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2011.10.14(第184号)
1. 人材の宝庫と人材の倉庫(論長論短 No.151)
2. ジョブズの死
(夏野剛さん連載コラム「アタリマエが大事」第3回)
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1.論長論短 No.151
人材の宝庫と人材の倉庫
宋 文洲
先日、数年ぶりに大手ゲームメーカーのCEOと会いました。古い友人であると
同時に年齢も近いためか、挨拶もそこそこにいきなり聞かれました。「宋さん、
今の日本が抱えている一番の問題は何だと思いますか。」
「人材の流動性の問題だ。」トロイ私を気に介せず、いつものように彼は自分
の結論をずばりと言った後、「新しいサービスを始め、新しいマーケットに進
出したくても必要な人材を確保できない。居ないからではない。人材が企業に
固定しているから必要なところにシフトできない。」と解説してくれました。
そういえば、以前、私は博士だけでも千人以上居る大手メーカー社長に言われ
ました。「宋さん、わが社はまさに人材の宝庫だ。しかし、彼らの才能を活用
するのは大変だ。」と。これに対して私は「自社だけで活かそうとするから問
題です。人材の宝庫ではなく、人材の倉庫になりますよ。」と答えました。
その社長の苦笑いは今も忘れませんが、この問題は経営者だけで解決できる問
題ではありません。安定志向の社員意識、終身雇用を是認する社会風土と社会
保障システム、失敗を恐れリスクから逃げ回る若者。どれを取ってみても人材
流動性を阻害する要因になっています。
実際、いまだに終身雇用を享受しているのは大手企業の正社員だけなのです。
中小企業は昔から終身雇用ではありません。したくてもできないからです。日
本企業の海外法人は昔から終身雇用ではありません。外国人は誰も終身雇用を
有り難く思わないからです。良いなら長く居ますが、自分を活かしてくれない
なら転職するのはあたりまえです。
メンツだけのための終身雇用が日本的格差を作り出します。同じ仕事、同じ労
働時間、同じ成果に対して報酬は契約社員や派遣社員が正社員のそれの三分の
一。この格差はもはや格差ではなく、差別なのです。法治国家というのによく
できるものです。
優秀な人材が大手の正社員になりたいのはこの特権のためです。一度手に入っ
たら失う恐怖に怯えて組織に媚を売ってもしがみつきます。転職したら地位も
年収も転落するのでする訳がありません。
椅子取りゲームのように皆が立ち上がればまた平等にチャンスが回ってきます
が、誰も椅子からお尻を離さないから立ち上がる人は新しい椅子がないのです。
しかし、世界情勢とマーケットは激しく変化しています。それに対応していく
には自家製の人材を無理やりはめるよりも適材をマーケットから確保したほう
が良いに決まっていますが、流動性がないから本物のマーケットが形成されな
いのです。
社会の活性化においても流動性の欠如が邪魔しています。活性化の多くは景気
の改善や制度の刷新によるものではなく人間の新たな出会いと組み合わせに伴
って起きるものです。GEの元CEOのウェルチが言いました。「人事は化学反応
と同じ。反応しあう者同士を会わせれば良いのだ。」
反応しない者同士に毎日無駄な教育とモチベーションアップをやっても決して
何の活性化も起きません。流動性を高め、反応する者同士が出会う機会を増や
すことこそ、化学反応を起こす基本条件です。その化学反応に伴って活性化と
いうエネルギーが自然に放出され、人材の倉庫が自然に人材の宝庫に変わるの
です。
(終わり)
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2. 夏野剛さん連載コラム「アタリマエが大事」第3回
ジョブズの死
夏野 剛
スティーブ・ジョブズ氏は私の最も尊敬する経営者でした。彼の死に深い哀悼
の意を捧げるとともに、ご冥福を心からお祈りいたします。
ジョブズ氏(この後敬称略)ほどアタリマエのことをアタリマエに遂行した経
営者は珍しい。今となっては当たり前の機能だが、アイコンをベースとしたマ
ウスを使うGUI(Graphical User Interface)をパソコンに導入したのがジョブズ。
PCはオシャレで操作が簡単であるべきという、とてもコンピュータオタクには
理解できない哲学で市場を席巻したのがMac。携帯音楽プレイヤーとHDD、音楽
