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なぜあなたの暮らしはちっとも楽にならないのか?不況の本質「スクリューフレーション」の知られざる正体
――永濱利廣・第一生命経済研究所 主席エコノミストに聞く
働いても働いても生活が楽にならない――。現在、日本人の多くはこう嘆いている。「不況だから仕方がない」と漠然と考えている人も多いだろう。しかし、あなたが生活苦を感じている背景には、日本一国の経済情勢だけでは説明できない構造的な問題が横たわっている可能性がある。斬新な切り口の経済分析で定評がある永濱利廣・第一生命経済研究所主席エコノミストは、中間層の貧困化とインフレが重なった「スクリューフレーション」という経済状況が、日本人の生活苦の根底にあるのではないかと考え、分析を行なっている。我々が普段聞き慣れない「スクリューフレーション」とは、いったいどんな経済状況なのだろうか。永濱氏に詳しく聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)
中間層の貧困化とインフレが重なる
「スクリューフレーション」とは?
ながはま・としひろ/第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト。1971年生まれ。栃木県出身。早稲田大学卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。95年第一生命保険入社。日本経済研究センターを経て第一生命経済研究所経済調査部へ異動。研究員、主任エコノミストを経て、08年より現職。主な著書は『経済指標はこう読む』『日本経済のほんとうの見方、考え方』など。
――そもそもスクリューフレーションとは、どんな経済状況を指すのか。
日本では聞き慣れない経済用語だが、これは米国で起きている中間層の貧困化とインフレが重なった状況を指す。中間層の貧困化を意味する「スクリューイング」と物価が上昇する「インフレーション」をかけ合わせた造語だ。
最近では、こうした傾向が日本でも起きているのではないかと私は思う。
日本の消費者物価を見ると、贅沢品の価格が低下する一方、生活必需品の価格は上昇基調にある。日本全体はデフレ下にありながらも、我々が消費する割合が高い財・サービスの価格は逆に上昇していくという現象が起きているのだ。
生活必需品は、低所得者層ほど消費支出に占める割合が多くなるため、この価格が上昇するほど生活は苦しくなり、実質購買力が低下してしまう。ただでさえ不況で収入が減っている低所得者層とって、生活必需品の価格上昇はまさにダブルパンチだ。
「スタグフレーション」はインフレと景気停滞が同時に進行する状況だが、「スクリューフレーション」は中間層、とりわけ中低所得者層にしわ寄せが来る状況だ。
――低所得者層の生活は、具体的にどれほど苦しくなっているのだろうか。
日本全体ではデフレが続いているので、我々にはあまり「インフレ」という感覚がない。しかし財・サービスの物価を細かく見ていくと、デフレ下においても物価が上昇しているものは決して少なくない。
次のページ>> 生活必需品の物価上昇で、ますます格差が広がる低所得層
たとえば、2010年度のCPI(消費者物価指数)は対前年比で▲0.41%となっている。それを10大費目別に寄与度分解すると、物価の押し下げ要因になっているのは、高校授業料無償化の影響を受けたと思われる「教育」(▲0.49)をはじめ、「家具・家事用品」(▲0.13)、「住居」(▲0.09)、「被服及び履き物」(▲0.04)、「保健医療」(▲0.01)、「教養娯楽」(▲0.11)などのいわゆる「贅沢品」だということがわかる。これは従来のデフレ曲面と同様の下落パターンだ。
しかし一方で、「食料」(+0.05)、「光熱・水道」(+0.12)、「交通・通信」(+0.12)、「諸雑費」(+0.19)など、生活必需品の物価は軒並み上昇している。世界的に食料・エネルギー価格の上昇が起きた08年度とよく似たパターンだ。
総務省『家計調査』によれば、消費支出に占める生活必需品の割合は、年収が最も高い1500万円以上の世帯が39%程度なのに対して、年収が最も低い200万円未満の世帯は59%程度となっている。低所得者層が高所得者層を2割も上回っているのだ。生活必需品の値上がりで低所得者層が受ける影響の大きさは、一目瞭然だ。
生活必需品の物価はますます上昇
高所得者層との格差が広がる低所得者層
――これが現実だとすれば、社会問題化している高所得者層と低所得者層との「生活格差」が、ますます拡大してしまう。
