『「ＴＰＰ開国論」のウソ』のウソ 池田信夫（ＢＬＯＧＯＳ）
2011年11月20日21時32分

「ＴＰＰ開国論」のウソ　平成の黒船は泥舟だった
著者：東谷 暁、三橋　貴明、中野　剛志

ＴＰＰをめぐる騒動は、首相の参加表明で一段落するかと思ったら、まだ続いている。今回の特徴は、新聞では（朝日から産経まで）反対論はほとんどないのに、ワイドショーやネットメディアで反対論が強いことだ。

それは反対派が、
新聞記者でもわかる程度の初歩的なロジックも理解していないからだ。

それを示しているのが本書である。このコラムは良書を紹介するとともに
悪書を駆逐する目的もあるので、あえて取り上げた。
画像にはリンクを張ってない。

本書で間違いを探すのは容易で、正しい記述をさがすのがむずかしい。
著者が３人とも、根本的な勘違いにもとづいて本を書いているからだ。

たとえば三橋貴明氏は、
比較優位の原理を否定して「自由貿易でデフレが起こる」と主張する：

デフレの時にＴＰＰに参加してはいけない理由は、自由貿易がインフレ対策だからです。[・・・]リカードの時代はずっとインフレ傾向でしたら、モノの消費が増えればよかった。しかしデフレの時に自由貿易を進めれば、物価はさらに下がります。（本書p.36）

自由貿易がインフレ対策だという話は、
リカードもびっくりの珍説だ。

同様の記述は中野剛志氏も繰り返しているが、大学で経済学を学んだ人ならわかるように、自由貿易と物価水準は関係ない。関税を撤廃すると下がるのは一般物価水準ではなく、個々の財の相対価格（交易条件）である。交易条件の改善は消費者の利益になるので、自由貿易は望ましい。

授業ならこう説明すれば終わりだが、これで納得しない人が多いようなので、具体的に考えてみよう。たとえばコメの国際価格は国内の約３倍だから、関税を撤廃すると国内米の1/3ぐらいの価格のコメが輸入されるだろう。それによってコメの価格は下がるが、貨幣量は変わらないので物価水準は変わらない。このとき消費者はコメの価格が下がった分の所得で別の財を買うので総需要は変わらず、デフレにもインフレにもならない。

三橋氏は「比較優位はインフレのときの理論だ」とかわけのわからないことを言っているが、クルーグマンの例でもわかるように、比較優位の説明に貨幣は出てこない。バラとコンピュータという実物ベースで考えているので、物々交換でも比較優位は成り立つのだ。いくら三橋氏や中野氏が経済学を知らなくても、貨幣のない経済でデフレが起こらないことぐらいわかるだろう。

こういう彼らの誤解は、リフレ派と共通である。物価水準と相対価格を区別できず、「なんとなく景気が悪い」という感じを「デフレ」と表現しているのだ。デフレは不況の結果であって原因ではない。好況のときデフレになることもあるし、今のようにマイルドなものであれば予想に織り込まれるので経済活動に中立だ。日本でデフレと称される現象の大部分は、相対価格の変化である。

そして東谷暁氏は「ＴＰＰに入ったら、ゼネコンは談合すれすれの情報交換ができなくなるからやめたほうがいい」という。語るに落ちるとは、このことだ。彼らがいろいろな理屈で守ろうとしているのは、農協や医師会やゼネコンに代表される「古い日本」の既得権なのである。