ダウンロードサービスをセットにして製品にしたのがiPod。iPhone、iPadの斬
新さ、使いやすさは今さら言うまでもない。
ジョブズの真骨頂は製品やサービスを作るときの「割り切り」にあると思う。
多数の意見を聞いて多数の潜在的な問題を解決するという日本企業型の商品開
発とは逆のアプローチ。つまり、まったく新しい分かりやすいユーザーインタ
ーフェースやソフトウェアを用意し、直感的に操作できる製品をクリエーター
の感覚である意味独断で開発する。これはマーケティングから生まれるもので
はなく、哲学から生まれるものだ。
iPodのなぞるような操作は、発売当初、ユーザーには分かりにくいという評価
が専門家の中で一般的だったが、まったく違和感無く消費者にとけ込んだ。
iPadは幼児であっても簡単に操作できる操作感のよさになっている。
このような新しい発想を実行に移すには強い信念と具体的なヴィジョンが不可
欠だ。これまでに無いものを作る訳なので、過去の製品の使用感に基づいたア
ンケートなどのデータは役に立たない。かと言って、市場の要求とかけ離れた
ものでは売れない製品となる。さらにネットサービスやソフトウェアと組み合
わせるとなるとなおさらだ。
どの部分であってもちょっとしたツメの甘さがあれば製品全体の価値を貶め、
大失敗につながる可能性が高い。だからこそ、明確なヴィジョンをチームと共
有し、納得したメンバーが細部にわたって同じ意志と哲学を共有しながら仕事
を進めていかなければならない。ジョブズが「カリスマ」と言われるのは、こ
のチーム組成能力が評価されるゆえんであろう。
規模の違いはあれ、私も同じような経験をしたことがある。2004年2月に発売
されたFOMA900iシリーズの開発の時だ。第三世代のネットワークと言われた
FOMAは2001年10月にサービススタートしたが、2年間で200万人の契約すら獲得
できない立ち上がりとなった。1999年開始のiモードの半年で100万人、1年半
で1,000万に比べるべくも無かった。原因はカバレッジもあるが、アプリやiモ
ードの機能が第2世代の携帯電話機よりも劣っていたことにある。
アタリマエのことだが、どんなにネットワークのスピードが速くても、エリア
が悪く、電話機の性能が劣っていては売れる訳が無い。2003年の冒頭になって
FOMAの開発も当時のiモード部隊に任されることになった。驚いたことにそれ
までは、iモードチームはiモードの部分だけを提供し、端末デザインや新機能
の企画は違う部隊がやっていたのだ。
我々はまず電話機のデザインに注目した。できるだけ斬新なデザインを持って
くるようにメーカーに言ったが、出てくるのはカッコ悪いものばかり。「それ
だったら御社からは出していただかなくて結構です。」とまで言うこともあっ
た。あるメーカーとの最終ミーティングでは、候補のモック3種類はいずれも
どうしようもなく、もう結構です、と言ったところで、「実は社内でも通して
無いんですが…。」とおそるおそるデザイナーが出してきたモックに即決定し
たこともあった。
他のメーカーでは、当時大きいということが不評だったFOMA端末であるにも関
わらず、それでもデザインが一番よかった着せ替えパネル付きに決めた。大き
くなってもその方がユーザー価値は高まるという判断からだ。
コンテンツプロバイダーの意見も徹底的に聞いた。ドラクエやFFという大成功
したゲームアプリを乗せると心に決めていたので、ゲーム会社のクリエーター
やエンジニアに徹底的に叩いてもらい、要望をそのままメーカーに伝えた。社
内の端末の開発をやっている部隊やメーカーのフロント営業部隊には相当恨み
を買ったと思うが、そんなことにかまってられない。ともかく売れるものを作
るためにユーザーの理解を得るための仕掛けを各所に仕込んだ。
型番の変更ももめた。当時までFOMAはP2101とかN2001とか、四桁の、しかも系
統が分かりにくい型番となっていた。第2世代の方は、501i、502iというよう
に分かりやすい型番表示で機能差が分かるようにしていた。ユーザー調査でも
型番がブランド化しているという結果も出ていた。
そこで、すでに計画されていたハイスペックの505iにも勝てるよう、900番台
を使うことにした。これに反対する抵抗勢力が出てきた。「900番台は最後の
番台だ。この後どうする?」とか「まるでiモード部隊にFOMAが乗っ取られる
みたいだ。許さん。」というユーザー無視の意見も出てきた。これらの意見を
すべて、「申し訳ありませんが、ここにいらっしゃる幹部の皆さんはターゲッ
