01. 2011年10月16日 21:05:55: Pj82T22SRI
外貨建負債が少なく、国内生産力が強かったマレーシアは、 金融規制強化、財政拡張と通貨安インフレ政策、さらにドル本位を批判していたのに 結局、ドルペッグ政策を行い、割安な労働力を保証した上で積極的に外資の誘致を行った本質的にはIMF後の韓国と同じだが、違いは、緊縮でインフレを抑制することはなく、規制で国民が勝手に金を国外に持ち出せず、外貨で借り入れできないようにしたことだろう つまり、国民の資産や生活水準を犠牲にすることで景気は早期に回復した http://faculty.human.mie-u.ac.jp/~sakuradani/higasi040313.pdf アジア通貨危機後のマレーシア経済 東アジア地域研究会2004年3月例会 三重大学 櫻谷勝美 2004年3月13日 於京都大学経済研究所 問題の所在 1 マレーシアは、アジア通貨危機の際、IMFの支援を受けなかったばかりか、むしろIMFが強く推奨した緊縮財政、金融引締め、規制緩和、金融機関のドラスティックな整理とは全く反対の施策をとった。(積極財政、金融緩和、外国資本の流出入規制、金融機関の漸進的な再編)をおこなった。 その結果IMFの処方箋にしたがった諸国(タイ、インドネシア、韓国)に比し、恐慌を軽微に終わらせることができた。本報告の目的はIMFの不適切な処方箋に対するマレーシアの政策の妥当性をのべることではなく、その政策を可能にした諸要因を分析することである。 2 報告は、 (1)通貨危機から最近までの景気循環を指標にした段階区分 (2)不況の際に講じられた手段、 (3)マレーシアの固有の有利な点と不利な点を整理する 図1 製造業前年同期比増加率製造業前年同期比%0.05.010.015.020.025.030.0Q97/2Q97/3Q97/4Q98/1Q98/2Q98/3Q98/4Q99/1Q99/2Q99/3Q99/4Q00/1Q00/2Q00/3Q00/4Q01/1Q01/2Q01/3Q01/4Q02/1Q02/2Q02/3Q02/4Q03/1Q03/2Q03/3Q03/4Q%マレーシア タイ -20.0-15.0-10.0-5.097/1 1 T 通貨危機から最近までの景気循環を指標にした段階区分 第1段階 IMF準拠型対策 通貨防衛のために緊縮政策 97/7/1 タイバーツ崩落 8月初旬マレーシア・リンギが売られる。(1ドル2.57リンギ→3.0) 97/8 外国人労働者の新規雇用抑制(海外送金が国際収支を悪化させる) 97/8 投機行動に対し国内治安法の適用言明 →9/3 2銀行と3証券会社を調査中と言明 97/9/3 政府は株・為替下落対策として60億リンギを用意と発表 97/9/20-21 マハティール首相、ジョージ・ソロスと公開論争 97/10 98年政府予算案は前年比18%削減、景気対策よりも経常赤字対策優先 大型プロジェクトの延期、軍装備の購入延期、商用車の関税引き上げ、不良債権の分類厳格化(3ヶ月延滞を不良債権)、金融機関のディスクロージャー、中銀の検査強化、金融機関の合併促進、公務員の昇給凍結、留学生削減、自動車ローンの限度引き下げ、返済期間短縮 Anwarが主導したこの10月、11月のIMF型的政策は、不況を一層深刻にした。 97年末に、為替相場は3.87リンギ、株価は597(96年末は1231) 98/1/7 4.88リンギ 98/1 NEAC(国家経済行動評議会)設立、議長にマハティール、副議長にアンワール、事務局長にダイム経済顧問(前蔵相) 98/2 自動車販売前年同月比▲68.5% 98/3 中銀不良債権比率の高い金融会社の合併促進表明 39社→10社以下にする 98/4 中銀、金融引締め維持表明、IMFさらなる引締め必要と言明 →マハティール首相「既に十分な引き締めを実施している」と反発、インターバンク3Mで11% 98/4 不良債券比率は10.4%(昨年末6.8%) 98/6 ダイム経済顧問が特別相に任命される。 マハティールとダイムは、景気刺激のために利下げ必要 アンワールと中銀は、通貨防衛のために金融引締め必要 と対立 Anwar蔵相の影響力が薄まる。Anwarは、ネポティズム批判を強める 第2段階 景気浮揚政策に転換 景気対策最優先 98/7/1 金融緩和(法定準備率10%→8%)、70億リンギの追加的公共投資 2 98/7/14 UMNOの保護で成長してきたレノングループの通信会社が負債総額40億リンギで会社更生 法を申請 救済 98/8 国家経済行動評議会が『国民経済再生計画(National Economic Recovery Plan)』を出す。