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2011年の8月から、ヨーロッパの債務問題や、アメリカの債務上限をめぐる民主共和両党のチキンレースから米国債格下げを契機として、世界の株式市場は急落した。
皆さんは、不思議に思わないだろうか?
**EUとユーロの最大の問題点は、通貨と市場を統合しながら、財政や政治が統合されていない点であることは、ユーロ発足時から繰り返し言われてきた。(このため当初ユーロは割安な水準におかれたのだが)
**アメリカの財政赤字問題も80年代の双子の赤字や日米の貿易摩擦、そして直近の米中の貿易摩擦を見るに数十年スパンで言われ続けてきた。
欧米の構造的な問題は、以前から指摘されてきたのに、なぜ今回このタイミングで株価を急落させるパニックが生じたのだろうか?それは、今回の株価を急落させた直接的な原因は構造的な問題だけではなく、もっと別にあると考えるのが正しい。
先に結論から言うと
私は、今回のマーケット騒乱をもたらした最大の原因は世界の中央銀行の金融政策の足並みが崩れた事によって金融市場に対する信頼が失われたことにあると考えている。
★具体的な引き金は、アメリカのFRBのゼロ金利金融緩和政策を維持しているのに対して、今年の春にヨーロッパのECBが政策金利を引き上げて金融引締めに動いたことが直接的な原因である。
★1987年10月19日に起こった、史上最大規模の世界的株価大暴落ブラックマンデー前にも、このような金融政策の不一致が起こっていた。(当時はFRBの金融緩和姿勢に対し、ドイツのブンデスバンクが単独で利上げを開始した)
自分は、EU(欧州連合)及びユーロの金融・経済的な意義と言うのは、膨張した資本の受け皿としての市場と通貨を作り上げるプロセスだったと考えている。
******EU(欧州連合)統合のダークサイド(暗黒面)
1990年、ベルリンの壁が崩壊した。西ヨーロッパにとってのロシアの脅威、鉄のカーテンは東に大きく後退した。東側諸国が崩壊したことで、ある種の権力の真空地帯が出現し、政治的には東西ドイツの統合、ECがEUへ深化し、ドイツマルクがヨーロッパの共通通貨のユーロへ進化する方向へ進んだ。
一方で、金融的な視座から見れば、経済が成熟して成長機会が見出しにくくなった西ヨーロッパの金融・経済資本は冷戦の終結(平和の配当)、ヨーロッパ世界の拡大を捉えて投資や融資先を見つけて加速度的に周辺に流れ出す事になった。この資本の流れが、さらに欧州統合やユーロ導入の動きを加速させる事になった
★EUやユーロの表向きの題目である「戦争なきヨーロッパ」や「巨大な共通市場」「強力な通貨圏」といった美辞麗句の裏に、資本と労働のバランスが壊れ、レーニンが言う「帝国主義」が資本主義の独占段階として植民地や奴隷制を通じて資本投下と市場開拓のために拡大を続ける姿と拡大EUがだぶる。EUの非常に醜い裏の面が垣間見える。
南欧、中欧、そして東欧へとヨーロッパ帝国の中枢から周辺部に資本投下が行われ、最初は生産基地として、次には市場としてドイツやフランスといった中枢から収奪される構図だ。ギリシャはデフォルトの常習犯だし、南欧諸国の人々がドイツ人ほど真面目に働かないのは事実だが、こういう不公平で非人間的なシステムの悪い面を無視して資本の論理のみで、今回の債務問題に関して強行処理を行う事は様々な問題を引き起こす可能性が高いと考える。
******ブンデスバンク(ドイツ連銀)の後継者としてのECB(欧州中央銀行)
ドイツの中央銀行であるブンデスバンクは、★第二次大戦後、国土を大幅に削られた上に東西ドイツに二分され、国際的な発言権を取り上げられたドイツ民族の屈辱を晴らすために、通貨価値を高めながら経済を復興させ拡大していくという困難な舵取りを一手に担って孤軍奮闘してきた。ドイツ企業や経済が、インフレ下の好況でぜい肉がついてビール腹になってしまうのを避けるために、インフレファイターとしてドイツ人にムチを打って生産性の向上を続けさせた。(高インフレ下の好況に慣れると、現在の中国や新興国のように成長の持続性や本質的な通貨の強さが失われる危険性が増す)
西ドイツをヨーロッパ最強の経済大国に鍛え上げて、破綻寸前の東ドイツを財政支援することで実質的な東西ドイツ統合の下地を築いた。最終的には、ドイツマルクに比肩するヨーロッパ通貨はなくなり、フランスを初めヨーロッパ諸国は、あまねくドイツマルクの価値の軍門に下ることになった。