トユーザーではありません。マーケット調査で一番好感度だった900iシリーズ
でいかせていただきます。」と言って会議で押し切った。
秋頃には、僕の要望通りの機能を乗せると売り出し時期が2003年12月ではなく
2月になるという報告がメーカーから出てきた。販売部門と端末部隊が機能を
落としてでも12月販売に固執した。販売は12月商戦が大事だからとして理解し
たが、なぜ端末部隊が?と疑問に思ったら、後から、年度内のメーカーの売り
上げを確保してあげないとメーカーの事業部が大変になる、と言ってきた。
ふざけるな、と思ったが、そこは静かに、しかし妥協すること無く押し切った。
ユーザー不在も甚だしい、内向きの評価を気にした意見で、僕の最も怒ったこ
とだった。そして、社内の大勢の反対を押し切って2月発売とした。
結果は大成功となった。ちょうどそのときまでにエリアも大分改善されつつあ
ったとはいえ第二世代には及ばないカバレッジではあったが、第2世代のiモー
ドを遥かに凌駕する機能を備えた900iシリーズは、発売3ヶ月もしないうちに
それまでの累計だった200万台以上売れ、その後も売れ続けた。FOMAが本格離
陸した瞬間だった。もし内部の融和を計っていたら第3世代への移行は数年遅
れただろう。
もちろん代償もあった。大ヒットしたおかげで社内の表立った批判はなりを潜
めたが、その後ことあるごとに各部署やトップマネージメントから仕事の進め
方や開発のやり方について陰に陽に嫌みを言われた。完全にはしごを外された
社内の一部は既得権益防御の姿勢を一層鮮明にした。しかしそれでもユーザー
に喜ばれ支持されたことは大きな自信になった。と同時に、トップにならなけ
れば正しいことをやってもダメだな、という確信を持つことにもなった。
ジョブズに比べるとスケールの小さなことかもしれないが、トップでない分、
大変なこともいろいろあった。しかしユーザーに分かりやすい価値を具現化す
るために、技術や供給上の問題はできるだけ解決する。いっさい供給側の論理
を排し、サービス全体としての価値を高める、といった点は同じ立ち位置だっ
たと信じている。私の中では、こういうことが理解できない幹部が多いと言う
のが、日本企業が大きな成功を収められない一つの理由になっているのではな
いかという思いが一層強固なものとなった。
今から振り返るに、どんな社内の戦いも後から思えば、アタリマエのことを当
たりまえに進めただけであった。ジョブズの作ったものも、ユーザーが望みそ
うなものを絶妙に設計し、新しい付加価値として提供している。
一部にはジョブズの死によってアップルの競争力が落ちるのではないかと指摘
する声もある。そうかもしれない。しかしそんなことを指摘する前に、世界中
のIT企業は、そして特に日本企業は彼の残したすばらしい製品群をもう一度素
直に評価し、徹底的に開発プロセスを見直し、世の中が進化するような製品や
サービスを出していって欲しい。ジョブズの死によって世界のITイノベーショ
ンが止まった、なんて後世に言われないように。
(終わり)
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3.宋文洲TV出演のお知らせ(NHK総合、フジテレビ、BS朝日)
(1)NHK総合「セカイでニホンGO!」
2011年10月20日(木)20:00〜20:43
http://www.nhk.or.jp/nihongo/index.html
(2)フジテレビ「なかよしTV」
2011年10月19日(水)24:45〜25:10
2011年10月26日(水)24:55〜25:20
http://www.fujitv.co.jp/b_hp/nakayoshi/index.html
(3)BS朝日「いま世界は」
2011年10月23日(日)19:00〜20:54
http://www.bs-asahi.co.jp/imasekaiwa/
大前研一ニュースの視点〜
┃1┃ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
┗━┛『ジョブズ氏死去〜一人の天才の死とアップルの今後』
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スティーブ・ジョブズ氏
米アップル・ジョブズ氏が死去
5日・56歳
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▼スティーブ・ジョブズ氏のような天才を育てることは可能か?
