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http://diamond.jp/articles/-/14481
景気循環と制度で考える日本の財政政策
英国の「黄金律」、財政学者「マスグレイブ」、日本の「財政法第4条」
――森田京平・バークレイズ・キャピタル証券 ディレクター/チーフエコノミスト
実体経済(1)
「大きなV」は終了、2012年1〜3月期
に向けて「小さなV」へ
日本経済は3月の大震災以降、想定以上のスピードで回復してきた。主たる原動力として、民間企業によるサプライチェーンの復旧(=設備投資)と在庫復元(=在庫投資)が挙げられる。
その結果、震災後から7〜9月期にかけての景気はきれいな「大きなV」を描いた。実質GDP成長率(前期比年率)で見ると、日本経済は2011年1〜3月期-3.7%、4〜6月期-2.1%と大きく落ち込んだ後、7〜9月期は+4.6%(当社予想:11月14日内閣府より公表)と大きく反発したと見込まれる。
しかし、そうした「大きなV」の局面は9月までには終わったようだ。これから1〜3月期にかけて日本経済は「小さなV」に向かうであろう。民間主導の復旧が一巡する一方、政府主導の復旧・復興には時期尚早であるため、景気はいったん、復旧需要の「空白期」に入る。これが「小さなV」を形成する。
実質GDP成長率で見た場合、7〜9月期+4.6%となった後、10〜12月期+1.6%、2012年1〜3月期+2.3%(いずれも当社予想)と窪みを描くこととなろう。
実体経済(2)
2012年4〜6月期以降、
日本固有の「再加速」へ
ただし、この「小さなV」は景気後退に向けた序曲にはならない。むしろ、2012年4〜6月期以降、景気は「再加速」に移ろう。しかも、この「再加速」は相当程度、日本固有のサイクルとなりそうだ。主因は、財政政策のサイクルが日本と他国で異なることにある。復旧・復興対策がその背景にあることは、言うまでもない。
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●第1次補正予算の概要(総規模4兆153億円)
日本では、震災後2つの補正予算が組まれ、足もとでは第3次補正予算も議論されている。総規模4兆153億円(GDP比0.8%)の第1次補正予算(5月2日成立)の概要は、
▼公共投資……約2.1兆円(仮設住宅建設、道路・港湾などの公共事業関係費など)
▼政府消費支出……約1.2兆円(災害廃棄物処理、自衛隊・消防・警察などの活動経費など)
となっている(図表1参照)。このうち、政府消費支出の一部とがれき処理などを除くと、実需としての具体化はかなり遅れている。つまり、第1次補正予算の景気サポート力はむしろこれから出てくる。
●第2次補正予算の概要(総規模1兆9988億円)
総規模1兆9988億円(GDP比0.4%)の第2次補正予算(7月25日成立)は、地方交付税交付金(5455億円)、被災者生活再建支援金(3000億円)、原子力損害賠償法関係経費(2474億円)、二重ローン問題対策(774億円)など、ファイナンスを主たる内容としている(図表2参照)。
そのため、景気押し上げ効果は小さい。唯一、東日本大震災復旧・復興予備費(8000億円)が計上されているが、こちらも各種指標を見る限り、具体化はこれからだ。
次のページ>> 財政政策の効果は「総」か「純」。注意を要する復興税
●第3次補正予算の概要(総規模12兆円程度)
復旧・復興に向けた大型予算と位置づけられるのが、第3次補正予算。政府・民主党は9月27日、同予算の総事業規模を12兆円程度(GDP比2.5%)とする方針を決めた。同予算の政府案は、10月中下旬に召集予定の臨時国会に提出され、11月中の成立が見込まれている。
第3次補正予算の主な歳出項目は、被災地のインフラ復旧や雇用創出などの復興対策事業費6.1兆円、地方交付税の加算1.6兆円、災害関連融資関係費0.6兆円、学校耐震化など全国の防災対策費0.5兆円、除染費用0.2兆円、1次補正で取り崩した公的年金財源の補填2.5兆円など。