ダイム特別相が中心になってまとめた。 @リンギ相場の安定:米ドル偏重を改め、貿易取引ウェイトから算出される通貨バスケット制とする。 A市場の信認の回復:公平な株式取引、政府による企業救済の際の情報開示 B金融市場の安定:急激な信用拡大の監視、資本市場の育成 C経済基盤の強化:輸出を拡大するために裾野産業育成、景気回復まで賃金はゼロベア D社会的平等重視 E産業の活性化 市場原理から乖離した不透明な慣行、クローニズム、ネポティズム批判していた 資本取引規制については、言及がなかった。 この『Recovery Plan』は両派の折衷。これが出る1ヶ月前から政策の基調は徐々に変化。 98/8 不良債権買取り機関「ダナハルタ」設置、不良債権を平均して額面の54%で買取り (タイで同じような機関が出来たのは2001年) 98/8 インターバンクレートを2回にわたり計1%下げる(11%→10%) 外資規制緩和:2000年末まで製造業分野の外資投資に対し輸出比率にかかわりなく100%出資認可方針 商業銀行の貸し渋り対策として、昨年比15%貸出増の指導 98/8 格付け会社「S&P」マレーシア債を不適格とする→外債が発行できない→新宮沢構想に感謝 98/9/1 為替・資本取引規制(後99/2微修正) @ 国外でマレーシア通貨・株式の取引禁止、10月1日から国外リンギ預金無効、シンガポールのマレーシア株式取引禁止(投機の対象となるので、外国人にはリンギを持たせない:シンガポール市場の3割はリンギ取引だった) A非居住者のリンギ保有・取引禁止、非居住者である外銀、証券会社へのリンギ建て与信禁止 B非居住者による取得1年未満の国債、株式、不動産などリンギ建て資産売却代金は、外貨への交換・国外送金不可、98年9月1日以前取得のリンギ資産は同日取得とみなす C経常取引決済は外貨のみ使用可、配当、利息、賃貸料、手数料、利益金の送金は銀行へ証拠書類提出を要す Dリンギ現金の持出し、持込みは1000リンギを上限 EただしMSC関連企業はこの規制を受けない 3 98/9/2 1ドル=3.8リンギ水準でドルペッグ制採用(ドル本位制をしきりに問題視していたが、皮肉にも)、同日 Anwar副首相・蔵相解任 効果 @固定相場制の採用で国内金融政策の自由度が高まり、景気刺激策容易に A既存の外資系企業はほとんど影響なし マイナス面 @事前ではなく事後に規則を制定してそれを遡及させる→外資のマレーシア不信感醸成、 A資本規制の解除後に大量の資本が流出する可能性 IMFに果敢に挑戦 98/9/20 Anwar逮捕。理由は外国に秘密を漏らしたこと&Sodom、逮捕後暴行 98/10 98年の財政赤字をGDP比3.6%、99年度は6.1%まで容認 97年の連邦財政収支は66.3億リンギ黒字、98年は95.9億リンギの赤字、99年の見通しは161.4億リンギの赤字 98/10 インターバンクレート7%台に下げる 98/2Q 短期金利(3M) 11.20% (消費者物価を差し引くと5.4%) 98/3Q 短期金利(3M) 7.48% (消費者物価を差し引くと1.88%) 98/11 ○99年度予算案、99年の所得税無税に ○ 政府は金融機関11社から不良債権買取り合意、政府公表不良債権の36% ○ 11月の輸出前年同月比5%増 99/1 ○ 1月の輸出前年同月比15.1%増 2月は23.2%上昇(世界的なIT関連需要) 99/2 98/9の資本規制の緩和修正 → 軟着陸を計画 資本流失の禁止から税によるコントロール(証券投資資本流出課税の導入) @ 99/2/14以前の投資資金については、国外へ送金するときに7ヶ月以下:30%、7〜9ヶ月20%、9〜12ヶ月:10%課税、12ヶ月越える:無税、売却益は12ヶ月以下10%、12ヶ月以上無税→99年9月以降元本送金が非課税となり、資本の流出が続くかも知れない。 A 99/2/15以降の投資資金については、投資元本の送金時課税なし、売却益は12ヶ月以下30%課税、12ヶ月以上10%課税 タイとの違いは、タイの場合はバーツ収入をドルで返済しなければならないが、マレーシアは外貨での借 4 り入れは許可が必要だったので、少ない。 99/5 外債10億ドル起債(発行利回り8.862%)(国際金融市場への復帰をPR) 99/7 中銀、銀行を6行に再編集約する案を発表 99/2Q、3Q 実質金利1%以下 99/9/1 資本規制満期日、規制凍結していた外資100億〜150億ドル この日流出したのは3.28億ドル 外貨準備320億ドルまで回復、(98年1月202億ドル) 1ドル3.8リンギは、リンギ割安レートで固定 → 輸出に有利、固定レートの有利さ 99/1-9月 自動車販売台数20万7千台、前年同期比97.1%増 国内の雇用削減軽微(外国人労働者を馘首優先) 政府の住宅取得促進政策 99/1Q 失業率4.5% → 99/3Q 失業率2.9% → 個人消費が景気を引っ張る 99/11 総選挙で与党UMNO勝利 定員193のうち与党148議席獲得、得票率は50%台 野党は40%台を越える。