CPIを贅沢品と生活必需品に分類すると、06年以降、前者の価格が急落する一方で、後者は明らかに上昇している。贅沢品と生活必需品の「物価の二極化」は、確実に生活格差の拡大をもたらすだろう。
実際に国民が実感する物価は、財やサービスの構成比によって異なる。つまり、高所得者層はデフレを感じていても、低所得者層はインフレを感じているということだ。
たとえば、より実感に近い年収階層別の消費構造に着目したCPIを確認すると、年収階層上位20%世帯と下位20%世帯では、明らかに違いがある。前者のCPIは全体のCPIより下落幅が大きいが、後者のCPIは2010年10月以降プラスに転じており、前年同月比で前者より0.2%程度も高くなっている。
――リーマンショック後の大不況を通じて、こうした低所得者層は増加しているものと思われる。今後はさらに「生活苦」に陥る人が増えていくだろうか。
次のページ>> スクリューフレーションを生む先進国の衰退と新興国の台頭
確かに、日本の低所得者層は増加傾向を続けている。02年から戦後最長の景気回復が始まったため、年収200万円未満の世帯は03年に減少傾向に転じたが、リーマンショックを経た09年にハネ上がり、その後も高水準で推移している。
総務省『家計調査年報』で年収階層別の世帯構成比を見ると、200万円未満に属する世帯の比率は直近2010年で2.65%と、2000年以降最大となっている。
07年〜08年には雇用が増えているものの、このときは賃金が安い非正社員が増えたに過ぎず、低所得者層の収入は上昇しなかった。さらに、日本人1人当たりの名目賃金も97年にピークアウトしており、現在は20年前の水準に落ち込んでいる。今後日本で「スクリューフレーション」が顕在化していくとすれば、年収200万円未満の低所得者層はもっと増えていくだろう。
物価の二極化は、都市と地方の「地域格差」も広げていく可能性がある。公共交通網の目が粗い地方は、自動車で移動することが多いため、家計に占めるガソリン代の比率が高いからだ。
また、冬場の気温が低い地方では、暖房に使う燃料も多くなる。さらには電気料金やガス料金も燃料市況に連動するため、地方に住む人にとってエネルギー価格の上昇は大きな打撃となる。
グローバル化、技術革新、臨時雇用の普及
「スクリューフレーション」が生まれる背景
――そもそも「スクリューフレーション」の背景には、どんな事情があるのだろうか。
スクリューフレーションの背景として重要なポイントは、先進国の衰退と新興国の台頭が起きていることだ。その原因は、グローバル化、技術革新、臨時雇用の普及という3つの大きなトレンドとされている。
足もとで食料・エネルギー価格が高騰している最大の理由は、経済成長を続ける新興国の旺盛なニーズにより、世界規模で商品の需給逼迫が起きていることだ。
その新興国が経済成長を続けているのは、グローバル化により先進国が生産・販売拠点を新興国へ続々と移転してきたことによる。それによって「世界の工場」となった新興国は、逆に先進国へ安い製品を大量に輸出するようになった。
次のページ>> 商品価格の高騰を招く金融緩和にも、新興国の為替政策の影響が
一方、グローバル化への対応に遅れた日本などは、新興国に雇用を奪われ、安い競合製品に脅かされるようになった。国内が需要不振に陥る中で、円高に耐えて輸出を維持しようと、企業は雇用を合理化してコストカットに走らざるを得なかった。
その結果、国内では国民の雇用や給料が減り、生活は苦しくなっていった。そこに新興国のさらなる需要増大による商品価格の高騰が、追い打ちをかけている。まさに「悪循環」が続いているのだ。
商品価格の高騰は、景気悪化を不安視する先進国が金融緩和を行なったり、異常気象などで農産物の収穫高が減少した影響も大きい。特に金融緩和は、投機マネーが金融市場に流れて商品価格の上昇に拍車をかける要因になった。中東・アフリカなどの民主化運動による供給不足もあり、原油価格はさらに上昇した。
商品価格の高騰を招く金融緩和にも
新興国の為替政策による影響が
逆に言えば、QE2を行なった米国のように、先進国が大規模な金融緩和をしなくてはならなかった背景にも、新興国の影響がある。たとえば、管理フロート制を導入している中国では、元高を避けるために大規模な元売り・ドル買い介入を繰り返している。それがさらなる金融緩和状態を招き、世界中でインフレ傾向を加速させている。
こういう状況が続くと、資源がある国が恩恵を受け、資源がない国でスクリューフレーションが起きやすくなる。食料・エネルギー自給率が低い日本は、とりわけ影響を受けやすいと言える。
――現在の不況の背景には、こうした構造的な問題もあったということか。スクリューフレーションに似た状況は、過去の日本でも起きたことがあるのだろうか。
