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(危機・先人に学ぶ)キンドルバーガー(第5回):「通貨切り下げ競争」はデフレ要因か
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/227.html
投稿者 あっしら 日時 2011 年 11 月 19 日 18:04:17: Mo7ApAlflbQ6s
 


竹森慶応大教授がキンドルバーガー理論を基軸に、「大恐慌」とそれからの脱却をめぐる様々な経済理論を紹介している日経新聞の「やさしい経済学」からの転載である。

 竹森さんは、「バーナンキ氏のような大恐慌の第3世代の研究の特徴は「為替切り下げ競争が恐慌の深刻化を招いた」という通説を転換し、それが「恐慌脱出の要因」と評価した点に見られる」と紹介し、それと異なり第2世代の「キンドルバーガーは2つの通説を支持する」と紹介している。

 バーナンキ説について、「今、為替レートが円高・ドル安に振れたとしよう。それは日本にはデフレ要因だが、米国にはインフレ要因だ。それゆえ為替レートの変動そのものが世界全体にとってのデフレ要因とはいえない」と概略的な説明をしている。

 しかし、この考え方は、インフレ率の差や金利の差による“自然な”為替変動に関してなら通用性があるが、戦前のような平価(為替レート)切り下げ競争が横行した世界に関しては通用性がない。

 利益が減少してしまう「通貨切り下げ競争」が起きるのは、不況に喘ぐ国内市場で需要が見込めないからである。過剰な生産物をできるだけ現金に換えたい、生産設備の減価償却費も稼ぎたいとの思いが強い商売で、いわゆる“安売り”の横行である。
その“安売り”が国際的規模で行われ、国内の労賃などはすでにぎりぎりまで絞っているから、生産性で劣る国は為替レートに頼った“安売り”に動くしかない。
 このような国際交易は、鎖国をしていない国以外にはデフレ要因となる。

 その一方で、バーナンキ氏が、為替レート切り下げ競争を「恐慌脱出の要因」と評価したことは間違いではない。
 米国のような資源と市場に恵まれた「国内自立型」経済であれば、利益がほとんどない条件でも過剰生産物を国外に輸出することは、国内の需給バランスを好転させるので「恐慌脱出の要因」となるからである。
 
(原材料や機械装置などを輸入に依存する国民経済では、輸入価格の上昇で利益が圧迫されるのでそうは言えない)

 キンドルバーガー氏は、「通貨切り下げ競争はデフレの原因であったし、29年の株価暴落は恐慌の引き金だった」という立場という。

 キンドルバーガー氏は、それを金融(与信)の観点から説明しているようだ。

「通貨切り下げがデフレの原因となったのは当時の「非対称性」のゆえだ。例えば26年にはポンド高・フラン安が生じ、金が英国からフランスに移動したが、その結果これまで対外貸し出しに積極的だった英国は貸し出しを抑制したが、対外貸し出しを嫌っていたフランスは貸し出しを増加しなかった。だからフランの切り下げはこの状況ではデフレ効果を生んだ」というのは、国際的な決済手段の縮小(非増加)が世界的なデフレ要因になることから正しい。とりわけ、当時の国際金融で大きなポジションを占めていた英国の動きは大きな影響を与える。

 「株価大暴落はどうか。キンドルバーガーはこの事件以来、金融緩和により株式市場が落ち着いた30年になっても、米国の格付けの高い社債の金利が低下し、格付けの低い社債や海外のドル建て社債の金利が高止まりした事実に注目する。株価暴落で借り入れ短期債による株式役資をしていた個人・銀行が資金繰りに詰まり、流動性危機が起こる」というのも、デフレは金利低下を招く経済事象であるのに、通貨供給量不足と恐慌後遺症があいまって、非優良企業に対する金利が高止まりすれば経済的苦境は改善されない。

※ これまでの「危機・先人に学ぶ:キンドルバーガー」

「「今こそ知ったかぶりを改めよ」:非現実的モデルによる量的予測におぼれる経済学者に対する戒め」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/148.html

「第2回危機・先人に学ぶ:キンドルバーガー(2)鋭い理論的洞察」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/184.html

「キンドルバーガー第3回:自由貿易の利益は普遍ではなく「その国にとってプラスかどうかは状況に依存する」」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/202.html

「「大恐慌」研究の第2世代としてのキンドルバ−ガー(第4回)」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/206.html

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やさしい経済学

危機・先人に学ぶ:キンドルバーガー

(5)為替切り下げ

慶応義塾大学教授  竹森 俊平

 バーナンキ氏のような大恐慌の第3世代の研究の特徴は「為替切り下げ競争が恐慌の深刻化を招いた」という通説を転換し、それが「恐慌脱出の要因」と評価した点に見られる。今、為替レートが円高・ドル安に振れたとしよう。それは日本にはデフレ要因だが、米国にはインフレ要因だ。それゆえ為替レートの変動そのものが世界全体にとってのデフレ要因とはいえない。他方で主要国が金本位制を採用していた当時、為替を切り下げるには金の評価額を上げるか、金本位制を停止する必要があった。

 どちらを選択しても発行できる紙幣(マネーサプライ)は増える。だから為替の切り下げ競争は、金融政策を自由にしてデフレからの脱却を可能にした要因と評価できる。もうひとつ、金本位制の廃止だけが重要とする第3世代は第1世代と同様、通説では恐慌の引き金とされる1929年10月の米国の株価大暴落の意味を軽視する。

