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楽観主義が消えた米国 「革新」促す底力は侮れず
論説副委員長 実 哲也
「米国がこんな20年になるとは思わなかった」。冷戦崩壊時に書いた『歴史の終わり』で自由経済と民主主義の勝利を説いた歴史家のF・フクヤマ氏は振り返る。民主化と市場経済は世界に広がったが、そうした価値を最も良く体現しているはずの米国は傷だらけだ。
「イラク戦争と超金融緩和という政策の誤りが原因。違う選択をしていれば、こうはならなかった」と悔しがる。
米国で会ったエコノミスト、政策専門家、ビジネスマンはだれもが現状へのいら立ちと先行きの難しさを強調した。
「現在9%の失業率は2014年まで8%に戻らない」(1PモルガンのB・カスマン主席エコノミスト)という見方は例外ではない。欧州病とされた長期失業がまん延、労働者の技能低下を懸念する声が広がる。
その矛先は、政策を前に進められない政治に向かう。「借金漬けの消費者の借り換え促進と法人減税でアニマル・スピリットを回復させるべきだが、オバマ政権は消極的」「財政赤字削減は社会保障費を抑え、税控除を削減すれば合意できる。なのに与野党は歩み寄ろうとしない」。G・ハバード元経済諮問委員会(CEA)委員長は憤る。
「楽観主義がここまで衰えたのは戦後初」と米外交問題評議会のL・ゲルブ名誉会長。子が親より豊かになれず、貧乏でも努力すれば成功する国との自画像が崩れたのも大きいという。
「ウォール街を占拠せよ」運動がいつまで続くかはわからないが、国に救済されても幹部に高給を払い続ける大銀行への批判ムードは根を張っている。
「口座を作るならウォール街の銀行でなく、地元のわが銀行へ」。地方都市ではそんな看板をみかけた。大銀行から信用組合に口座を移す運動も拡大。批判的なリポートを書くアナリストに嫌がらせをする銀行の行状を暴露した本も売れていた。
「矛先がウォール街だけでなく格差批判などを通じてグローバル化に向かわないか心配。金融の暴走と自由な貿易・投資斉しゅん別して人々にうまく説胴できる政治家が少ない一とG・アルドナス元商務次官は嘆く。
戦後最大の苦難に直面する米国だが、意気消沈しているわけではない。「数学を重視した学校教育の再興、老朽化したインフラ再構築など、やらねばならないことにもっと国民が声をあげよう」。世界の潮流を追ってきたジャーナリストのT・フリードマン民らは祖国の復括に焦点を当てた新著で呼びかける。
国の支援が望めない地域は自力で経済の立て直しに動く。かつて通信分野の成長で伸びたコロラド州。今回の危機で失業率が4%台から一時国の平均値奏上回る9%以上まで上がった。
今年就任した起業家出身のヒッケンルーバー知事は「高賃金が期待できる仕事の需要はある。訓練・教育を強化してミスマッチを減らす」と意気込む。裾みは再生エネルギー企業の相次ぐ進出や10年かけて育んだバイオ技術分野の集積基地。600社が立地、大学からスピンアウトした企業も増えている。半年近くで失業率は1%下がった。
情報技術を中心に新機軸の事業を生み出し続けているシリコンバレーも活況を呈している。グーグルなどは数千人規模でソフトエンジニアらを採用、新企業も続々とうまれている。大成功した元起業家の「メガ・エンジェル」の資金などを含め、カネの流れも衰えていない。
「インドや中国との人的なつながりが深まり、新興国の先端の動きが一番早く伝わるのがシリコンバレー」と起業家を支援するK・エラヒアン氏は語る。国に頼らず、貧困者や低所得者向け教育などを支援する社会起業家の活動も活発化している。
環太平洋経済連携協定(TPP)交渉で米国と向き合う日本は今の米国を等身大で捉える必要がある。オバマ政権交渉推進に前向きだが、「自由貿易反対の労組などに足を引張られて指導力を発揮できかどうか疑問」(アルドナス氏)でもある。議会のムードは完全に内向きだ。
日米貿易摩擦時代の発想で日本市場に攻め込まれと恐れるより、新時代の通商ルールつくりを共に主導しようと米国の尻をたたくぐらいの姿勢が必要だ。
その一方で、機能不全の政治や経済の不振だけ見て米国の底力を見くびるのも禁物。新しいものを生みだし、世界の市場に送り出す力は健在。TPPなどを通じ、アジアだけでなく米国の活力も取りこんでいきたい。
[日経新聞11月20日朝刊P.10]
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