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パナソニックだけじゃない 日本企業 次々おかしくなってきた
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/25484
2011年11月07日(月) 週刊現代 :現代ビジネス
緊急大特集 この国は認識が甘い 世界大恐慌はすでに始まっている
ギリシャの債務不履行(デフォルト)はもはや100%間違いない。大手の金融機関もいくつかやられるだろう。日本には超円高の血の雨が降ることになる。その予兆はすでにあちこちで出始めている。
■もはや打つ手なし
10月初旬に開催された国内最大のIT・家電見本市「CEATEC(シーテック)」の会場で、パナソニックの大坪文雄社長は危機感を露にした。
「(米欧での)販売は今年の計画で思っていたほど伸びていない。極めて厳しい状況になっている。中国やインドでも従来の力強い伸びからはトーンダウンする」
そして社長自らの敗北宣言≠きっかけに、パナソニックは立て続けに「撤退」を発表したのだ。
全国紙経済部記者の解説。
「まずテレビ向けプラズマパネルを生産する尼崎第3工場を今年度中に休止、千葉県茂原市の液晶パネル工場も売却を検討していることが明らかになった。尼崎の工場は昨年本格稼働したばかりの世界最大級の最新鋭工場、2012年度までに2100億円を投じる予定だっただけに驚きが走った。そこへきて尼崎第1工場を太陽電池工場に衣替えする計画を撤回、同工場でのプラズマテレビ用パネル生産も今年度中に中止することも明らかになると同時に、テレビ用半導体の生産を縮小して1000人規模の人員削減を行うこともわかった」
お家芸であったテレビ事業の大幅縮小---。日本を代表するモノ作り企業がふらつきだした。
ただこれはパナソニックに限った話ではない。どの製造業も欧州経済危機に飲み込まれ、戦後最悪の円高に追い討ちをかけられている。さらに韓国メーカーらが猛追、欧州危機で安くなった通貨を利用して、世界各国で商品を売りまくり、日本勢のシェアをどんどん奪っているのだ。
日本企業は出血≠オ始めている。実際に話を聞いてみると、こんな苦しい声が聞こえてくる。
「テレビ事業は7期連続で赤字が継続しており、需要が伸びている新興国にフォーカスしていく方針。事業からの撤退はまったく考えていないが、2012年3月期決算でもテレビ事業の黒字化は難しいと予想している」(ソニー広報センター)
「貨物の不振は欧州系の船会社が超大型と言われる1万t以上の大きな船を投入したことで供給が増えたことが大きい。特に欧州航路の運賃が下がり、今年の4~9月期が最終赤字になった。明るい話題を提供したいが、円高の影響もあり業績は非常に厳しい。正直、地道にコストを削減するしかない。打開策はない」(川崎汽船IR・広報グループ)
ホンダも本誌の取材にこう語った。
「インディアナの工場が立ち上がる直前にリーマン・ショックが訪れたので、社内の空気は本当に厳しかった。あのときは丸1年間まるで太刀打ちできなかった。1年経過して『ようやく明るさが見えてきた』と希望が見え始めたときに円高が進んできた。今年は震災の影響もあったが夏頃からはフル生産に戻っていた。そんな矢先にタイの洪水があり、いまに至っている。欧州危機や円高で対策を練ろうとしても車の開発には約3年かかるので、タイムラグができてしまう。対策は『グローバルなタフネスを上げていく』しかない。どこの国が強くなろうが弱くなろうが、常に闘える基礎体力をつけておくということだ」(本田技研工業広報部企業広報グループ)
こうした事態を警戒してか、大和総研は今月『日本経済への影響には最大級の警戒を』なるレポートを発表。「外的ショックに弱い日本経済」と題してリーマン・ショックで日本が打撃を受けた理由を分析した上で、「ユーロ危機がすでに世界的な問題となった現在の局面においては、景気後退の可能性に最大級の警戒感をもって備える必要があろう」と記した。