 これに対してキンドルバーガーは2つの通説を支持する。通貨切り下げ競争はデフレの原因であったし、29年の株価暴落は恐慌の引き金だった。通貨切り下げがデフレの原因となったのは当時の「非対称性」のゆえだ。例えば26年にはポンド高・フラン安が生じ、金が英国からフランスに移動したが、その結果これまで対外貸し出しに積極的だった英国は貸し出しを抑制したが、対外貸し出しを嫌っていたフランスは貸し出しを増加しなかった。だからフランの切り下げはこの状況ではデフレ効果を生んだ。

 株価大暴落はどうか。キンドルバーガーはこの事件以来、金融緩和により株式市場が落ち着いた30年になっても、米国の格付けの高い社債の金利が低下し、格付けの低い社債や海外のドル建て社債の金利が高止まりした事実に注目する。株価暴落で借り入れ短期債による株式役資をしていた個人・銀行が資金繰りに詰まり、流動性危機が起こる。以来、市場心理は危険回避型になる。それが恐慌の本番であるオーストリアのクレディート・アンシュタルト銀行破綻につながる。
 リーマン・ショックを市場心理を危機回避型にした先触れとし、ギリシャ危機を本番として今回の危機を考察するとキンドルバーガーの洞察の鋭さがわかる。

[日経新聞11月18日P.29]

 

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コメント
 
01. 2011年11月19日 21:37:26: OIxNYWfJog
キンドルバーガーもバーナンキも、世界恐慌、デフレの副次的要因のみを見て、世界恐慌、デフレの本質、世界的に需要が不足していたということを考慮に入れていない気がするのですが。

デフレで何で困るのでしょう?
それは物価より労働所得の下落が大きいからです。
物価と労働所得が同じ比率で下がるのなら、基本的な問題はありません。

そえは資本と労働のパワーアンバランスにより起こります。
物価より労働所得の下落が大きいのでデフレスパイラルが続くことになります。
もちろん副次的要因はいろいろあります。
特に将来不安は需要に大きな影響を与えます。


02. あっしら 2011年11月20日 00:10:43: Mo7ApAlflbQ6s : DvLZNEv2EI

OIxNYWfJogさん、こんばんは。

>デフレで何で困るのでしょう?

 インフレがそうであるように、デフレで困る人もいれば、デフレで潤う人もいます。

 デフレは、将来、保有するおカネの価値が上昇し、保有するモノの価値が下落する経済事象です。

 これだけで、銀行や金持ちなど貨幣資産に依拠して生きている人たちが得をし、機械設備や在庫を抱えながら事業を続けなければならない産業関係者は不利になることがわかります。


>物価と労働所得が同じ比率で下がるのなら、基本的な問題はありません。

 これは、上述した内容を考えれば、そうは言い切れないことがわかります。

○ 貨幣はできるだけ手元に、設備投資などはぎりぎりまであと延ばしという経済行動がはびこるので、経済成長の動因である投資が縮小し、不況が続きます。
 そのため、政府部門は、膨大な公債を発行して、経済の下支えをしなければならなくなります。

○ 債務を多く抱える人は、年々歳々、債務の負担が重くなります。
設備投資を考えればわかりやすいでしょう。借入金500億円で機械装置を購入し、生産した製品を1個2万円で販売することで、500億円の借り入れ債務と減価償却を進める計画だったものが、製品価格が19800円、19500円・・・という感じで下がっていけば、債務の履行も減価償却費の積み立ても思うようにできなくなります。

○ 債務の重荷が増大したり利益が思うように上げられなくなると、企業にとって最大の経費である賃金・給与を切り下げようという動きが強まります。
個々の企業には合理的とされるそのような動きが、経済全体の購買力を減少させデフレ・スパイラルを深めていくことになります。


デフレが好ましい銀行も、融資が思うようにできなくなるので、国債から得られる利益に依拠するようになり、公的債務がまるで「銀行への補助金」のような役割を果たすようになります。

 2から3%(5%未満)の緩やかなインフレが、成熟した近代産業資本制経済の成長にとっても、望ましい条件だと考えています。



03. 2011年11月20日 01:38:42: OIxNYWfJog
あっしらさん こんばんは
何かいちゃもんをつけているようで申し訳ないですね。

>>物価と労働所得が同じ比率で下がるのなら、基本的な問題はありません。

 >これは、上述した内容を考えれば、そうは言い切れないことがわかります。

すいません、これはデフレ率と同じだけ債権、現物通貨をカットするということを前提においた話でした。
すべてが一律に下がるのならデノミと同じことですよね。

問題は各経済主体間のパワーバランスが等しくないので、下がり方に差が有るということです。
もし資本と労働のパワーバランスが労働の方が強く、労働所得より物価の下がり方が大きければデフレスパイラルは起こらないのではないですか。
(将来不安とかは別として)

ガルブレイスは経済主体間のパワーバランスが重要だと言っております
http://hayashiland.com/galbraith.pdf#search=%27%E5%A4%A7%E6%81%90%E6%85%8C%20%E3%82%AC%E3%83%AB%E3%83%96%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%82%B9%27

キンドルバーガーもバーナンキも、それぞれの国の事情、為替などにデフレの原因を求めていますが、世界全体で需要不足だったということを忘れています。
もちろんそれぞれの国の事情、為替レートによって程度はことなりますが。
ドイツはハイパーインフレでしたが、輸入するマネーが無く、世界全体から見れば需要不足と言えます。


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