公共投資や政府消費として具体的にGDPを押し上げる効果として、乗数効果を踏まえると、最大6〜7兆円(GDP比1.3〜1.5%)が期待される。ただし、そうした効果のほとんどは2012年度に持ち越されよう。
ここに、第1次・第2次補正予算の残存効果を加えると、2012年度のGDPは復旧・復興によって最大8〜9兆円(GDP比1.7〜1.9%)押し上げられそうだ。これが2012年4〜6月期以降の景気に、日本固有の再加速サイクルを加えることになる。
財政政策の効果は「総」or「純」
一方、景気サイクル上、注意を要するのが復興増税。上記の8〜9兆円というGDP押し上げ効果はいわば「総」効果であって、増税の影響を差し引いた「純」効果ではない。
政府の「復興基本方針」は、「次の世代に負担を先送りすることなく、今を生きる世代全体で連帯し負担を分かち合うことを基本とする」としている。そのため、第3次補正予算案の国会提出に当たっては、復興債発行法案や復興増税法案など財源を明確化するための法案が同時に提出されなくてはならない。
政府が「集中復興期間」とする今後5年間の復旧・復興財源は、少なくとも19兆円とされる。このうち6兆円が前述した第1次、第2次補正予算ですでに計上されている。残りの13兆円が第3次補正予算以降の予算で計上される。
次のページ>> 復興以外の目的でも、新規財源を探さなくてはならない現実
16.2兆円に上る新規必要財源額
しかも我々は、復旧・復興以外の目的でも新規財源を探さなくてはならない。すなわち、第1次補正予算の財源に充当した基礎年金の国庫負担分の補填 (2.5兆円)、B型肝炎の被害者救済資金(0.7兆円)だ。復興財源と合わせると16.2兆円(=13+2.5+0.7)もの新規財源が必要となる(図 表3参照)。
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●増税の内訳
政府・民主党はこの16.2兆円の配分について、「増税11.2兆円、税外収入5兆円」(政府側の見方)とするか、「増税9.2兆円、税外収入7 兆円」(民主党政調会の見方)で揺れているが、基本方針は前者に落ち着きそうだ。そうした中、増税と税外収入の具体的な姿が浮かび上がりつつある(図表4 参照)。
政府・民主党によると、増税は
▼所得税……増税期間は2013年1月から10年間。4%の定率増税(税額の一定割合の増額)
▼個人住民税……増税期間は2014年6月から5年間。均等割分を1人当たり年500円増額
次のページ>> 復興財源をいじっても、財政再建に与える効果は小さい?
▼法人税……増税期間は2012年4月から3年間。実効税率(40.69%)の5%ポイント引き下げを2012年4月から実施した上で、その後3年間に限り減税幅の範囲内で税率を引き上げて減税を事実上凍結
▼たばこ税……増税期間は2012年10月から10年間(地方税分は5年間)。1本当たり国・地方合わせて2円増税。
という姿になりそうだ。
●税外収入の内訳
一方、税外収入としては、「5兆円」を目指す場合、子ども手当て見直し(2.1兆円)、財投特会の剰余金(0.8兆円)、公務員人件費見直し (0.6兆円)、高速道路無料化の中止(0.5兆円)、JT株の一部売却(0.5兆円)、東京メトロ株売却(0.1兆円)、エネルギー特会見直し(0.1 兆円)などが中心となる。
民主党政調会が掲げる「7兆円」の場合、これらに加えて、JT株の全株売却(1兆円)、エネルギー特会保有株売却(0.7兆円)、財投特会の剰余金追加使用(0.3兆円)などが加算される。
以上からざっくりと計算すると、2012年度に限った増税額は0.2兆円程度(法人税減税の事実上の凍結は増税額ゼロとして計算)と、かなり小さ くなりそうだ。したがって、増税効果を差し引いた2012年度GDPの押し上げ効果は7.8〜8.8兆円(GDP比1.6〜1.8%)と、先の「総」効果 とほぼ等しい。
増税か債券発行か?
