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深刻度を増す世界経済の時計の針は午後4時半!「山崎式経済時計」で読む「欧州危機」の行方
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/28179
2011年11月30日(水) 山崎 元「ニュースの深層」:現代ビジネス
欧州の経済情勢は、日を追って深刻度を増しているように見える。ギリシャに続いて、イタリア、スペインが問題となり、両国の国債は、財政再建危険信号の目処とされる「7%」前後の利回りで取引されており、格付的にはAAAを維持しているフランス国債も3%台半ばまで利回りが上昇(価格は下落)してきたし、ドイツ国債も利回りこそまだ2%前後だが、先日、入札にあって大幅な「札割れ」が生じた。
欧州の国債の下落は、主として、欧州域内の銀行が国債の保有ポジションを落としていることから発生しているものだろう。欧州の主要10銀行は、今年に入ってから9月末までの9ヵ月間で、ユーロ圏で財政不安が拡がる5ヵ国の国債の保有額を4割も減らしたという。これは、たとえば、日本のメガバンクが保有する国債の4割を売るとどうなるかと考えてみると、そのインパクトの大きさが分かる。
バブル崩壊後一時期の日本のように、国債は時価評価しない場当たり的なルールを設けたり、不良債権を小出しに表面化させたりといった、「評価の仕方によって、実態悪がないことにする」方法ではいつまでも疑いと不安が残り、時間も掛かるし、不良債権も実態よりもかえって大きく推測されてしまうような事態が生じる問題があるが、銀行が争って国債を売るような状況に陥ったのでは、現状も仕方があるまい。
日本の経験から見て、不良債権問題は、(1)金融機関をはじめとする経済主体の損失額を表に出して処理することと、(2)(主に金融機関に)十分な資本を手当てすることの2つが揃わないと片付かない。
日本では、いわゆる「竹中プラン」の下で、金融検査を繰り返して金融機関の損を出して、低金利政策によるファンディング・コストの低下による利益でその損を埋めさせると共に、足りない資本を公的資金の注入で埋めて、最後には、りそな銀行を救済して「大手の銀行は潰れない」というメッセージを送って、やっとバブル崩壊後の「底」を脱した。
ヨーロッパ諸国は、銀行を個々の国が助けなければならない構造であり、国家財政の足許に懸念が拡がる中で、損失の処理のサポートが遅れると、大型金融機関の破綻が起こって、リーマンショック後のような「流動性危機」が起こる可能性を抱えたままの綱渡り的な経済運営がしばらく続くだろう。
「経済」は景気と資産価格を引き連れて、ピークではバブルを起こし、ボトムでは不況に至りながら循環する。特に現在のような金融ビジネスの構造を前提とする限り、ブームでのバブルが避けにくいことは、日本でも、米国でも、今回の欧州でも既に経験済みだが、バブル崩壊後の動きにもパターンがある。
何でも過去の経験にあてはめて、「歴史は繰り返す」とだけ呟くのは愚かだが、日本のバブル崩壊後の推移は、欧州の今後を考える上で大いに参考になるように思う。
山崎式バブルとボトム経済時計
http://gendai.ismedia.jp/mwimgs/b/3/600/img_b388a43567932ef7f1fef0ed28ba7db5197244.jpg
経済の動きを時計の針に譬えて、ピーク(バブル)を12時、ボトム(リセッションの最悪時)を6時とすると、現在のヨーロッパは、「4時半」くらいの段階だろう。
4時〜5時の段階は、これまでに溜まってきた不良債権が金融システムの重荷となって支えきれなくなって、流動性の危機を起こしかねない時間帯だ。
日本のバブル崩壊後の推移に当てはめると、97年(北海道拓殖銀行、山一證券などが破綻)〜98年(日本長期信用銀行が破綻した)くらいの時期がここで、今のヨーロッパは「日本の97年」くらいではないか。
ちなみに、国会で大いにもめて、いわゆる「住専」(住宅専門金融会社)にその後から見ると僅かな公的資金を投入したのが96年のことであり、これは、今回の欧州危機でいうと先年のギリシャ救済がこれに該当するイベントだった。
即ち、大きなバブル崩壊の場合、公的な関与を伴う救済は一回では終わらないし、将来的にその何倍、何十倍もの資金が必要になってもおかしくない、ということだ。そういえば、リーマンショック前の米国にも、ベアースターンズの救済があった。