■「いよいよやばいぞ」
日本企業をむしばむ欧州の経済危機だが、問題解決どころか日に日に深刻さを増しており、日本企業をさらに崖っぷちに追い詰めようとしている。
「ギリシャの債務危機はリーマン・ショックと同程度、またはそれ以上の悪影響を及ぼす可能性がある。弱小国の財政赤字問題にすぎず、日本への影響は小さいなどと考えるべきではない。欧州の民間金融機関が一斉に、保有している新興国の株式や債券などの資産をなり振り構わず投げ売る兆候も出ている。新興国の株や通貨が安くなり始めた。リーマン・ショックさながらの異常事態に警戒が必要な段階に入った」
こう警告するのは日本総研理事の湯元健治氏だ。
欧州危機が一刻の猶予も許さぬ危険水域に入り、第2のリーマン・ショックが火を噴くタイムリミットが目の前に近づいてきた。日本では「遠く対岸の火事」「影響はあまりない」と高みの見物を決めこむ向きもいるが、認識が甘すぎる。
前出・湯元氏が続ける。
「たとえばギリシャでは支援を受けるたびに追加の財政削減が求められるため、それを実施しているうちに景気はますます悪化している。今年5月時点ではGDP成長率の予想値をマイナス3.8%としていたのに、今月になってマイナス5.5%になると発表した。ドイツでさえ2012年のGDP成長率の見通しを1.8%から1%に下方修正、日本でも欧州への輸出が多いソニー、キヤノン、トヨタなどに影響が出始めている。対ユーロの想定レートを115円程度にしているソニーは、1ユーロにつき1円の円高で約60億円の営業利益がなくなる計算になっている。現在の円高水準だとそれが約600億円になり、営業利益の半分が吹き飛んでいる形だ」
世界大恐慌はすでに開幕しているということ。日本企業は過去20年、アメリカに工場を造るなど対米ドルの円高には対応する努力を続けてきたが、ユーロへの対策は怠ってきたため経営が直撃を受けている。そしてリーマン・ショックの惨劇から回復にあった途上で、コツコツとモノを売って積み上げてきた利益が吹き飛び始めたのだ。
それなのにどうしてか、日本では危機感が薄い。テレビや雑誌は『本当は強い日本企業』『いまこそ日本企業のチャンス』などと楽観的な特集を組み、ワイドショーのコメンテーターたちも「影響は少ない」とうそぶくばかり。原発のときも大本営発表ばかりを垂れ流し、危機を煽るなとメディアは叫んだが、現実はどうだったか。今回の危機でも、あの時の相似形が見える。
思えばリーマン・ショックが起きた時も、与謝野馨経済財政担当相(当時)は「ハチに刺されたようなもの」と日本への影響が軽微だと指摘。多くのエコノミストや経済専門家がこれに似た楽観論≠述べた。
しかし、フタを開ければ、2009年の経済成長率は急降下、戦後最悪のマイナス成長を記録した。専門家の予想は大外れ、日本経済は世界でも類を見ない大打撃を受けたのだ。
第一生命経済研究所首席エコノミストの嶌峰義清氏が当時を振り返る。
「私たちも統計が出るたびに『こんなに落ちるのか』『これはいよいよやばいぞ』と青ざめて驚くばかりだった。あの時は世界中で金融機能が停止するという大恐慌以来の事態が起きたから、どんな影響が出るのか誰もわからなかった。何より物流につける保証の引き受け手がいなくなったため輸出入が完全ストップ、貿易量が瞬間的にズドンと落ちる事態は想像もしていなかった。世界でモノが売れなくなり、在庫がドッと積みあがったのだから、企業は一気に生産にブレーキをかけなければいけない。それも24時間操業を18時間に、などというレベルでは在庫が減らないので完全にストップした」
だから雇用も一気に失われた---。しかも猛烈なスピードで、ショックは日本人の生活を一気に蝕んだ。
ニッセイ基礎研究所チーフエコノミストの櫨浩一氏もこう語る。