それにしても、素朴な疑問を禁じえない。前述したように、今後5年間の「集中復興期間」における復旧・復興規模は第1次、第2次補正予算を除くと13兆円。単純に平均を取ると、1年当たり2.6兆円(GDP比0.5%)。
国だけでも新規財源債の発行額が年間40〜50兆円に達することを踏まえると、年間平均2.6兆円はどう見ても小さい。逆に言えば、復興財源をどのようにいじっても、財政再建に与える効果は相当小さいのではないか。
次のページ>> 英国の「黄金律」では、公共投資目的の借り入れをルール化
しかも、復興というのは本来、将来世代にも便益をもたらすものだ。そうであれば、むしろ積極的に将来世代にも財源を負担してもらうことは許されるのではないだろうか。
つまり、ある歳出項目の財源を増税に求めるか、債券発行に求めるかは、その歳出によってもたらされる便益が複数世代に亘るか否かに大きく依存すると考えられる。
英国の「黄金律」(Golden Rule)
ここで参考となるのが、英国の財政運営における「黄金律」(Golden Rule)(注1)だ。英国政府は1997年7月の「財政演説と予算書」(Financial Statement and Budget Report)において、いくつかの財政運営ルールを明確化した。
そのうち、「政府の借入れは投資(つまり公共投資)を目的とする場合のみ可能であり、経常支出を賄うために行なってはならない」というルールが「黄金律」と呼ばれる。この黄金律は、@世代間の財政負担の公平、A公共投資の過度な圧縮への反省、という観点から導入された。
(注1)マクロ経済学では「経済が成長しない定常状態において個人消費を最大にする1人当たり資本ストックの水準」を「黄金律」(Golden Rule)と呼ぶ。本文における「黄金律」は、これとは全く異なる概念であることに注意されたい。
財政学者「マスグレイブ」の論点
これに類する考え方としては、著名な財政学者であるマスグレイブの論点も参考となる。
マスグレイブ(注2)は、 「税による資金調達が個人消費を、債券発行(あるいは借入れ)による資金調達が設備投資を阻害しうるような場合、経常的経費を税により調達し、投資的経費 (公共投資など)を債券発行(あるいは借入れ)により調達することは世代間の公平に合致する。逆に、経常的経費を債券発行(あるいは借入れ)でまかなうこ とは将来世代に不当な負担を負わせ、投資的経費を増税でまかなうことは将来世代に不当な便益をもたらす」(筆者による和訳)としている。
(注2)R. A. Musgrave and P. B. Musgrave (1982) “Public Finance in Theory and Practice” McGraw Hill
次のページ>> 「マスグレイブ」の論点も警鐘を鳴らす債券発行の目的
日本の「財政法第4条」
実は、英国の黄金律やマスグレイブの考え方は、日本の財政法にもはっきりと見て取れる。財政法第4条は、「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入 を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金 をなすことができる」としている。
この法律に基づいて発行されるのが、投資的支出を対象とした建設国債(4条国債とも)である。これは、経常的支出を賄うための赤字国債(特例国債とも)とは明確に発行根拠を異にする。
英国の黄金律、マスグレイブの論点、日本の財政法の考え方を日本の復興に当てはめると、復興などのように複数世代に便益をもたらす投資的支出は、債券発行によるファイナンスを正当化できる、逆に、復興を増税で賄うことは過度な便益を将来世代にもたらすということになる。
財政再建に対する不安はむしろ強まる
子ども手当、高速道路の無料化、農家の戸別所得補償など、復興費用を大幅に上回る経常的支出が増税とセットで議論される機会はほとんどない。あるいは、年金給付という最大の経常的支出も、しばらく消費税率引き上げと結び付いてきたが、増税幅自体はあまりにも不十分。
それにもかかわらず、復興需要という投資的支出(しかも経常的支出よりも圧倒的に小額)を個別に取り出して、「将来世代に負担させてはならない」と象徴的に語る姿を見ると、かえって将来の財政再建に対する不安が強まる(注3)。
(注3)なお、ここでの議論は投資的支出であれば何でも債券発行が許されるということを意味するものではない。将来世代に便益をもたらさないのであれば、投資的支出であっても債券発行は正当化できない。
質問1 政府の復旧・復興対策が。景気に与える影響をどう見る?
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