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(危機・先人に学ぶ)キンドルバーガー(第6回):「リーダー国の役割」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/250.html
投稿者 あっしら 日時 2011 年 11 月 22 日 03:17:51: Mo7ApAlflbQ6s
 


竹森俊平慶応大教授がキンドルバーガー理論を基軸に、「大恐慌」とそれからの脱却をめぐる様々な経済理論を紹介している日経新聞の「やさしい経済学」からの転載である。

竹森さんは、「「英国から米国へとリーダー国が転換する過程で起きたため、危機が深刻化し、長期化した」というキンドルバーガーの洞察の正しさは、現在の欧州危機を観察すれば明瞭になる」と書き、続いて、英国と米国の国際金融面での特性を:

【英国】:「第1次世界大戦勃発までは英国が世界経済を安定させるリーダー国を務めていたが、英国の海外投資は国内景気と負の相関を持っていた」「つまり英国の景気が悪いときは英国の資本は海外に流れ、海外の景気を活気づける。それで海外の輸入需要が盛り上がり、英国の輸出を刺激して英国の景気も回復する。国内景気がよいときは逆で、海外から資本が呼び戻され、それが輸入需要を盛り上げて、海外に輸出増加の恩恵を及ばす」

【米国】:「米国の海外投資は国内景気と正の相関をしていた。つまり国内景気がよいと国内投資と海外投資の両方が拡大し、国内景気が悪いと両方が縮小する。つまり今回と同様に、米国の投資は世界景気の変動を拡大する働きをした」

と、キンドルバーガー氏を援用して説明している。

 英国と米国の違いは、“海外依存型国民経済”と“自給自足型国民経済”という違いに由来する。
 英国のお金と貿易の変動は、金融家が内外を問わず常に有利な投資(融資)先を選別していること、国内の産業が好景気が輸入に支えられ輸入を呼ぶ構造になっていることによる。
 英国が輸入に支えられ輸入を呼ぶ産業構造でなければ、英国に輸出を増大させてこそ妙味になる金融家の対外投資もうまくいかない。

 大恐慌前の米国は、石油をはじめとする資源や食糧は自給できるほど恵まれ、国土も未開発領域があり、欧州などからやってくる多くの移民が労働力であり購買力でもあるという“自己完結型”の経済構造である。
 国内が活況を呈すると資金需要が増大するとともに金融家にいっそう資金が集まり、国内投資(融資)だけでは飽和に達するようになるため、海外に資金が向かうことになる。

 竹森さんは、「そのような信用のある通貨を国際危機の鎮圧に投じられるリーダー国が不在だった」と結んでいるが、戦後世界を知っているものにとっては、「信用のある通貨を国際危機の鎮圧に投じられる」だけではなく、“信用のある通貨で持続的かつ潤沢にものを輸入できる”リーダー国が必要だ。
 後者(輸入力)がなければ、信用のある通貨を国際危機の鎮圧に投じても、危機が再来するだけで終わってしまう。


※ これまでの「危機・先人に学ぶ:キンドルバーガー」

「「今こそ知ったかぶりを改めよ」:非現実的モデルによる量的予測におぼれる経済学者に対する戒め」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/148.html

「第2回危機・先人に学ぶ:キンドルバーガー(2)鋭い理論的洞察」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/184.html

「キンドルバーガー第3回:自由貿易の利益は普遍ではなく「その国にとってプラスかどうかは状況に依存する」」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/202.html

「「大恐慌」研究の第2世代としてのキンドルバ−ガー(第4回)」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/206.html

「(危機・先人に学ぶ)キンドルバーガー(第5回):「通貨切り下げ競争」はデフレ要因か」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/227.html

