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『日本の魚は大丈夫か』
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書評
日本の魚は大丈夫か―漁業は三陸から生まれ変わる (NHK出版新書 360)
個人的には、かなり衝撃的な本だった。
農業が農協や族議員、兼業農家といった様々な既得権に縛られて衰退し続けていることは
(うちの田舎もそうだから)知ってはいたが、ある意味、漁業の悲惨さはそれ以上だ。
近年、日本の漁獲高が減少し、代用魚や輸入魚がポピュラーとなっているが、実は日本の
漁獲高が減り始めたのは70年代から。マイワシバブルでかさ上げされていたものの、その他
の漁獲高は確実に減り続けてきた。
理由は単純に取りすぎたためだ。
意外なことに、漁業関係者はみな、資源が枯渇しつつあることは良く理解しているという。
ではなぜこの流れが止められないのか。それは現状がコインのつかみどり大会だからだ。
コインが床一面にばらまかれていて、誰でも早い者勝ちで取ってよいなら、最も合理的
なのは、一円だろうが五円だろうが、他の人より早く根こそぎもっていくことだ。
こうして「親の仇と魚は見たら取れ」とばかりに、成魚になる前の小さく身の少ない魚がとりつくされ
ますます漁獲量は減少していくことになる。
「養殖産業こそ21世紀型漁業の一つの形だ」と考えている人もいるかもしれない。
でも、クロマグロ1kgを育てるには15kgの天然サバの稚魚が必要で、日本近海のサバの
子供を取りつくしてもとても賄えない。
事実、02年に133万トンあった養殖生産量は、06年には118万トンと、漁業以上の衰退ぶり
を見せている。
この凄まじい閉塞感に打開策はあるのか。
鍵は、80年代に日本同様の漁獲高の落ち込みを経験したノルウェーにあると著者は説く。
ノルウェーは漁船ごとに個別に漁獲高を設定することで、稚魚の乱獲を防ぎ、商品である
魚の価格も維持することに成功した。
先のたとえで言うなら「一人コイン10枚まで」という枠を作るわけだ。
こうすれば、誰もが1円玉や5円玉には目もくれず、時間をかけて500円玉を探すだろう。
現在、ノルウェーの漁業は補助金無しでも立派に輸出産業として成立している。
主力商品である大ぶりのサバの最大の輸出先は、皮肉なことに日本である。
大半が3歳未満の未成魚で身の小さい国産品は安く、逆に3歳以上で大ぶりなノルウェー産サバ
は今や高級品なのだ。
乱獲、資源減少、国産品の値崩れ、そして産業の斜陽化と後継者難。
日本の多額の補助金は、結果としてノルウェー漁業の売り上げを伸ばしているようなものだ。
一見すると、規制のせいで衰退しつつある農業とは対照的に見えるが、多額の補助金を
食いつぶしつつ産業競争力が失われるという構図は農業と瓜二つだ。
規制緩和による産業全体の新陳代謝と、資源管理のための一定の規制が合わせて
必要だということだろう。
復興にともない漁業自体がクローズアップされている現在、漁業を理解する上で、本書は
優れた入門書となるはずだ。
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2011/9/810:32
いま漁業を改革しなければ、魚が食べられなくなる!?〜豊かな漁村文化と食卓を取り戻すために 勝川俊雄
勝川さん写真1
■消費者に伝わらない、日本漁業の衰退
東日本大震災は、地震の直接的な被害もさることながら、津波被害が大きかったのが特徴です。津波の直撃を受けた三陸の漁村は、文字どおり、何もかもが流されてしまいました。また、その後の原発事故で大量の放射性物質が海に放出されました。東日本大震災からの復興は、地域漁業の復興にかかっているといっても過言ではありません。復興には、5年、10年という年月がかかるのは確実ですから、明確な中長期的ビジョンのもと、しっかりと取り組んでいかねばならない問題です。
被災地漁業の復興は、「元に戻せばよい」というものではありません。企業の場合を考えてもらえばわかりやすいと思いますが、日常的に問題解決型の議論をしてこなかった会社が負債を抱えて、倒産したとします。経営者はそのまま、経営方針もそのままで、公的資金でいったん救済したからといって、もとより自己改革能力に欠けている会社であれば、早晩、より大きな負債をつくって破綻するであろうことは火を見るより明らかです。
生産性の低い日本の漁村には後継者が育たず、高齢化が進んでいます。10年後には、まともに働ける人がいなくなる漁村もあります。被災地の漁業の復興においては、先が無い状態に戻すのではなく、10年後、20年後に、自立した産業として成長できるような種をまくべきです。