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米アップルを創業し、同社を時価総額世界一の企業に育てた
スティーブ・ジョブズ前最高経営責任者(CEO)が5日、死去しました。
56歳でした。
ジョブズ氏は1976年、友人とアップルコンピュータ(現アップル)を創業。
コンピューター産業で米IBMが支配的な存在だったころ、家庭でも
コンピューターを気軽に操れるようにと、パソコン「アップル」を
発売するなどパソコンが世界の家庭に普及する礎を築きました。
今回の訃報に関しては、米オバマ大統領、マイクロソフト会長のビル・ゲイツ氏、
日本でもソフトバンクの孫正義社長などからコメントが寄せられています。
ジョブズ氏の最期の数カ月、アップルはエクソン・モービルを超え、
時価総額世界一を達成し、結果としてジョブズ氏はそれを見届ける形に
なりました。
ジョブズ氏のような天才的な経営者、リーダーを輩出するにはどうすれば
いいのか?果たして教育によって彼のような人間を育てることができるのか?
このようなテーマは世界の人々が関心を持っているテーマの1つだと思います。
私はあるきっかけで1989年ウォール・ストリート・ジャーナルの100周年
記念番組でスティーブ・ジョブズ氏とともにテレビ出演をしたことがあります。
その番組内でジョブズ氏が語っていた内容は、彼の価値観・考え方を
如実に表したものだったと思います。
「ものすごく優秀な人が素晴らしい発明をしたが、社長は言うことを聞いて
くれない。ゆえに、それなら自分は会社を辞める、という人がいたとしたら
あなたはどう考えるのか?」
この質問に対して当時NeXTのCEOだったジョブズ氏は、こう語っていました。
例えば石油会社を見ると、従来のロジックでは「前線で穴を掘る技術を
持った人が非常に重要な人材だった」と言える。
しかし時代は変わってきている。
今は大学を出たばかりの実務経験がない新人であっても、Ph.D.を持っていて
地質学とコンピューターサイエンスに精通していれば会社にとって
非常に重要な存在になり得る。例えば、衛星から見るとあの場所に石油が
あるはずだと導き出せるのなら、会社の命運を左右する可能性もある。
会社としてはこのようなことを認めるべきだし、もし会社に認められないので
あれば辞めて別の場所を探せば良い、とジョブズ氏は語っていました。
従来の会社のロジックとは完全に反対ですが、IBMに立ち向かったジョブズ氏の
考え方そのものだと感じます。またゼロから自分で創り込んでいくという
「非常に尖ったスタイル」も当時から変わりませんでした。
スティーブ・ジョブズ氏のような天才を教育によって生み出すことができるのか?
と問われれば、それだけでは難しいと思います。
しかし彼のような天才の発想に触れることで、「凡才製造機」である
会社の弊害を逃れることはできるとも思います。
その意味で、伝記などは大いに役立つでしょう。
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▼ジョブズ氏を失ったアップルの今後は?
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またスティーブ・ジョブズ氏の「天才ぶり」と言えば、あの見る人を魅了して
やまない見事なプレゼンテーションを頭に思い浮かべる人も多いと思います。
確かにあのプレゼンテーションは独特なもので、素晴らしいプレゼンテーションです。
しかし、私が聞くところによると決して「天賦の才能」だけに頼った
プレゼンテーションではなく、練習を重ねた結果であるということです。
ジョブズ氏はプレゼンテーションの前に何度も練習を繰り返すそうです。
しかも、例えば「iPhoneを手に持つなら、どの角度が最も効果的か?」
という様な細かい点まで映像を見てチェックして、繰り返し修正していた
と言います。
もちろん、プレゼンテーションについて天才的な才能もあったと思いますが、
その上でさらに練習を重ねていたという事実にも目を向けるべきでしょう。
「今後のアップルは?」と考えた時、ジョブズ氏を失ったからといって
急激に衰えることはないと私は見ています。
本当の意味でのブレークスルーを生み出すことは難しいかも知れませんが、
彼の残してくれたものはユニーク・独特であり、まだまだ発展性があります。
これまでのアップルは基本的にメーカーとして自らが作ったもので食べていく
というスタイルでしたが、今はOSを抑えることで完全にスマートフォンの世界で
機先を制することに成功していますから、メーカーという立場に拘る必要も
ないでしょう。
ゆくゆくはテレビという主戦場にも進出できるはずだと私は感じています。
さらにその次の展開・・・と考えるとジョブズ氏がいなければ難しいかも
知れないと思いますが、少なくともそこまでの展開はすでに地盤が出来上がって
いると言えるでしょう。
心よりお悔やみ申し上げます。
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