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ギリシャ“破綻”へ秒読み 異変・世界経済(1) 連鎖する欧州危機
• 2011年10月24日 月曜日
• ロンドン支局 大竹 剛
世界経済が再びリーマンショック以来とも言える危機の瀬戸際に直面している。欧州の財政危機は、新興国からの資金流出など新たなリスクにも波及し始めた。その影響はアジアにも広がり、日本企業の業績にも影を落としそうな雲行きだ。
「銀行ではなく国民を救え」――。
10月15日昼、英国ロンドン証券取引所近くで大規模なデモが始まった。ドイツでもフランクフルトにある欧州中央銀行(ECB)前に数千人が集ま り、イタリアのローマでは一部のデモ隊が暴徒化して車に火を放った。先月から米ニューヨークのウォール街で始まった、政府や銀行に格差是正を訴えるデモ は、この日、全世界に飛び火した。
市民の怒りの背景には、ギリシャ危機で再燃した金融システム不安がある。金融機関の「Too Big To Fail(大きすぎて潰せない)」という問題に対処するため、世界の主要20カ国・地域(G20)の首脳はリーマンショック後、新たな金融規制・監督の枠 組み作りで一致した。だが、わずか3年足らずで欧州は再び、公的資金の活用を含む銀行救済の必要性に迫られている。
政府と銀行の“ダブル危機”
世界中にデモが拡大したその日、パリではG20財務相・中央銀行総裁会議が開かれていた。議論の焦点は、政府債務問題と金融システム不安という、欧州が直面する“ダブル危機”だ。
会議開催の直前、欧州連合(EU)が7月21日に合意した欧州金融安定基金(EFSF)の拡充計画が、ようやく実現することが決まった。一度は計 画を否決したスロバキア議会が13日、最終的に承認したからだ。これで、EFSFの融資能力が2500億ユーロから4400億ユーロに拡大するほか、 EFSFが危機に直面するユーロ加盟国の国債購入などが可能になる。
だが、それだけでは、もはや欧州危機を封じ込めることができない。G20で議長を務めたフランソワ・バロワン仏財政相ら欧州勢は、新たに検討中の包括的な解決策を参加国に提示した。ギリシャ問題の解決、銀行の資本増強、EFSFの再拡充の3つである。
既に、ギリシャの債務は返済不能な水準にまで膨れ上がり、大幅な債務減免が不可避の状況にある。それは、ギリシャの事実上のデフォルト(債務不履 行)を意味し、債務減免は国家の破綻処理にほかならない。銀行など民間投資家が21%の債務減免に応じることは合意済みだが、その割合を50%程度に引き 上げようとしている。
債務減免が実施されれば、ギリシャ国債や同国の銀行の債権を保有する欧州銀行は、大きな損失を被ることになる。欧州当局が銀行に資本増強を求めようとしているのは、この連鎖的なショックに備えるためだ。
野村資本市場研究所・ロンドン事務所長の井上武氏は、「ここ数カ月、欧州銀行の株価が大きく下落してきたのは、投資家が最悪の事態まで想定し始め たからだ」と話す。井上氏は、国債などの政府向けの債権と金融機関向けの債権を時価評価し、ギリシャで50%、ポルトガルで40%、アイルランドで20% の損失が出ると仮定して、欧州銀行に与える影響度を試算した。
債務減免で銀行に巨額損失
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銀行が被る損失額の推計を、中核的自己資本(コアティア1)との比率で見ると、震源地ギリシャの銀行は損失率が100%を上回り、破綻の危機に直面する。ポルトガルやアイルランドの銀行も、かなりの自己資本が吹き飛ぶ。
また、ベルギーやドイツ、フランスの銀行は、損失率がそれぞれ13%、8%、5%で影響は軽微に見える。だが、忘れてならないのが、流動性の問題 だ。実際、ベルギー・フランス系の大手銀デクシアが破綻に追い込まれたのは、ギリシャ国債の保有額の多さから信用不安が高まり、市場からの資金調達が困難 になったからだ。
さらに、既にEUなどへ救済を仰いでいるギリシャ、アイルランド、ポルトガルに加え、イタリアとスペイン、さらにデクシア破綻で揺れるベルギーにも債務危機が波及した場合には、欧州銀行の損失率はさらに膨らむ。
7月に実施した銀行のストレステストでは、資産に対するコアティア1比率の合否ラインは5%だった。しかし、欧州当局は、同比率を9%程度まで高める資本増強を銀行に求める方向で検討している。銀行が自力で増資できない場合は、公的資金やEFSFを活用する段取りだ。
だが、銀行の資本増強に公的資金が活用されることになれば、欧州各国の財政はさらに悪化する。GDP(国内総生産)比の財政赤字が3%以下、政府 債務が60%以下という、EU加盟国が順守すべき財政規律の枠内に収まっているのは、フィンランドなど一部の国だけ。フランス政府が公的資金注入に慎重な のは、トリプルAを維持している仏国債が、財政の悪化で格下げされることを懸念してのことだ。事実、アイルランドで債務危機の引き金になったのは巨額の公 的資金注入だった。
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世界経済の浮沈は欧州次第
欧州当局がギリシャ危機への対応を誤れば、債務危機がイタリアとスペインに波及する最悪の事態が現実味を帯びる。この夏、両国の国債の金利が急上 昇した際は、ECBが国債購入に踏み切り事なきを得た。だが、金利上昇により両国が市場からの資金調達に行き詰まれば、救済基金であるEFSFの規模は現 在の4400億ユーロでは到底足りず、2兆〜4兆ユーロに拡大する必要があると言われる。4400億ユーロの基金を裏づけに国債の損失保証をするといっ た、EFSFの再強化が検討されているのはそのためだ。
G20の共同声明には、「10月23日のEU首脳会議の結果に期待する」と盛り込まれ、ギリシャ問題や銀行の増資、EFSFの再強化など、欧州が 断固たる解決策を打ち出すことを促した。11月3日からは、仏カンヌでG20首脳会議も開かれる。ギリシャに対する80億ユーロの第6次融資が実施される 11月中旬までに、欧州当局は同国の破綻処理に踏み切ると見る向きもある。
ティモシー・ガイトナー米財務長官は、欧州の取り組みを評価しつつ、「まだ戦略と詳細の詰めでやるべきことが残っている」とクギを刺した。ギリ シャ危機の深刻化を機に、投資家はリスク回避の傾向を強め、世界経済の牽引役だった新興国からの資金流出も加速している。G20会議では、「欧州危機が新 興国の経済を失速させかねない」と懸念する声も相次いだ。欧州がギリシャ危機を封じ込め、世界経済を救えるかどうか。今後数週間、緊迫した状況が続く。
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大竹 剛(おおたけ つよし)
1998年、デジタルカメラやDVDなどの黎明期に月刊誌「日経マルチメディア」の記者となる。同誌はインターネット・ブームを追い風に「日経ネットビジ ネス」へと雑誌名を変更し、ネット関連企業の取材に重点をシフトするも、ITバブル崩壊であえなく“休刊”。その後は「日経ビジネス」の記者として、主に 家電業界を担当しながら企業経営を中心に取材。2008年9月から、ロンドン支局特派員として欧州・アフリカ・中東・ロシアを活動範囲に業種・業界を問わ ず取材中。日経ビジネスオンラインでコラム「ロンドン万華鏡」を執筆している。
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