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http://www.bloomberg.co.jp/news/123-LVQ5730YHQ0X01.html
12月5日(ブルームバーグ):11月24日は米国では感謝祭の祝日だったが、欧州にとってはまたしても緊張でぴりぴりした木曜日だった。欧州議会のあるフランスのストラスブールに、ドイツのメルケル首相はいつになく遅れて到着し、フランスのサルコジ大統領とイタリアのモンティ首相を待たせた。待たせても心配はない。メルケル首相はいわばハムレット役だ。同首相なしに記者会見が始まることはない。
その前日、欧州債務危機はついにドイツに達していた。10年債の入札が札割れになったのだ。その日の流通市場でドイツ10年国債利回りは米国債を0.3ポイント上回る水準で終了した。ブルームバーグ・ビジネス ウィーク誌12月5日号が報じる。
メルケル首相が真実に向き合う瞬間かと思われた。ユーロの崩壊を防げるのはドイツだけだ。ユーロ崩壊は金融危機と世界的リセッション(景気後退)につながるだろう。★1人の女性が、世界の運命をその手に握っていると言っても言い過ぎではない状況だ。しかし、フランス、中国、米国を含む世界の首脳らがいら立ち、戸惑い、怒りを募らせるのを尻目に、メルケル首相は繰り返し行動を拒む。
記者会見が始まって10分後、メルケル首相の発言の番が来ると、市場と世界の政治家はドイツ語での首相の発言の中から今度こそ、ユーロ共同債や欧州中央銀行(ECB)による無制限の債券購入を支持するシグナルを聞き取ろうと息を殺して耳をそばだてた。
*****勝利
ところが、メルケル首相は1ミリたりとも譲らない。ドイツの納税者にギリシャやイタリアの債務を共同で背負わせるユーロ共同債は「必要でもなく適切でもない」と首相は言明。高債務国に財政再建を強いる条約改正の手続き迅速化を重ねて呼びかけた。さらに、危機対応においてECBの役割拡大を迫らないとサルコジ大統領に約束させ、外交上の勝ち星まで挙げた。
メルケル首相にとって快挙だ。しかし、ドイツの政策当局以外からはうめき声が上がった。欧州外交評議会(ECFR)の上級研究員、セバスチャン・ダリアン氏は「ユーロ崩壊かユーロ共同債かのどちらかへ一歩近づいただけだ」と述べた。
ギリシャから始まった危機は欧州の中核国に及び、政府の緊縮財政策で税収は低下。各国の返済能力を疑問視する投資家が国債利回りを押し上げ、大陸欧州の銀行は保有ソブリン債で巨額の損失を抱えた。
*****中銀は不安
危険を知らせる信号の一つは、欧州の銀行のドル建て資金調達コストが2008年以来の高水準に達したことだ。米連邦準備制度理事会(FRB)は11月30日に、ECBおよび他の4中銀に供給するドル資金の金利を引き下げた。各中銀はドル資金を管轄域内の銀行に貸し付ける。債券ファンド大手、米パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)のモハメド・エラリアン最高経営責任者(CEO)はブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、中央銀行は「銀行システムの機能に何か不安があるのだろう」と述べた。
★欧州には1914年8月の臭いが漂っている。同月に欧州の首脳らは傲慢と国家主義、複雑に絡み合った同盟関係、先見性の欠如によって第一次世界大戦へと滑り落ちていった。世界はメルケル首相が金融大災害の一歩手前で折れると想定しているが、その保証はない。
★メルケル首相は条約変更を呼び掛けた時、「ユーロ圏の建築の弱さ」を修正する必要があると語った。同首相は自らを、燃えている家の火を消す消防士ではなく、改築を手掛ける建築家とみている。しかし、メルケル首相が完璧な設計図を引き終わるころ、改築予定の建物は既に焼け落ちているかもしれない。
*****ドイツの誇り
★ドイツ人はユーロを、ドイツ・マルクの子孫で跡継ぎだと考えている。1948年に誕生したドイツ・マルクは敗戦後のドイツ人が誇れる数少ない存在の1つだった。そのマルクが1999年にユーロに縛り付けられ、2002年に完全に姿を消したとき、多くのドイツ人は断腸の思いだった。今、ユーロ反対派は声を大にしてその不当さを訴える。世界が紙幣増刷をECBに迫るなかで、ドイツ連邦銀行はECBでギリシャと同じ1票の議決権しか持たない。ドイツ人が南欧諸国の放逸と見なすものへの憤まんが、ドイツ首相の手を縛る。
しかし問題は、欧州には熟考している時間がないことだ、銀行破綻やソブリンデフォルト(債務不履行)は数カ月後ではなく数週間後に迫っている。ポーランドのシコルスキ外相は11月28日、ベルリンでの講演で、「ポーランドの外相でこんなことを言った人間はいまだかつてないと思うが、私はドイツの覇権よりもドイツの無為を恐れる」と懸念を示した。
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