http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/260.html
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竹森俊平慶応大教授がキンドルバーガー理論を基軸に、「大恐慌」とそれからの脱却をめぐる様々な経済理論を紹介している日経新聞の「やさしい経済学」からの転載である。
第7回では、キンドルバーガー理論に沿いながら、竹森教授がコンテンポラリーなテーマである「ユーロ金融危機」を解説している。
ギリシャの経済力と公的債務規模の考量から積み上がった債務の履行が不能であることを前提に、経済力がありながら救済に及び腰のドイツと財政的余裕がないなかでも政治的主導権を確保したいフランスのにらみ合いが、「ユーロ金融危機」の収束を遅らせていることを説明している。
して、今後の世界経済につながる問題として、「リーダー国の経験がないドイツは無理な緊縮政策をユーロ圏に押し付けている。恐慌が一番深刻な時期に、資本逃避を防ぐため大増税をしたフーバー大統領が欧州経済の舵取りをしているようなものだ」と非難し、縮みゆく経済を憂慮している。
付録と言っては申し訳ないが、「ユーロ金融危機」関連で興味を引く記事があったので紹介させていただく。
日経新聞夕刊に連載されている「ウォール街ラウンドアップ」に、金融史が専門のニーアル・ファーガソン:ハーバード大学教授の「2021年、新しい欧州」という論考の概要が載っている。(記事の全文を末尾に添付)
【引用】
「 ファーガソン氏は「ヨーロッパ合衆国」の誕生を予測する。単一通貨ユーロを存続させる「合衆国」は歓迎すべきことにも思えるが、その姿は寒々しい。
ギリシャ、イタリア、スペインの失業率は20%を超える。南欧諸国の人々は、相対的に豊かなドイツ人の使用人として働くようになる。そのドイツも2012年に銀行システムが崩壊の危機にひんし、これを救済したメルケル政権はあえなく崩壊する。
ノルウェーなど北欧諸国は、財政不安の南欧の救済に背を向け、英国は国民投票でEUの脱退を決める。中国の直接投資などを糧に何とか生き延びるといった具合だ。」
ドイツの銀行システムが崩壊したり、英国が交易上の利があるEUから脱退することはないと思うが、ユーロ圏の財政統合を契機とする政治的統合は急速に進むと予測する。
南欧諸国の“悲劇”が書かれているが、そんなに的外れの内容ではないと思う。
これまで、政府が強い通貨を低金利で借りて支えてきた“恵まれた生活”は失われ、財政主権さえ失うことになる。
ドイツの経済力を強く反映している強い通貨ユーロにつなぎ止められた今後は、国際競争力も回復せず、強い通貨の購買力に頼っての厳しい生活を強いられるようになると考える。
※ これまでの「危機・先人に学ぶ:キンドルバーガー」
「「今こそ知ったかぶりを改めよ」:非現実的モデルによる量的予測におぼれる経済学者に対する戒め」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/148.html
「第2回危機・先人に学ぶ:キンドルバーガー(2)鋭い理論的洞察」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/184.html
「キンドルバーガー第3回:自由貿易の利益は普遍ではなく「その国にとってプラスかどうかは状況に依存する」」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/202.html
「「大恐慌」研究の第2世代としてのキンドルバ−ガー(第4回)」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/206.html
「(危機・先人に学ぶ)キンドルバーガー(第5回):「通貨切り下げ競争」はデフレ要因か」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/227.html
「(危機・先人に学ぶ)キンドルバーガー(第6回):「リーダー国の役割」」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/250.html
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やさしい経済学
危機・先人に学ぶ:キンドルバーガー
(7)2つの危機の区別
慶応義塾大学教授 竹森 俊平