マレー人若者のUMNO支持離れ 00/2 中銀、銀行集約を6行→10行に緩和 00/1Q 製造業:生産・輸出とも好調 アメリカの好況 00/2 マレーシアの株式市場の割安が注目され海外から株式市場に資金流入(1000ポイントに上昇) 00/1-7 海外からの製造業投資低迷 00/7 自動車販売回復、97/11の4万台にたいして、98/2 7千台 00/7 3万1千台 国民車(プロトン、プロドゥア)の占める割合 90% 00/4Q 輸出がアメリカのIT不況によって減少 輸出は減少したが、個人消費と固定資本形成などの内需で4Qは6.5%成長 01/2 1年以上保有資産の売却代金の送金税無税、1年未満はこれまで通り10%の送金税 01/3 中銀が今後10年間の金融マスタープラン @ 国内金融機関の再編強化 5 A 既進出外国金融機関の規制緩和 B 新規外国金融機関の段階的導入 01/5 送金税廃止:98年9月以来の資本流出規制撤廃、 成長率鈍化(輸出・内需とも不振) 01/10 2002年度の予算発表、各所得階層の税率引き下げ、公務員給与10%引上げ 従業員積立基金(EPF)の負担率軽減、観光業の免税措置5年延長 農村部・都市部の小規模開発プロジェクト 01/12 失業率増加 3.7% (前年同期は3.0%) 02/01 インドネシア労働者暴動(ニライ)→ インドネシア労働者抑制→ベトナム人労働者を増やす 表1 在マレーシア日系企業の外国人労働者(2003年9月末、JACTIM賃金実態調査) 02/1Q 政府支出、個人消費堅調 → 3四半期ぶりのプラス成長 02/05 マハティール首相、「中国の台頭は投資や観光客が増えるのでASEANにとって脅威ではなく利益、ニッチ市場やIT産業の差別化で中国との棲み分け可能」 02上半期 海外からの投資認可額が前年同期比81.8%減 02/6 マハティール首相03/10に退任決定 02/8 大学の入学定員の民族別割当一部緩和(段階的にブミプトラ政策縮小を目指す) 入学定員枠と言語のために中国系は海外の大学に留学 02/09 2003年度予算 6年連続の赤字予算、外資に優遇税制 (IT・自動車関連投資の税に減免) 表2マレーシアとタイの財政収支比較(対GDP比) 年 1991 92 334 94 95 96 97 98 99 2000 2001 2002 マレーシア -2.0 -0.8 0.2 2.3 0.8 0.7 2.4 -1.8 -3.2 -5.8 -5.5 -5.6 タイ 4.0 2.5 1.8 2.8 3.2 0.9 -0.3 -2.8 -3.3 -2.2 -2.4 -1.4 02/4Q 自動車販売低調 03/1のAFTA発効後関税下落を予想して 6 03/01 電子関連産業投資振るわない → 中国シフト 表3日本からの直接投資(億円)(届出ベース、フロー) 年度 マレーシア タイ インドネシ フィリピン シンガポー 中国 1986 253 198 399 33 483 160 1987 226 346 755 100 684 313 1988 497 1,102 751 172 958 162 1989 902 1,703 840 269 2,573 587 1990 1,067 1,696 1,615 383 1,232 511 1991 1,202 1,107 1,628 277 837 787 1992 919 849 2,142 210 875 1,381 1993 892 680 952 236 735 1,954 1994 772 749 1,808 683 1,101 2,683 1995 555 1,196 1,548 692 1,143 4,319 1996 644 1,581 2,720 630 1,256 2,828 1997 971 2,291 3,085 642 2,238 2,438 1998 658 1,755 1,378 485 815 1,363 1999 588 924 1,024 689 1,102 849 2000 256 1,030 464 514 505 1,112 2001 320 1,105 622 951 1,433 1,808 2002 98 614 509 500 915 2,152 03/01 政府系投資会社が株式投資(事実上の買い支え) 03/6/17 製造業については輸出比率と関係なく100%外資の資本保有を認める。 