残念ながら、未来志向の建設的なビジョンは、当の漁業者からも国からも出てきません。これまで漁業の衰退を嘆くだけで、問題に正面から取り組んでこなかったからです。もし、地域漁業の衰退を食い止めようと日ごろから議論をしていたならば、「とりあえず元どおりに戻すだけではダメだ」という機運が高まり、活発に意見が交わされているはずです。
実際には震災前から日本の漁業は急激に衰退していました。ほぼ資源「無」管理といえる政策のお粗末さと、産業として自立できない経営感覚の欠如、そして、新規参入しにくい水産ムラの慣習や体質など、衰退の背景には、業界が長年放置してきた構造的な問題が横たわっています。
農業に比べて、漁業の抱える問題については、これまであまり注目されてきませんでしたが、これをそのまま放置しておくと、日本の食卓から国産魚が消える日がやってくるかもしれません。それは、多くの人が想像しているより、ずっと深刻でずっと身近に迫った問題なのです。
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■ボートに乗れない人は見捨ててよいのか
日本に無数に存在する小さな漁村には他の産業がなく、生活の糧を海から得て、海とともに生きていくしかなく、また自らもそういう人生に誇りを持って暮らしている漁業者が圧倒的に多いのが現実です。漁業を衰退するに任せておくのではなく、その地域で漁業者が安定的に生活していける水準まで、漁業の経済性を改善する必要があります。
しかし、一次産業に経済原理を持ち込むというと、とかく弱者を切り捨て、血も涙もない構造改革を敢行するというイメージがあるのではないでしょうか。
経済合理性と倫理のジレンマをめぐる比喩として、アメリカの経済学者、ギャレット・ハーディン(1915-2003)が1974年に提唱した「救命ボートの倫理(lifeboat ethics)」が有名です。60名まで物理的に乗りうる救命ボートにすでに50人乗っているところに、海に投げ出された100人が乗船を希望しているとします。この場合、救命ボートの乗客がとりうる選択肢は以下のようなものが考えられます。
1. 泳いでいる人間を全員ボートに乗せて、船は沈没する。
2. 泳いでいる人間のなかから、10人だけ乗せる。
3. 泳いでいる人間を、全員見殺しにする。
1の選択肢は、その場にいた全員が死亡してしまいます。2の選択肢は100人の中からどのようにして10人を選ぶかというきわめて難しい問題があります。また救命ボートのキャパシティーが一杯になってしまうことで、安定性を失いやすくなるでしょう。ボートの乗客が確実に生き残るには、ボートの外の人間全員を見殺しにするしかない、というのが、ハーディンの結論です。
当時は世界一豊かな国であったアメリカには、世界中から大勢の移民が押し寄せていました。ハーディンは救命ボートを米国、救命ボートに乗っている人を米国人、海に投げ出されている人を途上国の比喩として、途上国からの移民を排斥することの必然性を説いたのです。さらに、地球全体のリソースは限られており、すべての人間が米国人並みの暮らしができない以上、南北問題を見過ごすことはやむを得ないと論じました。
いま、日本の漁村の多くは、すでに補助金なしでは立ちゆかない状況に追い込まれています。三陸では、さらにそこへ津波という大災害が起こり、産業のインフラを根こそぎさらっていきました。現実問題として、その被害の大きさを考えると公的資金ですべてを元通りに戻すのは不可能です。さらに言うと、元通りにしたとしても、地域の水産業に明るい未来は見えてきません。そう考えると、ハーディンの弱者切り捨て論は、たしかに「合理的」かもしれません。しかし、経済効率のみを理由に弱者を切り捨てるというのは、倫理的には受け入れがたいものがあります。
■ 漁業改革に、誰かの犠牲はいらない
では、いったいどうすればよいのでしょうか。「弱者を切り捨てずに、漁業の生産性を向上させるような都合がよい話などあるはずがない」と思うかもしれませんが、実はあるのです。
日本近海では、日本漁船による乱獲が蔓延しています。貴重な海の幸も多くが、価値が出る前に獲り尽くされているのです。たとえば、クロマグロは9割以上の個体が、0〜1歳でカツオのようなサイズで漁獲されています。適切な規制によって、乱獲を抑制し、価値が出た魚を安定的に獲れるように改革すれば、収益を大きく伸ばす余地があるのです。
世界では乱獲は過去の問題になりつつあります。ノルウェーやニュージーランドなど多くの先進国は、適切な規制を導入することで、補助金なしで持続的に漁業利益を伸ばしています。日本では漁業は衰退産業だと思われていますが、日本以外の多くの国においては、漁業は成長産業なのです。