******ECB(欧州中央銀行)の金融政策
ECBの目標は、金融政策として短期の政策金利をコントロールすることで、インフレ率を2%前後に抑え込むことだ。そういう意味では、物価を安定化させることで通貨価値を維持するというブンデスバンクの正当な後継者だと言える。(ちなみにFRBは物価の安定と雇用の最大化の二兎を追う)
******ECB(欧州中央銀行)の政策金利引き上げの代償
★ブンデスバンクのDNAを持つECBには、ユーロの通貨価値を高く維持しなければいけない恐怖観念のようなものが感じられる。ドルや円に対抗できない弱い通貨に成り下がってしまえば、EU諸国がユーロに参加し続けるメリットがなくなるからだ。(強いドイツマルクにリンクできるからこそ、各国は独自通貨を捨ててユーロを導入したのだから)
このため、2008年のリーマン危機の時には、ECBのトルシェ総裁は原油が140ドルになってインフレが加速しかねない異常事態に陥っていたため、なかなか利下げを行わなかった。(利下げへの転換は2008年11月)今回も、2010年のギリシャ危機の傷が癒えない2011年4月に原油価格の急騰に伴うインフレ懸念から断固利上げに踏み切った。
このようなブンデスバンク並みのECBの厳しい金融政策と旧ドイツマルクの信用力と、ドイツの経済力のおかげでリーマン・ショック前までは、ユーロ圏各国の長期金利は最も信用力が高く金利が低いドイツ国債に連動させることができた。しかし、★このようにインフレのみを注視した政策金利の引き上げは、金利引き上げに対応できる体力のない周辺国やその債権を大量に持つ金融機関にとって厳しすぎた。周辺国の経済や財政は金利の引き上げについてこれず、今回は為替調整ができないため、周辺国経済の財政と賃金に強力なデフレ圧力と金融危機をもたらした。
★★その一方で、FRBがリーマン・ショック後、金融緩和で問題先送りしているのに比べ、ECBは過剰債務という問題に早い段階でケリがつくのかもしれない。(代償は非常に大きいが)
*******今回の危機を経てECB(欧州中央銀行)の変容or進化
今回のギリシャ危機を発端とするヨーロッパのソブリン危機が明らかにしたものは、ヨーロッパ人は皆ドイツ人のようにはなれないということだ。ドイツ人のように真面目で勤勉になれない。ましてや爪に明かりを灯すようにインフレを許さないきつめの金融政策の中で生産性を上げていく根性はない。(デフレで鍛えられた日本人ならついていけると思うが)
後、ヨーロッパ政治の伝統である権謀術数やマキャベリズムがあいまって、当初は機能すると思われた財政規律が抜け穴だらけにされたことも大きな問題だった。EU各国の首脳はその問題に気付きながらも深刻な事態になるまで放置してきた。この事が、2010年のギリシャ危機の際に、ECBがユーロ圏の経済や金融システムを支えるために、ギリシャを初めとするEU圏の国債を購入する政策に踏み出した際に、ECB内に分裂をもたらした。最終的に、ブンデスバンクの伝統を重んじ、国債購入が財政支援に当たると批判する(マーストリヒト条約に違反する)、ドイツ連邦銀行のウェーバー前総裁、シュタルクECB専務理事らが辞意を表明するきっかけとなってしまった。
しかし、自分はECBが普通の国家の中央銀行のように「最後の貸し手」であることを強く表明して一歩踏み出す必要があると考えている。★日米欧の財政状況がどこもヒドイ状況の中で英国よりも比較的ましなEU圏がこのような危機的状況に陥っているのは、ECBの立ち位置が不透明なことに起因している。★FRBが世界恐慌の中で中央銀行として鍛えられていったのと同じように、ECBもその歴史的なプロセスにあると考えているしそう信じたい。
******ソブリン(国)債市場が持つ本当の意味
国債と言うのは国が発行した債券(借用証書)のことを指します。国債とは、その国の社会制度、通貨、金融システムの信用そのものを表しています。
このため、ソブリンリスクが急上昇し資金繰りが危うくなるということは、国のシステムや通貨制度、金融システムそのものが大きく揺らいでいるという結構深刻な事態なのです。