追記：これ以外の非関税障壁についての細かい話は、
決まっていない話を憶測する被害妄想。
ＩＳＤＳについては江田憲司氏が解説している。

http://news.livedoor.com/article/detail/6045745/ 　

コメント
01. そのまんま西 2011年11月21日 23:48:39: sypgvaaYz82Hc : eh3Q6mBQ3I リカードの比較優位論の前提条件 �@セイの法則：供給が需要を産み出す（逆じゃないです） �A完全雇用 �B資本移動の自由がない 中野剛志 「誠意ある　経済学をちゃんと勉強した経済学者は　 　ＴＰＰを見て　 　こんなものは自由貿易じゃないと言って批判しなきゃいけないのに、 　ＴＰＰに賛成している経済学者は 　経済学についても誠実ではない　インチキ野郎だってことです」 【討論！】ＴＰＰ問題と日本の行方[桜H23/2/26] 　http://www.youtube.com/watch?v=8P23rTqvGgk
02. エテ公 2011年11月22日 00:05:19: .XQ.mNI0RTQBI : GjKToKsPZA お〜〜〜〜〜い、池田さ〜〜〜〜〜〜ん！！！ 「関税撤廃でコメの価格が下がるから消費者はバンザーイ」って、もうむちゃくちゃだよ。 「このとき消費者はコメの価格が下がった分の所得で別の財を買うので総需要は変わらず、デフレにもインフレにもならない」 という池田さんの話が現実となったとき、国内のコメ作が壊滅してるから問題視してるわけですよ。人口一億人の国家が、主食さえ自国で作らなくなることの恐ろしさも想像できないのは重症だよ、ほんと。 それからコメ作農家の人たちが失業するという視点にも欠けています。 消費者＝勤労者ですよ。 失業した農家＝消費者のことはガン無視ですか？？？？ もちろん絶対多数派の利益こそが“正義”で、少数派はどうでもいいという価値観ならかまいませんけどね。まあコメ作放棄はその絶対多数派の“長期的利益”さえ危うくすると進言しておきます。
03. 2011年11月22日 00:32:29: u3E6Ef3e1Q 農林水産業者とその関連業者が失業、さらに外国から低賃金でもOKという労働者の大量移入。池田先生にとってはそんなことは大した問題じゃないらしい。きっと、そんなことはどうでもいいくらい、すっごくいいことがあるんだ、誰かにはね。
04. 2011年11月22日 00:45:25: FijhpXM9AU 共産党の書記局長がマイク・タイソンに100発くらい殴られたような顔をしたこの池田というのは、経団連当たりに都合のいい嘘を言いまくることにコミットしてテレビに出演を許されているんだろね。
05. 2011年11月22日 01:13:40: eCgaA2bF2w 原発推進だし、どうにもこうにもならないクズだね、こいつ。 アホらしいので論評は無用です。 悔しかったら三橋氏、中野氏と論争してみれば？　秒殺されるから。 そうやって陰から石投げるしか能がないわけね。 浅ましいやつだ。
06. 2011年11月22日 01:20:52: rWmc8odQao 「比較優位」 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AF%94%E8%BC%83%E5%84%AA%E4%BD%8D 「この説は「失業者の存在を考慮していない」「価格優位国は完全雇用になり、価格劣位国は失業が大幅に増加する」という欠点が、現代では指摘されている。」 リカードの言う、国際分業・自由貿易は、「理想」ではあるが、世界の政治的・軍事的統一が民主的になされるまでは、完全実施は無理があり、「あくまで遠い理想」、「各主権国家は自国に損になる貿易を強要される謂れはない」というのが、国際政治学・経済学の一般認識である。 「特に通貨が高い国に、失業が集中する。」 だそうです。 三橋氏も完全雇用が前提条件の一つだとおっしゃってますよね。 つまらない揚げ足取りはいいので、失業の問題を正面から反論してほしいなぁ… １００％無理だろうけど。
07. ぺぇるぎゅんと 2011年11月22日 09:43:55: z/RrAnnk03NJU : nEFt3AL0os 天才池田信夫の文章も、原発問題以降、素直に読めなくなったなあ。 ある種の利益を持つ人々の、意思の代弁者みたいに見えてくる。････ ＞たとえばコメの国際価格は国内の約３倍だから、 これはおそらく誤記だと目をつぶるとして、 ＞それによってコメの価格は下がるが、貨幣量は変わらないので物価水準は ＞変わらない。 物価水準を決めるのは貨幣量？ ＞このとき消費者はコメの価格が下がった分の所得で別の財を買うので総需要は ＞変わらず、 コメの価格が下がった分、中長期でみれば一般の可処分所得を下げ、別の財を 買う力を失う。総需要は伸びない。 これこそが（コメではなく他物品の価格下落の影響で）この20年弱の日本の構図 ではないかなあ。 ＞追記：これ以外の非関税障壁についての細かい話は、 ＞決まっていない話を憶測する被害妄想。 こういう物言いに胡散臭さを感じる。 これこそ最も重要な論点のはずなのに、都合が悪いから有無を言わさず臭い モノに蓋、みたいな。 どんな人達の利益を代弁してるんだろ････。
08. 2011年11月22日 13:24:31: FUviF2HWlS ウソのウソは、単なる二重のウソ。 直感主義論理では、「ウソのウソは、ホント」ではない。
09. 2011年11月22日 20:00:00: 7XRJFph6NA 日本の百姓をバカにしているか無視している。 戦後の農地解放で、農地は分散した。事実です。 そのおかげで、国民のほとんどが働くだけ豊かになった。 車や電化製品が日本の隅々まで行きわたった。 自動車産業や家電産業は国内消費で儲かったのではないか？ 農家の子供たちが教育を受け、都会に出て活躍できるようになりました。 都会の連中の７、８割は農家出身です！ お前ら、故郷の親の先祖の恩を忘れて、農家、百姓を全滅さすのか？ 小規模農家は全滅させ、どんどん大規模化にする。 当然、農地の値段はただ同然に。 作物の値段も国際競争でどんどん下げる。 投資に見合わなくなった、農家は倒産。農地はもっと価格が下がる。 まとめて大企業が買いたたく。 で、その大企業の株主様は外資でした。と。 こんなシナリオなんでしょう。 私は現在、小規模農家です。趣味の農業。道楽の農業です。 外に勤めに出て３００万円の収入、兼業で、農業収入１００万円。 その１００万円の部分がなくなれば・・・。 超デフレになると思います。
10. 2011年11月22日 23:39:37: v9I0GzB2Vc ＴＰＰ賛成派にはこの程度の論者しかいない。 屁にもならない理屈。

