http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/227.html
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竹森慶応大教授がキンドルバーガー理論を基軸に、「大恐慌」とそれからの脱却をめぐる様々な経済理論を紹介している日経新聞の「やさしい経済学」からの転載である。
竹森さんは、「バーナンキ氏のような大恐慌の第3世代の研究の特徴は「為替切り下げ競争が恐慌の深刻化を招いた」という通説を転換し、それが「恐慌脱出の要因」と評価した点に見られる」と紹介し、それと異なり第2世代の「キンドルバーガーは2つの通説を支持する」と紹介している。
バーナンキ説について、「今、為替レートが円高・ドル安に振れたとしよう。それは日本にはデフレ要因だが、米国にはインフレ要因だ。それゆえ為替レートの変動そのものが世界全体にとってのデフレ要因とはいえない」と概略的な説明をしている。
しかし、この考え方は、インフレ率の差や金利の差による“自然な”為替変動に関してなら通用性があるが、戦前のような平価(為替レート)切り下げ競争が横行した世界に関しては通用性がない。
利益が減少してしまう「通貨切り下げ競争」が起きるのは、不況に喘ぐ国内市場で需要が見込めないからである。過剰な生産物をできるだけ現金に換えたい、生産設備の減価償却費も稼ぎたいとの思いが強い商売で、いわゆる“安売り”の横行である。
その“安売り”が国際的規模で行われ、国内の労賃などはすでにぎりぎりまで絞っているから、生産性で劣る国は為替レートに頼った“安売り”に動くしかない。
このような国際交易は、鎖国をしていない国以外にはデフレ要因となる。
その一方で、バーナンキ氏が、為替レート切り下げ競争を「恐慌脱出の要因」と評価したことは間違いではない。
米国のような資源と市場に恵まれた「国内自立型」経済であれば、利益がほとんどない条件でも過剰生産物を国外に輸出することは、国内の需給バランスを好転させるので「恐慌脱出の要因」となるからである。
(原材料や機械装置などを輸入に依存する国民経済では、輸入価格の上昇で利益が圧迫されるのでそうは言えない)
キンドルバーガー氏は、「通貨切り下げ競争はデフレの原因であったし、29年の株価暴落は恐慌の引き金だった」という立場という。
キンドルバーガー氏は、それを金融(与信)の観点から説明しているようだ。
「通貨切り下げがデフレの原因となったのは当時の「非対称性」のゆえだ。例えば26年にはポンド高・フラン安が生じ、金が英国からフランスに移動したが、その結果これまで対外貸し出しに積極的だった英国は貸し出しを抑制したが、対外貸し出しを嫌っていたフランスは貸し出しを増加しなかった。だからフランの切り下げはこの状況ではデフレ効果を生んだ」というのは、国際的な決済手段の縮小(非増加)が世界的なデフレ要因になることから正しい。とりわけ、当時の国際金融で大きなポジションを占めていた英国の動きは大きな影響を与える。
「株価大暴落はどうか。キンドルバーガーはこの事件以来、金融緩和により株式市場が落ち着いた30年になっても、米国の格付けの高い社債の金利が低下し、格付けの低い社債や海外のドル建て社債の金利が高止まりした事実に注目する。株価暴落で借り入れ短期債による株式役資をしていた個人・銀行が資金繰りに詰まり、流動性危機が起こる」というのも、デフレは金利低下を招く経済事象であるのに、通貨供給量不足と恐慌後遺症があいまって、非優良企業に対する金利が高止まりすれば経済的苦境は改善されない。
※ これまでの「危機・先人に学ぶ:キンドルバーガー」
「「今こそ知ったかぶりを改めよ」:非現実的モデルによる量的予測におぼれる経済学者に対する戒め」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/148.html
「第2回危機・先人に学ぶ:キンドルバーガー(2)鋭い理論的洞察」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/184.html
「キンドルバーガー第3回:自由貿易の利益は普遍ではなく「その国にとってプラスかどうかは状況に依存する」」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/202.html
「「大恐慌」研究の第2世代としてのキンドルバ−ガー(第4回)」
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/206.html
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やさしい経済学
危機・先人に学ぶ:キンドルバーガー
(5)為替切り下げ
慶応義塾大学教授 竹森 俊平
バーナンキ氏のような大恐慌の第3世代の研究の特徴は「為替切り下げ競争が恐慌の深刻化を招いた」という通説を転換し、それが「恐慌脱出の要因」と評価した点に見られる。今、為替レートが円高・ドル安に振れたとしよう。それは日本にはデフレ要因だが、米国にはインフレ要因だ。それゆえ為替レートの変動そのものが世界全体にとってのデフレ要因とはいえない。他方で主要国が金本位制を採用していた当時、為替を切り下げるには金の評価額を上げるか、金本位制を停止する必要があった。
どちらを選択しても発行できる紙幣(マネーサプライ)は増える。だから為替の切り下げ競争は、金融政策を自由にしてデフレからの脱却を可能にした要因と評価できる。もうひとつ、金本位制の廃止だけが重要とする第3世代は第1世代と同様、通説では恐慌の引き金とされる1929年10月の米国の株価大暴落の意味を軽視する。
これに対してキンドルバーガーは2つの通説を支持する。通貨切り下げ競争はデフレの原因であったし、29年の株価暴落は恐慌の引き金だった。通貨切り下げがデフレの原因となったのは当時の「非対称性」のゆえだ。例えば26年にはポンド高・フラン安が生じ、金が英国からフランスに移動したが、その結果これまで対外貸し出しに積極的だった英国は貸し出しを抑制したが、対外貸し出しを嫌っていたフランスは貸し出しを増加しなかった。だからフランの切り下げはこの状況ではデフレ効果を生んだ。
株価大暴落はどうか。キンドルバーガーはこの事件以来、金融緩和により株式市場が落ち着いた30年になっても、米国の格付けの高い社債の金利が低下し、格付けの低い社債や海外のドル建て社債の金利が高止まりした事実に注目する。株価暴落で借り入れ短期債による株式役資をしていた個人・銀行が資金繰りに詰まり、流動性危機が起こる。以来、市場心理は危険回避型になる。それが恐慌の本番であるオーストリアのクレディート・アンシュタルト銀行破綻につながる。
リーマン・ショックを市場心理を危機回避型にした先触れとし、ギリシャ危機を本番として今回の危機を考察するとキンドルバーガーの洞察の鋭さがわかる。
[日経新聞11月18日P.29]
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