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“分裂国家”の様相を呈してきたアメリカの“階級闘争”(前編)
「茶会」と「ウォール街抗議デモ」を生む背景
高濱 賛
2011年10月19日(水)
経済不況、増大する失業者と貧困者、貧富格差の拡大、機能しない政治、広がる閉塞感――「超大国・アメリカ」の現在の状況は1930年代の大恐慌時代を思わせる。3年前に「Yes we can」(我々はできるのだ)の掛け声とともに史上初の黒人大統領を選んだ時にアメリカを覆った熱気がウソのようだ。
こうした状況下で、今、お互いに全く相容れない二つの階層から、「草の根」と自称するマグマが噴出し、得体の知れないうねりとなって全米に広がっている。
二つの異なる階層から噴出したマグマ
一つは草の根保守「ティーパーティ(茶会)運動」である。中西部シカゴの白人中産階級から2年半前に噴き出た。
運動の主体は、地方都市の自営業者と非労組組合員の白人労働者たちだった。彼らは毎日曜日に教会に行く。聖書の一字一句を信ずる福音主義プロテスタント教徒。平均的な学歴は高卒。手に職を持ち、「働かざる者食うべからず」が信条。分相応の税金を納めることに異論はない。だが、オバマ政権が打ち出した健康保険制度改革や弱者優先のバラマキ財政にはついていけなかった。(CNN/ORC Poll, 9/15/2011)
「茶会」運動の原点は、自分たちが払った税金が、働かない黒人やラティーノ、さらにはメキシコあたりからやってくる不法移民のための福祉や教育に向けられていることに対する反発だったと言える。その身近な憤りが、「小さな連邦政府・州政府の権限拡大」とか「合衆国憲法への回帰」を要求する抽象的なスローガンにすり代わってきた。
彼らは集会やデモの場で、黄色地にガラガラ蛇を描いた「ガズデン旗」をことさらになびかせたり、「我こそは真のアメリカ国民なり」と誇示したりする。「ガズデン旗」はアメリカ海兵隊の旗。米独立戦争時の軍人・政治家であるクリストファー・ガズデン准将がデザインしたものだ。多様化する米社会にあって自分たちの正当性を主張しようとする気持ちの表れなのだろう。
彼らは大企業を優先する共和党本流の考え方を鵜呑みにしている。本来なら、経営破たんした大企業を連邦政府が救済することに真っ向から反対してもよさそうなものだ。だが、それで大企業の生産が向上し、雇用を創出するならば、目くじらを立てる必要はあるまいというロジックで考える。富裕層や大企業に対する税制上の優遇措置に対しても黙認の構えだ。
「金持ちは、自分たちとは住む世界が違うが、同じ保守主義者」(シカゴ在住の「茶会」支持者の一人、マーク・ブルックさん)といった感覚なのだ。
ニューヨーク・タイムズ・CBSニューズが実施した「茶会」支持者を対象にした聞き取り調査の結果を丹念に見ていくと、彼らが、いわゆる「Social Conservative」であることが浮き彫りになってくる。つまり、社会生活を営む上でこれまでの伝統・慣習を守ろうとする筋金入りの保守主義者たちなのである。(“National Survey of Tea Party Supporters,”The New York Times/CBS News POLL, 4/5-12/2010)
キリスト教に基づく自分たちの「古きよきアメリカン・バリュー」を破壊しようとするものは絶対に許せないのだ。それは雲霞のごとく押し寄せて繰る不法移民。市役所に大手を振って「結婚届」を出しに行くホモやレスビアン。有色人種によって乱される公共秩序や性道徳、治安の悪化。(“The President, the Tea Party, and Voting Behavior in 2010: Insights from Cooperative Congressional Election Study,”Gary C. Jacobson,University of California, San Diego, 2011)
その延長線上で言えば、バラク・オバマという、白人とアフリカ人留学生との間に生まれた黒人の混血児が第44代大統領になってしまったことは、彼らにとって許しがたい出来事だった。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20111017/223247/
聞き取り調査によると、なんと、「茶会」支持者の88%が「オバマは大統領として失格」と烙印を押した。なぜ「オバマが嫌いか」という問に19%が「とにかく嫌いだ」と答えている。そのほか健康保険制度改革や「オバマは社会主義者だから」という理由を挙げている回答者がそれぞれ10%、11%だった。
