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前回のコラムで15兆円の追加財源があれば、医療・介護をすべて無料化し、生活保護手当て支給のカバー率を100%にできることを説明した。15兆円あれば「国民の誰もが医・食・住を保障される国」が実現できるということである。
では、その15兆円という追加財源を捻出することは可能なのか。
私は十分に可能であると考えている。
イギリス並みの国民負担率で、30兆円の増収
まずマクロの観点から見てみよう。現在の日本の国民負担率(国民所得に占める税と社会保険の合計額の割合)は約40%である。高福祉高負担の代名詞とも言うべき北欧諸国の国民負担率(65%〜70%)とは比べるまでもないが、仏(約60%)、独(約52%)、英(約50%)と比べても日本はかなり低い水準である。
高齢化率が日本より低い仏、独、英が50%〜60%であることを考えれば、日本が国民負担率をそれと同等の水準にまで上げるのは非現実的な選択ではない。もしイギリス並みに国民負担率を約50%に上げたならば、約30兆円の増収になる。15兆円を優に賄って15兆円もおつりが来る計算になる。
では、具体的にはどういう税や社会保険で財源を確保すべきであろうか。
以下、国民負担率を10%程度アップさせるケースを念頭に、可能性のある追加財源のアイデアを示していこう。
消費税は安定財源だが逆進性が問題
(1)消費税
まず目につくのが消費税のアップである。先進国における消費税率は15%〜20%が主流である。例えば仏が19.6%、独が19%、英が17.5%となっている。国民負担率が日本より低い唯一の先進国であるアメリカですら8.875%(ニューヨーク州)である。成熟社会を迎えて社会保障政策の財源を確保するためには、景気の波の影響を受けやすい所得税よりも安定した税収を見込める消費税は適当な財源である。もし消費税率を10%アップして15%にすれば、約22兆円の税収増になる。先の15兆円はこれだけで十分賄える。
ただし消費税のアップは副作用を伴う。それは所得に対する逆進性の問題である。所得税は所得金額が大きくなるにつれて税率を上げる累進課税方式によって、豊かな人からより多く集め、貧しい人の負担を軽くするという工夫を施しやすい。一方消費税は、高額所得者にも低所得者にも同率で課すことになるため、低所得者の負担が相対的に大きくなってしまう性質がある。
資産課税は再配分機能に優れている
(2)資産課税
では消費税の逆進性を緩和するためにはどのような税が適切かというと、「資産課税」が挙げられよう。多く稼ぐ人は一般に多くの資産を保有している。そこで多くの資産を保有している人に税金を多く負担してもらう資産課税は、所得の再配分機能に優れた、福祉社会と相性の良い税だと言える。
そしてこれからは資産課税の対象として金融資産も含めることが望ましい。そもそも資産を預金や証券で持っている場合には課税されないのに、そのお金を土地に換えた途端に固定資産税を課せられるというのもおかしな話である。
実際に金融資産課税を導入する場合、税率については色々考えられる。仮に土地に対する固定資産税と同率の1.4%に設定すると、個人金融資産1400兆円から徴収できる税額は毎年約20兆円にも上る。もし税率を1.0%としても14兆円の税収になり、国民に医・食・住を保障するための追加費用15兆円のほとんどを賄える。
金融資産課税のもう一つのメリット
金融資産課税を導入するともう一つ大きなメリットを期待することができる。それはため込んでいたお金を使おうとするインセンティブが働くことである。多額のお金をただ資産として保有しているだけで毎年1%ずつ課税されてしまうとなると、消費に回そうという意識が働くはずである。1400兆円もの金融資産のうち仮に3%でも消費に回るとすれば、その金額は42兆円にもなる。極めて大きな経済の刺激効果を期待することができる。
日本のGDPの6割以上は消費による。もし仮に42兆円も消費が増えたならば、8%以上もGDPを押し上げる効果を持つ。消費低迷による不況日本にとって干天の慈雨とも言える経済効果が期待できるのである。
