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日曜に考える:創論:崖っぷちユーロ、危機を脱するか
ユーロという通貨は持続可能なのか。8〜9日の欧州連合(EU)首脳会議を控え、政府債務と金融に関し市場の不安がぬぐえない。ここまで問題をこじらせた背景には意思決定と対応の遅れがある。危機を脱することができるか、米ユーラシア・グループ社長のイアン・ブレマー氏と前欧州復興開発銀行総裁のジャン・ルミエール氏に聞いた。
「意思決定の仕組みに欠陥」 米ユーラシア・グループ社長 イアン・ブレマー氏
――ユーロ圏の混乱をどう見ているか。
「欧州の根本的な問題は、共通の財政制度が欠けている点にだけあるのではない。そもそも意思決定のメカニズムが機能していないことこそが問題なのだ。財政に余裕のある国とない国、大きい国と小さい国。バラバラな17カ国を均等に扱うような仕組みは、うまく働くはずがない」
――どうすればよいか。
「ドイツやフランスなど中核国は、ユーロの仕組みを改めようとしているのだろう。カギとなるのは(実力に応じて異なる扱いをする)『非対称性』の導入。各国ごとの財政主権についていえば、ドイツが放棄することはあるまい。一方、ギリシャは放棄するほかない。イタリアは部分的に放棄する必要が出てくる」
――重債務国の扱いは。
「今後、問題国が生じても、ドイツが自動的に救済することはないだろう。今回のギリシャに対してとられるように、政府債務の棒引きが繰り返されてもおかしくない」
――それでは混乱が収まらないのではないか。
「ドイツは欧州に経済規律を求めている。ところが、規律回復の過程は痛みを伴うし、時間もかかる。国民投票をめぐるギリシャの混乱は救いがたく、最終的にはパパンドレウ首相が退陣した。パパデモス新首相は十分な経済立て直し策を示しておらず、追加支援を求めているようにも見える」
「欧州で新しい秩序が生まれるまでには、数年を要する。その間、市場はイライラして欧州各国に圧力をかけ続けるだろう。金融市場で今起きている危機連鎖はその産物だ」
――市場と当局の溝が深まり、収拾不能になりつつあるとも懸念されている。
「南欧の重債務国に対しドイツが市場の混乱を圧力として使ってきたフシがある。市場はそうした思惑をよそに、往々にして過剰反応する。銀行システムが行き詰まり、欧州が不況に陥る可能性が高まっている」
――米議会の財政協議が暗礁に乗り上げるなど、状況が厳しいのはユーロ圏だけではないはずだ。
「その通りだ。最近、米金融機関の幹部200人に講演した時のことだ。『5年以内にリーマン・ショックが繰り返されると思う人は?』と尋ねたら、92%の参加者が『イエス』と答えた。景気の回復、医療制度や金融制度の改革。最近の米国はどれひとつ取ってもうまくいっていない」
――米欧、ドルとユーロの関係でみると。
「我々がGゼロと名付けた指導国不在の状況では、ドル基軸体制も侵食されるだろう。だがごく目先でみれば、ドルの価値はむしろ強くなっている。米国以外の経済がもっと弱いからで、ことにユーロ圏は信じがたいくらい弱い」
Ian Bremmer 米スタンフォード大で博士号(旧ソ連研究)。1998年に世界の政治リスクを分析する調査会社ユーラシア・グループ設立。42歳。
「政府の信頼回復がカギ」 欧州復興開発銀・前総裁 ジャン・ルミエール氏
――ユーロ圏の国債が次々と狙い撃ちされている。
「確かにここ3カ月というもの欧州諸国は挑戦を受けている。ギリシャ、ポルトガル、アイルランドばかりでなく、イタリアやスペインの国債が売られ、最近ではフランス国債の利回りまでも上昇した」
――市場ではユーロ崩壊さえ取りざたされている。
「ちょっと待ってほしい。フランス国債の利回りは上昇したといっても3%台半ばと、まだ低水準だ。欧州各国も事態を深刻に受け止め、経済と財政の立て直しに動いている」
――イタリア国債の利回りは危機ラインとされる7%に達した。大丈夫か。
「指導者に疑問符がついていたイタリアでは政権が交代し、事態は好転しつつある。モンティ新首相は欧州委員会の委員を務めており、経済運営に関する信頼も厚い。必要な改革は、本格的な歳出削減に踏み切ると同時に、歳入を増やすために経済成長の引き上げを目指すことだ。労働市場の改革は成長戦略の柱だ」
――国民は改革という苦い薬を受け入れるか。
「金融市場が厳しさを増し、民間の資金調達も難しくなったことで、人々は目覚めつつある。イタリアの場合、議会の任期が満了する2013年までモンティ氏が政権を担当すれば、国民に改革を納得させるだけの時間が稼げよう。仏独の首脳もその動きを全面的に後押ししている」
――火消し役である欧州金融安定基金(EFSF)の資金基盤は十分か。
「EFSFの資金にレバレッジ(テコの原理)を効かせるために、問題国の国債の損失を補償する機能を加え、外部からの資金を取り入れられるよう検討中だ。外部資金の取り入れという点では、日本や中国からの協力を仰ぎたい」
――欧州中央銀行(ECB)がもっと国債を購入すべきだとの意見もある。
「ECBはすでにイタリアやスペインの政府債務を支えるため国債市場に積極的に介入している。欧州にとって重要なのは、適切な財政再建と制度改革によって信頼を取り戻すことだ」
――仏独の指導者の間のすき間風も指摘されるが。