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やさしい経済学

危機・先人に学ぶ:キンドルバーガー

(6)リーダー国の役割

慶応義塾大学教授  竹森 俊平

 大恐慌の観察は今回の世界危機の行方を占うために有益だが、逆もまた真で、今回の危機の観察により大恐慌に関する争点への解答が見いだせることもある。

「英国から米国へとリーダー国が転換する過程で起きたため、危機が深刻化し、長期化した」というキンドルバーガーの洞察の正しさは、現在の欧州危機を観察すれば明瞭になる。

 第1次世界大戦勃発までは英国が世界経済を安定させるリーダー国を務めていたが、英国の海外投資は国内景気と負の相関を持っていたと彼はいう。つまり英国の景気が悪いときは英国の資本は海外に流れ、海外の景気を活気づける。それで海外の輸入需要が盛り上がり、英国の輸出を刺激して英国の景気も回復する。国内景気がよいときは逆で、海外から資本が呼び戻され、それが輸入需要を盛り上げて、海外に輸出増加の恩恵を及ばす。一方、米国の海外投資は国内景気と正の相関をしていた。つまり国内景気がよいと国内投資と海外投資の両方が拡大し、国内景気が悪いと両方が縮小する。つまり今回と同様に、米国の投資は世界景気の変動を拡大する働きをした。

 政府の役割はどうか。1931年にオーストリアで銀行危機が発生した際、同国政府は救済のために銀行へ融資した。しかし政府に自由になるのはシリングという信用のない貨幣で、それが外貨準備と比較して過大に発行されたのを見て、投資家は固定相場の維持が不可能になると読み、預金を引き出し外貨に替えて海外に持ち出した。つまりオーストリアは預金取り付けと資本逃避の二重苦に見舞われた。英国は当時、同国救済のための貸し付けを即座に実行したが、自らも金準備の不足に苦しんでいたため額はわずかだった。

 他方、米国政府は十分な金準備を持っていたが救済に応じなかった。こうして世界的な「最後の貸し手」が不在となり、金融危機は主要国に連鎖する。大恐慌に対する妙薬がマネーサプライ増加であるというフリードマンの議論は一面では正しいが、そのマネーは当時で言えばドルや金のような信用のある通貨でなければならなかった。そのような信用のある通貨を国際危機の鎮圧に投じられるリーダー国が不在だったのだ。

[日経新聞11月21日朝刊P.24]


 

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コメント
 
01. 2011年11月22日 07:32:52: FijhpXM9AU
竹森教授の善意を疑うものではもちろんないが(比較的良心的な学者だ)、大恐慌に関する従前の分析に根本的に欠けている視点は「故意に大恐慌を引き起こす勢力の存在とその行動の分析」である。

経済学が現実に対応する上で全く無力となっている最大の理由は、(社会を構成する大多数の人々からみたら)悪意としかいいようのない私利の追求に基づいて大恐慌を引き起こす意志も能力も持った人々、ないし機関が実在して、あらゆる手段を動員して故意に大恐慌を引き起こしている現状に対して、まるで事故か何かのように運悪く何かの間違いで大恐慌が起こってしまった、という想定にたって分析しようとしてもまるで無意味に終わってしまうだろう。

ということにつきるのではないか。


02. 2011年11月22日 07:43:11: FijhpXM9AU
歴史的に言うなら、サッチャー・レーガンの「改革」、所得税制の改悪、それに引き続くグラス・スティーガル法の撤廃で、ここまでお膳立てが整えば後はもう「留守番の子供がマッチで火遊びをしてカーテンに火をつけたら、家が丸焼けになった」というのと同じくらいの確立で大恐慌が起こることは自明だった。欧州で言えば(ペテン通貨ユーロの導入で)15%の金利が当たり前だった南欧の国々に、突然ドイツマルク並の金利で住宅ローンが売り出されれば、「ウィスキーを一本飲み干した酔っ払いに高速道路を150キロで走らせたら大事故になった」というのと同じくらい確実にバブルが発生して、大惨事となることは自明であった。

知能指数が120あれば誰でも推測できたことだ。


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