特に先進国における効率的で複雑な金融システムにおいては、国債はデフォルト(破綻)リスクのない安全資産として、余裕資金の退避場所となっています。(金融業界ではリスクフリー資産と言います)この前提が壊れると、年金や保険、銀行システムそのものが維持できない可能性が出てきます。
******ソブリンリスクの急上昇が意味するもの
一旦ソブリンリスクが上昇すると、通常の経済環境とは異なり、無リスク資産と思われている国債や銀行預金に元本割れのリスクが浮上し、価値が変動しないと思われている現金についても価値が乱高下して、インフレリスクや為替(通貨変動)リスクが極端な形で現れることがあります。
ソブリンリスクが顕在化した経済環境では、現預金であれ、国債などの債券であれ、株式であれ、どんな資産を保有しても、リスクと向き合わざるを得ないのです。(世界中がそのような環境になってきました)
******今後のヨーロッパソブリン危機の展開
EU加盟国政府(特にドイツ)とEU各国の中央銀行(特にECB)は早急に、ソブリンリスクを抑え込む必要があります。現在、金融システムに想定以上の負荷がかかり続けており、このまま放置すればヨーロッパ域内だけでなく、先進国や特に新興国にリーマン・ショック級の信用収縮の津浪が襲いかかりかねない状態です。特に★ソブリンリスクは、金融システムの根幹をなす通貨に集約してくるので、為替が乱高下するレベルでなく、第一次大戦から第二次大戦の期間のように通貨が大幅に下落して価値が失われればハイパーインフレになり、一方で通貨価値が実体経済よりも大幅に強くなり過ぎればデフレスパイラルに陥る危険性があるからです。
そこで大事なポイントと考えるのは
@. ドイツがヨーロッパの盟主としての真のリーダーシップを示せるか?
リーダー国は国際経済の安定のために5つの公共財を提供する必要があるとアメリカの著名な経済学者であり歴史学者のキンドルバーガーは指摘している。
i )買い手のつかない製品を引き受ける市場
ii )不況期における長期的な融資
iii )為替の安定
iv )マクロ経済上の政策協調
v )金融危機における最後の貸し手の役割
★1930年代の世界恐慌期はイギリスには能力がなく、アメリカがリーダーの役割を拒んだことが、国際経済システムを崩壊させ原因であるとキンドルバーガーは説明している。その危険性は現在のドイツにも当てはまる。
ドイツはこれまでのように貿易黒字を貯め込むのではなく、★周辺国からの輸入を促進させて危機的な貿易・財政収支を均衡させること。これまで貯め込んだ黒字を赤字国に還元させることが、周辺国の大量の債権を持つドイツの金融界(銀行・保険)を救う道でもあると思います。
A. ECB(欧州中央銀行)が名実ともに共通通貨ユーロとヨーロッパ金融市場を救う行動がとれるか?
急速に進行したコンフィデンス(信頼感)の崩壊の危機により、もはや政策金利の引き下げだけでは金融市場の緊張を解消できなくなっている。ECBが普通の国家の中央銀行のように通貨の守り手であると同時に金融市場の守り手として「最後の貸し手」であることを内外に強く表明する必要がある。★具体的にはFRBがリーマン・ショック以降に行ったようにEU圏の国債を一定の金利水準になるまで無制限に買取るヨーロッパ版QE(量的緩和)が必要しか方法はない。これによってユーロの通貨価値は大幅に下落し、周辺国は経済の再建が楽になる。ユーロ圏の信用収縮や流動性危機による潜在的なデフレ圧力も回避され、経済・交易活動の悪化も食い止められるだろう。しかしこのためには★盟主ドイツの政治的な決断が必要不可欠だ。
B. EFSF(欧州金融安定基金)はユーロ共同債に衣替えする?
EFSFの仕組みは、1)信用力のある母体(国)が出資を行い 2)EFSFは出資者の信用力と元金をもとに借入をおこしレバレッジをかける 3)その資金を銀行や国債に投資・融資する であるが、これは本質的に国が中央銀行を使ってレバレッジをかけている通貨が持つ仕組みである。
通貨圏の中に新たな通貨を作るような面倒な仕組みはマーケットからコンフィデンス(信頼感)を得にくい。EFSFは償還・借換分の国債をECBの融資でEFSFに切り替えていき、★金融市場が正常化したらEFSF債がEU共同債に衣替えするというのが落とし所だと思う。 (広瀬隆雄)
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