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けいざい解読:編集委員 太田 康夫[日経新聞10月9日朝刊P.3]
米9兆ドル喪失の重み
米国のウォール街近辺でデモが繰り広げられている。政府が公的資金で銀行を助けたのに、雇用をはじめ経済状況が改善しないことが背景にある。住宅バブル崩壊が、米経済に重くのしかかっている。
リーマン・ショックの後、米政府は銀行に公的資金を投入し、米連邦準備理事会(FRB)は住宅融資担保証券(MBS)を買い入れた。米国の危機対応は日本に比べて「素早い」と言われたが、住宅価格は下げ基調が続いている。
米国の住宅価格がピークをつけたのは2006年半ば。高騰が激しかったカリフォルニア州の住宅価格(米連邦住宅金融局調べ)はその後5年で46%下落。主要10都市を対象とするS&Pケース・シラー住宅価格指数も約30%下げた。それに伴って、今年6月末の米家計の住宅資産額はピーク比で6兆6000億ドル減って、16兆1000億ドルとなっている。
この間、住宅融資残高はほぼ横ばいなので、住宅資産から住宅融資を引いた 「実質住宅価値」は6兆2000億ドルと、06年の半分以下になった。マクロ的には家計が住宅という有力な富を減らし、それが逆資産効果などを通じて国内総生産(GDP)の7割を占める消費に影を落とす。
住宅の値下がりで、融資の返済予定額が住宅価値を上回る人も多い。銀行に投入された公的資金は不良債権などの処理に充てられ、雇用の創出にはあまり役立たなかった。
米国では商業用不動産価格も下がっている。非金融部門が抱えるその資産額はピークから2兆8500億ドル減。住宅と合わせると、バブル崩壊で失われた不動産資産の合計額は5年で9兆4000億ドル。邦貨換算で720兆円にのぼる。
日本の地価はほぼ20年下げ続けている。土地資産額はピークの半分を割り、20年で失われた土地資産額は約1300兆円で、それが日本の長期停滞の一因とみられる。5年で720兆円失った米国でも、日本と似たようなことが起きるのではないかとの「日本化」への懸念が強まっている。
今後の焦点は米住宅価格の下落がどこまで続くかだ。住宅価格に大きな影響を与える景気の先行きは不透明だ。ゴールドマン・サックスは12年の米国の成長率見通しを2.0%から1.4%に引き下げた。
住宅在庫は平均を上回る9カ月分も積み上がる。銀行が差し押さえてまだ売却処分していない分など「隠れ在庫」が600万戸もある。バーナンキFRB議長は4日の議会証言で「差し押さえ分などの影響で、新規住宅着工がこの10年の平均の3分の1にとどまっている」と指摘しており、当面、住宅価格が上昇基調に戻ることば見込みにくい。
FRBは9月に金融緩和の一環として、保有するMBSの償還資金をMBSに再投資することを決めた。
来年末までに2000億ドルを上回る見通しだ。MBSの償還資金で国債を購入し保有資産の正常化を目指そうとしてきたが、まだ住宅問題から目を離せる段階ではないと判断したようだ。
米国は人口が増えており、少子高齢化で住宅需要が減る日本とは事情が異なる。ただ巨大な富が失われたのは事実で、その悪影響を抑えるため粘り強く金融緩和を続ける必要がある。
米国版「失われた10年」になることを避けるためにも。
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