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“EU離脱なし”のギリシャ救済は本当に可能か ソブリンリスクを高める「ユーロの構造的欠陥」
――元米大統領経済諮問委員会委員 ジェフリー・フランケル氏に聞く
ギリシャに端を発した欧州債務危機問題がスペインやイタリアなどに飛び火し、欧州全体に危機が波及する懸念が高まっている。混迷を極めるこの問題の背景に横たわるのは、ユーロ体制そのものが抱えた深い構造的欠陥だ。では、危機の解決を困難にしている構造的欠陥とは一体何か。そして、その欠陥を前提とした解決策は未だに残っているのか。クリントン政権下で大統領経済諮問委員会(CEA)委員を務めたジェフリー・フランケル ハーバード大学教授に袋小路に入った欧州債務危機への処方箋を聞いた。(聞き手/ジャーナリスト・瀧口範子)
ギリシャ救済はもはや期待薄に
ユーロ体制が抱える深い構造的欠陥
――ギリシャ債務危機のゆくえをどう見ているか。
ジェフリー・フランケル
(Jeffrey Frankel)
ハーバード大学ケネディー行政大学院教授。MIT(マサチューセッツ工科大学)で経済学の博士号取得。1999年より現職。NBER(全米経済研究所)の国際金融とマクロエコノミックス・プログラムのディレクターを務め、景気後退を公式に宣言する同研究所の景気循環日付委員会メンバーも兼任。カリフォルニア大学バークレー校教授(1987〜1999年)、クリントン政権大統領経済諮問委員会委員(1996〜1999年)などを務め、現在は、ニューヨーク地区連銀、ボストン地区連銀アドバイザーなどの役職を兼務。
ギリシャ救済については、現段階となっては期待できないと考える。遅かれ早かれ、債務は償却、あるいは再編が必要で、それをどうやるかのパズルがユーロ圏の課題だ。ギリシャ経済そのものについては、包括財政だけではなく基礎的財政の状態がかなり悪く、また労働者の競争性が低いという深い問題がある。従って、たとえ債務が償却されても事態は向上しないだろう。
ユーロ圏から追放すべきという議論もあるが、法的に不可能なため、それもない。唯一できることがあるとすれば、構造的な再建を行い、職業の門戸を外国人に広げて少しでも成長を確保することだろう。
――ソブリン危機は、なぜ繰り返し起こっているのか。ユーロ体制にシステム上の欠陥があるのか。
もちろん、各国における直接的な問題はある。ギリシャはひどい財政赤字だが、アイルランドは銀行システムに問題があった上に、2008〜2009年の金融危機の際には、政府が預金者だけでなく投資家の債務まで負っていた。他国にもそれぞれ特有の問題がある。
しかし、根本的にユーロ体制には深い構造的欠陥がある。そもそも金融危機であれ財政危機であれ、参加国のどこかで問題が起きることなく、ユーロ体制が100年も200年も続くと信じられていたとは考えにくい。だからこそ、ユーロ体制に参加するには財政赤字がGDPの3%以下、政府債務が60%以下でなければならないというマーストリヒト基準(経済収斂基準)を定めたわけだ。この基準の解釈はいろいろあるが、少なくともドイツの納税者たちは、モラルハザードを抱えた国が浪費をし、その挙げ句に中央政府に救ってもらおうとするのではないかと恐れていた。そして彼らが恐れた通り、マーストリヒト基準も、安定成長協定にある非救済条項も遵守されず、現在の危機が起こっているのだ。
――構造的欠陥を解消するには、どうすればいいのか。
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極端な方法がふたつあるが、いずれも採用されることはないだろう。
ひとつはユーロ体制を放棄することだが、これは起こらない。なぜならEU諸国のユーロに対するコミットメントは強い上、各国はユーロによって受けている恩恵の方が大きいからだ。
もうひとつは、財政共同体を組織することだ。EUにあるのは通貨共同体であって、アメリカにある州を超えて連邦レベルで財務を概観するような(大統領、議会、財務省による)構造がない。もちろん、どこかの国で問題が起これば、財政状態のいい国が金を都合するといったようなことをやっており、これは今後もっと巨額になるだろう。だが、ドイツの納税者たちが20年間訴えてきた懸念が現実のものとなった今、それを押さえ込んできた政治家たちの言い分に、彼らがこれ以上従うとは思えない。従って、この中間の策が必要だ。
1年半前ならば防げた深刻なPIIGS危機
何が命運を分けてしまったか
