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欧州で最も健全な経済大国ドイツの国債入札で「札割れ」が起きた余波を受け、日本の10年国債利回りも3週間ぶりに1%台まで上昇して来た。日本の国債利回りの上昇と共に高まって来るのが「格下げリスク」と「財政再建論」である。
今回も日本経済新聞は26日付で「米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズが日本国債の格下げを示唆したとの報道や、国際通貨基金(IMF)が23日に『日本国債の利回りが上昇すれば日本の債務はすぐに持続不可能になりかねない』との報告書を出したことも、国債の売り材料になった」と報じ、「格下げ」と「財政問題」が国債利回り上昇を招いた要因であるかのような解説を加えている。
しかし、金融市場での動きを、何でもかんでも「格下げ」や「財政問題」と結び付けて騒ぎ立てるは大きな間違いである。
確かに欧州の優等生であるドイツ国債入札の大幅な「札割れ」は、欧州各国の「資金調達」環境が厳しさを増して来ていることの現れである。しかし、ドイツの「札割れ」は、ドイツの「資金調達」が困難になったということではなく、今後ユーロを維持するための財政負担を強いられるという不確実性が増して来たため「2%を割れる水準での資金調達」が難しくなったということに過ぎない。
ドイツの2011年公的債務残高(gross)の対GDP比推計値は82.6%(IMF World Economic Outlook September 2011)と、米国の公的債務残高(同)の対GDP比100.0%(同)に比較しても、相対的に健全な状態にある。
ドイツが「札割れ」を起こした同じ時期、米国でも国債入札が実施された。11月21日から23日にかけて実施された総額990億ドルの米国国債入札は「絶好調」であった。
21日の2年債入札では応札倍率が4.07倍と、中長期債の入札では過去最高を記録。22日の5年債入札では落札利回りが0.937%と過去最低となった。さらに23日の7年債入札の最高落札利回りは1.415%と、入札直前の市場予想の1.446%を下回った上、投資家の需要を測る指標の応札倍率は3.20倍と5月以来の高水準を記録し、過去10回の平均2.8倍を大きく上回る好調な入札であった。
つまり、「財政問題」と「資金調達能力」とが必ずしも一致すると限らないのは、「現実の市場」では有り得ること。こうした「現実の市場」を無視して、国債の金利上昇や入札不調の原因を、「格下げ」や「財政問題」に結び付けて説明しようとするのは、「教科書の中でしか棲息出来ない」評論家の専売特許である。
IMFの「日本国債の利回りが上昇すれば日本の債務は直ぐに持続不可能になりかねない」などという一見尤もらしいコメントも、「雨が降ったら濡れかねない」と言っているのと同等の、何の意味もないものである。
「教科書の中でしか棲息出来ない理屈」に基づけば、国債利回りが7%まで上昇すれば確かに「日本の債務は直ぐに持続不可能」になるだろう。しかし、「現実の市場」で日本の国債利回りが7%まで上昇するのか、と考えるとその確率は極めて低い。要するに「日本国債の利回り上昇の可能性とその確率」を無視したこうしたコメントは、中学・高校の試験では合格点を貰えるかもしれないが、大学の試験では合格点を貰えるか瀬戸際、「現実の市場」では完全な落第点である。
欧州のソブリン危機に関しては、国債利回りで7%が「自力での財政再建が危ぶまれる」水準だと伝えられている。この7%というのは、「10年間で負債が2倍になる」金利水準である。これに対して、日本の国債利回り1%というのは、「10年間で負債が1割増える」金利水準でしかない。資金調達に1%のコストを掛けた位で「持続不可能」になるのだとしたら、それは日本国内に1%以上のリターンを上げられる投資先が無い(経済成長が1%にも達しない)ということで、これは「金利水準の問題」ではなく「国の政策能力の問題」である。
世界経済の牽引役となることが期待されている中国の2012年の実質経済成長率が8.5%と予想されていることを考えると、先進国が7%の経済成長を達成するのは現実問題として極めて難しい。従って、調達コストに7%も掛けてしまっては「自力での財政再建が危ぶまれる」のは当然のこと。
しかし、調達金利1%前後の国で生じた僅かな利回りの上昇が「直ぐに持続不可能になりかねない」と評されるのは、日本が世界から「1%以上の経済成長をすることは難しい」と見做されているということ。こうした全く御利益のないコメントを金科玉条の如く崇め奉り、財政再建に猛進する日本政府の姿は、「経済音痴」を内外に曝け出す恥ずかしいものである。
日本の国債市場は、欧米とは環境が大きく異なる「ガラパゴス市場」である。その最大の理由は資金の95%を国内で調達出来ていることである。これが対GDP比でみた公的債務残高が233.1%(同)と世界で突出して高い水準にありながらも、外国から箸の上げ下げまで監視されないで済んでいる大きな理由である。
さらに、日本の国債利回りは「ガラパゴス市場」である故に、金利がある一定以上に上昇することが難しい状況を作り出している。国内で大きな問題となっている年金問題。日本の企業年金の多くは、予定利回りを2.5%程度に置いて運営されている。日本の国債利回りが1%前後の低水準にある現時点では、予定利回りに対する不足分を埋め合わせるべく株式を始めとしたリスク資産への投資を余儀なくされている。
しかし、仮に日本の国債利回りが3%前後まで上昇して来たら、殆どの企業年金が株式などのリスク資産への投資を止め、一斉に国債投資に走る筈である。そうすれば、受給者に約束した年金を支給できる可能性が高いからである。ちなみに日本の年金基金の運用総額は、約250兆円(企業年金約80兆円、公的年金約170兆円)であり、2.5%は、10年後に負債が約28%増加する金利水準である。
こうした日本の固有の要因を考え合せると、「日本国債の利回りが上昇すれば日本の債務は直ぐに持続不可能になりかねない」という指摘が如何に現実離れしたものか理解出来るはずである。
「教科書の中でしか棲息出来ない理屈」によって、日本の財政問題は過大に伝えられている上、「経済音痴内閣」に誤った対処法を強いる原動力になっている。「理屈」は必要であるが、その前に「現実の市場」「現実の経済」をつぶさに、謙虚に観察し、公平かつ客観的議論をすることが、日本の財政問題解決に向けての第一歩である。
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