今より世界の人口が少なく、新興国が台頭していなかった過去においては、これほど食料・エネルギー需要が逼迫する環境はなかった。強いて言えば、日本で1970年代に起きたオイルショックがそれに近いが、当時は原油や石油製品が高騰しただけで、商品価格が軒並み高騰する状況には至らなかった。
次のページ>> よい物価上昇を実現させるために、企業の「四重苦」を取り除け
また当時は、日本経済の潜在成長力が高く、物価の上昇に伴って賃金も上昇した。これ以上コストカットの余地がなくなってしまったバブル崩壊後の日本と違い、賃金が上がりやすかったいう時代背景もあるだろう。
普通のインフレは物価が上がれば賃金も上がるが、賃金が低下するなかで生活必需品の価格が上がっていく現状は厳しい。オイルショック時と今とでは、深刻度が全く違うと思う。
――日本がこの苦境から抜け出すためには、経済がどういう状況にならなくてはいけないだろうか。
日本はデフレから脱却し、「よい物価上昇」を通じて経済を成長させない限り、今の状況から脱出できないと思う。足もとで起きている生活必需品の値上がりを「悪い物価上昇」とすれば、「よい物価上昇」とは国内需要の拡大によって物価が上昇することだ。それが企業収益の増加を通じて賃金の上昇をもたらし、さらに国内需要が拡大するという「好循環」を生む。
本当の意味でのデフレ脱却には、消費物価の上昇だけでなく、GDPデフレーターの上昇(名目成長率>実質成長率)や、国内需要不足の解消が必要だ。
「よい物価上昇」を実現させるために
企業の「四重苦」を取り除くことが必要
――そのために、政府はどんな政策を考えるべきか。
経済成長を牽引するのは、政府でも家計でもなく企業だ。ところが、特に政権交代以降、企業が国内で活動しにくい状況が続いている。多くの企業は、円高、電力不足、法人税高、関税高の「四重苦」に苦しんでいる。これらを一刻も早く適正な水準に戻すための政策が必要となる。
最大のポイントは為替政策だ。現在の円高を解消するためには、小手先の介入では意味がない。日米の通貨供給量が調整されないと、根本的な解決にならないだろう。「よい物価上昇」を促すには、適正な為替水準を実現する必要がある。
また電力については、「脱原発」を進めるにせよ、経済成長への配慮は重要だ。再生可能エネルギーへの転換を進めると同時に、安全性が確認された原発は再稼動を検討すべきだろう。
次のページ>> デフレ下では、増税のタイミングを慎重に検討すべき
法人税を諸外国並みに20%程度まで引き下げること、TPPを通じて関税を撤廃し、併せて農業改革を行なうことも必要だ。
そもそもこうした政策は、これまでも必要性が唱えられてきた。これらの改革を一体的に行なわないと、日本が現状を脱するのは難しいだろう。このままスクリューフレーションが本格化すれば、日本経済は「ジリ貧」に近づいて行く。日本人は今よりもっと生活水準を切り下げないと、やっていけなくなる。
増税のタイミングは慎重に検討すべき
先進国の中でも深刻な日本経済の現状
――政府は復興財源の捻出や税と社会保障の一体改革を目指して、増税路線を突き進んでいる。これは消費者の需要をさらに落ち込ませる不安はないだろうか。
増税については実施のタイミングを慎重に議論すべきだ。過去を振り返っても、デフレ下での増税は効果が削がれる。消費税が引き上げられた1997年をピークに、日本の税収は落ち込み続けている。
経済成長への配慮がない増税スケジュールは、むしろ逆効果になる。日本経済の「ジリ貧」に拍車をかける可能性が高い。
――今後、世界中がスクリューフレーションの渦中に飲み込まれていくことはないだろうか。
その可能性はなきにしもあらずだ。これまで述べてきたように、スクリューフレーションは米国や日本だけでなく、世界がグローバル化するなかでどの国でも起こり得ることだからだ。
しかし、「ジャパナイゼーション」が進んでいると言われる米国については、現状を見る限り、まだ日本ほどひどい状況にはなっていない。
日本経済が15年にも及ぶデフレに苦しんでいる最大の理由は、バブルが崩壊したにもかかわらず、円が買われ続けたことに他ならない。米国は日本を反面教師にして大規模な金融緩和を続け、通貨安を維持し、デフレを食い止めて来た。
また、すでに人口ボーナス指数(子どもや高齢者などの従属人口に対する労働人口の割合)が2000年代半ばにピークアウトしたものの、移民が流入し続けて人口自体は増え続けているため、これも日本よりは良い状況と言える。
一方、今回のソブリン危機を見てもわかる通り、ユーロ諸国の政策の足並みが揃わない欧州については、不安がある。
世論調査
質問1 あなたの生活は、以前と比べて楽になっている? それとも苦しくなっている?
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