「茶会」の全国組織の一つ、「Tea Party Express」(ティーパーティ・エクスプレス)の初代代表、マーク・ウィリアムズ氏などは「オバマ暗殺」すら辞さぬ発言をしてはばからない(発言の後、同組織の最高幹部を辞任している)。「オバマはナチス、反白人の人種主義者、反黒人の人種主義者、生活保護の詐欺を行なったインドネシア人イスラム教徒だ。今こそ、立ち上がる時だ。共和党員だけではなく、アメリカ国民全員が再結集して、クーデター(*オバマを暗殺するという意味で使っている)を起こす時が来た。そうだ。クーデターだ」(“Mark Williams. Taking Back America, One Tea Party at a Time,”by Mark Williams, Mark Talk com. & Mark Williams, 7/9/2010)
現職大統領の暗殺を公然と示唆する非営利団体など過去にあっただろうか。
命名から数えて、2年半。「茶会」は変貌してきている。「茶会というテント」には、宗教色の強い支持者や政治的思惑を持つ団体・組織などが入り多様化した。だが、根底にある共通項、「オバマ嫌い」は根強く存在している。
2012年の大統領選挙に向けて、「茶会」が共和党の「別働隊」としてオバマ再選阻止の原動力になるとする説がある。その根拠は、まさにこの「オバマ嫌い」にあるようだ。
反資本主義者に扇動された失業中の若者たち
得体の知れないうねりを起こしたもう一つのマグマは、ニューヨークのウォール・ストリートで9月中旬に発生した「職なき若者たち」の反企業運動だ。アメリカ資本主義の本拠地とも言うべき場所で起きたデモは「Occupy Wall Street」(「ウォール街を占拠せよ」=ウォール街抗議デモ)と命名された。
このデモを「『茶会』のミラー・イメージ(鏡映像))」(“Occupy Wall Street's message,”Los Angeles Times, 10/4/2011)と見るメディアもある。つまり、政治思想や主張は正反対だが、現実に対する不満をぶちまけている点では鏡に映し出された同じ映像だというのだ。
カナダに住む筋金入りの反資本主義者、カリ・ラースン氏(69歳)が7月、短文投稿サイトのTwitterで“煽動”したのがきっかけだった。「経済がここまで悪くなっているのに人口比1%の金持ちが富を独占している。許せないのはウォール街を牛耳っている大企業と大銀行だ」。
2カ月後、この呼びかけに賛同した若者たちがウォール街近くのズコッティ公園に集結。そこにテントや寝袋を運び込んで野営体制を敷いた。持参したパソコンを使うためのメディア・センターまでできている。ここを拠点に、連日のように集会やデモを繰り返している。主要労組の中に、この運動を支援する組織も出てきた。ニューヨーク市当局は違法行為をしない限り、大目に見る構えを見せている。
集まった若者たちの属性は、大学を出たけれど仕事口が見つからない学士や修士、突然解雇された新人社員、不況で倒産を余儀なくされた起業家など様々だ。全体をまとめる司令塔もなければ、指導者もいない。参加者が自ら日程づくり、食糧調達、寄付集め、広報など担当を決めているという。
1930年代の失業者デモとの大きな違いは、インターネットを通じて、米国内はおろか、世界中に自分たちの主張や活動状況を即座に発信できる点だ。初日以後、運動が、ボストンやシカゴ、ロサンゼルス、サンフランシスコなど全米各地に飛び火したのもインターネットのなせる業だった。
キャッチフレーズがものをいうサイバースペース時代だ。3年前のオバマの「Yes we can」が政治の変革を誘発したのと同じように「We are 99%」(我こそはアメリカ全体の99%だ)というフレーズが世界中を駆け巡っている。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20111017/223247/?P=2
これをリベラル派若年層による運動と断定してよいのか論議の分かれるところだが、リベラル派の学者のなかには、早くも「左翼の大衆運動としては1930年代の大恐慌以来初めて」(ドリアン・ウォーレン・コロンビア大学准教授)と断定する識者もいる。(“Occupy Wall Street Emerges as 'First Populist Movement' onthe Left Since the 1930s,”www.democracynow.com, 10/10/2011)
「失業者1400万人」「貧困者4620万人」が示す厳しい現実
二つのマグマが噴出したアメリカの社会経済的背景は、アメリカに独特のものではない。欧州諸国にしろ日本にしろ、国民の間には不安感と閉塞感が充満している。欧州では、高齢化が進む中で政府債務が膨れ上がり、財政不安が高まっている。日本の財政赤字は、アメリカが抱える額(14兆ドル)の半分ではあるが、7兆ドルという膨大な額に達する。職を求める若者たちの抗議デモは、ロンドンでもギリシャでも起こり、暴徒化している。