――中間策には、具体的にどんなものが考えられるのか。
最初にギリシャ危機が叫ばれた1年半前ならば、もっといい解決策があり得た。これは私だけの考えではないし、今から振り返ってそう言うのでもない。当時すでに述べていたのは、こうだ。
ギリシャ危機はユーロ体制にとって完璧なテストケースで、優れた前例が築ける、と。つまり、とんでもないルール違反をすれば、誰も救済してくれないということだ。ところが、ブリュッセルやフランクフルトの政治家たちは絨毯の下に問題を隠し続けて、先送りを続けたのだ。そうしたのは、政治的な保身というよりは、他国に問題が広がることを恐れていたためだろう。だがそのせいで、今や問題は何倍も大きくなって戻ってきた。金はかかるし、政治家への信頼は失墜した。
1年半前なら完璧なテストケースだったという理由は、ふたつある。ひとつは、政府はよく悪行を働くものだが、数字を曲げていたギリシャの前政権を陽の目にさらして罰することができたこと。もうひとつは、銀行や他国が保有するギリシャ国債の規模が限られており、金融システム全体に害が及ぶのを食い止められたからだ。まずはIMFへ助けを求めるよう働きかけただろう。
――今やスペインやイタリアなど、他のEU諸国の危機も懸念されているが、1年半前に対処していれば、これも防げたか。
次のページ>> ユーロ圏共通債は打開策になるか
多分そうだろう。当時ならば、イタリアもスペインもアイルランドも基礎的財政収支はそれほど悪化しておらず、いわゆる「防火壁」を築けたはずだ。今やこの三国における対GDPの債務率ははるかに高く、国債はECB(欧州中央銀行)やEFSF(欧州金融安定基金)などの機関による保有が多く、負担の大半を民間セクターが担うことはできない。しかも、市場は政治家たちをまったく信用しなくなっている。
私自身は、償却するしか方法はないと考える。民間セクターは7月、21%のヘアカット(債務元本の削減)で合意したが、今は50%でも不十分だと言われている。それがひとつの脱出策とすれば、もうひとつは、ヨーロッパ全体の金融危機へと拡大するのを阻止することだ。そしてヨーロッパ周縁国のソブリン危機につながるのを食い止める。もしポルトガルに広がったとしても、そこからスペインやイタリアに及ぶことを防ぐのだ。方策は何であれ、混乱したプロセスになることは避けられないだろう。
ユーロ圏共通債は打開策になるか
ブルーボンド、レッドボンド案の可能性
――ユーロ体制への長期的な改良策としては、何が考えられるか。
先に述べたように、デフォルトするならばIMFへ援助を求めることだ。また、財政共同体構築に対して政治的なサポートがあれば歓迎だが、それはないだろう。
一方、ブリュッセルのシンクタンクであるブリューゲル研究所が提案している「ブルーボンド、レッドボンド」案があり、これは私も評価している。EU共通債を求める声もあるが、これは財政共同体と同意なので、支持されないだろう。だが、同案は発行債券をマーストリヒト基準に添ったかたちで発行する共通債のブルーボンドと、それを上回る発行債券を各国債のレッドボンドとに分け、レッドボンドは各国の信用度に応じて市場で売られるようにするというものだ。そうすれば、市場はレッドボンドに対してプレミアムを要求するため、各国にとっては債務を削減するインセンティブとしても働くわけだ。しかし、安定成長協定を遵守させる、こうしたしくみが今まではなかった。
――ブルーボンド、レッドボンド案は現在、EU内では議論されているのか。
その存在は知られているし、政策研究者たちの間では議論されているが、EUの政治家や役人がそれに積極的になっているという話は、今のところ聞かない。
――ギリシャのような国がEUから脱退するということはあり得ないのか。
ギリシャ自身を含め、誰もが、そもそもギリシャがEUに参加したことが間違っていたと感じているだろう。もし、参加国が追放される、あるいは自主的に離脱することが許される合法的なしくみがあればそれが一番いいが、今はない。その代わり、基準に違反した国は投票権を剥奪されるという改良案は議論されている。そうなれば、ギリシャは投票権を失う資格十分だ。
だが、これはEUを発足させたマーストリヒト条約を大きく変えない限り不可能で、EU諸国が条約自体を改革することはあっても、この選択はしないだろう。それに、投票権を失うというリスクが財政赤字を削減する十分なインセンティブになるかどうかは、疑問だ。
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