「当然、様々な議論はあるが、ユーロ圏を強化していく方向は一致している。この点で、イタリアも含めユーロ圏の三大国の足並みはそろっている」
――何事も全会一致というユーロ圏の意思決定の仕組みに問題はないか。
「とても課題の多い問題だ。各国ごとの利害にこだわるのではなく、我々全てに恩恵をもたらすしっかりした共通認識がつくられるように、欧州全体が主権を持つという方向を目指すべきだろう。その過程で、全会一致から多数決へと意思決定の仕組みを変えることも考えるべきだ」
Jean Lemierre 仏財務省国庫局長などを経て、2000〜08年に欧州復興開発銀行総裁を務めた。現在は仏BNPパリバ特別顧問。61歳。
「統治の欠損」は他山の石
第2のリーマン・ショックが来るか。ユーロ危機の行方に気をもむ市場では、この言葉が挨拶代わりになっている。リーマン危機では、政府が金融危機を収めた。ところが今回は欧州の政府債務が発端となり、国債を保有する金融機関の足元に火が付いた。欧州各国が一丸となるべきなのに、足並みがそろわない。
バブル崩壊後の日本が海外から批判されたように、欧州は遅すぎて小さすぎる対応を重ね、問題をこじらせた。日本が胸に手を当てるべきは、欧州危機の病根ともいえる「統治の欠損」である。
(編集委員 滝田洋一)
[日経新聞12月4日朝刊P.9]
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地球回覧:「マダムNO」がうなずく日
「世界最強の女性」の1日は夫と共にする朝食作りで始まる。「朝7時半には登庁し、夜10時半まで働く」(ドイツ首相府幹部)というメルケル首相には料理好きの気さくな一面もある。だが、この人の首を縦に振らせるのは相当な難儀だ。
2日朝、黒いスーツで連邦議会に現れた首相は、書類でずんぐりと膨れた黄土色のカバンから、次の欧州連合(EU)首脳会議に向けた演説原稿を取り出した。ユーロの存亡を左右するとまで言われる局面だが、演説に債務不安の国や市場を喜ばせる大胆な決断の言葉は皆無だった。「危機克服は何年もかかる。私の言葉や考えが『最後の一撃』になることは全くない」
市場を鎮めるユーロ共同債の導入、欧州中央銀行(ECB)の国債買い入れの大幅増額、そして危機国への支援の上積み。ドイツはどのアイデアにも「NO」だ。
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突出した力を握りながら、動かぬドイツに欧州内のいら立ちが募る。当初、ギリシャ支援を拒み「マダムNO」と言われた批判が再燃した。側近議員が「今や欧州はドイツ語を話すべきだ」と放言したのも火を付け、英大衆紙は「ドイツの独善」「(ヒトラーに続く)第4帝国」と騒がしい。
フランスでも、対抗力を落としたサルコジ大統領に、皮肉を込めて「ドイツ恐怖症」の評判がついた。ECBが危機回避にもっと大胆に動くべきだという大統領の持論は、メルケル氏にやんわり封じられた。
浮いた存在になりつつある現実は独国民も気付いているが、「安定の文化」にこだわる首相への支持はむしろ高まっている。最近の世論調査で「首相は危機対応でいい仕事をしている」との回答は63%。10月初めの45%から急伸した。
「孫が生まれて去年より買い物が増えた。危機? 東西統一前に比べたらずっといいわ」。旧東独の町からベルリンに来たハンカさん(48)は買い物袋を両手に話す。「家も買った。貯金するよりすてきな住まいがある方がいいでしょ」
欧州が華やぐクリスマスの季節。危機が襲う南欧の消費は冷え込むが、ドイツは違う。「不動産や自動車、装飾品など消費意欲は向上している」と調査機関GfKのビュルクル氏は話す。11月の失業者は1年前に比べ21万人減り、6年前の最悪期の半分となった。
実質賃下げの時を乗りこえ、競争力を高めて財政赤字を減らしたドイツは、果実をいま実感する。「メルケルさん、こだわり続けて」。保守系日刊紙ウェルトは最近、独国民に負担のツケが回る支援拡大策を拒み、規律重視で筋を通す「決断」を首相に求めた。
「南欧の人がドイツ人のようになれますか」。外国メディアとの会見でショイブレ独財務相に疑問をぶつけた。「地中海の国がドイツの一部になることはない。欧州の素晴らしさは多様性です」と答えた財務相は「ドイツ的になりたくなくても、各国自身の決心が必要だ」とも語った。規律を乱し続ける国の面倒は見切れないとの意思表示だ。
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「我慢の哲学」を貫くメルケル首相は、うたぐり深い金融市場との真っ向からの力比べを覚悟したかのようだ。ユーロの結束が保てなくなり、空中分解に陥る懸念はないのか。独紙ツァイトは「ペストかコレラか」と題して、究極の選択としてドイツが共同債かECBの大幅な関与かを認めざるを得ないとみる。
ドイツの賭けのようなこだわりがユーロ、そして世界経済を大混乱の渦に巻き込んだ時、メルケル氏は初めて大胆な救済にうなずくのだろうか。それでは遅いし、ずっと高くつく。進むも引くもいばらの道。ならば行動は早いほうがいい。
(ベルリン=菅野幹雄)
[日経新聞12月4日朝刊P.13]
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