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資本主義は終わりの局面 冷静な目で考える次の世界経済
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2011/11/19 日刊ゲンダイ :「日々担々」資料ブログ
◆ギリシャ破綻の次はイタリアの破滅、そしてドイツ、アメリカ、日本と連鎖する危機の実相
ギリシャ危機はアッという間にイタリアに飛び火し、その火はEU全土に燃え広がる勢いだが、どうしてこんなことになったのか。立ち止まって、冷静に考えてみる必要がありそうだ。
たかが、ギリシャのデフォルトである。小国の財政問題で、なぜ世界経済が沈没の危機に瀕するのか。ギリシャの財政危機はとっくの昔から分かっていたし、イタリアやスペイン、ポルトガル危機も予想できたことだ。イタリアの政治的な不安定さもいつものことで、何もベルルスコーニだからという話ではない。つまり、天変地異のようなことが起こったわけではないのに、世界が沈むような大恐慌になりつつあるのはなぜなのか。それをハッキリさせる必要があるのだ。
慶大教授の金子勝氏(財政学)は「欧州危機の本質は、国家の財政危機ではなく金融危機だ」と言った。
ギリシャ一国が破綻したところで、世界は困らない。欧州の金融債を保有する金融機関が困るのである。そして、金融がダメになると、連鎖で世界経済が破滅する。歪んだ金融資本主義をつくり上げてきたツケだ。それがモロに回ってきたのだ。
「リーマン・ショックで弱った銀行は、きちんと不良債権処理をしてこなかった。そこに欧州の国債危機が重なったため、耐えられなくなったのです。債権処理をしようにも、複雑な証券化商品は、あちこち混ざり合って、どこに何があるか分からない。何から手をつけていいかも分からない。これは市場原理主義のなれの果てです」(金子勝氏=前出)
◆1%のために世界が崩れるアホらしさ
ここでもうひとつの疑問。そうやって共倒れにならないように、各金融機関はリスクヘッジをしてきたのではなかったか。CDSに代表されるようなデリバティブを発行し、どこかが潰れても連鎖しないように金融工学を応用してきたのではなかったか。
「それがまた裏目に出たのです。高度に進化した金融工学は、コンピューターを駆使する。世界中が同じようなルール、プログラミングでリスクヘッジしているものだから、ひとつの綻(ほころ)びが生じた途端、みんなが共倒れになってしまう。恐ろしいのは、金融工学を過信して、各金融機関はリスクを平気で拡大してきたことです。ヘッジしているから大丈夫とタカをくくり、抱えきれないリスクを背負った。だから、ギリシャの小さな問題が世界中をのみ込んでしまったのです」(金融ジャーナリスト・浪川攻氏)
愚かな話だ。金融工学への過信もアホなら、それによっていい思いをしたのはたった「1%」の富裕層だけなのだ。
米議会予算事務所の統計によれば、上位1%の平均年収は96万ドル(約7500万円)で、彼らが米国資産の半分近くを保有している。富を独占しているのは、ウォール街のバンカーたちだ。コイツらのせいで、世界経済が音を立てて崩れようとしている。公共サービスはカットされ、年金カット、増税を余儀なくされる国々が続出することになる。こんなバカバカしい話はない。
◆マネー資本主義は完全に終わった
ハッキリしたのは、もうこのシステムは持たないということだ。マネー資本主義、金融資本主義の終焉である。福井県立大教授の服部茂幸氏(経済学)は、こう言う。
「米国発の新自由主義経済システムは、完全に行き詰まった。出口がありません。これまで、米国の『金融立国』の成功を1%のエリートが享受し、自画自賛してきました。しかし、この1%の成功でさえ、砂上の楼閣だった。住宅バブルがはじけて、楼閣はもろくも崩れ去ったのです。冷静に考えれば、いつかこうなることは分かっていた。とうとう“その日”がやって来たということです」
金融が機能しなくなれば、資本主義はもうオシマイだ。今はグローバル経済で、みんなつながっている。日本だけが助かるなんて、あり得ない。危機はやがて、フランス、ドイツに波及し、世界を巻き込み、当然、日本も直撃する。これが今回の危機の実相なのだ。
◆ルールなきジャングル経済に向かう世界
だとすると、資本主義が終わって、次に来るのは何なのか。欧州もダメ、米国もダメ、もちろん、日本もメタメタで、先進国は総崩れ。どこもリーダーとなり得ない。
元相愛大学長の高橋乗宣氏と同志社大教授の浜矩子氏が書いた「2012年 資本主義経済大清算の年になる」(東洋経済新報社)には、こんなくだりが出てくる。
〈ドルはいまや、世界の迷惑通貨になっている。基軸通貨とは、その国にとっていいことが世界中にとってもいいことである、ということだ。19世紀の「パックス・ブリタニカ」の時代はポンドがその役割を担った。第二次世界大戦後、「パックス・アメリカーナ」が幕開けした。今やその関係は明らかに成り立たなくなっている〉
その上で、今後の地球経済は「ルールなきジャングル経済に向かう」と書いていた。そうした混乱期には戦争や恐慌が起こる。それが過去の歴史だ。混乱期が過ぎれば、おそらく、中国やインドなどの新興国が台頭してくるのだろう。元財務官で青山学院大教授の榊原英資氏は本紙のインタビューでこう言っていた。
〈近い将来、国際社会のリーダー的存在になっているのは中国かもしれない。近代資本主義は終わり、国家資本主義の時代になるのではないか。市場経済はそのままだろうが、バックには国家がつく。そうした国が繁栄し、日本も含めて、先進国は衰退していく〉
新自由主義経済の後は中国型資本主義ということだ。一言で言えば、戦後日本の官僚主導経済に似ているかもしれない。今後は先進国が衰退し、新興国の時代になる。新興国は保護主義にならざるを得なく、国家の統制が強くなる。そこには資源ナショナリズムも絡み、世界がブロック経済化していく。
◆国家資本主義もおぞましい社会
問題はそれがいいことなのかどうか、ということだ。野放しの弱肉強食社会であった新自由主義の勝者は1%だったが、そこに国家の規制とコントロールが加われば、そこまで格差は広がるまい。統制された競争であれば、勝者は10%くらいに増えるかもしれない。とはいえ、それだって格差社会であることには変わらない。資本主義は格差を生む。格差は民主主義の危機を招く。世界経済が混沌とし、民主主義が危機に瀕し、民族主義やナショナリズムが台頭する。そんな時代になるのである。
金融ジャーナリストの須田慎一郎氏は「金融危機は世界経済の低迷を招く。今後は国家統制経済になり、貧者のキャッチボールの時代になる」と言う。つい最近も中国経済を視察してきた経済ジャーナリストの井上久男氏はこう言った。
「中国では教育に投資するんですよ。親戚が金を出し合って、ひとりの子どもの教育費を出す。その子が出世してくれれば、みんなが潤う。期待に応えられない子どもが自殺したりする。こうした競争社会もまた、おぞましい」
歪んだ社会主義下の競争社会もまた怖い。世界経済は本当にジャングル化し、暗中模索の時代になる。未曽有の混乱が長く続くのは避けられない。
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