11. 2011年11月23日 01:58:54: mHY843J0vA 経済学的には池田氏の指摘が正しいですが 社会保障で、再分配をきちんと行わなければ、失業者の構造的な増加による悲劇を防げないでしょう ちなみに自由貿易で物価が下がるのは消費者の実質所得を高めるので デフレ不況とは無関係です
12. 2011年11月26日 14:23:48: FlWEGwP262 ネットでは、三橋・中野・青山といった売名中の御用評論家に 見事に騙されている若者が非常にに多い。 ここで口汚く必死に池田氏を罵倒してる人達がまさにそうだ。 まともな日本語も書けないようだし、やはり情報リテラシーの かなり低い若者達でしょう。 ここでゴミをまき散らすのは辞めて2chにお帰り下さい。
13. 2011年11月27日 18:34:55: mxK6OwDYgc コメ（稲作）の問題は複雑です。 1.　農水省と農協等が、減反、所得保障などイロイロな稲作規制・補助をしているため、日本のコメ農家は競争力が弱い。概して日本の稲作は作付面積が狭い、減反政策の履行などで、生産性が低く抑えられている。 2.　TPPで関税撤廃、自由貿易になると安いカリフォルニア米等が輸入され、価格がかなり下がる。ここで注意したいのは、競合はほぼカリフォルニア米（カリフォルニア州・加州）だけだ。その他の米国などTPP域内のコメ農家は、ほとんど作り易い長粒種・中粒種(インディカ米)。生産に高い技術が必要な短粒種（ジャポニカ米）は敬遠され、全米でも3%の農家（加州）だけがジャポニカ米を作っている。 3.　世界あるいはTPP域内でもインディカ米が幅を利かせ、ジャポニカ米市場は「スモール市場」。だから日本と加州とオーストラリア（豪州）の一部が生産すると、もう市場が飽和する。 4.　つまり日本の農家のライバルは、全米たった3%の加州のコメ農家と一部の豪州農家くらい。確かに脅威だが、凄腕の強敵というわけでもない。 5.　TPPでコメ自由化されれば、勝ち残った日本の優れた農家・農業者は、技術的にも加州や豪州を相手に十分戦える、と言われている。日本のコメが強く安くなれば、中国や台湾、韓国に日本のコメが輸出される可能性も高い。 　　　　　　　　　※　　　　　　　　　※　　　　　　　　　※ つまり、TPPになれば、当初は、加州や豪州が日本に対し、押し気味に攻勢をかける。しかし、徐々に日本が力をつけ、反攻に転ずる。なぜなら、日本のコメ農家のほうが（ジャポニカ米に関して）技術水準が高いから。余計な規制がなくなることで、強くなる可能性が高い。 このように実はTPPは日本のコメ農家を強くし、日本の農業の閉塞感を打破する可能性があるのです。もちろん、壊滅状態になる可能性もゼロではないが・・・。

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