今回は危機の際のリーダー国についてのキンドルバーガーの議論を現在の欧州危機に当てはめてみよう。まず、彼の議論に不足する点を補足しなければならない。最後の貸し手とは当座の資金が不足する流動性危機の場合につなぎ資金を供給するプレーヤーを指すのだが、現在の欧州危機ではいくらつないでも借金が返せない「返済不能」のケースが存在する。ギリシャが明らかにそうだ。
大恐慌の時代も、ドイツは賠償金を負い、英仏は戦時債務を負っていて、どちらも支払い不能と訴えていた。このうちドイツの賠償金はフーバー米大統領が放棄に持ち込むが、キンドルバーガーはあまり高く評価しない。実施された1931年秋という時点が遅すぎたからだろう。
ともかく今回は流動性と返済不能の危機の2つの区別は重要だ。さて、2009年のはじめにギリシャの財政危機が表面化した折、対応できるリーダーの候補はドイツ、フランスの2国だった。キンドルバーガーの分析ではリーダーが複数いるのはまずい状態で、譲りあって何もできないか、主導権を争いあって方針が混乱するかのどちらかになる。今回は両方が起きた。
財政余力があるドイツは請求書を押しつけられたくないのでリーダーとなるのを嫌った。他方で、実は財政余力があまりなかったフランスはリーダーになって救済案を仕切ろうとした。
フランスの考えはギリシャ問題をあくまで流動性危機として扱い、追い貸しを続けて問題を先延ばしすることだった。自国銀行がギリシャ国債を大量に抱えているため債権放棄で損失が出ては困るからだ。
他方でドイツは、銀行に債権放棄を迫る考えを早くから抱いていた。ところが今夏、ギリシャの経済状況が予想以上に悪化し、返済不能が明らかになる。これでフランスの権威が失墜し、ドイツがリーダーに納まる。だから最近ユーロ圏のまとめた危機への包括対策はほぼドイツの考え通りだ。
これで一件落着ではない。一度もリーダー国の経験がないドイツは無理な緊縮政策をユーロ圏に押し付けている。恐慌が一番深刻な時期に、資本逃避を防ぐため大増税をしたフーバー大統領が欧州経済の舵取りをしているようなものだ。
[日経新聞11月22日朝刊P.29]
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「ウォール街ラウンドアップ」
21年「欧州合衆国」の虚実
21日のダウ工業株30種平均は急反落した。米財政赤字削減を巡る超党派協議の合意が困難になり、米国債の格下げを警戒する売りに押された。欧州ではフランスの財政に対する懸念も浮上した。
70年以上の歴史を持つニューヨーク金融記者会が先週末、年次晩さん会を開いた。本来は華やかな舞台のはずだが、ウォール街を日々取材する記者たちの実感は隠せない。1000人以上を集めた会場をどことなく沈滞したムードが覆った。
「PIIGS(ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スぺイン)が単一通貨ユーロでやっていけないのなら、ユーロは死すしかない」。記者たちが演じる恒例の寸劇に、明るいメッセージはかけらもない。
「最終赤字」と題した替え歌では「欧州はおかしく、イタリアはもたない。すべてが赤字だらけだ」といった歌詞が並ぶ。与野党の対立が先鋭化するワシントンの機能不全を嘆きつつも、市場変調の元凶に「欧州」があるという思いは隠せない。
欧州の将来を悲観するのは記者たちばかりではない。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙の前週の週末版(19−20日付)に刺激的な論考が載った。筆者は、金融史の専門家でハーバード大教授のニーアル・ファーガソン氏。タイトルは「2021年、新しい欧州」だ。
ファーガソン氏は「ヨーロッパ合衆国」の誕生を予測する。単一通貨ユーロを存続させる「合衆国」は歓迎すべきことにも思えるが、その姿は寒々しい。
ギリシャ、イタリア、スペインの失業率は20%を超える。南欧諸国の人々は、相対的に豊かなドイツ人の使用人として働くようになる。そのドイツも2012年に銀行システムが崩壊の危機にひんし、これを救済したメルケル政権はあえなく崩壊する。
ノルウェーなど北欧諸国は、財政不安の南欧の救済に背を向け、英国は国民投票でEUの脱退を決める。中国の直接投資などを糧に何とか生き延びるといった具合だ。
ファーガソン氏が予測するのは、EUの深刻な分裂。米国自らの債務問題が行き詰まっている現実から目をそむけたい心理も手伝ってか、米国では欧州への悲観論が勢いを増しつつある。
(ニューヨーク=川上穣)
[日経新聞11月22日夕刊P.3]
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