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http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20111020/223346/?ST=print 時事深層
「ラストリゾート」なき世界へ 異変・世界経済(3) 中国も失速懸念
2011年10月26日 水曜日
武田 安恵,松村 伸二
世界経済の牽引役だった中国経済にも変調の兆しが広がり始めた。欧米景気の減速という外患に、不動産市況の悪化など内憂が畳みかける。インフレ警戒が根強い中、引き締め政策の見直しを迫られるという難局を迎えた。
世界景気を需要面で支える「経済のラストリゾート」と言われてきた中国の成長に失速懸念が広がってきた。
中国国家統計局が10月18日発表した7〜9月期のGDP(国内総生産)の伸びは前年同期比9.1%と、9四半期連続で9%を超えた。景況感を示すPMI(製造業購買担当者景気指数)も、9月は51.2と景気判断の分かれ目となる50の水準を依然上回っている。
一見、景気の腰折れリスクは少ないようにも見えるが、既に景気減速の兆しは至る所で散見されている。
水を差しているのは欧米の景気減速だ。中国税関総署が10月13日発表した9月の貿易統計で、前年同月に比べた輸出額の伸びは17.1%と、市場の事前予想20%を下回り、8月(24.5%)から急ブレーキがかかった。最大の輸出先である欧州連合(EU)が債務危機に見舞われたことで、中国の輸出拡大が今後一段と減速するのは目に見えている。輸出の先行指標とされる輸入も減速傾向が鮮明で、一部の加工貿易企業では倒産も起こり始めている。
外需依存の成長構造変わらず
中国のGDPに占める輸出の割合は約3割とリーマンショック前と比べて比率は下がってきているが、中国景気が外需に頼らざるを得ない構造はまだ変わらない。先進国の景気に振り回されるという点では、中国もほかの新興国と置かれている状況は同じだ。
一方、中国政府がリーマンショック以降、「外需に頼らない成長」をスローガンに掲げた内需拡大政策。それが2010年以降、景気過熱によって引き起こされたインフレ、そして不動産価格の下落で狂い始めている。
中国政府が2011年初に掲げた経済目標は3つ。食品のインフレ、不動産価格の高騰、銀行融資の3つを抑制することで、いずれも内需の急拡大にブレーキがかかる政策である。政府は預金準備率の引き上げや、金融機関の貸し出し基準金利の引き上げを通じて市場の過剰流動性を強く抑えてきた。
政府が引き締め策を続行するのはインフレ率が依然高水準だからだ。直近9月のCPI(消費者物価指数)は前年同月比で6.1%上昇した。7月の6.5%以降、上昇ペースは鈍化したと市場では安心感が広がったが、政府が今年の抑制目標に掲げる4%にはほど遠い。
高い物価上昇率は、個人消費にも悪影響を及ぼす。政府は9月から個人所得税の課税対象範囲を狭めるなどの措置を取るものの、家電購入支援策や自動車購入支援策など今まで目玉だった消費促進策は次々に縮小・廃止を決めている。2010年当時のような「需要の先取り」効果は期待できない。
こうした引き締め政策はここにきて国内景気に大きな影響を与えている。象徴的なのは不動産価格の下落だ。
中国には「金の9月、銀の10月」という言葉がある。9月には中秋節の休日があり、10月には国慶節(建国記念日)の連休があるため消費が活発になる。不動産の取引量もこの時期、年間を通じて最も多くなる。ところが国家統計局が毎月発表する全国70都市不動産指標は8月、不動産価格が前月比で下落傾向にある都市数が増加。反対に上昇傾向の都市数が急減している。最近では、「銅の9月、鉄の10月」と、希少価値の低い金属に置き換えた造語すら飛び交う。
中国政府は引き締めの効果が出てきたとしているが、「不動産価格の急速な下落が景気減速リスクになる」と話すのは野村証券金融経済研究所の郭穎エコノミストだ。
