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「ユーロ危機」の根底にあるのは、財政赤字問題ではなく、対外不均衡(経常収支赤字)問題にあるという認識に基づいて書かれている記事である。
日本と世界一二を争う産業力を誇るドイツと農業観光立国とも言えるギリシャなどが同じ通貨で経済活動を行っていることが、対外不均衡の根本要因である。
記事は、「ユーロ圏離脱の可能性を除外するなら、競争力の変化には、活気に満ちたユーロ圏経済と、黒字国におけるインフレ率上昇および積極的な信用拡大が必要になる」と書いているが、ドイツが低い産業競争力にあえぐ国々のためにインフレ率を高める政策をとるはずもなく、記事もその後ろで、「財政緊縮ばかりに集中すると、我々が今はっきり目にしているように、危機対策は間違いなく景気サイクルを猛烈に増幅することになる」と書いているくらいだから、「活気に満ちたユーロ圏経済」を望むこともできない。
記事は、「真実を見誤ったままでは、危機の再発は防げない」と警鐘を鳴らし、「規模が大きく閉ざされた経済圏内の国際収支危機を解決するためには、黒字国、赤字国の双方における膨大な調整が必要になる。それが真実であって、ほかのすべてはただの論評だ」と結んでいる。
ユーロ圏が規模の大きな経済圏であることは認めても、閉ざされた経済圏ではない。 日米中韓などとの熾烈な競争下にある経済圏である。
それを考えると、ドイツが、“劣った競争力”の国々のために、自らの競争力を劣化させかねない調整を行うと考えることはできない。
周縁国は、ユーロ圏から離脱しない限り、経済的にも政治的にも、中核国のしもべとして位置づけられるようになるだろう。
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ユーロ圏を救えなかったメルコジ
2011.12.08(木)
(2011年12月7日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
2人の頭脳は1人の頭脳に勝ると言われる。ドイツのアンゲラ・メルケル首相とフランスのニコラ・サルコジ大統領の会談の場合は、そうではなかった。
会談の結論が、欧州中央銀行(ECB)が国債市場への介入強化を決断する支援材料になるとすれば、多少の救いとなるかもしれない。だが、両首脳はブルボン家のように、何も学ばず、何も忘れなかったようだ。
では、何が合意されたのか? 会談で下された決断には、以下の内容が含まれているようだ。
EUサミット直前の独仏合意の中身
ユーロ圏内の救済に関しては、自発的な債務再編の可能性は残るものの、民間の債券保有者に損失負担を強いることはしない。財政赤字の制限を守れなかった国は、自動的ではないとはいえ、制裁を科される可能性が高くなる。加盟国の国内法に財政均衡を義務づける条項を盛り込む。
恒久的な救済基金である欧州安定化メカニズム(ESM)を、2013年6月ではなく2012年6月に設置する。危機時には、政策協調を監視するために欧州諸国の首脳が月1回会合を開く――。
つまり、債務繰り延べにおける強制的な「民間部門の関与」が消えたわけだ。これはECBを喜ばせるだろう。やはり消えたのは、財政面で「罪を犯した者」に対する自動制裁と、欧州司法裁判所による財政規則違反の評価だ。これはフランスを喜ばせるだろう。
フランスはこのほか、新たな欧州連合(EU)条約の代わりに、ユーロ圏諸国が政府間協定を結ぶ可能性があるという合意も取りつけた。ドイツも完全に手ぶらで帰ったわけではない。ドイツは今回の会談でも、「ユーロ債」(ソブリン債務の共同発行)を排除することができた。だが、多くを手に入れたようには見えない。
今回の合意に促され、ECBが国債市場への介入を強化する可能性はあるだろうか? ECBのマリオ・ドラギ新総裁は先週、欧州議会で行った演説で、国家財政に関して各国政府を拘束する合意は、金融市場の「信頼を回復させ始めるために最も重要な要素だ」と語った。
さらに「ほかの要素も後に続くかもしれないが、順序が重要だ」とつけ加えている。
イタリアの実務型政府が発表した財政再建策と改革策は、こうした「ほかの要素」の実行に関し、ECBにゴーサインを出す一助になるかもしれない。
市場は希望を抱いて反応し、12月5日にはスペインの10年物国債の利回りが5.2%に低下、イタリアの10年債利回りも6.3%に低下した。
だが、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)はユーロ圏を格下げ方向で見直す「ネガティブウォッチ」に指定した。合言葉は依然、脆弱性なのだ。
12月9日は、とてつもなく大きな節目となる。我々がこれまでに聞いたサルコジ、メルケル両首脳の言葉は、信頼を生むものではない。問題は、ユーロ圏の覇権国であるドイツには計画があるが、その計画がちょっとした大間違いだということだ。