欧州危機が現在の時間帯にあって、急性で深刻な流動性危機に陥るか否か、即ち、大銀行の破綻があるか否かは現段階では何とも言えないが、仮に向こう一、二年の間に大銀行の破綻を免れたとしても、主に不動産の不良債権(減価した担保)を抱えて金融機関のバランスシートは傷んだままだろうし、財政赤字を気にする政府は需要を十分追加することができないので、「5時台」は信用収縮から景気後退が起こる。われわれにとって分かりやすい言葉でこの段階を言い表すなら「貸し渋り」の時代ということになる。
先般、OECDは、2011年の10-12月期、2012年1-3月期にわたって欧州圏がマイナス成長に陥ると予測し、2012年全体に関しては、かろうじてプラスの0.2%成長と「緩やかな景気後退に陥る」との予測を発表した。所属組織がどこであっても、エコノミストが景気後退を予測したくなるのは当然だろうし、欧州の景気後退は、米国にも、中国にも、もちろん日本にも小さからぬ影響を与えることになるだろう。
現時点では、「ショックがあって、景気後退」なのか、「ショックを回避しても、景気後退」なのか、世界経済は何れにしても些か憂鬱な見通しの下にある。
私見では、欧州の危機をなるべくソフトランディングさせるためには、ECB(欧州中央銀行)が、債務問題を抱えた国の国債を買い支える必要があるだろうし、この場合、欧州はある程度のインフレを覚悟しなければならないかも知れない。ECBが徹底的に問題国債を支える(かも知れない)という条件が加わると、少なくとも投機的な国債売りは一段と難しくなるだろう。
しかし、中央銀行による財政赤字のファイナンス、あるいは意図的なインフレの何れも、欧州の経済的盟主であるドイツ国民の許容するところではないだろうから、「ショック」が起こる可能性が当面ゼロではないと覚悟せざるを得ない。
各国の政府が個別に問題を解決しなければならないこともあり、欧州経済全体が前記の不良債権問題処理の条件を満たすためには、時間が掛かりそうだ。かつての日本がバブル崩壊から底離れしたのは2003年のことだったが、欧州でも数年単位の時間が掛かることを覚悟することが必要ではなかろうか。
もっとも、一般的なパターンを考えると、また、日本の経験に照らすとしても、こうした欧州情勢を考えた時に、投資のチャンスがない訳ではない。
先ず、当面売り込まれて利回りが高騰している欧州の国債だが、金融機関がやむを得ず売っている売りが含まれていることを考えると、ずっと高利回りで推移するかどうかは怪しい。借り手・貸し手双方の全般的なバランスシートの悪化と不況によって民間の資金需要と信用供与が縮小するので、資金は相対的に信用リスクの小さな主体に向かいやすくなる。ある程度の落ち着きが見えると、急速に利回りが低下する可能性がある。
日本の政府にそれだけの胆力はとてもあるとは思えないが、たとえば数十兆円単位でユーロ圏の国債を選択的に買い支えることを対ユーロでの為替介入も組合せながら行うと、欧州危機の安定化と、円高対策・金融緩和、加えて資金運用としても大きなチャンスになる可能性がある。
但し、この場合、「欧州債」のような政治的に利用されるだけの集団的な仕組みに投資するのでは全くダメであり、売却のフリーハンドも確保しつつ、選択的に投資を行うことが絶対に必要だ。(決して、外務省の役人がいい顔をするためにカネを使うのではない。合理的な運用として投資するのだ)
これは、おそらく無理だろうから考えないとしても、個々の投資家のレベルでも、欧州の債券に投資することはどこかのタイミングで考えてもいいはずだ。
たとえば、日本では、流動性危機が一段落した1999年くらいが、暴落した不動産物件を仕込むにあたって最もいい時期だった。どのような形で投資するのがいいかは、個別の投資家の事情によるだろうが、運用で大成功するには、一にも二にも「安く買うこと」が要諦なので、経済時計が「6時」を回る頃に株式でも不動産でも買うことを視野に入れてチャンスを待ってみたい。
不況が続いている状態であっても、(1)金融が緩和されていて、(2)倒産リスクが縮小してくると、社債など安全な国債の利回りに信用リスク分の追加的な利回り(スプレッド)が乗った債券が、将来の(経済時計で「8時」くらいの)スプレッドの縮小期待も込みにして有望な投資対象となる。今や、国債までもがハイイールド債になってしまった感のある欧州圏には、大きな投資のチャンスがあるはずだ。
当面の経済見通しは確かに憂鬱なのだが、経済が生きている限り、チャンスはあるので、事態の推移をよく見守りたい。
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