
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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/32812
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EU新条約、早くも不安 「英が提訴」観測浮上 国民投票も波乱要因
【ブリュッセル=瀬能繁】英国を除く欧州連合(EU)加盟26カ国が財政規律強化を目指して制定する新条約が、早くも課題に直面している。EU条約の枠外となる新条約の内容を英国が「EU条約違反」と提訴する可能性が浮上。一部の国で国民投票が実施され、発効時期が大きくずれ込む懸念もある。新条約を巡る交渉が遅れれば、金融市場で再び債務問題への警戒感が強まる可能性がある。
EUは12月8〜9日の首脳会議で、EU基本条約「リスボン条約」の改正を議論したが、キャメロン英首相が反対。EU条約改正には全加盟国の承認が必要なため、EUは「次善の策」として英国を除く26カ国がEU条約の枠外で新条約の制定を目指す方針を決めた。
今後はEU条約の枠外の新条約に関して、EU司法裁判所や欧州委員会といったEU機関を活用できるかどうかが焦点となる。新条約の柱の一つである過剰赤字国への制裁発動は、欧州委員会による勧告が前提。EU司法裁判所は、各国が均衡財政ルールを憲法などで定める作業を監視することになっているためだ。
キャメロン首相は12日に下院で「他の加盟国がEU機関を利用したいのはよく分かる」としたうえで「新たな領域で、重要な問題を提起している」と英国を除く加盟26カ国の動きを注視する考えを示した。
EU機関は加盟27カ国のための組織。英国では自国が参加しない枠組みで英国の税金が使われることに警戒感が強まっている。EU筋は「英国が『EU条約に基づかない枠組みでEU機関を活用するのはEU条約違反』と判断し、司法裁判所に提訴する可能性は否定できない」と危惧する。
法的な曖昧さを避けるため、バローゾ欧州委員長は13日の欧州議会で「EU首脳は新条約の内容をできるだけ早くEU条約に反映させることを約束した」と強調。法的措置を検討しかねないとされる英国の動きをけん制した。
新条約の2番目のハードルは国民投票だ。過去のEU条約改正ではアイルランド、オランダ、フランス、デンマークなどが賛否を問う国民投票を実施し、EUの意思決定を大混乱させた。今回の新条約でも26カ国すべての批准が必要となる。
「国民投票が必要か否かは新条約の内容次第」。アイルランドのケニー首相は言葉を濁す。同国は過去にリスボン条約を否決、2回目の国民投票でようやく批准した。来年3月1〜2日のEU首脳会議で新条約案に署名した後、3月中に国民投票の必要性を判断する見通しだ。
前回のEU首脳会議をドイツと共に主導したフランスの動向にも注目が集まる。
来年4〜5月の仏大統領選に出馬する野党・社会党のオランド氏は「自分が当選したら、新条約の内容について他の国と再交渉する」と明言している。同氏は世論調査で現職のサルコジ大統領を引き離し、次期大統領の最有力候補。新条約を巡る交渉が遅れれば、財政規律強化の取り組みに対する金融市場の不信感が強まる恐れもある。
[日経新聞12月15日朝刊P.6]
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英、孤立路線は外交敗北 責任は保守政治家に
欧州大陸から見ると、英国の欧州連合(EU)に対する姿勢は、いつも無知や懐疑心、相手を見下すような態度に彩られている。しかし困惑するのは、英国がEUの交渉の場で時として見せるとんでもない無能さだ。
英国は「ロールスロイス」とも評されるその誇り高き外交手腕で、EUが難しい岐路に立つたびに堂々と窮地に突っ込んできたように見える。先週のEU首脳会議でも同じことが起きた。キャメロン英首相は他の26カ国を向こうに回して孤立する道を選んだのである。
英国が欧州の外交で敗北するのは、高度の訓練を受けた外務省の政策専門家の落ち度ではない。外交官は有権者に選ばれた政治指導者に助言するだけで、その代わりを務めるわけではない。
EU首脳会議は、キャメロン氏と政権の主要メンバーが、英国の職業外交官たちが提供するアドバイスをあえて排除した外交の実態を浮き彫りにした。孤立の責任はキャメロン氏と側近中の側近であるヘイグ外相、カンリフ欧州担当顧問が負うべきだ。カンリフ氏は外交官出身ではなく、財務省で金融政策の第一線にいた人物だ。
失敗の責任は反欧州という自説を曲げない保守主義者にある。保守党内では現在、1973年に欧州経済共同体(EEC)に加盟して以降、最も保守派の発言力が高まっている。
キャメロン氏はEU首脳会議でもっと同情的に話を聴いてもらえる余地があった。しかしそれは事前に同氏がEU加盟諸国に英国の立場への理解を求める努力を惜しまなかった場合のことだ。実際は会議の開幕後に初めてキャメロン氏は各国首脳に英国の要求を提示した。
サルコジ仏大統領はキャメロン氏より一枚上手だった。ユーロ圏の経済統治を再編するとの目標に向け、フランスの思い描く通りに議論を進めた。
キャメロン氏は金融街シティーへの特別な保護を取りつけるのに失敗したうえ、ユーロ圏の財政・経済統合に必要なEU条約改正を拒否した。
小さな慰めがあるとすれば、欧州を舞台にした英国外交の失敗は昔から珍しくなかったことだろう。1623年に王位に就く前のチャールズ1世は偽のヒゲをつけてジョン・スミスと名乗り、スペイン国王の妹と結婚するためマドリードに乗り込んだ。しかし結局、手ぶらでむなしく帰国したという。
(14日付)
=英フィナンシャル・タイムズ紙特約
[日経新聞12月15日夕刊P.6]
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