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山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
年金支給開始年齢の引き上げに経営者はどう対抗すべきか やっぱり嘘だった「年金は百年安心」
先週木曜日、10月13日の『日本経済新聞』(朝刊、5面)に、厚労省による(より正確には社会保障審議会だが、審議会は官庁の「傀儡」だ)年金支給開始年齢引き上げ検討が始まったことを解説する記事が載った。
記事のタイトルは「年金・雇用 遠い一体改革」で、支給開始を68歳まで引き上げる案や、現在予定されている65歳までの引き上げのペースを速める案などが検討されていること、厚労省としては、年金支給開始まで企業が希望する従業員を雇い続けることを義務づけることを検討していることなどが、説明されていた。
年金の支給開始年齢は、年金加入者の老後生活設計にとって決定的に重要なファクターだ。支給開始年齢の変更が簡単になされるようでは、将来に対して「安心」など出来るはずがない。この点だけをもってしても、2004年の制度改革で厚労省が言った「百年安心」は嘘だった。
一方、嘘への怒りを脇に置くと、現行制度の延長線上では、遠からぬ将来、年金積立金が枯渇する可能性は小さく無いように見える。年金官僚の責任はともかく、何らかの手を打つことは必要だ。
筆者が以上のような事を考えていたら、ひときわ声の大きな電話が掛かってきた。声の主は、ある上場企業の社長をやっている筆者の旧知の友人だ。
某上場企業経営者からの電話
以下、少々乱暴だが、その経営者(以下「社長」)と筆者(山崎)の電話のやりとりを再現する。
社長 「おお、ヤマザキ、久しぶり!忙しいところ、申し訳ないけど、ちょっと教えて欲しいことがある。そもそも、公的年金は、一体どうなっているのだ。今日の日経にも、支給開始年齢の引き上げの話が出ているだろう。
いろいろややこしくて、よく分からない。簡単に整理してくれないか」
次のページ>> 定年延長や高齢者の雇用継続で若年層に更なるしわ寄せ?
山崎 「やあ、お久しぶり! 元気そうで何よりだ。
年金はいつもややこしい問題なのだが、今回については、要は2004年の制度改正がタコだった、ということだ。この時、厚労省は『百年安心』などと大見得を切ったのだが、肝心の給付を切り下げる仕組みが機能しなかった。
これは『マクロスライド方式』といって、年金給付の物価連動を毎年0.9%ちょろまかす仕組みだったのだが、制度改正以来、日本はずっとデフレで、一度も機能したことがない。加えて、積立金の運用も上手く行っていないから、近い将来積立金が底をつくことが現実的に見えてきたということだ。
制度改正の失敗を認めたくないはずの厚労省が、今動いているということは、実際にかなりヤバイと連中も思い始めているということだろうね」
社長 「しかし、この日本の年金は、一体どうしたらいいのだ。ヤマザキは、どう思っているの?」
山崎 「難しい問題なので、直ぐに答えるのは些か大変なのだが、理想論、ということで言うと、年金と生活保護と雇用保険といった、現金による富の移転を含む社会保障は、ミルトン・フリードマンの言っていた『負の所得税』、あるいはベーシック・インカムのようなものに一本化してしまうのが最もフェアで効率的だと思う」
社長 「ベーシック・インカムか。お前のブログで読んだことがあるな」
山崎 「ただし、制度としては理想的だと思うのだが、ベーシック・インカムは、官僚の裁量が絡む余地がないから、官僚にとって旨味がないし、むしろ利権を奪う。
現在、官僚が動かしているこの日本にあって、実現する可能性はほぼゼロだろう」
社長 「ところで、あの厚労省のことだから、支給開始年齢の引き上げに合わせて、支給開始の年齢まで希望する従業員は雇用することを義務づける、などと言い出しかねない。
これをやられると、うちの会社のようなところは、若い社員は『この上また高齢者ばかりを優遇するのか』と言い出して、モチベーションが、ガタ落ちになってしまうだろう。
俺のところは、どうしたらいいのかね?」
次のページ>> 企業側の究極の対策とは?
山崎 「そうだね。実現しない理想論ばかりを考えても、仕方がない。現実に起こりそうなことを前提にして、対応策を考えておくことは大切だ。
良し悪しは別として起こりそうなことを言うなら、所詮、民主党も自民党も自分たちの力で年金制度を根本的に変える力などありそうにない。現行の制度をぐずぐずと変更しながら使い続ける公算が大きい。支給開始年齢の引き上げは、外国もやっているので、日本でも遠からず実現する、と考えておく方がいいだろう」
企業側、究極の対策は?