貧富の格差は年々広がるばかりだ。米商務省統計局が9月13日に発表した国勢調査の結果によると、貧困者――家族4人で年収2万2314ドル(約171万円)以下、単身で1万1139ドル(約85万円)以下――の数は4620万人となった。なんと全人口の15.1%、100人当たり15人が「貧乏人」なのだ。これは過去28年間で最悪の事態だ。中間層の世帯収入も過去30年間、ほとんど変化していない。そうした中で人口の1%足らずにすぎない富裕層の年収だけが42%増えている。
アメリカは元々、弱肉強食社会だ。市場主義経済の枠組みの中で努力し、フェアに働けば、いくら儲けても誰も文句は言わない。稼いだカネで豪邸を何軒持とうが、自家用飛行機で世界中を飛び回ろうが、その人の勝手だ。
ただ巨万の富を得たものは、その一部を慈善事業なり、福祉事業なり、公共福祉のために寄付・寄進するのが当然の義務といった社会通念が存在する。得たカネの10分の1を幕屋・神殿に捧げるという旧約聖書(レビ記など)の律法を原点にしているようである。
自らが設立した財団や慈善事業に収入の多くを寄進してきた億万長者のロックフェラー家やウォーレン・バフェット氏が、誰からも妬まれたり、憎まれたりしないのはそのためである。大金持ちにとって寄付は、批判をかわし身の危険を避ける安全弁である。
ラースン氏の「富裕層打倒」の呼びかけに職を失った若者たちが飛びついたのは、リーマン・ブラザーズなど一部投資銀行経営者たちの露骨なカネ儲けが目に余ったからだ。
不良債権を抱え込んでにっちもさっちもいかなくなったこれらの投資銀行は、連邦政府からの融資をてこにして立ち直った。であるにもかかわらず、再び巨額の営業利益が出始めると、幹部たちはそれに見合う報酬を得るようになった。「われわれの血税で支援してやったのに、経営状態がよくなったら、自分たちだけが臆面もなく法外な報酬を得ている」(ウォール街に集まった失業中の大卒の一人)。
「不況倒産で首になったものにすればけしからん話だ」となる。
冷静に考えれば、彼らが失業していることと、大企業の経営者が高額報酬を得ていることとに直接の関係はない。それに、失業している者の大半は失業保険を得ているだろう。課税の対象にならないので、大銀行を救済した血税を彼らは払っていないのである。
「『We are 99%』という訴えには共鳴できる部分もかなりあるだろう。だが、感情的にはパワフルでも論理の飛躍がある」(N・エリアソフ南カリフォルニア大学教授)と言われても仕方のない面がある。
しかしながら貧富の格差がここまで拡大し、失業者が増大してくると、「全人口の1%に満たない富裕層が、残り99%の国民を支配している」といった主張に説得力が出てくる。あたかも「富裕層は強欲な悪者」のように見えてくる。
富裕層の悪者イメージを補強するかのような数字が次々に発表されている。
まず悪化する失業状況だ。2007年には3%だった失業率は、2010年6月には9.2%に。9.7%にまで上昇した後、2011年に入って9.4%前後で高位安定している(“Labor Force Statistics from the CurrentPopulation Survey,”Bureau of Labor Statistics, U.S. Departmentof Labor, 9/2/2011)。
失業者は1400万人。大恐慌以来の最悪の事態が続いている。
ギャラップ社が10月10日に発表した雇用状況に関する世論調査によると、大卒で仕事に就いている者は73%、高卒では58%。つまり大卒10人につき3人は失業者、高卒にいたっては10人につき4人近くが失業していることになる。
年齢別に見ると、18歳から29歳で仕事に就いているものは57%。30歳から49歳の働き盛りですら72%。50歳から64歳では67%となっている。性別に見ると男性は68%、女性は60%と男女格差は歴然。仕事を得ている女性の14%はパートで働いている。(“Seven in 10 College Grads Are Employed Full Time for Employer,”www.gallup.com, 10/10/2011)
全米平均(9%台)の2倍強の失業率(16%台)に喘いでいる黒人の苛立ちはさらに強い。「黒人が大統領になっても何も変わっていない。むしろ黒人の置かれた状況は悪化している」(カリフォルニア大バークリー校の黒人学生の一人)。黒人人口が集中している大都市の低所得者居住地で、今後何が起こるかは予断は許さない。
(次回に続く)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20111017/223247/?P=3
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