「ショックが起きてたった数ヵ月の間に、ものすごい勢いで生産が落ちていった。だからすぐに雇い止めが始まってまずは派遣社員が首を切られ、直接雇用の社員も雇用期間が終われば更新できなかった。新規の雇用もストップ、そうした中で正規社員の首切りも始まった。リーマン・ショックが9月で、その年末に『年越し派遣村』ができたくらい、首切りのスピードは早かったということだ。働ける人も残業手当や所定外手当がつかなくなりストレートに収入が激減。これで消費が急激に冷え込んだ」
リーマン・ショックの教訓は、モノ作り中心で輸出に頼る日本は、ショックによる実体経済への影響がハデにでてくるということ。さらにショックが起きた後に何が起こるのか誰もわかっていなかったということだ。だからこそ、政策当局者は頭が真っ白になり、危機を止める術を持たなかった。そして、その構造はいまも変わっていない。
■さらなる超円高が襲う
さらにいま第2のリーマン・ショックが起きれば、「悲劇の度合い」は当時よりひどくなるのが確実だ。
前出・嶌峰氏が指摘する。
「リーマンの時と何が違うかといえば、景気対策をとるためのおカネが各国にない。あの当時は日本も含めて世界各国が戦後最大の景気の落ち込みを経験したが、それに対して戦後最大の景気対策を打った。たとえば日本ではエコカー減税、エコポイント、住宅ローン減税などをやったように。ただ、いま同じ対策がとれるかといえば、みんなできない。言い方を換えれば、できないからいまの債務危機からの不況があるのだ。あれだけの景気対策がとれないとなれば、ショックが起きた後に回復するのが非常に遅くなる」
事実、エコポイント終了後に家電の売り上げは急減、テレビなどは家電量販店で叩き売りのような安売り合戦が始まっている。エコポイント時代に大量に造った製品の在庫が明らかに需要を上回っている。
前出・櫨氏もこう言う。
「いまショックが起きたら世界中から需要が消えるだけでなく、日本にはさらなる円高が襲いかかってくるのがきつい。日本の製造業がサムスンを代表とする海外勢にやられているのは、円高が大きな原因だ。たとえばリーマン・ショック前までは1ドルが900ウォンだったのが、いまは1100ウォンくらいまで下がった。一方の円は120円から75円に上がっており、円=ウォンで見るとめちゃくちゃな円高で、これでは勝負にならない。次のショックが起きれば円の独歩高となり、日本企業が一人負けしていくことになるだろう」
もっとも影響を受けるのがこれまで日本経済を支えてきた輸出型企業。そして前述したように日本企業の敗戦≠ヘすでに始まっているのだ。
さらに「戦略の失敗」が傷を深くしている。コンサルティングファーム、ローランド・ベルガー会長の遠藤功氏が語る。
「たとえばテレビ事業はサムスンなど韓国勢が圧倒的に強く、もう勝負はついている。パナソニックがどうしてプラズマテレビに力を入れてきたのかもわからなかった。これは日本企業の現状をよく表している。円高だから海外シフトをしなければといって『どこで作るか』ばかり議論され、『何を作るか』が根本的に考えられていない。新興国でボリュームゾーンの商品を作っても差別化が難しく、価格競争で中国や韓国のメーカーにかなわない。日本企業にしか作れない、世界中があっと驚く商品ができれば、日本で生産しても、世界の景気が悪くても買ってもらえるはずだ」
そしていいモノを作れなくなった企業がショックに襲われたときにひとたまりもなく崩れていくことは、リーマン・ショック時に凋落≠経験したトヨタの例からも明らかだろう。
当時トヨタを取材したジャーナリストが振り返る。
「実はリーマン・ショックの1年前くらいから北米市場で不振が始まっていたのに、当時のトヨタ幹部は甘く見て生産抑制を怠った。そこにショックが襲ってきて北米市場でモノがまったく売れなくなると、どんどん大量の在庫が積みあがった。想定外の事態にトヨタは業績予想を何度も下方修正するハメになり、ついに2009年2月に当時の副社長だった木下光男氏が'09年通期で4500億円の営業赤字となるとの見通しを発表。たった1年で約3兆円を失い、創業以来2度目の営業赤字に転落した」