日本周辺、とくに三陸沖は世界屈指の好漁場です。そのうえ、日本人は大の魚好きですから、海外の成功事例に学んで漁業政策を転換すれば、必ず漁業は生まれ変わり、世界有数の水産先進国に躍り出ることができます。
ポイントは政策の転換と、公的資金の使い方です。ダメージを負った被災地の漁業者を、
これまでのように公的資金で延命することを目的にするのではなく、漁業者が価値の高い魚を獲って、安定した生活をおくれるようにすることが重要なのです。
■ 三陸の海で感じた再生への意志
震災は生活の場のすべてを破壊しました。また、大勢の人命も失われました。わたしは6月、いまだがれきの撤去もままならない宮城県の漁村を訪れ、漁業者の声を聞いて回りました。震災直後、海に戻った漁業者が衝撃を受けたのは、無残に壊れた家よりも流された車よりも、海が変わってしまったことです。
津波が海からヘドロを、陸からがれきの山を運んできました。漁業を再開するには、海底の家や沈船などを取り除かなくてはなりません。また、ヘドロがかき回されたことによって、海の水は真っ黒になってしまった。ある人は、「正直、5年は無理だろうと思った」と当時を振り返りました。
しかしその後、海底の構造物の撤去が急ピッチで進むと同時に、海も本来の色を取り戻したのです。
道具も資材も流され、避難所に寝泊まりをしながらも、「また、漁ができる」という期待が漁業者の大きな励みになっているようです。わたしに話を聞かせてくれた男性は、足元で魚が跳ねるのをうれしそうに眺めながら、漁業の再開に向けて着々と準備を進めていました。わたしは、彼らが前に進む手伝いをしたいと思います。
わたしの考える復興ビジョンの主役は、地域漁業の未来を背負っていく、地元の若手漁業者です。三陸の漁村が今後も生き残るためには、10年先も20年先も、彼らが魚を獲って生活していけるような環境をつくる必要があります。そのために、高齢者を漁場から排除する必要はありません。若手漁業者がイニシアチブを発揮して、新しい事業にチャレンジできる環境を整えれば、漁業で生計を立てることは十分に可能です。
■ 再生できるか、できないか。いま選択のとき
漁業が持続的に利益を出すことのできる自立した産業に生まれ変われれば、日本の食卓から魚が消える心配もなくなります。
水産学の研究者であるわたしは、自分が食べたいと思った魚しか買いません。私の子どもたちもおいしい魚ばかりを食べて育ったので、みんな魚が大好きです。
ある日、子どもたちが魚をおいしそうに食べているのをみながら、「彼らが大人になるころには、日本の魚は食べられないだろうな」とぼんやり考えていて、はっとしました。
非持続的な現状を当たり前のように受け入れてしまっている自分自身の無責任さに、愕然としたのです。このまま日本の漁業が衰退するに任せておけば、20年後には壊滅的な状況になっていることは明白です。子どもたちが、これからも日本の海の幸を食べつづけられるようにするには、漁業を変えなければなりません。いま、産業としての漁業は、消滅するかどうかの瀬戸際に立たされているといっていいでしょう。
三陸から、古い概念を塗り替えるような新しい水産業を立ち上げ、そこをモデルに改革を広げてゆけば、日本漁業には明るい展望が開けてくるはずです。逆に、いま、何も変えられないなら、いつ変えるのでしょうか。
被災地漁業の復興とわれわれの食卓の間には、未来につながる共通の橋がかかっているのです。
日本の魚は大丈夫か―漁業は三陸から生まれ変わる (NHK出版新書 360)日本の魚は大丈夫か―漁業は三陸から生まれ変わる (NHK出版新書 360)
著者:勝川 俊雄
販売元:NHK出版
(2011-09-08)
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◇内容紹介
参入障壁、既得権、乱獲……。
漁業がヤバいって知ってた??
資源枯渇と魚価安で、衰退の一途を辿る日本の漁業。
既得権でがんじがらめの「水産ムラ」にいまメスを入れなければ、漁業者の暮らしは救われず、
食卓から国産の魚が消える日も近いだろう。
しかし、適切な資源管理と健全な組合経営で、
日本は世界有数の豊かな漁業と海と食卓を取り戻せる。
改革派の旗手が三陸復興へ思いを込めて描く、持続的で儲かる漁業の未来図。
魚の放射能汚染についても解説。
勝川俊雄(かつかわ・としお)/記事一覧
1972 年、東京生まれ。三重大学生物資源学部准教授。東京大学海洋研究所助教を経て、2009年より現職。専門は、水産資源管理、水産資源解析。日本漁業の改革のために、業界紙、インターネットなどで、積極的な言論活動を行っている。
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