山崎 「思うに、制度が変わるまで無策で待つのは得策ではない。この問題は特に、会社にとって悪い方への変化を織り込んで、先手を打って対策するほうがいい。
俺のお勧めは、ズバリ言うと、定年制を、先手を打って廃止してしまうことだ。もともと定年制というものは、年齢による『差別』だ。アメリカでは、採用面接で年齢を訊いてはいけないことは、あなたもよくご存じだろう。
『うちは年齢による差別をしない。70歳でも、75歳でも、能力とやる気のある人には、働き続けて貰うような制度にする』と高らかに宣言して、定年制を止めてしまえ。
何らかの資格試験や人事評価によって、雇い続けたり、雇うのを止めたりする制度を先手を打って作るのだ。クビにするのが難しいなら、可哀相だけれども、給料をうんと落とすとか、キツい仕事に配属するとかの処置がいる。少し厳しめの制度を作って、辞める人が増えたら、必要な人を外から中途で雇えばいい。
グローバルな競争を考えたら、低評価な1割くらいの人員は常に入れ替えの対象にするような仕組みがないと、会社が勝ち抜いていくことは難しい。いずれは必要な仕組みだと思わないか?
それに、一人一人をよく見て処遇を変えるのだから、どんぶり勘定の給与テーブルで人を大雑把に評価するよりも、この方が丁寧な人事管理だ」
社長 「なるほどねえ・・・」
山崎 「評価の仕組みの作り方は、もちろん簡単ではない。けれども、それは、何れにしても経営にとって必要な苦労だ。もちろん、競争の強化だから、お前は、多くの従業員に嫌われることになるだろう。でも、必要なことは間違いない。社長さんは、大変だねえ。
まあ、頑張ってくれ!」
次のページ>> 日本にとって大きな不幸の原因とは?
補足説明
日本の会社の場合、「定年」は、この存在によって高齢で相対的に高給な従業員を整理することが出来る一種の安全弁になっているのが現実だろう。しかし、「定年」の一律の適用は、組織の中に軋轢を生みにくい代わりに、実はまだまだ働ける優秀な社員の退職や、そうでない社員の定年前の弛緩を生むことで、企業に相当の損失をもたらしている。
銀行のような、人を外に出す場所が豊富な企業では、50歳前後から子会社や取引先に選から洩れた社員を放出し、収入も下げる、裁量的段階定年制を実現している会社もある(それでも、過去の収入の良さ、将来の年金がいいことなどで、社員は『相対的には他業態よりましだ』と納得して、都落ちを受け入れる)。しかし、わが友人の会社も含めて多くの会社では、社内に人を抱えておかなければならないのが現実だ。定年延長の影響は大きい。
社員を選別する基準の作り方は、もちろん難しい。会社の利益への社員個人の貢献を直接評価できると理想的だが、無理な場合、これと相関性の高い指標ないしは、代理変数を上手に見つける必要がある。
たとえば、英語の出来具合を選別基準にすると、一時的には、相当数の中高年社員を入れ替え可能にする効果を生むかも知れない。ただし、個人の会社への利益貢献と英語力との間に強い相関がないと、長い間には、「英語屋」ばかりが残って、人事的な歪みをもたらしかねない。
基本的には、何らかの組織単位のマネージャーに利益目標を持たせ、そのマネージャーに部下の雇用継続にも影響する人事評価をやらせて、一定の人事権を持たせるのが、そこそこに合理的で現実的だろう。ただし、日本の会社の過去の運営と、雇用に関する制度との関係を考えると、ここまで一気に持っていくのは大変かも知れない。
もちろん、何れの制度を採るにしても、高齢者も含めて、どの年齢層の社員もその能力を最大限に活用するために、会社が社員の能力への投資をすることを含めて最善の努力を行うことは必要な前提条件だ。
しかし、筆者が、友人である社長に電話で言ったように、グローバルな競争の中で生き残っていくためには、競争と選別のある人事制度の実現が「普通の会社」にも必要だ。
ここに至って、たとえば、年金問題に関わる官僚の人事にあって、こうした評価が全く機能していないことが、日本にとって大きな不幸の原因であることが分かって来る。
世論調査
質問1 年金支給開始年齢の引き上げに賛成?反対?
77.3%
反対
13.6%
どちらともいえない
9.1%
賛成
質問2 定年制廃止に賛成?反対?
54.5%
賛成
40.9%
反対
4.5%
どちらともいえない
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