戦略の失敗でつまずけば、立て直すのにも時間を要する。「今が自動車業界の瀬戸際」と危機感を表明して2009年から社長に就任した豊田章男氏は社内の有志を集めて改革に着手したが、業績こそ回復したものの世界をアッと言わせるような新車種の開発にはまだ成功していない。
■パリバ・ショック
もちろんほかの経営者たちも「リーマン後」をうまく乗り切れているとはいえない。そこへ欧州危機が押し寄せ、ふらつきながらリングサイド≠ノ追いやられているのが日本企業の「本当の姿」だ。
経済ジャーナリストの嶌信彦氏が言う。
「日本企業はまだリーマン・ショックの呪縛にとらわれており、手持ち資金を手放せないでいる。本来であれば新商品開発などのための設備投資などを行うべきだが、それができない。欧米に代わるボリュームゾーンはどこか、どこで何を売ればいいのかさえ見つけられないでいる。富士フイルムや資生堂がナノテクを使った新商品を開発してアジアの中間層に受けいれられているように、新しい一歩を、いまこそ踏み出すときだ」
時間はない。次のショックは目の前まで来ている。日本企業が「革新」を行えるか、その前にショックに飲み込まれるか---事態はぎりぎりのチキンレース、綱渡りの様相を呈してきた。
楽天証券経済研究所客員研究員で経済評論家の山崎元氏が言う。
「リーマン・ショック後にトヨタやパナソニックの業績が一気に悪化したが、今回も似たような事態になる危険性は高い。そもそも欧州の金融危機が起こる以前から、韓国企業などの追い上げにあって、日本の製造業は苦しい状態だ。それに欧州危機が追い討ちをかける。特に日本は家電も自動車も高価格帯が得意だが、こうした市場は需要の縮小がより大きく影響する。その意味でも日本の製造業にとっては痛い」
実は大手メディアはほとんど報じないが、小さなところから、企業はバタバタと倒れ始めている。
帝国データバンク情報取材課課長の仲野実氏が語る。
「円高関連の倒産だけを見ても直近2ヵ月連続で今年の最多を更新している。リーマン・ショック後の'09年の同倒産件数は前年比で150%増と急増したが、今年はすでにその数さえ超えている。中でも大手メーカーの減産、工場の海外移転により受注が急減して倒産に至るパターンが増えている。来年3月には中小企業金融円滑化法による返済猶予の期限も切れるので、これまで顕在化しなかった企業の倒産も出てくる。2万社を超える輸出関連の中小下請け企業は限界に近づきつつあり、年末にかけて倒産は増え続けるだろう」
ただ欧州危機は日本のこんな惨状と関係なく、臨界点を迎えようとしている。フランス・ベルギー系大手金融機関のデクシアの破綻はまだ始まりに過ぎず、次に破綻が懸念される先として、フランス大手のBNPパリバやソシエテ・ジェネラルなどの名前が指摘され始めたのだ。両行は「自分たちは安全」と火消しに躍起だが、同時に資産売却を始めてもいる。日本の「失われた20年」では、不良債権処理に苦しみ、いくつもの金融機関が破綻したり、「貸し渋り」に走ったが、それと同じ現象が欧州で始まっている。
もちろんギリシャ自体がいつ爆発するかもわからない。ギリシャは100%デフォルトするというのが、もはやマーケットの常識。パリバ・ショックだろうが、ギリシャ・ショックだろうが、いずれにしてもリーマン以上の危機になることは間違いない。これに耐えられる底力が、日本の製造業各社に残されているのか。少なくとも政府には危機を支える力もカネもないことだけは、間違いない。
「週刊現代」2011年11月12日号より
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