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米ロストジェネレーションの悲鳴を聴け―進む若者の貧困と草食化
肥田美佐子のNYリポート 一覧
「仕事がないことで最も多くのものを失うのは僕たちだ。だから、ここにいる!」
ある若者は、こんなプラカードを掲げてウォール街でのデモに繰り出した。バブル崩壊による米国版ロストジェネレーションの悲鳴である。
不況時に大学を卒業する若者が、中年になっても収入面での「後遺症」に悩まされるのは、日本の「失われた10年」を見ても明らかだ。失業期間が長引けば長引くほど就活が不利になるのはいうまでもないが、大卒後1年間仕事に就かなかっただけでも大きな影響が生じる、と警告する調査結果もある。英誌『エコノミスト』(9月10日号)によれば、学歴や大学時代の成績、知能指数、親の教育レベルなどが同じでも、23歳までに1年間失業すると、10年後、失業しなかった人より、男性では23%、女性では16%収入が低くなるという。
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Getty Images
デモに参加するニューヨーク市民(15日)
影響は個人にとどまらない。米国で1980年代前半の不況時に社会人になった世代は、長年にわたって、収入が伸び悩んだ。失業率が1%上昇するたびに、新卒レベルの賃金は6〜7%落ち込み、15年間働き続けても大きな影響が残る。景気が回復しても、企業は新卒を好むため、非正規雇用に甘んじる「置き去りにされた若者」(経済協力開発機構<OECD>)も多い。
国際労働機関(ILO)が10月19日に発表した「若者に関する世界の雇用傾向――2011年改定版」によると、世界全体の若年層の失業率は、今年、2010年の12.7%から0.1ポイント減の12.6%になるものとみられるが、若者の非正規雇用率は、07〜10年にかけて、ドイツ以外のすべての先進国でアップした。昨年の若年層失業率が9.2%だった日本では、非正規雇用率が、07年の25.5%から10年には29%へと、依然として上昇傾向にある。
だが、米国は日本の上をいく。若者の失業率は、07〜10年にかけて約8%はね上がり、昨年、18.4%を記録。非正規雇用率も、07年の34%から10年には38.1%へと右肩上がりだ。十代にいたっては、失業率が25%を突破した。全米ネットの公共放送網であるPBSの調査では、16〜29歳の米国人の雇用率が、2000年の67%から10年には55%へと大幅に低下していることが明らかになった。
日本ではすっかり定着した感のあるパラサイトシングルも急増中だ。今年3月の時点で、25〜34歳の米国人の14.2%に当たる約600万人が、親と同居していた。07年には470万人だったことを考えると、大不況以来、25.5%も増加したことになる。男性の同居組は、女性の約2倍だ。この年齢層の婚姻率(44%)も、過去最低を記録した。「自立大国」米国でも、男性の草食化が進んでいる。
同居組の貧困率は8%強にとどまっているが、自身の収入のみだと、貧困ラインを下回る人が45%を超える。独り立ちできないために親との同居を余儀なくされている若年層のいらだちが聞こえてきそうだ。ちなみに連邦政府が定める2011年の貧困ラインは、独身が年収1万890ドル(約84万円)、4人世帯で2万2350ドル(約172万円)だ。
地方からニューヨークに出てきた若者のなかには、小さな居間をカーテンで仕切ったり、カプセルホテル・サイズのロフトで寝泊りしたりすることで、家賃をシェアし、友人複数と共同生活を送る人も多い。先日、デモで「アメリカンドリームは(ウォール街の)強欲さに屈しない!」というスローガンを見かけたが、そうした共同生活を送る若者のアパートを訪れると、小さな部屋に楽器やコンピュータなどが所狭しと並んでいて、彼らの夢に賭ける熱い思いに圧倒される。
だが、一方で、そんな未来に最も近いはずの若者たちが、未来からどんどん遠ざかっているという皮肉な現実がある。
ILOは、前出の報告書で、現代の若者を「傷だらけ」の世代と呼び、次のように警告した。
「運悪く大不況のさなかに労働市場に参入した若者には、失業や潜在的失業、ストレス、何年にも及ぶ空白期間に加え、将来にわたる低賃金や政治、経済上の制度に対する不信といった長期的結果が生じかねない」――。
11年に若干の失業率低下が予想される背景には、仕事探しをあきらめて労働市場から脱落する若者が増えることも大いに関係している。大半の先進国では、1年以上失職している長期失業者の割合も、若年層のほうがはるかに多い。日本と違い、レイオフによる雇用調整が自由自在の米国でも、若者の失業率は、年長者層の約2倍だ。企業が若年層の正規雇用を手控えている点では、日米とも同じである。
団塊の世代が退職し、老後用の株や債券をいざ売りに出そうとしても、このままでは購買力を持った若い世代が育たず、経済が回らないと、経済専門のオンラインメディア『マーケット・ウォッチ』のコラムニストは警鐘を鳴らす(9月6日付)。
取材をしていると、米経済は「失われた10年」には陥らないと断言する市場関係者や米エコノミストにしばしば出くわす。だが、彼らがなんと言おうと、米国の「日本化」が進んでいることは確かだ。ウォール街のデモは起こるべくして起こった、といえるだろう。
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肥田美佐子 (ひだ・みさこ) フリージャーナリスト
肥田美佐子氏 Ran Suzuki
東京生まれ。『ニューズウィーク日本版』の編集などを経て、1997年渡米。ニューヨークの米系広告代理店やケーブルテレビネットワーク・制作会社などにエディター、シニアエディターとして勤務後、フリーに。2007年、国際労働機関国際研修所(ITC-ILO)の報道機関向け研修・コンペ(イタリア・トリノ)に参加。日本の過労死問題の英文報道記事で同機関第1回メディア賞を受賞。2008年6月、ジュネーブでの授賞式、およびILO年次総会に招聘される。2009年10月、ペンシルベニア大学ウォートン校(経営大学院)のビジネスジャーナリスト向け研修を修了。『週刊エコノミスト』 『週刊東洋経済』 『プレジデント』 『AERA』 『サンデー毎日』 『ニューズウィーク日本版』 『週刊ダイヤモンド』などに寄稿。日本語の著書(ルポ)や英文記事の執筆、経済関連書籍の翻訳も手がけるかたわら、日米での講演も行う。共訳書に『ワーキング・プア――アメリカの下層社会』『窒息するオフィス――仕事に強迫されるアメリカ人』など。マンハッタン在住。 http://www.misakohida.com
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