良い知らせは、ユーロ圏の反対勢力がドイツの計画の完全適用を阻止するということ。悪い知らせは、それよりましな計画が何も提案されていないように見えることだ。
危機の原点は財政問題ではない
ドイツが抱く信念は、財政の違反行為が危機の原点だというものだ。同国にはそう考えるだけの理由がある。だが、もしドイツが真実を受け入れたら、自分たちがこの不幸な結果を招くのに大きな役割を果たしたことを認めざるを得ないだろう。
ユーロ圏の重要国12カ国(あるいは少なくとも示唆に富む国々)が1999〜2007年に出した財政赤字の平均を見てほしい。ギリシャを除くすべての国が、国内総生産(GDP)の3%という有名な上限を下回っていた。
この基準だけを見ていたら、ギリシャを除き、現在危機に見舞われているすべての加盟国を見落としていた。さらに、ギリシャに続いてひどい見本となるのは、イタリア、次にフランス、そしてドイツ、オーストリアの4カ国だった。
一方、同じ期間にアイルランド、エストニア、スペイン、ベルギーは優れた成績を上げた。危機が起きると状況が一変し、アイルランドとポルトガル、スペインの財政状況が劇的(かつ予想外)に悪化した(ただし、イタリアは別)。だが、総合してみると、財政赤字は迫り来る危機の指標としては役に立たなかった。
次に、公的債務を見てみよう。この基準を頼りにしていたら、ギリシャ、イタリア、ベルギー、ポルトガルの危なさには気づいていた。だが、エストニアとアイルランド、スペインの公的債務状況はドイツよりもはるかに良かった。実際、財政赤字と債務の動向をベースにすると、危機以前のドイツは脆弱にさえ見えた。
ここでもやはり、危機後に状況が急変した。アイルランドの物語は実に驚くべきものだ。対GDPの純公的債務比率がたった5年間で93%も跳ね上がることになるのだ。
経常赤字が浮き彫りにする国際収支危機、必要なのは対外調整
さて、今度は1999〜2007年の経常赤字の平均を見てみよう。この尺度で見ると、最も脆弱な国は、エストニア、ポルトガル、ギリシャ、スペイン、アイルランド、イタリアだった。我々はやっと、役に立つ指標を手に入れたわけだ。つまり、これは国際収支危機だということだ。
2008年に対外不均衡を穴埋めする民間資金が「急停止」し、民間の信用供与が絶たれた。それ以来ずっと、公的部門が資本の出し手として活動してきた。ミュンヘンにあるIfo経済研究所のハンス・ウェルナー・ジン所長が主張しているように、 欧州中央銀行制度(ESCB)は最後の貸し手として多大な役割を果たしてきた。
ユーロ圏の最強国が危機の本質を認めることを拒むなら、ユーロ圏は危機を打開する見込みもなければ、危機の再来を防ぐ見込みもない。確かに、ECBは問題を取り繕うことができるかもしれない。短期的には、ECBの介入は不可欠でさえある。対外調整には時間がかかるからだ。
しかし、最終的には対外調整こそが不可欠となる。これは財政緊縮よりもはるかに重要なのだ。
対外調整が行われない場合、脆い加盟国に科された財政赤字削減措置はただ、長期にわたる深刻な景気後退を招くだけだ。ひとたび対外調整が果たす役割が認識されれば、核心的な問題は、財政緊縮ではなく、求められる競争力の変化となる。
ユーロ圏離脱の可能性を除外するなら、競争力の変化には、活気に満ちたユーロ圏経済と、黒字国におけるインフレ率上昇および積極的な信用拡大が必要になる。
これらは今、どれもあり得ないように思える。市場が極めて慎重な姿勢を崩さないのが正しいのは、このためだ。
真実を見誤ったままでは、危機の再発は防げない
財政・金融統合がない場合、通貨同盟は国際収支危機に陥りやすいということを認めなければ、危機の再発はほぼ確実になる。しかも、財政緊縮ばかりに集中すると、我々が今はっきり目にしているように、危機対策は間違いなく景気サイクルを猛烈に増幅することになる。
もしかしたら、パリで合意された一見もっともらしい対策により、ECBが行動できるようになるかもしれない。また、筆者は疑わしいと思っているが、これが平和な時期をもたらす可能性もある。
だが、ユーロ圏は依然、効果的な長期改善策を探し求めている。ドイツがより自動的かつ厳格な財政規律を押し通せなかったことを、筆者は残念には思わない。というのもドイツのこの要求は、真の問題を理解できないことに基づいているからだ。今の危機は根底の部分で国際収支危機なのだ。
規模が大きく閉ざされた経済圏内の国際収支危機を解決するためには、黒字国、赤字国の双方における膨大な調整が必要になる。それが真実であって、ほかのすべてはただの論評だ。
By Martin Wolf
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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/31980
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