03下半期 SARS対策としてホテルの電気料金優遇、ホテル・レストランのサービス税半年間免税 農産物価格の上昇により農業部門好調 03/10/31 マハティール首相引退 03/12 ベトナム人労働者のマレーシア派遣に関する覚書に調印。すでに2002年以来、6万7000人のベトナム人労働者を受け入れ、今後半年内に10万人まで増加予定。 7 04/1/1 自動車新税率 表4 AFTA発足とマレーシアの自動車税 完成車AFTA CKD CEPTスキーム 一般税率 物品税 CEPTスキーム 一般税率 物品税 旧 60〜300% 60〜300% 0% 5〜80% 5〜80% 〜60% 新 40〜190% 60〜200% 30〜100% 0〜25% 5〜35% 〜60% → 国営(国策)自動車会社プロトンやプルドゥアの将来 3 マレーシア固有の優位点 財政赤字の補填 → 一次産品の輸出 表5 主要一次産品 パーム油 原油 液化天然ガス 生産量 1000t 1000B/D 1000t 1996 8386 715 12908 1997 9062 714 15309 1998 8320 725 15450 1999 10554 690 15390 2000 10839 680 15169 2001 11804 666 15241 2002 11910 698 2003 12450 716 輸出量 1000t 1000t 1000t 1996 7324 17494 12908 1997 7609 15872 15309 1998 7521 18071 14627 1999 8964 17725 15088 2000 8863 16672 15430 2001 10600 15118 15423 2002 10979 16192 15025 2003 11200 16620 15115 単価 RM/t US$/barrel RM/t 1996 1192 21.82 368 1997 1392 21.02 441 1998 2378 13.82 407 1999 1451 18.56 421 2000 993 30.18 740 2001 897 24.92 721 2002 1364 25.83 661 2003 1450 27.30 804 8 9 まとめ マレーシアの問題点 立地コスト 表6 人件費格差(2001年月額賃金:ドル) マレーシア タイ シンガポール フィリピン インドネシア 上海 北京 一般工 198 141 421 119 67 235 152 技術者 712 302 1,249 279 138 374 1,132 中間管理職 1,510 622 2,087 572 337 671 1,750 (出所)ジェトロ「アジア主要都市・地域の投資関連コスト比較」(2003年3月) 表7 投資先の将来展望 マレーシア タイ シンガポール フィリピン インドネシア 上海 2002年営業利益黒字見込み企業 69.7 82.8 73.1 60.0 67.9 74.0 2003年営業利益見込み改善企業 37.7 52.8 34.7 42.3 47.5 54.9 コスト削減が限界に近づきつつある企業 58.5 41.6 76.3 46.3 45.2 38.8 雇用面の問題が賃金上昇 46.8 32.0 60.3 59.7 86.8 54.9 雇用面の問題が労働者の質 77.8 71.1 40.5 61.7 72.3 46.7 今後1〜2年後規模拡大予定 30.3 73.4 31.1 45.6 49.1 73.6 (出所)ジェトロ「在アジア日系製造業の経営実態−2002年度調査−」(2003年3月) ○マハティール首相の事績 外資誘致(外資コントロール)、マレーシア重工業公社創設、国営自動車企業プロトン社創設、アジア通貨危機対策、情報通信など産業の高度化、日本を軸にしたEAEC(東アジア経済協議体)構想 ○外資参入を国益に沿って管理・利用してきた経済政策 →中国の台頭とAFTAの発足により、外資参入自体が90年代のように期待できなくなった段階 政府主導型 & 外資導入型 マレーシアが、外的環境の変化にどう対応するか? Kエコノミー(MSC構想) 大企業と中小企業の日本的連携モデル ○日系企業の対策 中国から部材を輸入 中国集中に対する保険として拠点維持、しかしタイとの競合 |
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