ちなみに、今の日本では金融資産の3分の2以上を55才以上の高年齢層が寡占しており、お金持ちイコール高年齢層というイメージが定着している(高齢者イコールお金持ちではない、念のため。生活保護手当て受給者のうち40%以上は高齢者である。高齢者の中には介護費用や生活費の不安を抱えている方が多数存在している事実は忘れてはならない)。成熟化社会を迎えて、社会的弱者の生活の不安を解消するために、お金持ちの負担が増えてしまうのは致し方がないことなのである。
階層の固定化を解消するためにも相続税の強化は有効
(3)相続税
消費税の逆進性を緩和するために有効な課税対象がもう一つある。相続税率のアップである。
資産課税といい、相続税といい、お金持ちのお年寄りばかりを狙い撃ちするようでやや気がひけるアイデアではあるが、仕方ない。
近年日本の社会問題として深刻化している階層格差問題の核心は、所得格差ではなく資産格差が原因である。不平等さを表すジニ係数で見ても、所得のジニ係数が0.314であるのに対して資産のジニ係数は0.547とかなり高い水準である。
現在も相続税の制度は存在するが、様々な免税措置があるために実際に相続税を支払うのは遺産相続件数のうちたった4%にすぎない。年間の相続金額の総額が約30兆円であるのに対して徴収額はわずか1.5兆円である。現行の相続税の実質的な軽さが社会階層の固定化と機会の不平等化の要因となっていると考えると、相続税の実効税率を上げることは税収増という財政上のメリットだけでなく、社会の公正化の面でも意義は大きいのである。
仮に毎年の遺産総額30兆円のうち半分を相続税として徴収できる制度にすれば15兆円の税収となる。それだけでも国民全員に医・食・住を保障するためのコストを賄えることになる。遺産総額の25%を集めるだけでも7.5兆円で、必要コストの半分を捻出できる。
お金持ちの家に生まれたらお金持ちの人生が約束され、貧乏な家に生まれたらなかなかはい上がれないという階層の固定化は、所得格差よりも資産格差が生み出しているのである。従って、消費税の逆進性を解消することに加えて、社会の活力を削いでいる社会階層の固定化を解決するためにも、富裕層に対する資産課税や相続税の強化は非常に重要だと考えられる。
フランス並みの負担率で51兆円の税収増、イギリス並みでも25.5兆円増
以上、消費税、金融資産課税、相続税の具体策について簡単に説明してきた。ここで、もう一度整理しておこう。
消費税は、10%アップで22兆円の税収増、5%アップで11兆円の税収増になる。
金融資産課税は、税率1%で14兆円の税収増、税率0.5%で7兆円の税収増になる。
相続税は、総相続額に対して実効税率50%で15兆円の税収増、25%で7.5兆円の税収増となる。
これらの施策のうち増税額の大きなケースでは、消費税22兆円、金融資産課税14兆円、相続税15兆円で合計51兆円の税収増になる。この場合でも国民負担率は54%となってフランスよりもまだ低い。
増税幅の小さいケースでは総増収額は25.5兆円となる。その場合の国民負担率は47%であり、イギリスの国民負担率と比べてもまだ低い。
成熟社会を迎えるためには財政構造の正常化も必要
このように、増税幅が大きなケースにしても小さなケースにしても、国際的に見て少しも非常識な水準ではない。むしろ、毎年毎年、税収不足を補うために30兆円も40兆円も国債を発行し続けている財政構造の方が異常である。
いずれのケースでも、成熟社会を迎えるに当たって整備すべき社会インフラ「国民の誰もが医・食・住を保障される」ために必要なコスト15兆円を賄っておつりが来る金額を確保できる。その余剰分は年々膨張している国債発行額の抑制に当てるべきだ。超高齢化社会が本格的に到来するまでに持続可能な財政構造を整えておくことが何としても必要である。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20111026/223424/
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国民の税負担が大きくなれば支出を減らし、デフレがさらに深刻化すると考える人がいるかもしれないが、ここでの肝心な論点は、その税負担で「国民の誰もが医・食・住を保障される国」が実現するという点だ。今の国民の意識を覆っている「将来不安」が無くなるために、将来に備えて貯蓄に励む必要は無くなり、消費に回るという点だ。
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