郭氏が懸念するのは、不動産価格の下落で地方政府の資金繰りが悪化し、公共投資の費用が捻出できないこと。中国の地方政府全体では、税収や中央政府の補助金含めて毎年10兆円ほどの収入があるが、そのうち約3割を「不動産の譲渡益」が占める。
これは地方政府が民間に土地の使用権を売却することで得られる収入だが、不動産価格が下落すれば収入は減り、地方財政を圧迫する。地方財政が不動産バブルに依存しているとも言える構造であり、地方政府主導で進めているインフラ拡充などの公共投資への資金繰りは難しくなるため、公共工事の着工数にも影響が出てくる。郭氏は「不動産価格のピークから2割以上下落すると危険水域」と話す。
不動産価格の下落は中小企業の経営にも影を落とす。不動産売買に頼る経営を続けてきた中小企業の資金繰りが悪化しているのだ。経営者は「地下金融」と呼ばれる高利貸しに融資先を求めるが金利水準がどんどん上がるためほとんど借りられない状況だという。
日本の二の舞いにならないために
さすがに、中国政府も足元の変調に肝を冷やし始めているようだ。中国国務院は10月12日、救済策を打ち出した。これは10月上旬に現地を視察した温家宝(ウェンチァバオ)首相の表明を受けたものだ。金融機関に対し中小企業向け融資の増加を容認するほか、中小企業の法人税減税を2015年まで延長するなどの措置を盛り込んだ。
金融緩和策も期待される。運用会社のファンネックス・アセット・マネジメントの肖敏捷社長は、所得格差の拡大や社会保障制度の整備の遅れなどが重荷になり、内需拡大が思うようにいっていないと分析。CPIの上昇率が依然として高水準なことで利下げに転じるのは難しいものの、「これまで切り上げてきた預金準備率の引き下げに転じる可能性はある」と指摘する。
しかしインフレ率は依然高水準なため、緩和は小幅にとどまる見通しだ。中国政府は銀行の不良債権をこれ以上増やさないためにも一定の融資規制は今後も続行したい意向だ。そこで銀行融資以外での資金調達、すなわち「債券市場や株式市場を通じた資金調達を支援したいのではないか」(郭氏)との見方が浮上する。10月10日、政府は政府系ファンドを通じて中国4大商業銀行株の買いに踏み出した。不動産市況の悪化を受けた金融システム不安の解消策は、事実上の株価の買い支えのサインと市場では受け止められた。
しかし、公的資金による株価の買い支えは、日本が1990年代以降、度重なるPKO(株価維持策)で株安に歯止めをかけようとしたのと同じ手法である。PKOは市場の株価形成をゆがめ、買い手を遠のかせ、結果として日本の株式市場が長期低迷をたどる遠因ともなった。
日本の失敗を知り尽くしているはずの中国政府が、そこまでに躍起にならざるを得ないのは、一般物価の上昇と資産価格の下落がともに中国人民の生活を脅かし、社会を不安定化させかねないからだ。
中国では2012年に政府・共産党の指導部交代という重要な政治イベントを控えている。10%台の成長ペースは実現できないとしても、緩やかな景気減速にとどめるつもりであった中国政府にとって、急激な景気失速は何としても避けたいところ。中国共産党の求心力と国内の治安維持のためにも、ここは「失敗できぬ局面」だ。
このコラムについて
時事深層
日経ビジネス “ここさえ読めば毎週のニュースの本質がわかる”―ニュース連動の解説記事。日経ビジネス編集部が、景気、業界再編の動きから最新マーケティング動向やヒット商品まで幅広くウォッチ。
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著者プロフィール
松村 伸二(まつむら・しんじ)
日経ビジネス記者。
武田 安恵(たけだ・やすえ)
日経ビジネス記者。大学院卒業後、2006年日経ホーム出版社(現日経BP社)入社。日経マネーに5年間在籍。資産運用や家計管理に関する記事を手がける。2011年4月より現職。マクロ・金融・政治グループ所属。趣味・特技は学生時代から続けている空手(松涛館流二段)で、自称「サラリーマン空手家」好きな言葉は「志は高く、目線は低く」
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